頑張って魂とか狩っていきたいなって思います
「では、カノンよ。これより”生死のイデア”、及び死神権限の譲渡の契約について説明をする。こちらに来て、備えよ」
「は、はい……またやるんですかね、”あれ”」
カノンはミケと「契約」をした時の衝撃的な瞬間を思い出す。カノンは橘奏乃子としても”あれ”がファーストキスであったのだが、能力を手に入れる多幸感と、ミケの至近距離から 自分自身に向けられた好意的な感情は、カノンにとって初めてが"あれ"であることに対して後悔の念を抱かせないものであった。
「身構えることはない。”転生”には契約者との深い接触が必要になるが、能力を譲渡するだけならば魔道具を用いることで負担の少ない契約の締結が可能となる。これだ」
言うとオイゼイトは懐から赤と黒の紐で結ばれた、ミサンガのようなものを取り出す。
「わぁ、なんかいかにも死神―って感じのミサンガですね。それで、契約するんですか?」
「これは『オイゼイトの首輪』。三日間、徐々にカノンの体に”生死のイデア”の力を刻み、役目を終えると切れる。首輪は死神なら誰でも作れるようになる。能力や生命力の譲渡、または強奪、契約の強制といった能力がある。死神の力が馴染み次第、ミケーラに作成方法を確認する事」
「なんかその首輪、便利そうですね!三日たったら、ミケさんにまた連絡します」
カノンにはオイゼイトの言っている意味はよくわからなかったが、ルーティは首輪の能力で「能力や生命の譲渡または強奪ができる」という点をしっかりとメモしていた。カノンの言う通り便利そうではあるが、使い方を間違えれば簡単に人を殺せる道具であるということが推測されたので、カノンがうまく扱えるかどうかということを早くも心配していた。
「では、契約に入る。首輪を巻き、魔力を流すだけなので、すぐに完了する。ミケーラの魔道具の電源を落とし、己の魔力の流れを自然な形にするよう意識する事」
「はい!キーボードの電源はオフ、と」
「ミケーラ、”秘密”の発動を要請する」
「はいは~い、よっと」
ミケが指をパチンと鳴らすと、ルーティの視界からカノン、ミケ、オイゼイトの三人が消えた。ルーティはすかさず、”秘密”は探知から完全にシャットアウトする魔法らしきもの、という記述をメモに加えた。
「それでは、契約を開始する。……ん、ん、よし……よし」
オイゼイトはカノンの首にミサンガを付けさせると、ミサンガが黒く光り始めた。3分ほどミサンガが光り続けた後、光は収まった。
「はいっと、もういいよね、オイちゃん?カノンちゃん、気分はどう?」
ミケが指をパチンと鳴らすと、ルーティの視界に三人の姿がまた現れた。
「なんか、変わった感じはしませんけど…」
「なるべく体に負担のかからない形での契約にした。徐々に力が顕現するであろう。”ステータス”画面を定期的に確認するよう心がけよ」
「あ、ステータス見ればいいんですね!了解です」
カノンはキーボードの”ステータス”画面を確認し、自身の今の状態を参照する。
カノン・ベネデッティ
HP30/30
MP6110/6210
SP33/33
スキル
“調律のイデア”
"変化のイデア"
“生死のイデア”(取得中)
調律 LV10
水魔法 LV1
風魔法 LV1
変化 LV1
“生死のイデア”という能力は取得中、となっているが、若干MPが上がっていた。カノンは死神となることでこれから強くなるのを期待すると、セルゲイと戦うことも案外なんとかなるのではという気になってきていた。
「これ見る限りだと、契約ってやつは大丈夫なんだと思います!死神になるの、楽しみだなあ」
「死神になるにあたっての権利と義務は、ミケーラがおいおい伝えていくだろう。最大の特徴は、魂を喰らわねば存在を失うという所であるが、”生死のイデア”を用いれば弱き魂は容易く喰らえるので心配は要らぬ」
ルーティはカノンがとんでもないものになろうとしているのに内心驚愕しながら、死神についてのメモをまとめていく。
(首輪をつけ生命力を奪い、魂を喰らう能力……カノンちゃんなら、権力や地位の為には使わないのかも知れないけれど。強大な力を持った人がどうなるかは、セルゲイが示しているわ)
ルーティは記憶の中で最も強大な力を持った存在、セルゲイと、カノンがこれから得ようとしている力が同じぐらいに強力であることに強い危機感を覚える。カノンがセルゲイのような力を振りかざす存在にならないように観察し、導いていく決心を固めていた。
セルゲイに、意見する存在は居なかった。居たとしても、次の日には居なくなっていた。
(大丈夫、デイジーだってちゃんと言い聞かせれば、良い子だったもの……カノンちゃんはそれ以上に聞き分けがよくて、頭がいい子だから。きっと私がうまくやれば、最善の形で力を使ってくれるわ)
ルーティはカノンが夢中でステータス画面を眺めている間、カノンが獲得するという"死"の能力についての考察を紙の上にまとめていた。死の能力の使い方を誤れば、私達の仲間がセルゲイのような暴君になってしまう──そのような焦燥感が、ルーティの頭の中にあった。
「ま、これもそんなに難しいもんじゃないんだけどね!人間がモノ食べないと死ぬ、みたいなモンだから。カノンちゃんなら死神の素質、あると思うなっ?」
ミケはいつものように軽いノリで、カノンの肩をポン、と優しく叩いた。これまでもミケの言うことに従って間違いはなかったので、ミケがこう言うのであればおそらく死神としてもやっていけるのだろうとカノンは思っていた。
「一通り説明は済んだ。これにて契約は成立」
「はい!まだちょっとよくわかりませんけど、セルゲイって人と戦うまでに、ちゃんとした死神になりたいなって思います。……ルーティさん、どうしたんですか?さっきから、元気ないですよ。なんかこう、鍵盤をがーってめちゃくちゃに弾いてるような音、してます」
「え、ええ。カノンちゃんが想像以上に凄い人になっちゃうんだって、ちょっと驚いちゃってね……」
「私もけっこう、びっくりしてます!死神って、なんかかっこよくて、強そうですよね!頑張って魂とか狩っていきたいなって思います」
「ふふっ…カノンちゃんなら、うまくやれるんじゃないかしら」
ルーティは自分の力についてあまり理解していないカノンに、苦笑いで答えた。死神はこれ以上カノンに"死"の危険性について説明しないようなので、宿に帰ったらどのように教え直そうか、頭の中でプランを立てていた。





