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安心できる仲間って大事だなあと思います

「この曲、だいたいが4つだけの音で出来てるんですよね。ラ、シ♭、シ、ド#。よっつの音で、よっつの気持ちを表していく感じで、クロさんと作ったんです」

カノンは改めてクロッシュと作った楽譜をルーティに見せ、曲の進行を確認していく。カノンとクロッシュが共同制作した、A7、Gm、G7、Aの4つの単純なコードから作られたテクノ調の音楽は、曲の後半になるに従って盛り上がっていくクロッシュの音楽性に二人の楽器を合わせることで、更に躍動感を強調されたものであった。

「なるほど…メロディ自体は単調だけど、そのぶんリズムはさすがクロさんと言うべきか、複雑に練られている訳ね」

「そうなんですよね、私じゃ絶対思いつかないリズムだと思います…楽譜を作るときも、ここはもうちょっとずれてるー、って言われるのを何回も何回も繰り返してて。私が今まで見てきたのじゃ、まずありえないリズムになってますし。ほらここの、128分だけズレたところー、とか」

カノンとクロッシュがあれこれ話し合った結果、地球で養ったカノンの音楽性とクロッシュの独特なリズム感が融合した、カノンがこの世界でも地球でも聞いたことのない曲が出来上がっていた。

「これを仕上げるには、今夜じゃ足りないわね…明日一日を全て使うことになりそう。とはいえ、こんなに自由な曲は見たことがないから、ワクワクしちゃう。ジョセフの音楽の授業よりは幾分か楽しいものになりそうだし、早速弾いてみることにするわ」

「私もこの曲、とっても楽しいものになると思います!やりましょう」





そうして二人は静かな部屋の中で、明後日ミュラーゲントゥムで披露する曲を練習していく。無機質なメロディに軽快なリズムが乗せられた音が、完全防音の魔法がかけられた部屋の中に響いていく。





ルーティは曲が進行するに従って、ウェードの運指のことをまるで考えられていない楽譜に頭と指を悩ませることになった。どうやら、カノンが地球で教わった簡単なコード進行は、この世界のウェードという楽器に合っていないらしい。


「ルーティさん、すごい指の動きしてますけど…大丈夫ですか?大変なら、メロディをちょっといじることもできますよ」

「心配してくれてありがとう、カノンちゃん。でも、この曲は、この音じゃないとダメってクロさんが言ってたんでしょう?彼の無念を晴らすには、彼の音を100%表現してあげるのが音楽家としての使命なんじゃないかしら」

「そう、ですね…クロさん、音楽やってたってだけで、国を追い出されちゃったんでしたよね。音楽やってる仲間としては、許せないことですよね」

「クロさんとカノンちゃんの考える曲を、自分のできる限りで表現する…これが、アテーナさんとクロさんのために、私が出来る精一杯だと思うの。クロさんの音楽を認めさせることができれば、……そういう思いで、今この曲を練習しているの」

ルーティはウェードの穴の形の跡がついた自分の指を眺めながら、そう言った。確固とした、決意の"音"がルーティからは聞こえてきた。

「一つの曲は曲ですけど、そんな風に曲の意味とは別の気持ちを込める…っていうのも、大事って聞いた、ような…気がしますね。私も、がんばります!”プリセット”を使わない演奏は久しぶりだし、緊張するなあ…」

「カノンちゃんなら、きっと出来るはずよ。初めて見たときから、カノンちゃんならどんな状況でも音楽で人を楽しませるって、そう信じてるわ」

「そう言ってもらえると、嬉しいです。メロディが伝わらないフォレンティーナ帝国でだって、ここからずーっと離れたところでだって、やってみせます──この曲なら、どこでも!」





















カノンが音楽に強い興味を持ったきっかけは、彼女がかつて教わっていた音楽教師、軽井沢照子の「この曲を聴いて、奏乃子ちゃんはどう思った?」という一言であった。

初めてこの質問をされた時は、奏乃子がモーツァルトの『メヌエット ト長調』を完璧に弾き切ることができたときであった。その単純な旋律に対して、「どう?どうって、何が?」と奏乃子は答えた。当時3歳の彼女は、質問の意図すら理解していないようであった。

照子は一つの曲を教え終えるたびにその質問を奏乃子にするので、奏乃子はだんだんと曲に込められた思いと、自分がそれをどう解釈するかに重点を置いて、自分の、自分自身の音楽を意識していくようになる。



しかし、バーチャルアイドル「カノン」として歌って踊る際には、制作会社側の意図に沿わない場合たちまちNGが出てしまっていた。奏乃子の解釈の自由は、まるでなかった。カノンは、ディレクションの通りに、幼く、かわいさを強調した歌と踊りを、表現「させられて」いた。








今、奏乃子を縛るものは、ミケとの「そこらへんはテキトーでいいの」という一言で済む、緩い契約だけである。





カノンは、バーチャルアイドルとして与えられた曲をただ歌って踊るだけであった頃に忘れてしまった感覚を、ルーティを通して蘇らせていく──クロッシュの、本能から来る音とともに、ルーティと音で会話しながら、一つ一つの音を互いに確認していく。通じ合っていく。




そうして、カノンとルーティは27:32という時間まで、一心不乱に楽器を奏で続けた。ルーティは未だに運指の面で難がありそうだったので、「カノンちゃんの演奏と合わせるのはまだ早いわ」と言ってセッションを拒んでいた。




そう言うルーティからは、カノンを慕う気持ちと日に日に増していく好意的な気持ち、庇護するような思いやりの感情が入り交じる”音”が聞こえてきた。

奏乃子としての人生では、心からの友達や気を許せる仲間というものが、ほとんどできたことがなかった。「カノン」として仕事をするようになってからは、皆無であった。



カノンは音で通じ合い、心で通じ合った仲間にこれまでにない安心感を抱きながら、外からの音が全く入ってこない部屋で眠りについた。



ベッドに入った途端に意識を手放すといった具合で、寝付くまでの時間は、この世界に来てから一番短いように思われた。



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