ルーティさんの笛はいい音だなあと思います
「そういえばおじいちゃん、まだ名前聞いてませんでしたね。私、カノンって言います!えと、まだ生まれたばっかりですけど、パリカーって悪魔やってます。元々音楽は好きだったんですけど、この国に来てから大好きになりました!」
カノンはこれから作曲を始めるパートナーに自己紹介をする。
「悪魔か、そうか。ははは。この国じゃ珍しくもないが、赤ちゃんだと人間と区別つかんもんなんだな。俺はクロッシュ・クォセジューという。しがないストリートミュージシャンを…何十年、やっていたか。親しい友人にはクロと呼ばれてるから、嬢ちゃんもそれで呼んでくれるかね。フォレンティーナ帝国を追放されてからそうだな、60年は越えてるか。歳は70から先は数えておらん」
「クロさん、ですね!偉そうなおじさんたち、私達の音楽でわからせちゃいましょう!」
「ああ、カノン。よろしく頼むよ。人と音楽をやるなんて、何十年ぶりか…故郷に残した相方は、もうとっくに死んじまってるだろうしな」
「そう、なんですか…私、その相方さんにも負けないような曲を作れるように、がんばります!」
「はっは、スーはそう簡単に越えられるヤツでもないぞ。天才だからな」
「私もその、天才…だったことがある気がするので、勝ち目あるかもしれませんね!」
カノンは6歳の時、ピアノの技術において”神童”と謳われていた頃の自分の扱いを思い出す。手本の演奏を聴いて、自分なりに解釈し、それが自分の表現しようと思った通りの評価を得られたことは、橘奏乃子としての人生では最も自分の心が満たされた経験であった。
「ルーティさんもやってみませんか?その、作曲…音楽、好きなんですよね?」
カノンはそう持ちかける。ルーティは酔うと歌い出すくせがあるらしく、勇者を倒した晩には酒で喉がやられているだろうにも関わらず、きれいな歌声を披露していた。
「音楽はたしなむ程度だから…一から作曲をやるなんて、考えもしなかったわね。心得がないものだから、勉強することが沢山ありそうね」
「俺も作曲の勉強など、これっぽっちもやったことないぞ。そこにある音を、あるがままに叩くだけだからなあ。こんな風にな」
言うとおじいちゃんは重めの音が鳴る木の箱を叩き、ローテンポの曲を奏でた。
「それ、ルーティさんがテーマの曲ですか?頭良さそうで、優しい音ですね」
「ああ、そこの姉ちゃんのカノンを気遣うような様子を、音にしてみたぞ。手ェ繋いでる様子が、姉妹みたいだなって思ってな。ルーティって言ったか、姉ちゃん…その手に出来たタコは、ウェードを長いことやってるヤツが作るもんだろう?たしなむってレベルじゃ、ないと思うがなあ」
「クロさんには敵わないわね…ええ、暇さえあれば今でもやってるわ。これ…」
ルーティは小さなバッグから笛のような楽器を取り出す。簡単な蔦のような装飾が施された木の筒に10個の丸い穴が空けられたこれが、ウェードであるらしい。
「姉ちゃんの手からはな、音楽が好きで、それをやり続けてるってことが伝わってくるぞ。どうだい、かわいい妹分と曲を作ってみるってのも、面白いと思うぞ」
「そこまで言うのなら…私もやってみようかしら」
「ルーティさんとも曲が作れるなんて、嬉しいです!えと、まずはウェードって楽器の出せる音がどんなのか、吹いてみてもらえますか?」
「ええ、わかったわ…長いことやってるけど、あんまり自信はないから笑わないでくれると助かるわ」
そうしてルーティは一曲のウェード・ソナタの演奏を始める。曲の後半にいくにしたがって、音は激しくなっていき、サビには二つのパターンのメロディが目まぐるしく奏でられた。
「ありがとうございます!とっても、いい曲でした!その、ぽーぽぽっぽぽー、ぽぽぽぽっぽぽーってリズム、良さそうですね!曲に入れましょう」
「ウェードって楽器は、少し指の位置がずれるだけで意味のわからん音が鳴ってしまう楽器だと聴いていたが、いやあ綺麗な音だったなあ!相当な練習をしたんだろう、ええ」
「ありがとう…人に聞かせられるレベルになってて、良かったわ」
ルーティは横笛から口を離すと、少し恥ずかしそうにそう言った。
「いやいやルーティさんこれ、みんなの前で聞かせたらとっても盛り上がりますよ!このぴーぴーって音のリズムが、それだけで楽しいと思います!」
「ああ、これをベースに聴かせどころを作るのも悪くないかもしれないな…姉ちゃん、この曲はなんて言うんだい?」
「さっきまでデュオニュソスの話をしていたから、孤児院で教わったデュオニュソスの曲を演奏してみたのだけど…『我らの神、豊穣の神』って曲だったかしら。実際に会ってみて思ったけど、本人の雰囲気にとっても合ってると思うわ」
「なるほどなあ!言われてみれば豪快な神のイメージが想像できる、素晴らしい曲だったぞ」
「ルーティさん、この曲の作曲した人って誰かわかりますか?参考までに、どんな気持ちで作曲したのかなあって、知りたいんです」
「この曲を作ったのは…”鬼のジョセフ”、よ。あまり、教わったときのことは思い出したくないけど…」
「ジョセフさんって人、音を聴く限りだとやっぱりいい人そう、だと思うんですけど…」
カノンがそう言うとルーティは不快そうな表情をあらわにしたので、カノンは話題を変えて、サビの後の展開の話をするのだった…
カノンが投げたアイデアに次々とクロさんが答えていくという形で、2時間ほどで曲が完成した。一行はそれをどこで披露しようかという話になったが、フォレンティーナ帝国の田舎の町である、ミュラーゲントゥムという言いづらそうな場所の、空き地のような広場でまずは演奏しようということになった。
曲のお披露目は二日後に決まったので、カノンとルーティはその曲のために練習をすることになった。





