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難しくてよくわかんない会議が終わって良かったなあと思います

セルゲイが口を開いたと同時に、カノンは耳を塞ぎ、頭を抱えて机に突っ伏してしまった。先程のセルゲイの意見申し立てによってカノンの脳髄に、セルゲイの体中から膨大な魔力がダダ漏れになっている破壊的な音と、権力をひけらかす傲慢な声が劣悪な不協和音となってカノンの頭に響き渡り、酷い頭痛をもたらしていた。



(新曲の構想、いいところだったのに全部頭から吹っ飛んじゃった…)



しかし開けた部屋の中央に立つフォレンティーナ帝国の皇帝、ハドゥスケス四世はそう思っていない様子であり、優れたソリストが奏でるバラードを聴くような面持ちで、セルゲイの申し立てにたいそう納得した表情をしていた。



「皇帝さん……さっき、言ってたよね。第一回、第二回フォルトゥナ条約の一方的な破棄をもって、この戦争は火蓋を切られた、って……まず、そのことを考慮に入れないと、ダメ……条約破棄のペナルティは、神の裁きを以て行われるっていうのも、条文にあるから……」

フェーベはアテーナから与えられた使命である、ふんわりしたアドバイスを皇帝に送った。会議の開始三十分前にアテーナから戦争の顛末、各国の関係を教わっていたのだが、十分程で全てを理解したようであったので、アテーナはよっぽどじゃない限り口を出さないつもりであった。

「なるほど!しかし、国を潰すための条約などあってはならぬと父から教わってきた故、どうすればいいのだろうか……」

「さあ…戦争に勝ったほうに、有利な条約になるのがふつうなんじゃない……?私の故郷のドイツって国では、戦争に負けてさんざん不利な条約を押し付けられてたみたいだし……借金が増えるくらいじゃ、国はなくならないと…思う、けど…あんまり押し付けすぎても、反発が大きそうっていうのはあの筋肉のおじさんが言う通りかな……第二次世界大戦は、それで始まったみたいだし……」

フェーベは転生前、ドイツのそこそこレベルの高い高校で真面目に授業を受けていた。頭の中にあるドイツ史と現在の状況とを比べ、面倒ながらも最善の回答を導き出そうとしていた。




「第一回、第二回フォルトゥナ条約はぁ、ゼノビア王国側がなんにも言わずに反故にして、ネプテュヌス共和国に攻めてきたわけなんだけどぉ……それについての神の裁きについてはどうするつもりなのぉ?ゼノビアを守る神様、デュオニュソスさぁん?」

アリネスは神に対して全く臆する様子もなく、セルゲイの隣で酒をぐびぐびと飲んでいるデュオニュソスにそう言った。セルゲイと同じく筋肉ダルマの外見をしたオッサンが酒を何杯も一気飲みしている様子は、緊迫した会議の中で異質の存在感を放っていた。


「んん~~??う~ん、まさか負けるとは思ってなかったからのぉ!アレスに期待しすぎたワシがバカだったわい。共和国側で勝手に決めると良いぞ、な、セルゲイよ。ネプテュヌスの酒は旨いと聞くではないか。友好な関係を築きたいとは思わんかね」

デュオニュソスにはまるで緊張感はなく、同伴していたゼノビア王国の王女らしき人は縮こまって何も言えないでいた。実質的にセルゲイ以外にまともに議論のできる人物は、ゼノビア王国に居ないようであった。


「我が主よ、国の存続を賭けた会議が故、もう少し思慮分別を持った発言をお願いしたいのだが……失礼、デュオニュソスの意見はこうであるのだが、我が国としても存続が危ぶまれる程の借金を背負うとなると民も黙ってはくれん。ハドゥスケス四世、皇帝陛下の意見を賜りたいのだが」

セルゲイはハドゥスケス四世がこちら側に傾きそうな気配を感じ、問いかける。言葉の上では感情を表に出していないものの、その声の音色は傲慢さと私欲にまみれており、それはカノンにまた頭痛をもたらした。

「そ、そうだな。この会議が、双方にとって利益のある結果になることを望んでいるぞ!ここにあられるアテーナ神、ネプチューン神、デュオニュソス神に誓って!」

フォレンティーナ帝国の皇帝は、議長としてあまり役に立たない意見を出すことしか出来ないようであった。

「そのためには……何が必要だと思う……?」

フェーベの持つ"啓示のイデア"の力によって、この会議の着地点が見えていた彼女は、小声でそう問いかけた。それをそのまま皇帝に伝えてもうまくいかないと判断し、ふわっとした質問をした。

「えっと……ゼノビア王国の主たるデュオニュソス神は、酒を欲していらっしゃる。ネプテュヌス共和国には、良質な酒が沢山あり、またネプテュヌス共和国は財政がより潤うことを目標としている。つまり、賠償金代わりに酒を少し高めに定期購入し、その差額を賠償金とする……というのは、どうだろうか……皆の衆!」

突拍子もない発言をした皇帝に、会場は静まり返った。アリネスは下を向いて考え込んでおり、セルゲイは呆れ返ってやれやれと酒に手を伸ばし、フェーベは自分にできることはもうなにもないと言った様子で虚空を見つめていた。






「おぉ~う!ハドゥスケス四世といったか、素晴らしい提案をするではないか!差額はゼノビア王国の国庫と相談になるが、戦争が始まってからというものネプテュヌス産の酒が飲めなくて困っていた所じゃわい!他の国の者も、これで平和になると思わんかね!?」

そして、最初に口を開いたのがデュオニュソスというゼノビア王国の主神であった。隣に居るゼノビア王女らしき人物の表情は少し明るくなり、セルゲイの表情は何本もの剣で串刺しされたかのように険しいものとなっていた。


「そうですね。我が国の水資源は、他の国に分け与えられるべきものであると考えております。戦争によって失われていた貿易を復活させながら、互いの傷を癒やしていけるのなら、なんと尊いことでしょうか」

ネプチューン王女もおおむねこの意見に同意しているようであった。

「我がフォレンティーナ帝国としても賛成です。二国間の貿易網が停止したことの影響が、我が国にも影響が出てしまっていますので…これを期に、私共の転移魔法技術がお役に立てれば、良きことでしょう」

アテーナはにこりとした表情でこの意見に同意した。

「そして、捕虜の処遇ですが…本人達の自由意志で決めてしまっても良いのではないでしょうか。彼女らにはゼノビアに郷愁を感じるものも居れば、そうでない者も居るのでは」

ネプチューンは少しも表情を崩さず、淡々と言い切った。すると、今まで死んだようにうつむいていた捕虜の魔術師が一人の合図とともに一斉に起立し、こう叫んだ。

「我々は、ジョセフ卿に着いていき、魔導の真髄を探求するものであります!主の亡命なさった、ネプテュヌス共和国への帰属を要求します!」

その言葉はあらかじめ用意されたものであるようで、捕虜全員の声が重なって聞こえた。この流れを予測していた者は、フェーベだけではなかったようだ。




その後、淡々と条約の内容は決まって行った。ネプテュヌス共和国からは、年間1000万ドゥカ分の酒を10年に渡り定期購入し、その半額を賠償金とすること。ネプテュヌス共和国側には5000万ドゥカ分の現金と、5000万ドゥカ分の酒の利益が入るようであった。

捕虜は全員、ネプテュヌス共和国内に作ったジョセフ主導の孤児院に入れることが決まった。なんでも、ジョセフには既に孤児院経営の準備をさせているようであった。

そして、アリネスの決めた武装ゼノビア軍への無差別攻撃の許可も、難なく降りた。デュオニュソスとしてはネプテュヌス共和国とは戦うよりも酒が飲みたいということであり、セルゲイに出兵はやめろとあれ程言ったのにと何回も言っていた。








以上の内容で、第三回フォルトゥナ講和会議は幕を閉じた。第一回、第二回と神が不在の強制力の薄い条約を発行した会議と違い、三柱の神が署名する大々的な条約は、この三国の関係性を象徴するものとなった……








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