みんな本当に仲がいいんだなあと思います
寝落ちのためちょっと遅刻しました。
稽古が終わると、デイジーは庭の一部を露天風呂にしてもいいかという提案を師匠にした。ええ、人の庭をそんな…とカノンが思っていたが、師匠はまさかの快諾であった。安定して綺麗な水を供給する手段はここフォレンティーナ帝国にはなく、むしろ大歓迎とのことだった。
そうして一同は、この前熊を倒した時と比べて少し賑やかな裸の付き合いを始めるのだった。
「貴方達、雪解けレーヴァテイン、でよろしかったですか。私はアテーナと申します。うちのフェーベをこんなに鍛えてくださり、感謝の極みです」
アテーナと名乗った女性はゆったりと所作でそう言った。この世のものとは思えない肢体のすらっとした美しさに、カノンは見惚れてしまっていた。
「フェーベもわたしも、稽古ですっごく強くなれたの!フェーベ、一緒に居るとなんか面白いし、今のわたし達の絆は最強なの」
「確かに…私達、何か気が合うのかも……うまく、言えないけど」
「あたし達の見えないところでぇ、何してたんですかあ?ふふ」
リリカに勘ぐる様子はなく、んーっとのびをしてそう言った。お風呂に入っている時のリリカは、いつもリラックスしきっていた。
「なに、って言われても…剣と、杖をぶつけて稽古したり、一緒に買い物したり、いろんなお店で食べ歩きしたり…ふつう?」
最初は置いといて、あとのやつはなんだかデートみたいだなとカノンは思った。デイジーがぴょこぴょことフェーベを先導しながら、時にはされながら街を歩く様子を思い浮かべ、ほほえましいなあと思っていた。くい、と首を傾げる動作には、フェーベの雑誌モデルのような大人びた体躯の雰囲気と同時に、無垢な子供らしいかわいさを演出していた。
そうして一同は、ルーティの決めた1/2ティモという制限時間いっぱいまでネプテュヌス共和国の話やこのフォレンティーナ帝国での話をしあった。普段はこのアテーナとフェーベの家は懺悔部屋のような体裁を取っており、神の遣いとしてやってきたアテーナが人々の相談をしているという。"啓示のイデア"という能力を持ったフェーベがふんわりとしたアドバイスを民に送ると、割と満足そうに帰って行くらしい。
言うには、この国ではアテーナが作る手料理以外まともに食べれたものではないと言う。そろそろ晩御飯の時間なので、一行はアテーナの手料理を頂くことにした。フェーベはちょっと味が薄いかもと言っていたが、カノンは厨房から漂ってくる自然の香りに期待を寄せていた。オリーブオイルをふんだんに使った、イタリア料理のような匂いが居間に流れ込んできて、デイジーの表情が明るいものになっていった。
「どうぞ、粗飯ですが。この近辺で取れる動植物をそのまま活かしたものとなっております」
カノンの第一印象は、お母さんの作った料理みたい、だった。仕事でいつも忙しいらしいお母さんはカノンの健康を気遣い、たまの休みにはこういった薄味だが丁寧な料理を振る舞っていた。
「良いですねえ、こういう素朴な味…のどかな山の幸が、そのまま入り込んでくるみたいです」
リリカはあちこち回ってきたネプテュヌス共和国のカフェに負けず劣らず綺麗に盛り付けられた料理に、そう感想をつけた。
「健康的そうで、良いわね…」
「そうですね!私のお母さんもよくこうやって、栄養バランスを考えたご飯を作ってくれたことがあって。おいしかったなぁ、あれも…」
「私達の孤児院で作られた料理も、味は悪くなかったんだけどね…少しでもマナーを間違えたら下げられてしまうルールだったから、うまく味が分からなかった時期があったわ」
カノンはしまった、そういえばこの人達孤児院出身だったなと思うも、ルーティの感情はなだらかに回想しているように"聞こえ"たため、気にはしてなさそうかと思った。とりあえずカノンは今後親の話はしないように気を付けることにした。
カノンはあてがわれた個室に向かうと、万が一の時に備え"霧"の練習をすることにした。この前戦争で使った"霧"は不完全なものであった。アリネスの腕を掴んで声を出しただけで周囲の重装歩兵隊全員に気づかれ、攻撃したら位置がバレるといったような潜伏できているとは言い難い雰囲気のものであった。回復役のリリカが後ろで息を潜めるのには効果的であるが、安全に後方から魔法を撃つというこのパーティのコンセプトからはゲーム的に弱そうだなとカノンは感じた。潜伏は攻撃したら解けるというのはその手のゲームではセオリーであるが、カノンはこの魔法がもっと強くなるように感じていた。聞き返すとリズムがよれている、右手と左手の動きが合っていない所が多々見られた。
今度敵に回るかもしれないセルゲイという人がどんな人かはわからないが、ルーティから聞いた話だと気付かれて敵だと認識されていると、"調律"を発動する暇もなく命を落としそうであった。用心に、用心を重ねてカノンは"霧"の練習をした。
3時間ほど練習すると、カノンは眠気を覚えた。まだ納得行く出来にはなっていないが、これ以上やったら明日に響きそうであった。カノンは寝間着に着替えると、アルトゥーロ・ミケランジェリの演奏する"霧"を脳内で再生しながら、眠りについた。"調律"レベルが上がったからか、脳内にMP3プレイヤーが搭載されたがごとく、それはカノンの脳内に純然と響いたのであった…





