面倒なことは先に済ませたいとは思ってもやっぱり面倒だなあと思います
カノンが朝目覚めると、皆がそろって出かける準備をしていた。時刻は7:22であったので、ずいぶん早いなとカノンは思っていた。
「あの、今日何かありましたっけ…?」
「カノンちゃん、今日はフォレンティーナ帝国の第三回フォルトゥナ会議に向けて出発する日なんだけど…言ってなかったかしら」
「え、…あ、そういえばそうでした…?っけ」
ネプチューン姫から明日早速講和会議に向けて出発してもらいます、という命令を勲章授与式でされていたのだが、デイジーの不慣れな動きを見ては面白がっていたカノンは、まともに話を聞いていなかった。
「めんどいけど、お金がいっぱい貰えるなら仕方ないの」
「リリカさん……500万ドゥカって、どれくらい?」
フェーベはネプテュヌス共和国の通貨価値はよくわかってなかったので、今まではコロシアムで適当に稼いで適当に食費に充てていた。
「そうですねぇ…戦争に勝って貰った500万ドゥカと合わせるとぉ、あたし達は100年くらい何もしなくても生きていけちゃうんじゃないですかねぇ」
「うーん…100年も生きていたくは、ないかな……たぶん、飽きちゃうかなって」
「生きてるのに飽きちゃうなんて、考えられないの!なにかしたいなって思ってそれをやってれば、きっとたのしいの」
デイジーはそんな持論を展開していた。しかしフェーベも、デイジーに引っ張られるままにこの国を歩くのが、この世界に生まれてから一番楽しいことであったようにも思えた。
「そんなもんかなぁ…うん、そうかも……」
そうして一同はしばらく食べられなくなるらしい非常に美味な朝食を完食すると、待ち合わせ場所であるネプテュヌス共和国冒険者ギルドに向かった。
「お待たせしました、英雄の皆様。こちらがあなた方を送迎する馬車になります」
カフェ・デ・グラスの店員のように所作の整った人は、「雪解けレーヴァテイン」の一同にそう声をかけた。
その白くて豪勢な送迎馬車とやらは、全体が宝石で彩られていて、高そうだなとカノンは思った。馬は三頭が足並みを揃えて、すらと並んでいた…と、カノンはあることに気付いた。
(このお馬さん…あのデュラハンさんと比べて、けっこう荒っぽいっていうか…あんまり、良い印象じゃないなあ。あと、よわそう)
カノンはそのようなことを思っていた。デュラハンはあの声と性格で、存外紳士的な音を放っていたことにカノンは気付いていた。
今となっては馬の声も"聞こえ"るようになったカノンは、その馬が「ハァ、なんでこんな重い馬車運ばなきゃならんのだ。適当にやるとするか」というようなことを言っていたのを聞いていた。
「ルーティさんルーティさん。私、あの馬車より、デュラハンさんが良いです。そのなんです、友達のよしみってやつで、この国から離れるときはあれに乗ったほうが良いかなって…あとなんかあの馬、よわそうです」
「カノンちゃんも気付いていたのね。あの馬が魔力を持たない、"ただの"サラブレッドだっていうことに」
ルーティもなんとなく、あの馬車が見た目だけだということに気付いていた。
「うーん……私がフォレンティーナ帝国からこの国に来たのは、徒歩でだし。……なんでもいいかな。走ったら、3時間くらいで着いたし」
「リーダーとしてはパーティ全員の意見を尊重すべきなの!ちょっとあのお姉さんに、断ってくるの」
「えぇ?デイジーせんぱい、ちょっとぉ」
リリカは何も言っていないので全員の意見ではないのだが、そう言うとデイジーはお姉さんの元に走り出し、「あの馬弱そうだから、あれには乗らないの」とめちゃくちゃ失礼な断り方でデュラハン馬車に乗ることを表明していた。
「ハァーッハッハ!久しぶりだな英雄の諸君!ドラゴンには飽き足らず、勇者まで屠ったようではないか!小生は諸君らの未来を、全身を以て応援する者である!」
そう言うとデュラハンは持っている剣をぶんぶん振り回し、いつになく元気そうに「雪解けレーヴァテイン」の一行を迎えた。そうしていつも抱えている4人乗りの馬車を6人乗りのものに持ち替えると、満足そうにびしっと直立した。
「今日もよろしくおねがいしますね、えと…お名前、なんでしたっけ」
カノンは何度もお世話になっているこの名馬の名前を訪ねた。馬車とはよく揺れるものだと聞いていたので、東京の山手線より少し揺れる程度かなといった具合のデュラハン馬車と今後とも仲良くしたくなったのだ。
「小生はマルスと申す!一時は勇者だとか剣神だとか言われていた時期もあったのだがな。争いの醜さに気付き、今はこうして冒険者のサポートをすることが生き甲斐になったのだ!」
マルスってどっかで聞いたことあるような…と思ったカノンは、ステータス画面を開き、目の前のデュラハンのステータスを参照した。そこの名前には、「†マルス・ウィズダム・オブ・ジ・アレス†」としっかり勇者タカシと同じような書かれ方をしていた。
(勇者ってクールでかっこいいイメージあったんだけど、なんかこう、実際そうでもないのかな…)
最初から大して魔力の音を感じなかったマルスとやらをじっくりと眺め、カノンはそう思うのであった。





