この国のお菓子は何を食べても美味しいなあと思います
「あ、運ばれてきましたよぉ、ビタナ・クラッシュ。綺麗ですよねぇ…」
10分ほど待つと、六色のカラフルなクッキーを砕いたようなお菓子が運ばれてきた。カノンにはそこから、奇抜な調和を持った六つのコードが互い違いに流れてくるように"聞こえ"てきた。
「わぁ、宝石箱みたいです、これ!すごい、食べるのがもったいなくなっちゃいます」
カノンはキラキラと輝くお菓子を見て、とても興奮していた。比喩でなく、ビタナ・クラッシュが入っていた器は宝箱そのものの見た目をしていたため、机の上は海賊が財宝を山分けするようなものに変貌していた。
「へえ、このお菓子、結構な魔力を秘めているようね。これで12ドゥカなら、安いのかもしれないわね…んっ……甘さは強いけど、ほんのり苦いこのお茶によく合っているわ」
「よくわかんないけど、甘くてすっごくおいしいの!」
「はむ、はむ……うん、このお菓子、二つの色のを同時に口の中に入れると、味が変わって…全然、飽きないね」
カノンはフェーベに言われるがままに、赤と白の粒を同時に口の中に入れると、sus4の和音と7thの和音が混ざり合い、7sus4になる感覚を口の中で覚えた。カノンは次々と変貌するコードが面白くなってしまい、ぱくぱくと口の中に様々な色のお菓子を放り込み、テーブルマナーが悪くなっていってしまっていた。しかし薄暗い店内では、カノンの動きはそんなに目立つものではなかった。
口の中の音を聴きながらカノンは、このコードの動きを今作ってる曲に組み込もうと、「メッセージ」に一つ一つの動きをメモしていた。美味しい組み合わせであるほど、美しい響きに"聞こえ"た。テクノのようなリズムを奏でていたおじいちゃんのリズム隊をベースに、ツェルニー練習曲30番の旋律を加え、「ネプテュヌス賛歌」の歌詞のイメージを題材としたカノンの新曲は、完成に近づいていった。
「お腹いっぱいに、お宝を詰め込めた気分なの!」
「うん……満足」
想定の倍くらいの量が出てきたので、一同はもう夕食はいらないかなといった具合であった。時刻は17:05を差しており、沈んでいく太陽のような恒星がネプテュヌス海に反射し、キラキラと輝いていた。
「あれ、栄養バランスも良いみたいなんですよぉ。原材料のほぼ全部が野菜みたいでぇ」
「成程ね。遠出する時にあれを沢山持っていけば、食料はそれだけで済むような気がするのだけれど。生憎、露天では見たことが無いのよね…」
「残念ですけど、作るのに特殊な魔法が要るみたいなんですよぉ。この国で他に売ってるところは、見たことありませんねぇ。」
「そうなの…少し余分に買って、持ち帰った方が良かったかしら。講和条約を結ぶための遠征で、何があるか分からないもの」
ルーティは講和条約を結ぶために「雪解けレーヴァテイン」がフォレンティーナ帝国へ向かわなければならないと知って、三人でゼノビア王国からネプテュヌス共和国へ亡命した時の道中を思い返していた。孤児院からは最低限の装備しか持ち出せなかった上、想定外に想定外が重なり、命からがらネプテュヌス共和国に駆け込んでいた経験から、ルーティは準備はし過ぎることはないと考えていた。
「それがですねぇ、2ティモほどで味ががくっと落ちちゃうみたいなんですよぉ。キラキラした見た目の割に、難しいお菓子ですよねぇ」
「そういえば、あのお菓子からは時間が経つにつれてデクレシェンドするような響きがしましたね。…あ、デクレシェンドというのは、だんだん弱くなるっていう意味です!クッキーみたいなお菓子が2ティモしかもたないなんて、不便ですね」
カノンは「デクレシェンド」という言葉が伝わらなかったことを四人の心の音を聞いて察し、説明を付け加えた。
「そういえば、ビタナの実の魔力は加工すると一気に霧散してしまって、制御も難しいらしいわね。よく考えれば、当然の事だったわ」
「はいぃ。やっぱりあれは、あそこだけで食べられる、特別なお菓子なんですよぉ」
一行は「ブルネルスキの別荘」に戻ると、明日のネプテュヌス城で行われる勲章授与式に備えて準備をした。ここで、戦争での報酬の半分、500万ドゥカが貰えるらしかった。今日服を買いに行くことに全員が同意したのも、ここにみすぼらしい服を着ていくのは恥ずかしいだろうという判断も含まれている。
カノンはミケとの約束があるので、心の準備を整えていた。体調の確認のために自分のステータスを参照すると、HPが30、MPが5000まで伸びていたのに加え、調律LVは7になり、新たに"風魔法LV1"というのが加わっていた。色々できることが増えていくのは、楽しいなあ…とステータス画面をよく見ていると、"変化のイデア"という能力が追加されていたことにカノンは気付いた。これ、タカシが使ってた能力…ということにカノンは気付くと、これはあんまり使いたくないかなあと思うのであった。自分のトラウマを呼び起こされた相手の能力を使うということは、カノンにはためらわれた。
そうして、自分の服に汚れがないこと、髪が乱れていないことを確認してから、カノンは待ち合わせ場所に30分早く着くように向かうのであった。





