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悪魔として非道の限りを尽くすのは楽しいなって思いました

「…カノンちゃん。カノンちゃん、どうしたのかしら。貴方から見える感情…急に、どす黒く染まってしまったみたい。戦争中は、冷静に行動して貰わないと前衛に迷惑がかかってしまうわ」

ルーティはカノンの変化を「ヘル・シンパシー・チェーン」を通して察し、心配そうに声をかけた。ルーティは、カノンが作り笑顔をしながら、今までに見たことがないほどの憎悪を抱いているのを見ていた。まだ目の前の勇者に何もされていないのに、何故…とルーティはその脈絡の無さにカノンの精神状態を案じて、腰に手を回し、体を寄せた。


「あぁ、あはっ。なんでもないんです、はい。ただちょっと、これだとどう戦っていいのかわからなくて、不安だなあって。やっぱり、悪魔って勇者とか見ると、心が憎しみで染まっちゃう感じなんですかね」

カノンはルーティの体温を感じて、正気を取り戻した。ごまかしの言葉は、いつもよりもぎこちなかった。

「そう、それならいいのだけれど。あれをただ見ているだけの時間が過ぎれば過ぎるほど、勇者が一撃でこちらを跡形もなく消してしまう可能性が上がってしまうわね…勇者の恐ろしい魔力が、更に増大しているのを感じるわ。とはいえ、勇者と"契約"している魔術師…どう、対処すべきなのかしら」

「"契約"っていうと…まさか、その。私も死神さんとやったんですけど、『いけないこと』、なんですかね」

「色々な方法があるようだけれど…あいつのいやらしい目線を見てると、結構なことをやってるんじゃないかしら。」

「そう、なんですか…?うええ…」


カノンは「結構なこと」の内容をうまく想像はできなかったが、タカシの目線をよく観察しているとそこからも不快な音が出ており、胃からこみ上げてくる感覚があった。


「グスタフさん、フェーベさん!何か、何か必ず勝つ手段があるとおもいます!みんな、頑張ってください

!」

そう言うとカノンはプリセット1の「終末歌姫アポカリプス」を再生し、味方全体に鼓舞の魔法をかける。



「ありがとう、カノンちゃん……もうちょっと、やってみる」

「ふむ。そろそろ勇者が仕掛けてくる頃合いか」

前衛の主力二人が確かな力の増強を感じ、目の前の勇者に向き直った。と、その背後から直径40cmほどのレーザーが20本ほど、勇者の元に降り注いだ。


「レーヴァテイン…ノヴァ!イキった勇者に、災いをもたらすの!」

デイジーが新しい魔道具の試し打ちだと言わんばかりに、全力のレーザーを放った。




「や、それ俺には通じないし。わかんない?俺、チート能力持ちなんだよね…"変化メタモルフォシス"!」

勇者タカシはそれに対して右手をかざすと、光の速さで進んでいたデイジーのレーザーの動きを止めた。それは真上に捻じ曲げられ、打ち上げ花火のように明後日の方向に飛んでいった。

「は、"変化"、やっぱつぇ~。こんなチート能力ありゃ、悪魔王もワンパンだな」


カノンはタカシのチートじみた能力に戦慄したが、魔力の"音"が全身から、右手に全て集まっていたのを"聞き"逃さなかった。


「カノンちゃん…今のタカシの魔力の動き。見た?」

「はい。変化ってやつの能力が、全部右手に集まってくるような…そんな、響きがありました」

「物理攻撃は全部効かないけれど、魔法はああやって捻じ曲げて対処しなきゃいけないってことは…あの"変化"ってやつも、万能じゃないのかもしれないわね」

タカシはぼけーっと突っ立っていて、勝ちを確信しているようだった。カノンとルーティが作戦会議をするには、十分な隙が生まれていた。

「そうですね…私、いいこと思いつきました。デイジーさん、コロシアムのときに使った魔力の網みたいなのあるじゃないですか。あれ、いーーーーっぱい出せませんか」

「任せるの!だいたい、8重くらいならいけるの」

「カノンちゃん、あれはデイジーの魔力の消費が激しいのだけれど。勝算はあるのかしら」

「はいっ。勇者の頭をおかしくして、殺しちゃう魔法、知ってるんです」

「それは…悪魔らしいわね。デイジー、お願いできるかしら」

「イキった勇者のマヌケな顔が見られればなんでもいいの!レーヴァテイン・ノヴァ、力を示すの!」



デイジーはありったけの魔力を込み、10秒ほどをかけて8重の赤と青で編まれたレーザーの網を、勇者に向けて放った。勇者はそれに、蚊を見るような視線を送っていた。


「ハァ~、なんで無駄だってわかんないかな。"変化メタモルフォシス"!」

タカシは"変化"の能力を使い、デイジーから放たれる網を一つずつ糸のようにバラバラにし、あたりに拡散させていった。それはカノン達の方にも飛んできていた。


「ここは任せるが良い。絶対障壁グレートウォール!」

グスタフがそう叫ぶと、あたりに透明な壁が広がった。こちらに飛んできたドラゴンをも屠るデイジーの魔力レーザーは、粒子のように広がって消えてしまった。

「グスタフさん、すごいですっ。そのまま、お願いします!」


カノンは魔法を発動させるべく、プリセットを選択した。それは、カノンが戦争が始まると聞かされるまで、一生使うことのないだろうと思われたものだった。


「これあと7つもバラさなきゃいけねぇのかぁ、めんどくせ~。"変化メタモルフォシス"!」


タカシの魔力が右手に全て集中したタイミングで、カノンはプリセット6──「ゴリウォーグのケークウォーク」を再生した。


「あたまがおかしくなって…しんじゃえ!」











てれーててってーてれっててー。てれれてー。てれれてー。デ。











その旋律が流れると、タカシは自分の魔力の制御が効かなくなるのを感じた。残り6重のデイジーの魔力の網が、タカシ軍にそのまま襲いかかった。


「メスガキ、てめぇ…何をしたぁぁぁあああ!!」


ズンデデズンデ、ズンデ、ズンデ、というリズムは、「ゴリウォーグのケークウォーク」を作曲したドビュッシーの姪が、黒人の人形を床に叩きつけ、全身の骨を脱臼させる音をモチーフとしていた。カノンは戦争では何が起きるのかわからないと、この5日間で「ゴリウォーグのケークウォーク」を練り直し、ゴォーン!ゴォーン!という音を強調させるよう、弾き直していた。


デイジーの魔力の網は、タカシだけを包み込むように6回、襲いかかった。デイジーはどうやら、"変化"などをされなければ、魔力の網を遠隔から操ることができるほど成長していたようだ。



「カスが効かねぇんだよ…俺の残りHPは残り8500000もあってぇええええええ!?!?」

タカシは持っていた剣を、カノンのキーボードから流れるゴォーン!ゴォーン!という音のリズムに合わせて、地面に叩きつけることをカノンの力によって強制されていた。剣LV12から全力で地面に放たれるそれは、一撃で10mほどを抉っていた。



ゴォーン。 



ゴイーン。



グィウォーン。



グオァアアアアン。




カノンは楽しくなってきたので、キーボードの右にあるエフェクターをいじり、曲中にあるゴォーンという音をハードスタイルのキックのような音に変えて遊んでいた。

音が重くなるにつれて、タカシの地面を抉るスピードはどんどん速くなっていた。




「クソ、エクスカリバー、言うことを聞け!『聖剣』だろ!」

言うことを聞けなかったのは、タカシの方であった。タカシは、ジョセフから「妙な楽器を持っているパリカーから先に仕留めろ」という指示を受けていた。しかし、楽器を持っているそれが明らかにただの幼女であったため、完全にタカシは油断していたのだった。



「デイジーさん。今、全力で氷を作ったら、どれくらい持ちますか?」

カノンは楽しそうな笑顔で、デイジーにそう聞く。

「うーん…50年くらいは、溶けない自信があるの!」

「じゃああの穴の中に、いーっぱい詰め込んでください」

「わかったの!勇者のマヌケな顔、見てくるの~」

言うとデイジーは、ぴょこぴょことしたのんきな歩きで勇者が未だ掘り進めている穴に向かった。グスタフがその5mほど前に、デイジーを守るよう先導していた。

タカシの周りの魔術師は、全員戦意を喪失した様子で、まるで魂が抜けたようにだらんと座り込んでいた。



「うーん、ぱっとしない顔でつまんないの。くらえ~、懲役50年なの!」

デイジーは右手を500mほど掘り進められた穴に突っ込み、左手を天にかざすと、一瞬にして穴が氷で埋め尽くされた。左手から出る炎は、共和国の勝利を象徴するように、真っ赤に燃え盛っていた。



タカシの"音"は、その瞬間、聞こえなくなった。ステータスの画面を見ると、タカシのHPは残り10000になっていた。どうやら、タカシは人間なので、人間としての心臓を動かすといった動作ができないと著しくHPを消耗するようだった。




「えへへっ…悪魔って、気持ちよくって、楽しいですね」



デン、デレレン、デン!デン!という曲の終わる音に合わせて、カノンは重装歩兵隊の方を向き、笑顔でお辞儀をした。


それは…悪魔とも普通の女の子ともつかない、なんともつかみどころのない所作であった。



これにて第一章 「前奏曲」終了です。第二章「協奏曲」の公開までしばしお待ち下さい。(今日か、難航すれば次の月曜日になります)


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