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まだ死にたくはないと思います

ちょっと短いです。100pt達成しました。皆様の応援のおかげで非常にモチベーションが上がっています。

とにかく、逃げよう。




……カノンはそう思いながらも、その獣のような大きい存在はこちらに気付いていないことを"音"で確信する。

周りに生えているねこじゃらしもどきの穂を、せっせとかわいらしいキャラクターの絵があしらわれたポーチへとのんきに詰め込んでいた。

というか、逃げるってどっちに?というくらいその獣の力は強大に感じた。

ポーチは大きめの筆箱が入るか入らないかくらいの大きさだったので、さっき食べた量と同じくらいしか入らなかった。







と、穂を詰め終わった次の瞬間。

地面に生えていたねこじゃらしもどきが、次々と大きな音を立てて爆発し始めた。




「キェャァアアアアア!?!?」とカノンは、必要以上に大きな叫び声を上げた。ゲーム実況をやっていた時の癖である。叫び声が大きければ大きいほど、ウケたのだ。

カノンは急いでキーボードを持ち上げると、その場から走り抜けた……




(やられた。遠くにいるおっきいのに注意を払いすぎて、周りのねこじゃらしの"音"がどんどん大きくなっているのに気付いていなかった……)

急いでポーチの中にある穂の"音"を確認したが、枯れ木のように静まり返っていた。カノンはこんなときでも、穂が爆発することでポーチが汚れることを気にしていた。"お気に"だったのだ。




森中に響いた絶叫が聞こえたのだろうか。大きな獣が、殺意を伴った不快なメロディを放ちながら、こちらに近づいてくる…それはどんどん大きくなり、もはや"調律"の力など必要ないくらいに周囲の異常が感じ取れた。





遠くに見える木が、葉っぱを撒き散らしながら砕け散る。

逃げ遅れたのだろうか、足を怪我した鳥のような生き物が、声をあげる暇もなく惨殺死体となる。







カノンは頭が真っ白になった。20秒間棒立ちの状態になり……ここであることを思い出す。





ミケが人の精神を自在に操ることができると言っていた、"調律"────それは獣や魔物にも通用するのではないか?






急いでキーボードの蓋を開け、カノンの中の魔力を込める…この時初めて、カノンは自分の中に魔力というものがあることを意識したが、不思議とカノンの魔力は周囲に漏れることなくキーボードに吸い込まれた。

短い一曲のエチュードの展開を聞くように、自身の中にある魔力の流れを、カノンは"聞く"ことが出来ていた。カノンの中の魔力はありふれたJPOPのコードを紡ぐように、いとも簡単にキーボードに作用し、キーボードの電源をONにさせた。キーボードの蓋がタブレットPCの液晶画面のようになり、そこにはボタンがいくつか表示された。

キーボードにある、左から「調律」「ステータス」「メッセージ」「アラーム」「プリセット」「電源」の6つのボタンのうち、一番左の「調律」のボタンを渾身の力を込めて連打した。たぶん、これを使って、チートのような精神操作を行うのだろうとカノンは判断した。









すると…何も起きなかった。







(え?これ、これって、これで、精神を自在に操れる感じのボタンじゃないの…?)







獣のようなものは、既に100m先くらいに居た。それが通った後には、抉れた土しか残っていなかった。











(私の二度目の人生…終わった────)




















カノンは錯乱する中、キーボードで泣きながらハ長調のカデンツのメロディを弾いた。「終止系」である。



(このキーボード、弾いたのこれが初めてだけど、いい音するなあ………もっと弾いておけばよかったなあ………ははっ、なんか、なにもかも、どうでもよくなってきちゃった。だって、もう、一度死んでるし。)




カノンは、完全に幼児退行していた。






一度ミソド五度レソシ一度ミソド一度ミソド属七ファソシ一度ミソド。は~い、よくできました!!ぱちぱちぱち~~~!!!!」


3歳の時に教わっていた、笑顔の素敵な、でも怒ると怖いピアノの先生の顔を、カノンは走馬灯のように思い返していた。





(自分で決めて、自分で死んで、それで生き返ってまたすぐ死ぬなんて、それじゃ一回死ぬ前となんも変わらないよね…なんのために、転生したんだっけ……自分のことを守れなきゃ、なにも、なにもできないよ……)




そうして、何度その和音を繰り返しただろうか…一度自殺をする覚悟を決めたというのに、死ぬのがこんなに悲しいだなんて。





前が見えていなかった。手は勝手に、和音を繰り返していた。




























目の前に角を生やした筋骨隆々の獣が、カノンの3mほど先で立ち止まり、同じように涙を流していたのに気付いたのは、それを十分ほど繰り返した後だった。

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