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おじいちゃんおばあちゃんになっても音楽を続けていたいなあと思います

フェーベと分かれた四人は、二組に分かれた。アラームの時刻は16:00を指しており、暗くなるまではまだ時間があるようだ。話し合った結果、カノンとルーティが街を歩き、スパイの様子を見て、デイジーとリリカが戦争に必要なものを買い揃えるという行動を取ることにした。


ルーティは先程アグリッピナ広場に居たスパイが何かを残しているかもしれないと、カノンを連れてそこへ向かっていた。

「さっき教えてもらった詩、すっごくよく出来てて、これで曲作るのが楽しみです!」

だが、カノンは先程からジョセフとその部下らしき音が、この辺りからは全くしないことを感じ取っていた。どういうわけか、国のあちこちを"聞いて"探してみても、ジョセフらしき音はカノンに聞き取れなかった。カノンはこの感じだと広場に行っても何も無いんじゃないかなと思っていたので、散歩感覚であった。

「あの曲、一応この国の国歌ってことになっているのだけれどね…ネプチューン姫の出せる声に合わせて作られているから、歌える人がほとんど居ないのよ」

「あぁ、たしかに!音程の高い所だと、このキーボードの一番高い音くらい高くて、私じゃどう頑張っても出せないなって声でした」

ネプテュヌス共和国の国歌である「ネプテュヌス讃歌」は、国民にとって自分達が歌う曲ではなく、もっぱら国での祝い事があったときにネプチューン姫やアリネスが歌うのを聞く歌という認識であった。そのくらい難度の高い曲であったが、カノンが作曲のヒントとするにはぴったりの曲であった。

「ええ、私の持ってるウェードじゃあんなに高い音は出せないから…伴奏するのも大変ね」

「うぇーど?っていう楽器があるんですか。どんな楽器ですか?」

「棒状の筒に穴が空いていて、穴を抑えながら息を吹き込むことで音を出すのだけど…出せる音は、30種類くらいね」

「あぁ~、リコーダーみたいなものですね!なら、私にもできちゃうかもしれません」

「私はまともに音が出せるようになるまで半年ほどかかったけれど…カノンちゃんなら、すぐできちゃうのかもしれないわね」

「むずかしい楽器なんですね!そう聞くと、やってみたくなってきちゃいました。…あ、広場の方からかんかんかんって音が聞こえます!」

「広場は…賑わっているけど、やっぱりジョセフの魔力は感じないわね」

広場ではバケツや食器や資材などといった様々な金属を並べて、それを木の棒や手で叩き、音楽を奏でていた男の周りに、たくさんの人が集まっていた。

「わぁ、工事現場みたいな音なのに、ちゃんと一つの曲になってます!すごいです」

カノンは工事現場のドドドドド、という音は苦手であったが、広場の男の演奏はチャカポコチャカポコ、とまるで現代のテクノのように整ったものであったため、素直に感動していた。

「ええ、彼も結構な固定ファンがついているわね。この国に来てから長い間、これだけで暮らしてるみたいよ」

「へぇ~!お皿とかバケツが、あんなにすごい楽器になるんですね!」

「ずっとやり続ければ、あれも立派な楽器になるのよね…"ネプテュヌスの水は100年にして成る"、という所かしら」

「石の上にも三年」というような意味のことわざをルーティは言ったのだが、カノンにはうまく伝わっていないようであった。


カココココ、ドゥルルルン、ダン!と広場の彼は豪快に演奏を終えると、周囲から大きな喝采があった。

「ちょうど良いわね…演奏も良かったことだし、彼がスパイか何かを見ていないか聞いてみましょう。」

「そうですね!このへんの人達けっこう居ますし、この人達も何か気付いてるかもしれません」

二人はなるべく長く話を聞きたいため、20人ほどの列の最後尾に並んだ。周りの人からは、ギルドに張り出された大型クエスト、「緊急:ゼノビア王国軍からの防衛」というクエストについて話す声が聞こえてきた。

聞いた所によると、戦争にはパーティ格付けポイント30位以上のパーティから参加でき、少数精鋭で行うらしかった。

「戦争?聞いてねえ聞いてねえ。あいつらってもう二回負けたんじゃなかったか?もう懲りただろうがよ、戦争はよ」

「なんでも勇者ってのが攻めてくるらしいぞ。国を滅ぼそうとするってのはぁ、またとんでもねぇ勇者だよな」

「かぁ~、俺達じゃまだ参加できないみてぇだからさ、この戦争がある?って日は酒でも飲んで過ごすかな。そんでぇ、有り金全部出して女を抱く!国が滅びるかもしれねぇってのに、最後にいい思いが出来ねぇってのはもったいないぜ」

「はは、そいつぁいい」

冒険者らしき人達からは、こういった平和ボケした声が多かった。


「なんていうか…がんばって、勝てるといいですね!」

カノンはそれを聞いて、渋い顔をしているルーティに対してかける言葉が思いつかなかった。

「…そろそろ順番が回ってくるわ。さっそく、この辺に怪しい人を見なかったか聞いてみましょう」

ルーティは無理矢理笑顔を作り、カノンにそう言った。

先程の演奏ではかなり機敏な動きをしていた男は、近くで見ると髪は薄く白髪になっており、顔にかなりの皺を刻んだ、おじいちゃんといった風貌であった。

「演奏、いつものように素晴らしかったわ。特に曲の最後がいつも以上に激情的で、ここまでの密度で音を奏でられるのはあなたくらいだと思うわ…」

ルーティは50ドゥカ硬貨を彼の楽器の一つとしていたバケツに入れ、そう言った。

「あぁ…ここ最近のキナ臭い雰囲気を、そのまま音にしてみたよ。第一次ゼノビア戦争の時のように、重装歩兵隊とあいつらがやり合ってた時の音を参考にさせてもらってなぁあ」

カノンはそうか、そういうのもあるのかとはっとした。戦争で武器がぶつかり合う音でも、この楽器を使えば音楽になってしまうのか…これは参考になると、カノンは思った。

「そうなんですか、戦争で武器がガーン!ってなる音だったんですね、あれ!すごい表現でした!」

カノンは興奮した様子で50ドゥカ硬貨をバケツに入れた。

「そう、戦争といえばなんだけれど。ここら辺で怪しい男を見なかったかしら?初老の非常に強力な魔法使いの男が、何人もの魔術師を率いているって情報があるわ」

「ほう、ひょっとするとあいつらかね。ほぼ全員が黒いマントを羽織ってる、べらぼうに怪しい集団か。嫌でも目につくわい。王国軍と合流するぞなどと大声で叫び、どこかへ行ってしまったぞ」

おじいちゃんはカンカン、と食器を鳴らし、国境の門がある方を棒で指した。どうもこのおじいちゃんは、ゼノビア語が理解できるようであった。

「そう…それにこう、オールバックの白髪で、いかにも何人も殺してそうな人は合流していたかしら。ジョセフって言うんだけど」

「ああ、あいつか。あいつがボスみたいだったんだがな、そいつを置いて行っちまったよ。何人も殺してそうってのはまた、ぴったりの表現だなそりゃあ」

ルーティの説明したジョセフの特徴で、おじいちゃんは先程見た怪しい男がジョセフであるということを理解したようであった。カノンは、じゃあどうしてジョセフの発する音がこのへんで全然聞こえてこないんだろうか…と疑問に思っていた。

「…ありがとうございました。また来て、より激しい演奏が聴けることを期待してます」

「ああ、嬢ちゃんは一番この音楽をわかってくれてそうだからな。次も来てくれると嬉しいよ」


どうやらジョセフは本当に戦争には参加する気がないらしい。このまま楽観視して、勇者のことだけを考えるか…とはいえ「鬼のジョセフ」が単独でネプチューン姫を誘拐することも出来なくはない…もしかしたらどこかに潜伏して、ジョセフはさらなる追撃を共和国に仕掛けてくるかもしれない。ルーティはそういった様々な可能性を考慮していた。


「カノンちゃん。5日後の戦争まで、万全の体勢を整えましょう」

「そうですね!ここの平和が続けば、また美味しいご飯を食べられるのでっ。がんばります」


カノンも先程の冒険者の男たちのように、生前の人間が嫌いになり自殺をしたという過去を完全に忘れてしまったがごとく、平和ボケをしていたのであった。















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