戦術会議はつまんないなあと思います
「そうなると、あらかじめカノンちゃんの補助魔法をかけて貰ったフェーベさんが前衛で敵を乱して貰って、その後ろからデイジーら冒険者の魔法で援護する…という形になるのかしら。…共和国軍では、頼りになる重装歩兵隊が居るって聞いたのだけれど、そちらはどれほど協力して貰えるのかしら?」
ルーティは今までの話を振り返り、アリネスにこう質問した。まだ不透明なのは、タカシ側の攻撃手段と、ギルド側の参戦者…そして、ルーティが言った、共和国軍重装歩兵隊の参加可否である。
「それに関しては、期待してもらっていいわよぉ…陸軍大将グスタフ・マレンコフ率いる十人の精鋭に声をかけるつもりだからぁ」
アリネスは重装歩兵隊を、タカシとの戦闘に合わせた最大の戦力として用いようとしていた。
ネプテュヌス共和国は、共和国軍内の重装歩兵隊に結構な予算を費やしている。貿易の盛んなネプテュヌス共和国は、その富を狙おうと海外からの襲撃を受けるということが多々あった。それに対し編成されたのが、冒険者の剣士、槍使いから「格付けポイント」が高い順に引き抜いた、重装歩兵隊である。彼らはクエストでの経験から、他国からの襲撃を鉄壁の鎧と障壁魔法、そして冒険者の剣や槍で撃退していた。講和条件として、こちらに有利な条件での貿易を海外の交戦相手に強いることで、さらなる国力をネプテュヌス共和国につけていたのだった。
「グスタフってやつ、ギルドに貼ってある『格付けポイントランキング』でずーっと1位になってるの!でも、初めて見た時からポイントがぜんぜん動いてないの」
デイジーは格付けポイントを稼ぎ、ランキングの上位に載ることがクエストへのモチベーションになっていた。しかし、重装歩兵隊隊長にして共和国軍大将、グスタフの稼いだ「523200ポイント」という数字には追いつける気がしなかった。
「ええ、そのグスタフよぉ…ずぅっとぉ、頼りにしてるのぉ…」
「そんな人を共和国直属軍に引き入れるなんて、レベルに合ったクエストの報酬を考えると相当な支出になりそうなものなのだけれど。ちょっと、税金の使い方に疑問が出てきたわ」
ルーティはグスタフを共和国で直接雇うコストに、異議を唱えていた。
「うふふ…雇ったお金以上の利益を、彼は共和国にもたらしてくれているのよぉ…」
アリネスはこれまでの他国との小競り合いを全て話すつもりはなかったので、ふんわりとした返事をして、またお茶に手をつけた。
「この国はお金をいっぱいもってますからぁ、色んな国に狙われちゃいそうですよねぇ。そんな感じですかねぇ」
リリカはさらにふんわりとした、だが微妙に的を得ている質問をアリネスに投げかけた。
「えぇ、そんな感じよぉ…」
アリネスはお茶をこく、と飲み込むと、リリカに向けて妖しい笑顔とともにそう返事をした。
「あの、アリネスさん、ちょっと話は変わるんですけど。さっき歌ってた曲っ。あれ、この国について歌った歌ですよね、詳しく聞きたいです」
退屈そうにケーキをちまちま食べながら戦術会議を聞いていたカノンは、思い立ったようにそうアリネスに尋ねた。少食ぎみのカノンは、30分ほどを費やしてもケーキを半分ほどしか減らしていなかった。
「よく気付いたわねぇ…あの曲、作詞作曲が、ネプチューン様なのよぉ。この国を歌った曲を作ろうって提案したのはぁ、わたぁしぃ。ふふっ…編曲させてもらったのだけれど、楽しかったわぁ」
「そうなんですか、曲を作れるお姫様なんて、すごいです!私、次のライブでこの国について歌った歌を作ろうと思ってるんですけど、参考に作った時のこと、色々教えて貰えないでしょうか!これ、試しに作ってみたメロディです」
カノンはフェーベに先程やったように、アリネスの周りを包み込むことを意識しながら、ツェルニー練習曲30番をモデルとした、澄んだ水が流れ続けるようなメロディを演奏した。
「ふぅん…いい曲だと思うけどぉ…ネプテュヌシアン・ドラゴンが時々引き起こす激流のような激しさがぁ、サビの部分に欲しいわねぇ…」
「そうなんですか?やっぱり、サビは激しくした方が盛り上がりますよねっ」
カノンはキーボードの蓋を閉めながら、笑顔でそうアリネスに同意した。「サビ」という地球の音楽用語が聞き取れたことに特に疑問は覚えず、ネプテュヌシアン・ドラゴンの起こす激流というものを想像していた。
「その、不思議な楽器はぁ…いくらでも音を重ねられるのよねぇ…?音を付け加えてみたりぃ…あえて無音のところを作ってみたりぃ…?考える分には楽しいんだけどぉ、いっこいっこやってると時間が足りないわねぇ」
アリネスはカノンの持っているキーボードの音色を聞けば聞くほど、それに興味津々という様子であった。しかし、自分の興味を満たすための時間が今は足りないということが、とても心苦しいという表情をしていた。
「そうなんですか、曲作りって奥深いですっ。歌詞についてなんですけど、本当に何も思いつかなくて。ここに……さっき歌ってた曲の歌詞、書いてくれるとありがたいです!参考にしたいので」
カノンはキーボードの蓋を開け、「メッセージ」のボタンを押す。この機能を使えば、書いた文章を「保存」することができるのだ。左上に「メッセージ」という文字が書いているように「聞こえる」ので、大意は伝わるだろうとカノンは判断した。念のため、指で書けますよということを示すことができるよう、「メッセージ」と書いてある文字の下に八分音符を書いて見せた。
「あらぁ…かわいいマークねぇ。その楽器、なんでもできちゃうのねぇ。お高そうだから、壊しちゃわないか心配だわぁ」
八分音符の意味はよく伝わってなさそうだが、アリネスは液晶画面に指で文字や絵を書くことができるカノンのキーボードに、また驚いていた。
「あぁ〜そうですね、けっこうすると思います。でも、ベス火山とかに行っても壊れなかったので、ちょっとやそっとじゃびくともしませんよ!」
カノンは、暑いところや湿ったところであると機械はすぐにおかしくなる、ということを幼い頃からスマートフォンを使っていた経験でなんとなく知っていた。灼熱地獄であるベス火山の中でも耐えられるキーボードは、かなり耐久性がありそうだなと思っていた。
「そ〜お?……ベス火山に、行ったんだぁ。へえぇ〜…………私達に影響されて曲を作ってくれるなんてなんだか嬉しいしぃ…ここに、書いておくわねぇ……ネプチューン様の書いた、詩ぃ…」
そう言うとアリネスは、すさまじいスピードで詩を書き始め、2分ほどで全文を完成させた。
「わぁ…ここの空と海と、美味しい食べ物がすっごく伝わってきます!」
その歌詞を"聞いて"カノンは、うまくまとまりすぎて参考にならなさそうだなあという感情と、これをちょっといじればすごい曲ができそうだというワクワク感を同時に抱いていた。
「じゃあそろそろ時間だからぁ…私は行くわねぇ。お代、ここに置いておくわねぇ…」
最後までにこぉ…とした表情を崩さないまま、アリネスは「カフェ・デ・グラス」を後にした。
「はいっ!今日は色々勉強になりました、ありがとうございました!」
「今日はお時間を取って頂き、ありがとうございました。5日後は、楽に勝てていることを祈っているわ」
ルーティは宿に戻ったら、いかに安全に戦えるかを考え直そうと思っていた。格付けポイントランキング1位のグスタフが参戦するとなれば、また話は変わってくる。
「タカシって、人…どんなこと、してくるのかな」
「勇者ってやつ、聞いたことがないの!もしかしたら今まででいちばん強いヤツが相手になるかもしれないの」
「何百年かに一度出現する『悪魔王』を討伐するために、異世界から召喚されるって噂だけど…噂しか、聞いてないかな。ふふっ…楽しみ……」
「フェーベなら、勇者をおもちゃにしながら戦えそうなの!」
デイジーとフェーベの2人は、今から強い相手との戦いにワクワクしている様子であった。
「怪我する人が、沢山出なければいいんですけどお。もしものときは、あたしに任せてくださいねぇ」
「私も頑張って応援するので、みんなは勇者なんか一撃でぶっ飛ばしちゃってください!」
この中ではこう言ったカノンだけが、戦争では死にたくないという思いが一番に先行していた。カノンには異世界に来て最初に死にかけたというトラウマが、強く心に焼き付いていたのであった。
「雪解けレーヴァテイン」の4人は店を後にしてフェーベと別れると、5日後の戦争に向けて、各自準備を始めるのだった。





