アリネスさんに協力してもらおうと思います
「そういえば、話は変わるんだけど…この国でもうじき戦争が始まりそうだっていう噂、聞いてるかしら」
ルーティは顔がにやけそうになるのを抑えながら、フェーベにそう尋ねる。正式にパーティに加わらないまでも、戦争が始まる時には仲間で居てほしいとルーティは思っていた。
「ええ、っと…知らない……この前、ゼノビア王国のスパイがこの国でなんかしようとした…っていうのは、聞いたけど……」
「そのゼノビア王国のスパイなんだけど…まだ、この国に居るわ」
「あ、そなんだ。この国、ゆるいからなぁ……そのおかげで、『おいしいご飯が食べたい』って理由で簡単に入国できたんだけど…スパイにとっては、動きやすいだろうなあ」
カノンは、ネプテュヌス共和国に入国した時の審査を思い出す。あの感じだと、スパイが「スパイです」って書いて入国しても普通に通っちゃいそうだなあとカノンは思う。
「そのスパイが言うにはね。カノンちゃんが遠くから聞き取ってくれたんだけど…5日後に、この国にタカシ率いる軍がこの国に攻めてくるわ」
「遠くから、聞き取る…そんなことができるんだ。タカシ……ゼノビアで召喚された、勇者……だっけ。よく、知らないけど」
「ええ、そのタカシよ。彼は王国の最終兵器だから、これが最後の戦争になると思う」
「ふぅん……最近あんまり強い敵と戦ってこなかったから……デイジーが、最近だと一番強かったかも知れない……ちょっと、戦ってみたいかも」
フェーベは帝国に住んでいた時から、戦いは「生活の手段」であるとして一歩引いた見方をしていた。それでも、強敵が立ちふさがるかもしれないという状況に、少しわくわくしていたのだった。ダンジョンでの話を聞いて、カノンの支援を受けた状態で本気で戦ってみたいという興味も、少なからずあった。
「カノンに応援してもらえれば、思いっきり戦えると思うの!」
それを見透かしてか、デイジーはカノンが買ってきたリクティをむしゃむしゃと食べながら言った。
「……一回、それで戦ってみようかな。今の、この状態…すごく、ワクワクして、つよい誰かと戦ってみたいなって……そう、思うから」
フェーベはめんどくさいという気持ちに好奇心が勝り、次の戦争では「雪解けレーヴァテイン」と行動を共にすることを決めたのだった。
「そこで、提案なのだけれど。これから戦争について、アリネスさんに相談に行くの。一緒に来てくれないかしら…彼女のことだから、ゼノビア王国が戦争を準備しているということはすでに知っていて、何か戦略を練っているんじゃないかって思ってるわ…」
ルーティはそう提案する。カノンから聞いた話でも、タカシが率いる軍の規模はわかっていない。フェーベが自分達の仲間になってくれたとしても、依然としてパーティ全体を瞬時に守ってくれる盾のような存在は居ないため、なるべく怪我をしないような立ち回りを検討したいとルーティは思っていた。前衛で相手を翻弄してくれそうなフェーベが仲間になってくれる見込みが出てきたので、魔法使いと剣士との連携を確認し合うミーティングの意味合いも兼ねていた。
「アリネス、さん…とっても、強い人だって聞く。この前ゼノビア王国のスパイがなんかしようとしてた時は、アリネスさんがふーって息を吹きかけただけで一網打尽にしちゃったとか……聞いた」
カノンは「血肉の宴」でお酒をたくさん飲んで路上で寝てしまっていた所に、アリネスに息を吹きかけられ起こされたことを思い出した。あの息ってそんなに危険なものだったの…?とカノンは恐怖する。
「あの人の強さを知っているのなら、話が早いわね。戦争が始まるとしたら、彼女の側に居るのが一番安全だと思うのだけれど。どうかしら」
「なるほど…師匠から乱戦時の心得は教わってるけれど……私は、戦争ってやったことないから、色々聞いたほうがいいのかも…」
「あの人、初めて会った時からただものじゃない感出てましたしっ!戦争っていうものがどういうものなのか、よく知ってそうです!」
カノンはなんとなくの印象で言っていたが、アリネスに実際に会ったことのないフェーベには判断の材料の一つとなった。
「そう……そんなにすごい人なら、会って話、してみようかな」
「じゃあ早速、彼女の居るアグリッピナ広場に向かいましょうか」
一行は休憩所を後にすると、アリネスがもうじき歌のお披露目を始めるアグリッピナ広場に向かった。
一行がアグリッピナ広場に到着すると、そこではルーティが言っていた通り、アリネスが歌を披露していた。カノンが前見た時と比較して、五倍ほどの規模の人だかりがアリネスの周りにできていた。
カノンはその歌声から、アグリッピナ広場の向こう側に見えるネプテュヌス海の流れのような音を感じ取った。歌詞も、「澄んだ海のように佇み」や「青き水平線を越えて」など、それらしいものが聞こえてきた。これは新曲のヒントになりそうだ…!とカノンは、後でこの曲についてアリネスに詳しく聞こうと思った。
歌の披露を終えたアリネスの正面には、投げ銭のために集まった列ができていた。カノンと一行は列に並び、アリネスに投げ銭がてら挨拶をしようとした。列の途中でアリネスと目が合うと、こちらを見てニコ、と微笑んだ。
「さっきの歌、この国の周りの自然と海の風景がそのまま聞こえてきて、すごかったです!声だけであんな表現ができちゃうなんて、憧れます!」
カノンは順番が回ってくると、アリネスの木箱に10ドゥカ硬貨を3枚入れて、興奮げに先程の歌について語った。
「あらぁ…カノンちゃんじゃない。あれから、元気そうでよかったわぁ…周りのみんなは、お友達かしらぁ?」
「私達は、『雪解けレーヴァテイン』というパーティを組ませて貰ってるわ。カノンちゃんは最近入ってくれたんだけど、とても頼りになっているの…アリネスさん、今日の歌もカノンちゃんが言うように素晴らしかったわ」
ルーティはカノンが入れたのと同じ金額を木箱に入れ、アリネスに挨拶をする。
「貴方、ここでよく見かけるわねぇ…いつも、ありがとうねぇ」
「…最近、ここでスパイが活動しているようなのだけど、アリネスさんの耳に入ってるかしら。彼らが言うには、この国にタカシ率いる軍勢が攻めてくるらしいのだけれど…」
ルーティは列のペースを遅らせないように、小声で手短に要件を伝える。
「よく知ってるじゃなぁい。もしかして、協力してくれるのぉ?明日にでも、ギルドに依頼を出して、兵を募ろうと思うのだけどぉ…」
「ギルドへの依頼っていう形になるのね…戦術面で何点か確認したいことがあるのだけれど。この後時間取れるかしら?」
「そうねぇ…1ティモ弱くらいなら、大丈夫かしらぁ。共和国直属軍の整理が、まだついていなくて大変なのよねぇ」
「あの、それだったらリリカさんが今居る、『カフェ・デ・グラス』っていう所で話し合ってはどうでしょうか!」
カノンはアグリッピナ広場へ向かう道中、リリカの現在位置を"聞いて"いた。かなりゆっくりと堪能しているようで、"美味しいものを食べてリラックスしている音"がリリカのほんわかしたメロディに乗ってカノンの耳に届いていた。
「カノンちゃんは、人とか物の場所が"聞こえ"てくるんだっけぇ…?便利で、いいわねぇ。それじゃ、この後に、『カフェ・デ・グラス』でぇ」
話がついたようなので、一行は即座に列から離れた。投げ銭の列が途切れるまでカノンはリリカの放っている音を聞いていたが、アグリッピナ広場へ向かう道中と同じような、美味しいものを夢中で頬張る音が聞こえてきた。一時間ほどたっているはずなのだが、その間ずっとお菓子を食べ続けているのだろうか…と、カノンはリリカの体型と健康について少し心配になるのであった。
この頃気圧性の頭痛が酷く、集中するために頭痛薬をエナジードリンクで流し込まないと文章が降りてきません。それを使ってもなお頭痛は酷いので、梅雨が明ければ執筆ペースを倍くらいにできるかなと…





