剣の稽古は大変だなと思います
「鬼のジョセフ」がこちらにあまり敵意が無いらしいこと、ゼノビア王国の主戦力を用いた戦争までには5日の猶予があること。ここネプテュヌス共和国では冒険者ギルドが国防に協力的であること。自分の周りには新しくカノン、そしてフェーベという心強い協力者が現れたこと…戦争が始まるまでに急いで対策を立てるか、最悪の場合国を出るか。
ルーティは様々な可能性を視野に入れ、これからの行動について思考を巡らせていた。
「このこと、アリネスさんも知ってるかもしれないけど…一応相談してみようと思うわ。大体あと2ティモもしたら、アリネスさんの日課である歌のお披露目があるわ…その時に、ちょっと相談してみようと思うの」
ルーティはまず最初に、知っている範囲での国防の専門家に相談することを優先した。アリネスはルーティ自身よりもその手の知識では、上だと判断したのだ。
「私も新曲のアドバイスを貰えるかもしれないので、一緒に行きたいです!」
カノンは「音楽家」の同士としてアリネスさんとまた話をしたいなという思いもあり、同行することを提案する。
「あら、カノンちゃんも来てくれるの?まだ時間があるし、これからちょっとデイジーの様子を見に行こうと思っているんだけど…」
「そうなんですか?フェーベさんともちょうど話がしたかったので、そっちにも行きたいです!」
「じゃあ、一緒に行きましょうか。…念の為、ギルド周辺でどんな音が鳴ってるか、聞いてみてくれる?」
「はいっ。…わぁ、剣と剣がきんきんきんって当たる音が、すごい速さで鳴ってます!デイジーさんの『レーヴァテイン・ノヴァ』の魔力の音が、すっごく伝わってきます」
「稽古を始めてからだいぶ時間は経ったと思ったけど…ちゃんと休憩を取ってるか心配になるわね。あと、『レーヴァテイン・ノヴァ』は剣、じゃなくて『封印の杖』…ということにしておいてくれる?」
ルーティは顔に指を寄せ、困ったような表情でそう言う。カノンは、「エッケザックス」が「レーヴァテイン・ノヴァ」と名付けられている誤りを伝えようとした時にルーティに口を塞がれてから、この「レーヴァテイン」にまつわる二人の関係がどうにも引っかかっていた。
「…はい。それがデイジーさんにとって、だいじなことなんですかね」
「ええ、とっても。下手したら、デイジーは二度と魔法を使えなくなっちゃうわ」
「それは…困りますね。はは」
二人はデイジーとフェーベが未だに激しい打ち合いをしているらしい、ギルドの稽古場へと向かった。途中で差し入れにと、カノンは露天で肉の串とお菓子を買っておいた。
稽古場への道中では、昨晩のデイジーとフェーベの激闘を語り合う人々や魔物の声がそこかしこで聞こえた。
自分自身は全く戦っていないカノンであったが、自分のことのように誇らしく感じた。
「はぁ、はぁ…まだまだ、全然速くても大丈夫なの!」
「……そう言って、もう14回もまともに攻撃を受けてるけど……『プロテクター』がいかに本人の魔力が間に合えばいくらでも再生できるからっていっても……むちゃは、いけないと思う」
「もう少し、もう少しで…見えてくるの…」
カノンには宿で聞いた感じだと、デイジーとフェーベが激しい打ち合いをしていた…ように"聞こえた"。しかし稽古場に入ると、フェーベが一方的にデイジーに剣撃を浴びせ、デイジーがそれに対しレーヴァテイン・ノヴァで盾にするように受け止めなんとか耐えるということをやっていたのだとわかった。
「そんな…デイジーさん、もうボロボロじゃないですか。服も、穴だらけになってます」
「やっぱり…苦戦してるみたいね。デイジーが魔法を使わずに戦うなんて、想像もつかないもの…」
「でも…デイジーさん、コロシアムのときよりもやるぞー!って"音"を全身から放ってます。勝つとか、負けるとか、そういうものよりも大事なものがありそうです」
「デイジーは『レーヴァテイン』を孤児院に居る時からずっと使っていて…私が、与えたのだけれど…その力を活かせないことが、悔しいんだと思うわ」
ルーティはただの木の枝を「レーヴァテイン」であると信じ込ませ、デイジーに魔法を教えていた過去を思い出す。あの枝…もとい封印の杖は、自分達の絆の証でもあったのだ。
「デイジーさん!レーヴァテイン・ノヴァの声を、もっとよく聞いてみてください!」
カノンには、レーヴァテイン・ノヴァの声が聞こえていた。「そのように大振りでは一生当たらん」や「そこで攻めずにいつ攻める」というようなことを言っていた。
「レーヴァテイン・ノヴァ…!お前の言っていることも、ちょっとずつ、わかってきたの!」
デイジーがそう叫ぶと、レーヴァテインはフェーベのレイピアをガキィン!と弾き…フェーベを大きく吹き飛ばした。
「……や、すごい。私の剣にここまでの一撃を当てられたのは…けっこう、久しぶりかもしれない」
フェーベがくるんくるんと空中で宙返りをして軽やかに着地をすると、デイジーにそう言った。
「まだ…フェーベの剣をふっとばすまで、やめるつもりはないの!」





