仲間が増えるのはいいことだと思います
「デイジーせんぱあい、大丈夫ですかあ」
「雪解けレーヴァテイン」の三人は試合が終わるなり、コロシアムに併設してある医務室へ走って向かった。デイジーは服の腹のあたりに穴を開けていたが、「プロテクター」のおかげか、やはり血は出ていなかった。
「『プロテクター』とやらの力で重傷にはなってないみたいだけど…一応、光魔法を使ってあげて。医務班の皆さん、構いませんね?」
「ああ、頼むよ。応急処置は済ませてある。なにぶん一人一人が全快するように回復魔法を使ってちゃ魔力が間に合わんもんでね…お仲間のみなさんが回復してくれると嬉しいよ」
「任せてくださぁい。はぁっ……」
リリカの手から白い光が浮かび上がったかと思うと、それはデイジーの体に吸い込まれていった。すると、デイジーの体全体に生気がみなぎっていき…やがてデイジーは、目を覚ました。
「みんな…わたし、負けちゃったの」
デイジーは起きたと同時に3人を見回した後、申し訳なさそうにうつむく。
「デイジーせんぱあい。無事でよかったですう」
「デイジー。あなたはとても、とっても頑張ったわ。急に私の知らない魔法を次々と繰り出すんだもの…今日だけでもかなりの成長をしたって、私が保証するわ」
「氷と炎の網みたいなのがぶわぁー!ってなる魔法、すごかったです!あれで絶対勝ったーって思ったんですけど…フェーベさんも、すっごく強かったですよね!」
「ええ、あの剣さばき…『血肉の宴』で聞いた時は酒の席での冗談かと思ったけど、本当にデイジーの魔力を貫けるほどの剣を遣えるなんて。とても人間技じゃないわ」
「でも、フェーベさんも次戦ったらどっちが勝つかわからないみたいなこと言ってましたしっ。10日後もこのコロシアム、やるんでしたっけ。その時にリベンジしましょう!」
「みんな…ありがとう。次のコロシアムで、対戦する時は、絶対勝ってやるの!ルーティ、帰ったらまた作戦会議なの!」
「ええ。仮想敵がスピードの速い細剣遣いだとわかった以上、それに合わせた作戦も考えなきゃいけないわね。いかに相手に間合いを詰めさせないようにしながら、こちらが氷炎魔法を連発できるか…が勝負の鍵かしら。帰ったら、じっくり戦術を練りましょう」
「わかったの!ルーティの策は、いつも頼りになるの!」
デイジーは先程の敗北を気にせず、むしろこれをバネに一層強くなる決意をした。
「あ、誰か来たみたいですよお。お疲れ様でしたあ…って、貴方は!」
「……どうも。昨日ぶり、ですね」
医務室に、フェーベが肩を抑えたまま入ってきた。観客席から遠目で見ただけでは分からなかったが、デイジーの魔法で焼かれたのか肩が爛れていた。
「その傷って…プロテクターじゃ守りきれなかったんですか!?すぐに、治療しますぅ」
リリカはフェーベの患部を見るなり、これは大変だと回復魔法を発動させた。先程デイジーに使ったものとは比べ物にならないくらいの大きな光がフェーベを包んだかと思うと、フェーベの傷はすっかり治っていた。
「これは……!ふふっ、あなた達…昨日会ったときにも思ったけど……優しい」
「いえいえ、そんなあ…あたしぃ、知ってる人が傷ついてるのを見ると居ても立ってもいられなくてぇ…」
「……いや、さっきまで私を倒す作戦を立てていた人達のすることとは思えなくて………ふふふっ」
どうやら四人の声が大きすぎて、外まで響いてしまったらしい。
「あぁ~違うんですよフェーベさんこれはですね、試合としてですね、次こそはフェーベさんといい勝負をしたいなぁ~って四人で話してたんですよ、はい」
カノンは早口で言い訳のような弁解のようなものをする。
「いや……最近の相手、あんまり歯ごたえがなくて、つまらなかったから。デイジーさんと戦ってる時は、久しぶりに……楽しかった、のかも」
「フェーベもすっごく強かったの!もう、何をしても勝てないって何度も諦めそうになったの!」
「……そう。本当に最初から諦めて降参する人もけっこう多いから。あそこまで戦ってくれたのは、嬉しい……」
「わたしも久しぶりにいい戦いができたの!またコロシアムで戦うの!」
「……ああ、そのことなんだけどね…私、とうとう『チャンピオン』として認定されちゃって……優勝するかどうかの賭けの対象から外されちゃった。コロシアムで優勝したら私に挑戦できるようになるんだけど……そこまで、来られる?」
「もちろん全員ぶっ飛ばしてフェーベの元にたどり着いてやるの!」
「……そう。デイジー、提案があるんだけど…次のコロシアムが始まるまでに、ちょっと稽古、してみない?その、持ってる武器…うまく使えたら、もっと強くなれると思うから」
「このレーヴァテイン・ノヴァの強さを最大限に引き出す手助けをしてくれるの!?フェーベ、やっぱりとっても優しいの!」
「私としても…良い稽古相手が居ないと、どんどんダンスばっかりうまくなっちゃうから。ふふっ……」
カノンはフェーベがデイジーと当たるまでに戦っていた、相手を翻弄し踊るような戦いをしていたのを思い出した。あれをずっとやってたら、疲れそうだなあとカノンは思った。
「ありがとう、フェーベ!早速明日からギルド併設の稽古場で、腕を磨くの!」
「明日からよろしくね、デイジー…そちらのお三方も、大丈夫かしら」
「私は、その間セカンドライブの準備をしようと思います!定期的にやらないと、忘れられちゃうと思うので」
「カノンちゃん…そういえば最初はライブをしてお金を稼いでいたって言ってたわね。お互いに練習、頑張りましょう」
「はいっ。ファンになってくれた人のためにも、期待を裏切れませんから!」
カノンは前世のファンに比べ、ここのファンが"調律"抜きにしても心からカノンを褒めて評価してくれているということに大きな喜びを感じていた。ライブに対するモチベーションは、「仕事」とも「趣味」とも別の、「楽しい使命感」のようなものになっていた。
「私は、そうね…最近きな臭くなってきたゼノビア王国との情勢について、調べようと思うわ。ネプチューン姫誘拐の事で、また何かゼノビア王国が勝手なことを言ってるみたい…」
「帝国もそうだけれど……王が勝手な人だと苦労、する…」
「あら、フェーベさん。フォレンティーナ帝国の人だったの」
「あそこは…神が、とか教会の権威が、とかが本当にうるさくて…私も御子として祀り上げられそうになったから、めんどくさくなって、逃げてきちゃった…へへっ」
「どこも権威を集中させないとやっていけないのね…その点この国は魔物の労働力で国は安定してるし、工芸品で国は豊かになってるしで移住先には良いのかもね」
「入国の審査もすっごく適当ですよね!私、『空と海がこんなにも青いから』!って紙に書いたら、入国できちゃいました」
「そこまでだったかしら…とはいえ、この国が移民に対して寛容なのも色々わけがありそうだし、その辺りも調べてみることにするわ」
「あたしはぁ、最近疲れることが多かったのでぇ、街のカフェを色々食べ歩いて来ますぅ」
「いい店があったら、わたしに教えてほしいの!」
「そうですねぇ。よかったら、その時はフェーベさんもご一緒にどうですかぁ?」
「甘いもの……好き。私もいっぱい知ってるから、今度色々……情報共有、しよう」
「はいぃ、是非」
一行は、戦いを通してフェーベとの関係を築くことに成功した。早速打ち上げに「血肉の宴」に行こうという話になったのだが、今日は急遽休業という話だった。キーボードの示す時刻は26:47であった。あの店以外はどこもやっていなさそうなので、一行は宿に戻ることにした。
フェーベは別の宿に泊まるらしかった。なんでも、「ブルネルスキの家」の経営者が作った上位のホテル、「ブルネルスキの別荘」に泊まっているという話だった。一人部屋一泊300ドゥカという、貴族か何かでも泊まるのに躊躇しそうな値段に、ルーティは目を回していた。
「それじゃ……明日の10ティモに、ギルド前で。体力は…万全にしておいてね」
「今日よりももっっっと強くなるのを楽しみにしてるの!」
「雪解けレーヴァテイン」の四人は、ボリューミーな栗色の髪をふわふわと揺らしながら夜の街に消えていくフェーベを見送った。





