デイジーさんは誰にも負けないんじゃないかと思います
その後もデイジーは試合開始と同時に赤と青の螺旋レーザーで相手を吹き飛ばして試合を終了させるというようなものが続き、あっと言う間に準決勝まで勝ち上がってしまった。
「た、たはは…デイジーさん、全然容赦しないですね」
「戦術を使うまでもなく勝ち進んでいくというのは精神的には楽ではあるけれど…実戦の経験にはならないわね」
「でもでもぉ、これで4位の300ドゥカまでは確定しましたよぉ。」
「ええ。10日に1回これは開催されるようだけど、デイジーさえよければ毎回参加してもらいたい所だわ…見て、次の相手が来たわ」
デイジーの準決勝の相手は、仮面に顔を隠し、全身を黒の服で包んだ、細長い体躯を持ち腰に短剣を付けた男であった。その男は何も言わず、デイジーの出方を伺っていた。
「それでは、ルノワール・ザール選手対、デイジー・ティナト選手の試合を始めます。セット…ファイト!」
「今回も一瞬で終わらせるの…レーヴァテイン・ノヴァ!」
デイジーはルノワールに向かって赤と青の螺旋レーザーを光の速さで放つ…と、そこにルノワールという男は居なかった。
「あいつ、どこに行ったの…わぁ!」
ルノワールは斜め後ろから短剣をデイジーに向けて突きつけていた。そこへ、意思を持ったようにレーヴァテイン・ノヴァがルノワールの短剣を受け止めていた。ルノワールは後ろに跳び、またこちらの様子を伺っていた。
「ありがとう、レーヴァテイン・ノヴァ!これで…どうなの!」
デイジーは持ち前の魔力を活かして、ルーティに教わったように赤と青の螺旋レーザーを、コロシアムのステージをぐるっと回るように撃った。それに対しルノワールは跳躍したかと思うと、空を蹴るようにしてデイジーを撹乱した。
「なんで、なんで当たらないの!」
デイジーはルノワールに向けて、これまた作戦どおりに交差するような動作を交えながら、鞭のようにレーザーを展開していく。だがルノワールは、その全てをことごとく避けていく。
しだいに、ルノワールはデイジーにそのナイフを突き刺さんと、こちらへ向かっていった。デイジーは、魔法を撃つために、レーヴァテインに魔力をを籠めて構えているままだ。「剣」としての使い方は、厳しそうだ。
レーザーを撃っても当たらないし、ルノワールの攻撃から逃げようがどこへ行っても襲ってきそうである。デイジーは、このままだと絶体絶命であると判断した。
(これしか、ないの!)
デイジーはとっさに、赤と青のレーザーを編むようにして、自分の周りに網のような守りを展開した。
ルノワールはそれに近づくとまずいと判断したのか、跳躍を重ねながら距離をとっている。
そうしてその網の密度はどんどん高まっていくと思うと…一気にそれが爆発するように、周囲に展開した。スタジアムの内部を覆う、5cmほどの隙間しか無いその網にルノワールは巻き込まれ、吹き飛ばされた。
ルノワールは付けていた仮面を手で抑える体勢のまま…動かなくなった。
「ルノワール・ザール選手、戦闘不能!勝者、デイジー・ティナト選手!」
審判からそのアナウンスがあると、観客から今日一番の歓声が上がった。
「いやぁ良い試合だったぜ!あんなビーム脳にあそこまで対抗できるやつがこの国に居るなんて、ワクワクすんなぁ!」
「あぁ、あの黒いのは初めて見たがあの技は一度見たら次はどうするかの対策くらい練って来そうだよな!次の出場が楽しみだぜ!」
「決勝はあいつ、多分フェーベさんと当たるよなあ。お前、どっちに賭けた?」
「どっちもしょっぱい倍率だったからよお、あの二人を軸にしつつ3位まで予想にしたんだが…3位に予想したやつが準々決勝で負けやがってよぉ、もう今回はダメだ俺は」
「おいおい、金なら貸さねえぞお。ハハハ」
「あんなこと作戦には入ってなかったけど…とっさにあんなことが出来るなんて、デイジーもかなり成長したのね」
ルーティは、自分の作戦以上のことをするデイジーに驚嘆する。先程までのワンパンで終わる戦いのどこで成長したのだろう…とカノンは思ったが、言わないことにした。
「私達のパーティの戦いでも、あの網がずっとあれば安全そうですよね!」
「いや、あれは維持するのにかなりの魔力を使いそうね…なんせ、デイジーの高出力の魔力をそのまま垂れ流しにしているようなものだもの。ああいった手合いに対する、最終手段といったところかしら」
「そうなんですか…なかなかうまくいかないんですね」
「ええ。デイジーは私達のパーティの主砲だもの。デイジーの魔力が切れたら私達は途端に攻撃手段を失ってしまうわ…私達は、どうやってデイジーのサポートをするか考えなくちゃ」
「そうですね!私、これからも応援頑張っちゃいます!」
次の試合は、フェーベと日本刀のようなものを持った男の戦いであった。フェーベのレイピアと男の日本刀がキンキンキン!という衝撃音を起こすたびに、観客からは大きな喝采が起きた。
そうして10分ほどにも及ぶ打ち合いの末、フェーベが男の日本刀を弾き飛ばし、持っていたレイピアで男の腹を一突きにする…と、男は気を失った。男からは血が出なかったが、「プロテクター」がいい感じに守っているのだろう、とカノンは考えた。
「これで、決勝の試合はデイジーさん対フェーベさんですね…どうなるんでしょうか」
「フェーベって人、やっぱりかなりの余裕を持って観客を楽しませる戦い方をしているわ…正直、実際の力がどれくらいなのか見当もつかないわ」
「デイジーせんぱい、大丈夫でしょうかあ…なにかあったら、控室に行って回復魔法のお手伝いをしてあげたいですねえ」
「そうならないように、全力で応援しましょう。『私達は、四人で一つのパーティ』、だっけ?」
「はい!四人で一つ、です!」
そして2時間ほどの休憩を挟んだあと、デイジー・ティナト対フェーベ・フライブルクの試合が始まった。





