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打ち上げをしようと思います




一行はギルドに到着すると、クエストの達成証明となる熊の魔石をギルドに提出した。達成報酬は、1500ドゥカであった。

「格付けポイント」は、デイジーに600pt、他の「雪解けレーヴァテイン」のパーティメンバーに200ptが与えられた。パーティでこなされたクエストは、最もダメージを与えた人と最後にダメージを与えた人に倍のポイントが与えられる。このパーティ「雪解けレーヴァテイン」ではそのボーナスのほとんどがデイジーに与えられていた。

このボーナスは自己申告制である。個人格付けポイントをパーティ内で横ばいにするために、あえて本来と別の人の名前を申告するパーティもそこそこに居たが、このパーティではデイジーが喜ぶ顔を見るのが楽しいからという理由でそのまま申告していた。

その結果、今回のクエスト達成でギルドに貼り付けられた電子掲示板のようなものの順位が変わり、「個人格付けポイントランキング」という欄に「11位 デイジー・ティナト」という表示がなされた。12位から、一つ順位を上げたのだ。


「やったの~。あとちょっとで、トップ10の仲間入りなの!」

「その10位とは10000pt近く差があるようだけど…ともあれ、一歩前進ね」

「デイジーせんぱいなら、この国のトップだって狙えちゃいますよぉ」

やたらとデイジーのスキルLVだけ高くリリカのスキルLVが低いなとカノンは最初会った時に思っていたが、実際のクエストでの戦闘ではルーティが敵を探知し、デイジーが一気に「ぶっ飛ばす」ことで戦闘を終わらせていたので、リリカの出る幕がなかったことを思い出していた。

ヒーラーも、回復魔法を使う機会が無いと成長するチャンスが無いのか…とカノンは少し悲しくなる。その点カノンはデバッファー兼バッファーなので、ヘル・ドラゴンを倒すなどの大きな経験をしたことで一気にスキルLVを上げることが出来たのだ。

カノンは気になってリリカの「ステータス」を参照したが、光魔法が「LV3」になっていた。暗いダンジョン内ではリリカの光魔法、ルーティの探知魔法が無いと暗闇から敵に襲われるような環境であったので、常時リリカが魔法を使っていたことになる。よって、リリカにとって大きな成長の機会となっていた。


「カノン、さっき言ってたお菓子が美味しいお店、気になるの!さっそく行きたいの!」

「私もそろそろ行きたいなって思ってました!ちょっと高いかもしれませんけど…みんなもどうですか?」

「そうですねぇ~、昨日今日とめでたいことづくしでしたし、自分へのご褒美が欲しかったところですぅ。行きましょぉ」

「食費はいくらでも削れるのだから、今までは我慢してたけど…今日は、今まで我慢してた分盛大に食べてやるわ。ええ」

ルーティは倹約家であったが、3000ドゥカを越える現金を今まで所持したことがなく、少し感覚が麻痺していた。

「決まりなの!みんなで、そこでパーティをするの!」

「あ、パーティって雰囲気はマスター的にはどうなんですかね…みなさん、マスターが少し気難しい人なので、料理が出てきたらすぐに手を付けるっていう所だけお願いできますか?」

カノンは、マスターに最初に会った時の、殺されるかと思う程の眼光を思い出す。しかし二回目にお菓子を食べに来た時は、その表情が少し柔らかいものになっていたことを、カノンはなんとなく認識していた。

「美味しいものを目の前にしてすぐ食べないなんて、バチが当たるの!」

「そうですねぇ、それくらいなら大丈夫だと思いますぅ」

「テーブルマナーのことなら孤児院に居た頃にみんな厳しくしつけられていたから、大丈夫だと思うわ」

「わかりました!ちょっと入り組んだところにあるので、案内しますね!」


四人はカノンに案内され、「血肉の宴」に行くことになった。カノンは迷路のように入り組んだ裏路地の地図をまるで把握していなかったが、"音"を頼りに「血肉の宴」にだけは一回も迷うことなく行けたのであった。


「ここがご飯がすっごくおいしいカフェの…えと、『血肉の宴』、です」

「なんというか…独創的な建物ね。面白いわ。コウモリが群がっているような扉を中心に、赤い十字架が豪快にペイントされてる辺りに独特なセンスを感じるわ」

「楽しそうなところなの!」

「ここ、一人で来てたらごはん屋さんかどうかもわかりませんよねぇ。どうやって知ったんですかぁ」

「アリネスさんって人に教えてもらいました!姫様の、そっきん?をしてるんでしたっけ」

「アリネスさんと知り合いだったんですかぁ。歌が好きでよく披露してらしてますよねぇ。カノンちゃん、音楽やってると色んな仲間ができそうですねえ」

「はい!じゃあ入りますね。ちょっと扉が重いので、気をつけてください」

言うとカノンは、ふんっと全身を使って扉を開ける。

「マスター、今日は友だちを連れてきました!みんなきれいに食べてくれるので、今日はよろしくおねがいしますっ。あ、今日はお酒じゃなくてお菓子とお茶がいいです」

店に入ると、マスターは珍しく居た先客の食べる姿を眺めながら、皿を洗っていた。

「うるさいのがうるさいのを連れてきたと思ったら、そいつがまたうるさいのを連れてきたようだな。この時間だとディナーとデザートのセットか。アージェントの香草ステーキといつもの前菜、それにネプテュヌシアンドラゴン・ケーキとステント茶のセットが一人35ドゥカで、どうだ」

「それでお願いします!お姉さん、隣いいですか?」

7席のカウンター席しかない店内には、一番右の席にもふもふとステーキを頬張っている栗色の髪をした女性が座っていた。この店に先客が居たのは初めてであったので、カノンは声をかけたくなったのだ。店に入ったデイジー、ルーティ、リリカの三人は、店内の赤い照明とことごとく赤く塗られた机と椅子に衝撃を受けていた。

「…うん」

栗色の髪をした女性は、ステーキを頬張りながら首を上下して、カノンを眺めていた。

「私、カノン。カノン・ベネデッティって言います!あなたは…?」

「……フェーベ。フェーベ・フライブルク」

「わぁ、かっこいい名前ですね!フェーベさん、この店には、よく来るんですか?」

「…………ご飯がおいしいから、よく来る。ここで食べるために、コロシアムで戦っているって言ってもいいくらい……」

そう言うと、フェーベと名乗った女性はまたステーキを美味しそうにもふもふと頬張る。どうやらフェーベという客は頻繁にこの店に来るようだった。

「そうですよね、ここの料理、美味しくてくせになっちゃいますよね」


「みんな、料理が運ばれてくるの!」

もう待ちきれないというような様子だったデイジーが言う。

「いつもの前菜だ。今日は肉と合わせるから、いつもより甘めの味付けにしてみた。どうだ」

水と一緒に出てきた前菜は、前回アリネスと食べた時に出てきたものとほぼ変わらず、お花畑のような見た目をしていた。


「コロシアムでお金を稼いでるんでしたっけ。危なそう…」

カノンはゲームの知識で、コロシアムというものが決闘を観戦する施設だと言うことをなんとなく知っていた。

「…なんていうか…みんな筋肉でごり押すだけだから、観客を盛り上げながら戦うのは割と簡単だよ……避けていれば、なんか勝手に疲れてくれるし」

「そうなんですか!すごいです」

カノンは本心から、コロシアムというものにワクワクしていた。HP20という貧弱な体では、一生参加することは敵わないだろうと思っていたが、観戦することにはとても興味があった。


「…カノンがさっき言ってた意味がわかったわ。これ、崩すのが勿体ないもの」

ルーティはそう言いながら、カノンに言われたとおりに魚の切り身にフォークを伸ばす。

「きれいですねぇ~、このお魚もふわふわしていておいしいですぅ」

「野菜はあんまり好きじゃないけどこれはすっごく美味しいの!」

「やっぱりここのお料理、美味しいですよね!私も初めて来た時、びっくりしちゃいました」

カノンは四人で一緒に来れてよかったな、と感動していた。一人で食べる料理より四人で食べたほうが美味しいというのは本当だったんだと、転生する前は一人でコンビニ弁当を食べることの多かったカノンは思った。

隣に居るフェーベという女性は、お酒を飲みながらこちらをじー……っと眺めていた。

「アージェント肉の香草ステーキだ。少し加工に手間取った、遅くなったな」

珍しく申し訳無さそうにマスターは料理を提供する。手間取ったといっても、前菜が運ばれてから10分程度しかたっていないのだが…とカノンは思った。

鉄板の上でじゅうじゅうと音を立てているステーキは、厚さが3センチほどあるようだった。ナイフを通すと豆腐を切るようにすぱっと切れ、色鮮やかだが決して油の多すぎない肉が、店内の照明に反射してぷるぷると輝いていた。

「このソース、すっごく美味しいの!肉をぎゅう~っと詰め込んだような味がして、でもしつこくないの!」

「ああ…この味に慣れちゃったら、舌がバカになっちゃいそう」

「ルーティせんぱい、今だけは贅沢しちゃっても誰も文句言いませんよぉ」

「はいっ!美味しいものを食べると、たのしくなりますから!」

「こう、今まで私がやってきた家計は、何だったのかしらって…そう、思っちゃうわ」





四人が肉を食べ終えて、カノンがフェーベにコロシアムでの武勇伝をあれこれ聴いていると、デザートが運ばれてきた。

「ネプテュヌシアン・ドラゴンケーキとステント茶のセットだ。スラーズベリーのソースはあえて実の食感が残るようにしてみた。どうだ」

カノンが一昨日飲んだ甘い香りのするお茶と、龍がとぐろを巻いてこちらを睨みつけているような形をしたケーキが運ばれてきた。

「かっこいい~っ…いただきます!」

「はわぁ~、スラーズベリーのぷちぷちした食感とふわっとした生地がとっても上品ですぅ…毎日これを食べたいですぅ」

「昼頃に来れば9ドゥカで出してやるぞ。お前達、中々良いテーブルマナーをしているな」

「孤児院の先生に厳しくしつけられたわ。教え方は悔しいけど…的確だったわ」

「あいつらもたまには役に立つの!」


四人は皿の上にスラーズベリ-とやらのソースで彩られた、龍の起こした水しぶきのようなアートを、少しも崩さずに完食するのであった。


「美味しかったわ。お代、140ドゥカでよかったかしら。ここに置いておくわ」

「また来たいの!」

「そうですねぇ。次またダンジョンを攻略したり良いことがあったらあ、ここでお祝いしましょう」



「雪解けレーヴァテイン」の四人は「血肉の宴」を後にすると、明日の予定について帰り道で話し合うのだった。

カノンが店内で聞いたコロシアムが面白そうという話になり、盛り上がっていた。コロシアムでは誰が勝つかという賭けごとがあり、ルーティは賭けごとが嫌いであったため今までは関わったことはなかったが、お金に余裕がある今なら50ドゥカまでなら賭けてもいいという話になった。

そして、四人が店を去っていくその後姿を、フェーベという栗色のボリューミーな髪をボブでカットした女性は、じー………っと見つめ続けていたのだった…。



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