プロローグ そんな異変の物語
どうしてこんな人生を歩んでいるのだろうか。
夜勤のパートで、定職はなく、正社員の話も全くない。
あるのは夜中のうるさいクレーム対応と、サービス残業。
家に帰っても、ほとんどニート扱い。
両親に「働け」といわれ、弟に「すねかじり」と罵られる。
…本当にどうしてだろう? もう手遅れなのだろうか。
今日はあの上司が珍しく定時に帰らしてくれるらしいし、お言葉に甘えて帰りますか。
「お先に失礼します。」
少し冷ややかな目をされながらスタコラサッサと退散する。
タイムカードの代わりに、机に刺さったスマホを手に取ると、小さな電流とともに、意識が遠のいた。
「対象者全員、転送完了しました。GM権限による、説明を行います。」
「なお、説明中、聴覚以外の感覚を阻害していますが、終わり次第解除されます。」
「まずはじめに、満10歳~満60歳までの、携帯電話所持者をERS権限により召集し、GM権限によって、ゲームを行います。
現実世界の時間経過は、1日ほどですが、ポイントが0になるか、一定の順位を下回ると死亡します。現実世界への生還条件は、ポイントが8000になると、上がる〈ステージ〉を、4人チーム全員が、五まで到達する事です。」
「その他システムが残っていますが、ヘルプを確認してください。
これよりゲームの開催を宣言すると共に説明を終わります。」
そうして、視界が広がるとそこには、現実と同じような自然がひろがっていた。
真冬であったはずなのに、小鳥のさえずりと蝉の音が重なり合っている音が耳にしつこいほど入ってくる。
あまりにも、夢にしては、リアルすぎたのだ。
「まさか本当に起きたことなのか?もし仮に現実だとしてそんなことをして何になるのか?」
疑問が絶えずわき出てくる。考えてもどうにもならないことを知っていながら考え続けた。
夢であると信じたいが、体の五感がビンビンと現実だと告げていた。
けれども、現実逃避は止まらず、脳は、拒絶反応を起こしている。
そんなこんなしていると、不思議なことが起こった。
薄い緑髪の女性が、隣に湧いてきて、意識を失っていた。
これを良いことに脳は、現実逃避は加速される。
「もしこれが現実ならば、こんな事はあり得ない。更に緑髪なんてあまりいないはず…。」
考えれば考えるほど、周りが見えなくなってくる。
いろいろ考えているようで何も考えられていなかった状況が続く。
「あの、大丈夫ですか?」
例の女性に声をかけられ始めて自我を取り戻した。
「あ、大丈夫です。」
「よかった。チームメイトの赤羽…じゃなくて、ノナって言います。」
彼女はチームメイトだと言っていたけど、俺には確かめる方法がない。
「どうしてわかったんですか?」
「どうしてと言われても…左下に見えませんか?チームメイトの情報みたいなやつです。」
そんなのは見えないけれど……。
突然、不思議な感覚に包まれ、無機質な声が聞こえた。
〈精神状態の正常化が確認されました。
キャラクターネーム(ダバル)のセットアップを行います。〉
すると、情報が脳の処理能力を超えて入ってくる。
今まで感じたことの無かったような怠慢感に襲われ、また意識を失った。