第4話 集う戦士たち
=登場人物=
【ヴェルドゥラ・Y・ベラルディ】
身長:189㎝
体重:100㎏
年齢:18歳
髪色:ライトブラウン
特技:格闘技全般
趣味:機械いじり・アウトドア全般
堀の深い顔で筋骨隆々の脳筋系の見た目だが、本来なら国立トップの大学へも進学できるほどの頭脳を持つ文武両道な男である。年下などへの面倒見も良く、インドア・アウトドアのどちらも趣味である欠点の少ないように見えるが、熱血過ぎることがたまに瑕。空手部の後輩からは熱血王と呼ばれ、部内では厳しい先輩の一人として恐れられていた。
年の離れた6歳の弟マウロを溺愛している。
現在はドイチェス・ライヒ(ドイツ国)のアルスター基地、第31独立機動兵装隊のギルベルト大尉指揮下で人型機動兵器、『ハーミット0』のパイロットを務める。
【ヴォルデマール・ギルベルト】
身長:191㎝
体重:93㎏
年齢:38歳
髪色:ダークブラウン
特技:射撃
趣味:銃の整備
昼夜問わず常にサングラスをかけたナイスガイ。冷静で真面目な性格だが根は体育会系。ドイチェス・ライヒ(ドイツ国)のアルスター基地、第31独立機動兵装隊の隊長を務める。
【ワカバ・ジェムセッテ・アイズンヴァーグ】
身長:160㎝
体重:4?㎏
年齢:19歳
髪色:ライトグリーン
特技:演算・車の運転
趣味:車の改造
とある国からドイチェス・ライヒ(ドイツ国)へ留学し、大災厄のせいで、ヴェルドゥラと同様に進学は諦め、ハイスクール卒業後に軍隊へ入隊した。年齢に対して子供っぽい見た目をしているが、頭脳は高く優秀な人物である。
【ミリアム・サマンサ・パルマ】
身長:175㎝
体重:??
年齢:18歳
髪色:ブロンド
特技:バレエ・バイオリン・機械操縦
趣味:読書
ヴェネツィア共和国で位の高い貴族の令嬢だが、家柄だけでなく自分で努力して、名声を上げたいと言い、家を飛び出して士官学校へ入った。もともと才女であり何の問題も無く過ごしてきたが、本人は意識していないが他人を寄せ付けにくい雰囲気がある。
上記の経緯や学生時代にモデルの仕事もしてみたりと、自己顕示欲が強い節は見られる。
快晴の朝、小鳥達のさえずる声が聞こえる部屋でヴェルドゥラは目が覚めた。
「・・・っ痛。」
昨日の歓迎会で飲み過ぎたらしく、まだ頭痛がする・・・。一応部屋には帰ってこれた様だが、どうやって帰ったかその記憶が無い。時計を見ると午前9時前だった。食堂が閉まるまでにはもう間に合いそうにないので、基地の外にでも食べ物を買いに行こうと思いながらベッドから降りようとすると、毛布の足下に違和感を覚えた。
「・・・。」
毛布を一気にめくると、昨日の服をそのまま着ているワカバが寝ていた。
「うおっ!何やってんだお前!?」
ヴェルドゥラの大声を聞いて、アホ毛を数本立てながらワカバが目覚める。
「ん?あ、おはよう~。」
この状況を気にするでもなく、腕を頭上に上げ、伸びをしながらワカバが挨拶してきた。
「いやいやいや、何でお前がここで寝てんだよ!?」
ベッドから距離を置き、大きな身振りでワカバを指さしながらヴェルドゥラが問う。
「全く覚えてないの?あんたが結局飲みつぶれてお店で寝たから、ギルベルト大尉と二人でここまで運んだのよ。んであたしも眠かったから、自分の部屋に帰るの面倒だったから、ここで寝てたってわけ。」
ワカバはベッドから降り、勝手に冷蔵庫を開けて昨日買った牛乳を、近くにあったコップに入れながら答えた。
「いやいや、最初の方は理解できるが、ここで寝るっておかしいだろ!近くに女子寮あるんだろう!?」
そう騒ぐヴェルドゥラを気にせず、ワカバはコップの牛乳を飲み干す。
「はいはい、よく寝たことだし自分の部屋に帰りますよ~っと。」
「おう、早く出て行け!だいたい女が男の部屋に軽々しく泊まんじゃねーよ!」
女性とのつき合いが乏しい訳では無かったが、こういうところに真面目なヴェルドゥラはワカバに説教をした。
「あら?脳筋でいかにも肉食系って見た目の割には、意外に真面目なのね。」
ニヤニヤしながら部屋の入り口へ向かうワカバはが余裕で返した。
「っなにぃ!」
ワカバへ反論をしようとしたとき、ギルベルトが部屋のドアを開け、サングラス越しに部屋を見渡した。
「おい、仲が良くなったのは解ったが、廊下まで丸聞こえだぞ。」
「「っ!?」」
ヴェルドゥラとワカバは恥ずかしさで一瞬固まった。そんな2人をやれやれと思いながらギルベルトは続ける。
「ワカバ、お前も男子官舎の部屋で寝るとは非常識にも程があるぞ。というか一度俺と官舎を出たのに何故ここにいる。」
「えーと、それはですねぇ・・・。」
歯切れの悪い返事をするワカバを、ヴェルドゥラはそれ見たことか、とニヤっとした。
「まあいい。ペナルティーとして、今日は土曜で特に何もないから、ヴェルドゥラに市街を案内してやれ。こいつはドイツ語が出来ないし、足もないから何かと不便だろうからな。」
「ええ~!?」
驚くワカバに無言で視線を固めるギルベルト。
「・・・(怒ってるかもっ。) はい、了解しました!」
断れるような状況でもないこと理解したワカバは、ピシッと敬礼をして答えた。
「それはそうと、ギルベルト大尉はなぜここに?」
ワカバと同じく昨日と同じ服装のままのギルベルトにワカバが確認した。
「うむ、俺もあの時間で帰るのは面倒だったのでな、外来用の部屋を借りて宿泊したんだ。」
「じゃあ、大尉も一緒に街へ!」
助けを求めるように目を輝かせたワカバが言うが。
「いや、俺は娘たちと予定があるのでな。それに言っただろう、これはペナルティーだと。まあ、気をつけて行ってこいよ。」
サングラスを指で上げながらニヤリとし、そのまま部屋を出て行った。それを見てしばらく固まる2人。
「め、命令だから仕方ないし、街へつれてってあげるから早く準備しなさいよね!」
「お、おう・・・。」
準備を終えた2人は、基地からワカバの車で街へ向かうのだが・・・。
「おい!狭いんだからあんま飛ばすなって!」
「あんたが無駄にでかいのよ!」
日本から輸入したというワカバの車は、どんだけ好きなんだというくらいフルチューンしたカプチーノだった。成人男性でも狭く感じられるその車内は、ヴェルドゥラには更に窮屈だった。それにワカバはスピード狂で、街までのカーブが続く山道をかなり飛ばすので、狭い車内で前後左右に降られるヴェルドゥラにはたまったものでは無かった。
「もっとゆっくり走らないと、二日酔いだし俺吐くぞ・・・。」
「ちょっと!吐いたらぶっ殺すからね!」
そんなやり取りをしつつも、無事街へ着いたのだが、吐くことは無かったがヴェルドゥラは疲れ切っていた。車外へ解放されたヴェルドゥラは、外の景色をやっとまともに見ることが出来た。
中世から続く町並みが残る街は綺麗で活気はあったが、所々で大災厄による傷跡があり、難民や孤児たちが目に入が、今の世界では珍しくはない風景だった。
しかし、田舎育ちのヴェルドゥラからすると大都会で、見るもの全てが新鮮だった。
「おお!すっげえ都会だな!」
「まあ、今でもドイチェス・ライヒ第2の都市だからね。」
車の鍵をかけ、駐車券を確認しながらワカバが答えた。
役所や病院、日用品の買い物が出来るところなど、徒歩圏内で一通り用事が完結出来る場所を教えてもらった。しかし、行動範囲を広げるために車かバイクは有った方がいいなと思うヴェルドゥラだった。
ワカバの行きつけで、ラプスカウスというこの地の名物料理を食べ、一息ついて店を出た時のことだった。汚れた服を着た、孤児であろう子供たち2人が何やら声をかけてきた。
「夕方から雨が降るから1本10ユーロで傘を買ってくれ。ですって。天気予報見てないけどこんなに晴れているから降りそうにないのにね。てかオンボロ傘なのに高いし。」
ワカバが翻訳して教えてくれた。年のころ10歳と6歳ぐらいの兄弟だろうか、俺は二人を見て弟のマウロを思い出した。恐らく大災厄で両親を亡くして、兄が弟の面倒を見ているのだろうか。兄と思われる子供の目は、嘘をついているようにも見えないし、俺には弟を守って行かなくてはならないという気概を感じたような気がした。
「2つもらうよ。ワカバ、弟をしっかり守ってやれよ。って伝えてくれ。」
財布から20ユーロを取り出し、支払いをしている際にワカバが俺の言ったことを2人に伝えると、兄は俺に親指を上げ、Dankeと言ってきた。さすがに俺にもその言葉の訳はありがとうと解る。俺も同じジャスチャーをして返すと、2人は手を振りながら去って行った。
「子供には優しいんだね。」
「まあな、俺の弟もあれくらいの歳だからな。同じような子供が苦労しているのを見るのは心が痛む。」
買った傘の1本をホイっとワカバに投げ渡し、自分の分の傘をくるくると回しながら答えた。世界中には同じような子供たちがごまんといるだろうが、この様に出会った時には少しでも助けてやりたいと考えているヴェルドゥラだった。
店の前から移動しようとしたとき、先ほど走り去った2人が道の向こうで、チンピラのような風貌をしている4人と話をしているのが目についた。気になるので少し近づくと。
「俺らのシマで勝手に商売やってんじゃねーよ。ですって。あのチンピラの縄張りで傘売りやっちゃってたみたいねあの子たち。」
俺が聞くより先にワカバがチンピラの話の内容を翻訳してくれた直後、何やら兄がチンピラたちに向かって反論をした瞬間に頬を殴られ吹っ飛んだ。
「よくあることだけど、助ける?」
ワカバがそう聞いてきたときには、既に俺はチンピラたちの元へ走っていた。
弟を蹴ろうとしていた男の肩を後ろから掴み、一気に引き下げる。何を言っているのかは解らないが「なんだてめえ!」と言っているのだろう、そう大声を出すと同時に先ほど引き下げた男が、温いパンチを繰り出してきたので、体を逸らして軽く避けた流れで顎を一発殴りダウンさせた。すぐさまに近くの男がこちらへ向かってきたが、みぞおちに一発入れ、その後アッパーを入れて吹っ飛ばした。この程度の雑魚なら肩慣らしにもならないな、と思っていると残りの2人が懐からナイフを取り出した。
「典型的な悪党だな。」
伝わりはしないと解りながらも口にし、余裕であるという態度を見せると、案の定2人とも逆上し、一直線に突っ込んできたので、先に向かってきた男のナイフを持った手首を、相手から角度をズラした前蹴りで蹴り上げてナイフを手放させ、軸足でくるりと体を回転させてそのまま頭部に横蹴りを入れた。
最後のこいつは自分より小さな子供を思いっきり殴った奴だ。思いっきり振りかぶって切ろうとしてきたので、がら空きの腹に勢いをつけた前蹴り入れてぶっ飛ばす。こいつにはもう一発入れておかないと気が済まないと倒れている男へ歩み寄った。
一連の動きを見ていたワカバは、ヴェルドゥラの格闘センスに驚いた。体格からある程度はケンカができるのだろうと思ってはいたが、予想以上だったのだ。
「なかなかやるじゃん。」
特にヴェルドゥラを止めるわけでもなく、ワカバは殴られた孤児の兄に近づき手当をしてやっていた。鼻血が出て弟も心配そうに見ているが、骨も折れておらず大したことは無さそうだった。
ヴェルドゥラが倒れて悶絶している男のシャツを強引に持って立ち上がらせていた時、騒ぎを聞きつけた警察官がワラワラとやってきた。ヴェルドゥラも潮時だと思い、持っていたシャツをおとなしく離して男を開放するが、この状況だけ見るとどう見てもヴェルドゥラが一方的な加害者に見えた。
警察官が来たことにより、最後までヴェルドゥラに掴まれていた以外のチンピラは慌てて逃げ去るが、残った1人とヴェルドゥラは警察に連行されることとなった。
「あちゃ~。」
ワカバは警察官にそれまでの経緯を説明するも、参考人として結局一緒に警察署までついて行くのだった。
所が変わって警察署内取調室。
「・・・とまあ目撃者や数人の参考人からも話を聞いたので事情は解った。やつらは数回街で問題を起こしている奴らでねぇ、警察としても手を焼いていたんだが、今回ので少しは懲りただろう。こんな時代なのでこれくらいのケンカで処罰どうこうという事もしないが、くれぐれもやり過ぎるなよ。あとは身元引受人が来てくれるから待合室で待ってなさい。」
言葉が通じる年季の入った刑事が、書類を机で叩いて揃え立ち上がり、取調室のドアを開け退出を促した。
「え?何もお咎め無しなんですか?ありがとうございます!」
待合室に着くと、椅子に座りワカバが待っていた。俺に気づくと缶コーヒーを投げ渡してきた。
「お疲れ~。」
「お、おう、ありがとう。」
受け取ったコーヒーを開けながら礼を言った。
「まあ、あんな状況だったし目撃者も多くて、あんたが悪くないのは解ってもらえて良かったわね。それにあの子たちも無事だったし。」
「おう。いやでも、その、悪かったな。熱くなって迷惑をかけて。」
『今日は』甘くないコーヒーを飲みながらワカバに向かって謝った。
「あたしだってあんたの返事に関わらず助けるつもりだったからいいのよ。それよりも今からが不安なのよね・・・。」
「何が?」
一気にコーヒーを飲み干して、不安の内容を質問するヴェルドゥラ。その時、警察官が待合室へは行ってきて。
「お前たち、身元引受人が迎えに来たぞ。」
その後ろからいつも通り、サングラスをかけたギルベルト大尉が入ってきた。オフの日もサングラスをかけているのか?いや、そんなことはどうでもいい、これはまずいと思っているヴェルドゥラだったが。
「街を案内してやれとは言ったが、警察署内まで案内しろとは言っていなかったが。・・・帰るぞ。」
ギルベルト大尉がそう言い、先に部屋を出て行ったので、俺とワカバはその後を追った。
警察署の外まで一切会話が無い。署を出た瞬間に激しく怒られるのだろうか?ギルベルトの後ろをついて歩く2人は、お互い顔を合わせてその心配をした。
3人が建物の外へ出た時、あの兄弟が走り寄ってきた。何かを色々言っているが、助けたことに対してのお礼と、俺が警察に連れていかれた事に対する謝罪をしてくれているらしい。その為にここまで来てくれていたようだ。ワカバから電話で事情を聞いていたギルベルト大尉も、子供たちの話を聞いて状況をしっかりと把握してくれたようで、特にその後怒られるようなことは無かった。
昼に傘を買った時に彼が言っていた通り、日が暮れた今は雨が降っていたが、その場に居た3人は、笑顔で手を振りながら去っていく兄弟を見て、心は晴れた気持ちになっていた。
アルスター基地に来て二日目。
俺は暇を持て余していた。日曜の今日は仕事(何をするかまだ解らないが)も無いし、街へ出かけるにも足が無いので面倒だ。というか騒ぎを起こしたばかりなので自粛しようと思っていた。しかし暇だ。ベッドの上で最大級に暇を感じていた時、ワカバに基地内の地図をもらっていたことを思い出した。
ドイツ語は解らないので、外来用に用意されていたヴェネツィア語の地図を持ってきてもらっていたのだ。
「何か暇つぶしが出来そうな所はないかな・・・と。てかここにしばらく住むんだったらドイツ語も勉強しないとな。」
一人でそんなことを言いながら地図を眺めていると、ジムがある事を発見した。
「お、ラッキー!トレーニングするか。てか軍隊だからあるのは当たり前か。」
他にする事も無いので、早速俺はジムへ向かう事にした。
広い基地なのでそれなりに距離はあるが、昨日から降っていた雨は朝までに止んでいて、天気が良いので移動は苦では無かった。むしろ見るもの全てが新鮮なので、キョロキョロしながら歩いていた。
程無くしてジムへ着くと、受付なども特に必要なく使用できるようで、早速入ることにした。中はかなり広いが、日曜日だからか利用者はほとんどいなかった。
「おお、めっちゃ空いてるラッキー。てかさすがはいいマシン置いてるなぁ。」
環境に満足しながらがっつりとトレーニングをしていると、部屋の奥にあるバーベルをもの凄い重量で上げている男がいた。ベンチプレスには自信があったが、俺でもあれは上げれないなと感心しつつ、トレーニングしながらそれを見ていた。
ベンチプレスをしていた男がトレーニングを終えたのか、入口のあるこちらの方向へ歩いてきた。「デカい」。189㎝ある俺から見てもデカく見えるので、200㎝はあるだろうか?身長だけでなく体格もまさにゴリラと言わんばかりの筋肉質だ。
「おう、見かけない顔だが新入りか?」
「こんにちは。」
何を言っているのかは解らないが、俺は知っているドイツ語の挨拶を返した。
「ん?そのなまりはヴェネツィアか。」
男は俺の発した言葉から、ヴェネツィア語で返してきた。
「見かけない顔だが新入りか?いい体をしているが何かやってるのか?」
「空手をやっていました。」
おそらく年上であろうし、ここでは誰もが先輩に当たるので、丁寧に返事をした。
「おお、空手ってあれだろ?日本の格闘術だろ?今度教えてくれよ。なかなか周りでやってる奴いなくてさ!結構な腕なんだろ?」
「俺の教え方でよければいいですよ。」
稽古をするにしてもかなり骨をおりそおうな相手だが、ハイスクールを卒業してから空手から離れていたので、自分にもいい稽古になりそうなので承諾した。
「やったぜ!ありがとうな!俺はロジャー・オルソンだ。俺も色々と格闘技やっているから、何かやりたいのがあれば教えてやるよ。大体はこのジムにいるからよろしく頼むぜ。」
その体格ならそうでしょうね。と思いながら、俺も格闘技を学べるのはうれしいのでちょうど良かった。
「俺はヴェルドゥラです。金曜にここへ来たばかりですが、よろしくお願いします。」
「おう!てかそんな堅くなくていいって。まあ俺は今日はこれであがりだから、また今度よろしくな!」
「っす。」
部活のノリで返すと、ロジャーはニヤリとしてジムから出て行った。一人残った俺も、一通りのトレーニングをし、シャワーを浴びて食事をとり、この日はゆっくりと休んだ。
翌朝。
初の勤務日に第31独立機動隊の事務所へ向かった。
「おはようございます!」
大声で挨拶をし入室すると、数名の挨拶が返ってきた。ギルベルト大尉とワカバと・・・初見の2人と、見たことのある人物が1人いた。
「お前、ここに来た奴だったのかよ!」
「知り合いですの?」
ロジャーがヴェネツィア語で俺に話しかけたのに釣られてか、ギルベルト大尉の前の席にいた女性が、ヴェネツィア語でロジャーに問いかけた。
ワカバとは違った雰囲気で、軍人らしくないキャリアウーマンのような、メガネをかけた綺麗系美人が、俺とロジャーを見ながら机に脚を組んで腰掛けながら問いかけてきた。
その隣の席に座っている物静かそうな細身の男もこちらを見ている。
「おう、俺の空手の師匠だ。まだ習ってねぇけどな。ワハハ!」
「何ですのそれ。」
呆れた顔でメガネ美人が肩をすくめた。美人がやると絵になるなと、見とれていると。
「彼はヴェルドゥラ中尉。ハーミット0(ゼロ)のパイロットだ。」
事情を知らない3人が驚くが、ギルベルト大尉が詳細を説明した。
「ロバートはどうしたんですか?」
ロジャーの横にいた細身の男も、何故かヴェネツィア語でギルベルト大尉に質問する。
「詳細は不明だが、ロバートはマイリンゲンでMIAだ。」
確かMIAは消息不明の意味合いだったハズだな・・・。入り口に立っているままの俺もそのまま話を聞く。
「マジかよ・・・。」
細身の男がそう言うと3人は沈黙した。
「その事についてはまた説明はするが、とにかく今日からこいつも俺たちの仲間だ、色々と教えてやってくれ。」
「彼女はリリアーヌだ。主に俺たちの後方での通信・情報管制の役割を担当している。」
「リリアーヌ・グランジュですの。リリアと呼んでくださって結構ですわよ。よろしくですの。」
そういいながら腰掛けていた机から降りて握手を求めてきた。俺は慌てて手を差し出して握手をする。
「ヴェルドゥラ・Y・ヴェラルディです。よろしくお願いします。」
それを確認し、ギルベルト大尉が細身の男の紹介をしてくれた。
「彼はヴィクター・イングラム。輸送や物資の手配など諸々を担当している。」
ヴィクターは軽く右手を挙げて挨拶してきたので、俺はそれにお辞儀で返した。
「あとはロジャーだが・・・、おまえ達知り合いだったのか?」
ギルベルト大尉がロジャーに確認すると、ロジャーが腕を組んでそれに答える。
「昨日ここのジムで初めて会ったんですけどね、早速意気投合して仲良くなったんすよ。なあヴェルドゥラ!」
仲良くなったのかどうかは置いといて、気さくに話してくれるのはありがたいので良かった。
「はい、格闘技の話で盛り上がって・・・。」
「また脳筋が増えるのか~。」
既に状況を理解しているワカバがおちょくるように呟く。俺が視線で軽く威嚇するが、軽く流しやがった。それを気にすることなくギルベルト大尉が話を続けた。
「昨日の夕刻、残りのハーミット3機がここに到着した。今日から我が第31独立機動兵装隊、カーダー・シュナイデンは正式に運用状態が整った。各自マニュアルに目を通し、訓練及び実戦に向けて準備するように。」
全員で返事をする中、ヴェルドゥラはあのような機体が他に3機もあることに驚いた。そして、これなら思っていたより早く家族の元へたどり着けるのではないかとも思うのであった。
--ところ変わってヴェネツィア共和国--
大災厄の後の世界とは思えぬほど、中世の美しい町並みを残す都市。その中のドゥカーレ宮殿内に設けられた豪華な一室で、年齢の様々な10人の男達が、その中央に巨大な投影機で映し出された映像を観ながら会議をしていた。
「見たところまだ実験機のようだな。しかし、スイスにあんな物があろうとは。」
「後から来た輸送機は欧州連合所属のものだった。永世中立国をうたってはいたが、裏では通じておったのだろう。」
「それにしてもこの機体性能は侮れんな。」
「いずれにせよ早急に星の欠片を集める方がいいな。」
10人の男達が代わる代わるそれぞれ発言をする。ここはヴェネツィア共和国の行政及び権力の中枢部、十人委員会であり、最終的に国の全ての施策はここで決定される。
「大災厄により不毛の大地となったロシア帝国跡地と、直轄地での星の欠片の回収は順調に進んでおる。小うるさいアイリス合衆国が大人しい内に、欧州連合内の欠片の回収を急ぐのじゃ。」
「「全ては共和国の未来のために。」」
全員での復唱で会議を閉めた数時間後、ヴェネツィア共和国は欧州連合に対し宣戦布告を行ったのだった。