第3話 黄昏の中
GOLEM-Mk2(サイクロプス)
全長:8m
全高:14.5m(頭頂高)
全幅:17m
ヴェネツィア共和国にて初の人型機動兵器として実戦投入された機体で、開発・製造は MABI(Minecraft・Air・Break・Industry)にて行われた。
様々な武装に換装できる汎用性を持ち、既存兵器に対して圧倒的優位性を発揮し、ヴェネツィア共和国の勢力拡大の脚掛けとして大活躍した。相当な数が製造され、様々な部隊に配備されている。
脚が極端に短く不格好ながらも、逆にそれに愛着があるとしてファンも多い。
マインクラフト詳細
バニラサーバーで実際に乗って動かせる人型機動兵器として、YASUDE氏が初めて製作した機体。単純機構ながらも4方向に動かすこともできるうえ、従来のTNTキャノンを凌駕する当サーバー独自のストラクチャーTNTキャノンを搭載している。
全ての機体の始祖とも言える機体。
詳細はHP参照
https://w.atwiki.jp/vn2015/pages/21.html
A.B.C-Soldato(エー.ビー.シー-ソルダート)
全長:8m
全高:21.5m(頭頂高)
全幅:15m
Rogu acca Industria, Ltd.(略称:RHI)RHI(Rogu Heavy Industries, Ltd.)(英語表記) によって生産性・整備性を考えて開発された初期の人型起動兵器で、企業規模を生かして大量生産された。
固定武装は無く全て換装式で、GOLEM-Mk2(サイクロプス)と同様、戦局に応じた装備を簡潔に整える事ができる。
後に開発されるSCMUS規格を意識した機体で、頭部を含む胴、腕、脚のそれぞれを個別パーツとして製造・整備できるよう開発されており、故障時や作戦に応じて柔軟に選択パーツ交換が可能である。
当機体をベースに後のRHIの機体が開発されており始祖的機体だが、性能面に対し大型すぎる機体等バランスはあまりよくは無い。主力としては完全にGOLEM-Mk2(サイクロプス)にその座を奪われており、増産の凍結が確定している。
武装面ではSCMUS規格に対応しており、以降の武装も基本的には搭載可能である。
マインクラフト詳細
YASUDE氏がGOLEM-Mk2(サイクロプス)を製作した同時期にROGUが作成した機体で、フロントミッションに出てきそうな兵器を意識して作っています。一応シケイダを意識して作ってみましたが、初期作品のためにダサイ上にかなり完成度が低いです。(汗)
武装を外すと更にダサくなります(笑)
下記HPにも詳細
https://w.atwiki.jp/vn2015/pages/49.html
欧州連合議長国ドイチェス・ライヒ(ドイツ国)は、古くからヴェネツィア共和国だけではなく、周辺国家と戦い続け、欧州中心部の大国となり、今では首都ベルリンに欧州連合の本部が置かれるなど、名実ともに北大西洋圏の盟主であった。大災厄後の今においても、周辺諸国とはレベルの違う存在感を持ち、反ヴェネツィア共和国の勢力を取り込むなどでその規模は増していた。しかし、だからといってヴェネツィア共和国とは表だっては敵対しているわけではなく、あくまで欧州連合の一員として展開中の地で、局地的な戦闘であいまみえる程度だった。それには歴史上で良好な関係性であったことや、大災厄後にドイチェス・ライヒ(ドイツ国)に対しては、併合の要求など諍い事になるようなことが無かったからである。
ドイチェス・ライヒ(ドイツ国)第2の都市ハンブルクにある、アルスター基地内のとある建物の中の、机が一つと二客だけ椅子が置かれた殺風景な部屋に、目を赤く腫らしたヴェルドゥラが一人で座っていた。
~遡ること二時間ほど前~
ハーミットの動力が停止し、輸送機で強制的にマイリンゲンから運ばれ出した時のことである。
ヴェルドゥラは戦闘が終了し、興奮が冷めたこともあり、輸送機から吊り下げられたハーミットの中で、状況を冷静に整理し始めていた。
機体が動かない現状では、この状況は何も変えられないこと、母が死んでしまったかもしれないこと、父と弟マウロの安否が不明であること、そしてそれらを確かめることが出来ないこと・・・。
コックピット内で俯くヴェルドゥラの膝を、本人の意思とは無関係に流れ出る涙が濡らした。
一時間半ほどたった頃だろうか、降下を始めたことが体感で解り、その後しばらくして着地した衝撃を感じた。程無くしてコックピットのハッチが外部から開けられ、小銃の銃口を向けた兵士が何やら話しかけているが、何を言っているのか解らない。たまに理解できる単語を聞く限り、ドイツ語のようだ。とりあえずどうすることもできない、今は何もする気が起きない俺は兵士の誘導におとなしく従うことにした。手錠をかけられ拘束されたが、無抵抗の俺の反応が意外だったのか、兵士たちは何やら話した後、気を緩めたわけでは無いが、それぞれが安心したような表情をしていた。
夕暮れ時の軍事基地内を少し歩かされ、事務所が入るような建物の取調室のような部屋に、俺は椅子へ拘束され一人取り残された。
金属でできたドアがガチャリと開き、俺より身長の少し高い親父くらいの年齢の制服を着たサングラスをかけた、服の上からでも無駄のない筋肉をつけたと解る男と、同じ制服とこの場自体が似合わない若く小柄な女と、小銃を手にした兵士2人が入ってきた。
軍服の男は俺の目の前に座るなり、何かを兵士たちに指示をした。兵士たちが何かを言ったが、それを制止し再度同じ指示をした。兵士の一人が机に繋がれていた俺の手錠を解いた。どうやら俺の拘束を外すよう指示をしていたようである。
「突然のことで状況がよく解らないだろうが、ここはドイチェス・ライヒのハンブルクにある、アルスター基地だ。俺はヴォルデマール・ギルベルトだ。」
流暢なヴェネツィア語で話しかけてきた軍服にサングラスの男はそう言うと、手にした資料に目を通し始めた。
ギルベルトはひどく疲れ切っているヴェルドゥラを再度見て、その反応を確かめたが、自分の知っている言葉を話してきたのは意外だという反応だが、それに応答などは無くおとなしくこちらを見ているだけだった。
『ふむ、どうしたものかな・・・。』
少し考えたあと、ギルベルトは本題から単刀直入に話してみることにした。
「ヴェルドゥラ君、初対面の人間からいきなりこんなことを言われると戸惑うかもしれないが、良い知らせと悪い知らせの二つがあるが、どちらから聞きたい?」
「何で俺の名前を?」
こんな場所で自分の名前を知られている事には、さすがに驚きヴェルドゥラは逆に質問を返す。
「あの機体と君をこちらへ輸送中に、情報をこちらで受け取り色々と調べさせてもらった。マイリンゲンはこちらの連絡員もいてね、開戦の折から色々と情報は入ってきていたんだ。時間が経つにつれ連絡員ともだんだん連絡がつかなくなっていったがね。君がヴェネツィア共和国のCS(人型機動兵器)と戦闘中に、家族を捜しに行くと言っていた声を連絡員が聞いていた。あの状況だから戦闘に巻き込まれてしまったのか?」
ギルベルトが横に立っていた小柄な女に、サングラス越しに目線で何か合図を出すと、その女は部屋から出て行った。
「家族は・・・。それと俺の名前を知っていることにどういう関係が?」
かなり久しぶりに声を発したので、若干かすれ気味にヴェルドゥラ質問した。
「マイリンゲンのあるスイスは、大災厄後も永世中立国を保ってはいたが、我が国とはあらゆる技術面で協力関係にあってね。君が乗っていた機体も共同開発したものなんだよ。そして先ほど出た機体に登録されたバイオメトリクスのデータを解析したら君の名前が登録されていたんだ。」
「登録?・・・・あっ。」
そういえば親父に託されたデバイスを、コックピット内で差し込んだ時に登録されたってアナウンスされていたな・・・。
「心当たりがあるようだな。」
ギルベルトがそう言い椅子にもたれかけた時、ノックをして先ほど退出した小柄な女が、グラスに入れた飲み物を二つ持ってきて、ギルベルトの前に一つ置き、残りを俺の前に置いてきた。近くで見ると俺より年下のように見えるが、この女は軍人なのだろうか?そう思いながら大きな目をした幼い顔を見ていると目が合ってしまった。俺は慌てて目をそらしたが、少し笑っていたように見えた女は、元にいたギルベルトの横へ戻っていった。
「紅茶はいけるか?まあそれでも飲んで少し気を楽にするといい。」
俺の返事を聞かずに俺にそれを勧め、ギルベルトは紅茶を口にした。この状況で毒などは入っていないだろうと思うのと、随分と飲み物を飲んでいなかったので、俺はそれを一気に飲み干す。
「もう一杯いるか?」
「お願いします。」
喉が渇いていた俺は、まだ欲しかったので遠慮なく正直に答えた。
「もう!念のため二つ持ってきますね!」
ドイツ語なので何て言ったかは解らないが、女が少しめんどくさそうにそう言いながら再び部屋を出て行った。
「俺の名前を知っていた理由はわかったんですが、さっきの質問の意味は一体?」
少し落ち着いた俺はギルベルトが最初に言っていた話を思い出した。
「うむ、先ほど話したようにマイリンゲンには連絡員もいたのだが、技術部の方にも何人か所属していたんだ。その内の一人がマイリンゲンから脱出する直前に、君の御父上であるロレンツォ博士を目撃したそうだ。」
「親父が!?マウロは!?母さんは!?」
思わず椅子から立ち上がると、壁側に控えていた兵士2人が小銃をこちらへ向けようとするが、ギルベルトがそれを手で制止して話を続けた。
「誰かと一緒だったという情報は無い。その連絡員もあの混乱の最中、必死に脱出したので残念ながらそれ以上の情報は無いんだ。」
親父も研究や仕事に熱を入れていたとはいえ、体力には自信のある男だった。マウロと母さんも助け出しているかもしれない。
父一人の安否がはっきりしただけだが、ヴェルドゥラには大きな希望が見えたような気がした。少し元気を取り戻したように見えるヴェルドゥラにギルベルトは言葉を続けた。
「ロレンツォ博士は我々にとっても非常に重要な人物であるし、本人とそのご家族の捜索は全力で行うように上部から指示が出ている。よって君も重要人物の一人なのだよ。ただ、君がロレンツォ博士のご子息であるということは、ほんの数分前に解った事だし、我々の秘密兵器に乗っていた部外の人間という事で、拘束をさせてもらったんだ。悪かったな。」
そうギルベルトが言い終えたタイミングで、お代わりの紅茶を持って女が再び入室してきた。俺の前にグラスを2個置いて、正対しているので他の3人には見えない状態で俺に軽くウインクして、ギルベルトの横に戻って行った。
『なんだ?さっきは軽く怒ってるみたいだったのに。』
そう考えながらもまた一気にグラスを飲み干したのだが・・・。
「甘っ!!」
砂糖を大量に入れてやがった!女の方を見ると、横を向いて素知らぬ顔をしてやがる。後で覚えてろよ!と闘志を燃やす俺を見て、やれやれという反応をしたギルベルトが。
「早速仲が良くなるのは構わないが、今は俺に話を続けさせてくれよ。」
窓から夕日が差し込み、ギルベルトの顔を照らす。その光を受けたサングラスの中央を、指で少し上げてかけ直し話を続けた。
「悪い方の知らせの方だが、君の奮闘も空しく、君があの地を離れて間もなく、マイリンゲンは同時に奇襲された他の2カ所と共に、ヴェネツィア共和国に占領された。地政学的に今のタイミングでマイリンゲンを奪還する事は非常に難しいだろう。」
区切るようにギルベルトは自分の分の紅茶を飲み干す。
「しかし、200年以上の永世中立国を保っていたスイス連邦は欧州連合に加盟した。これによって我々も奪還に協力する事ができる。現在は公にドイチェス・ライヒとヴェネツィア共和国は、2国間での戦闘行為は行われていないが、今は時代が時代だ。何があるかは解らない。明確な味方は多い方がいい。」
ギルベルトがそう言い終えた時、ノックの後に兵士の入室を求めているらしき声が聞こえた。
「入れ。」
ギルベルトの許可を得て入室した兵士は、ギルベルトへ敬礼し、それにギルベルトは答礼する。
「ヘンスラー司令よりギルベルト大尉へ、ハーミットのパイロットを連れて司令室まで来るように伝えよ、と命を受けました。」
「解った。」
ギルベルトと兵士は再び敬礼と答礼を行った。連絡に来た兵士は要件を終えるとすぐに退出した。ドイツ語でのやり取りを終えたギルベルトは、書類を持って立ち上がり俺に視線を向け。
「この基地の司令が今から君に会いたいそうだ。ついてきたまえ。」
建物内の廊下の窓から、日が沈みかけ、赤から紫色に変わりつつある空の下で、軍用機が数機着陸している姿が見える。あんな大災厄があったのにも関わらず、日の光が差し込む世界が維持されているのには、大災厄前から準備されていた環境改善装置の恩恵が非常に大きい。世界各国で造られ、空気中の不純物を正常に濾過する夢の装置である。大災厄後に現存するその装置を持つ国の優位性は高く、国家の指標の一つとも言える。あんなことの後でこの空と環境を維持できているだけでも素晴らしい事なのに、この世界では戦争は終わらない。
それらしい豪華な雰囲気の扉の前に着き、ギルベルトがその扉をノックした。
「第31独立機動兵装隊、ギルベルト大尉入ります!」
「入れ。」
ここまで一緒についてきた砂糖女と兵士2人は扉の前で待機している様で、ギルベルトは俺に軽く合図して2人で入室した。中に入ると正面奥の大きな机の前に、小太りで少し髪の薄い髭のある男が立っていた。年齢の問題もあるが、ギルベルトとは違いもう何年も鍛錬をしていないであろうたるんだ体、直感的に信用ならぬ姑息雰囲気を感じる男だった。
「ロレンツォ博士のご子息のヴェルドゥラ君をお連れしました。」
「うん、二人ともそこに座ってくれ。」
必要以上に広いように感じる部屋の中にあるソファーを指さし、ヘンスラー司令がヴェネツィア語でそう言って、俺たちが座るのを確認して自分も正面の一人掛けソファーへ腰かけた。
「はじめましてヴェルドゥラ君。ワシがこのアルスター基地司令のヘンスラーだ。よろしく頼むよ。」
ヘンスラーはそう軽く挨拶すると葉巻に火をつけた。俺はタバコが苦手だったので、煙を疎ましく思いつつも返事した。
「はじめまして、ヴェルドゥラです。この状況でどう言ったら適切かは解りませんが、とりあえずお礼を言っておきます。」
当たり障りない返事をしようと思ったが、少し感情を表に出してしまったような返事をした。
「はっはっはっ!なかなか正直なようじゃな!事情は聞いとるが、我々が家族から遠ざけたようなものでもあるし、または助けたようなものでもある。君の今の気持は複雑じゃろうからな。」
葉巻を置いたヘンスラーは続ける。
「ギルベルトから聞いとるかもしれんが、我々はマイリンゲンの奪還を行う予定だし、君の家族の捜索と保護には全力を尽くすつもりだ。ロレンツォ博士は欧州連合側の重要なブレインの一人だからね。」
気を使っているつもりなのか、逆に気を使っていないか解らないような物言いをしてくる狸親父だ。ヴェルドゥラは少しイラつきながらも平静を装う。そんなヴェルドゥラをよそに葉巻を再び手にしたヘンスラーはまた喋り出す。
「とにかくこの地で身寄りもないじゃろうし、あの機体は君以外に動かせなくなったみたいじゃから、とりあえず君はここの所属となってもらうといいよ。」
「俺以外に動かせない?」
「ああ、ハーミットはバイオメトリクスを登録した者しか戦闘モードで起動できないようになっておる。どうやって君が登録できたのかは知らんが、まあ、博士の息子だから何か手段があったんじゃろう。」
思い当たる節があったが、ヴェルドゥラは黙っていた。
「所属してもらう上で階級が無いのも不便なので、ワシの権限でパイロットである中尉の階級を与える。正式な手続きは後でこちらでやっておく。君は今後ギルベルトの下につくことになるからよろしく頼むよ。」
「は、はあ・・・。」
ええ!?そんな勝手に!!っと言いそうになったが、こんな言葉も通じない人が少なそうな土地に放置されて生きていけそうもないので、俺はあっけにとられながらもだらしない反応で答えた。
「今日はいいが、次からはしっかりと返事せいよ。」
咥えていた葉巻を一気に吸い切り、ヘンスラーが少し不機嫌そうにそう言い、ギルベルトに後を任す旨を伝えた。
退出する俺とギルベルト。
「ドイチェス・ライヒの軍隊の入隊ってこんな感じなんですか?」
俺は特例と解りつつもギルベルトに質問した。
「いや、そんな訳ないだろう。しっかりと学力・体力試験がある・・・。」
真面目そうなギルベルトは返答に困っている様だったが、俺はそんな様子を見ながら、家族を捜しに行く最速の手段かもしれないと決意を決めた。
「ギルベルト大尉!これからよろしくお願いします!」
司令室の前で俺は敬礼をしながらそう言うと、先ほどまで顎に手を当て、悩むようなしぐさをしていたギルベルトは、サングラスをかけた渋い顔をニヤリとさせ。
「うむ。俺の指導は厳しいぞ、ヴェルドゥラ中尉!」
お互い体育会系の雰囲気を感じ、妙な意気投合をして敬礼と答礼をするのだった。
「ええぇぇぇっーーーー!」
それを見ていた砂糖女が大声で叫んだので、周りを歩いていた兵士やお偉いさんと思しき者からの、ジロリとした視線が俺たちに刺さる。ギルベルト大尉は冷静に、さっさと行くようにとジャスチャーし、俺たちはその場を後にした。
第31独立機動兵装隊の事務室らしき部屋に着き、ドアを閉めた瞬間に砂糖女がまた大きな声を出した。
「何であんたがいきなり中尉から始まんのよ!エリートのあたしでも少尉からなのに!」
「知るかそんなこと!てかお前ヴェネツィア語喋れんのかよ!さっきは良くも甘いのが苦手な俺に、大量の砂糖入り紅茶を飲ませやがったな!」
そんな二人のやり取りを我関せずと、自分の席に座わり、書類を机の上に置いたギルベルトが口を開いた。
「俺も些か規律上どうかとは思うが、ヘンスラー司令直々の処遇だ。まあハーミットのパイロットだからこんな事態だし必要な処置だ。お前も理解しろワカバ。」
「あたしだってパイロットになったら昇進できると思ってたのに!」
「まだ機体が無いから仕方ないだろうが。あとしばらく待て。」
こうやって見ているとこの砂糖女は本当に見た目通り子供みたいだな。そう思いながらギルベルトとワカバのやり取りを見ていると、また矛先が俺に向いてきた。
「階級は上でもあんたは後輩なんだから、あたしのいう事は聞かないとダメなんだからね!」
「へーい、解りました少尉殿~。」
「うきぃー!」
「二人とも、俺は規律には厳しいから場は弁えろよ。」
クイとサングラスをかけ直し、目は見えないが鋭い視線でギルベルトがクギを刺した。
「「はい!!」」
ヴェルドゥラとワカバは同時に条件反射的に返事をした。
「営内官舎の1室の使用許可が出ているから、ワカバお前が案内してやれ。何かと必要な物もあるだろうし、売店の場所も教えてやれよ。」
机のパソコンを操作しながら指示を出すギルベルトに、俺を見ながらワカバがぼやく。
「男子官舎だし自分で・・・」
そう言おうとしたワカバは、パソコン操作を止めて自分を無言で見ているギルベルトに気が付いて慌てて、ヴェルドゥラを呼んで部屋を出ようとした。
「待て。」
それをギルベルトが呼び止める。そのまま立ち上がり2人の方へ歩み寄ってくる。ワカバがアワワと警戒し、ヴェルドゥラはゴクリとその様子をうかがっていると。
「ヴェルドゥラ、お前は無一文でここへ来ただろうから、生活に困らない分の金を渡しておく。返すのはいつでもいいからな。」
そう言うとギルベルトは席に戻って行った。これ以上ここにいるといつか地雷を踏みそうだと感じた2人は、指示された通り売店と営内官舎に向かう事にした。
売店で洗面用具や着替えなどを買い、官舎へ向かう途中で、自主訓練なのか数人の若い男が運動着を着て、まとまって走っていく。
「ギルベルト大尉って厳しい人なのか?」
「まあ、真面目で規律には厳しいわね・・・って何であんた後輩のクセに敬語じゃないのよ!」
俺と30㎝ほど身長差のあるワカバは、目線からだいぶ下で騒いでいるのを見ると、本当に子どものように見えた。
「じゃあお前だって階級上の俺に敬語じゃねぇし、軍隊って縦社会なんだろ?てかそんな感じだしお互い敬語じゃなくていいだろ?俺も楽だし。」
「うむむ・・・。まあ仕方ないわね、あんたとは長い付き合いになるかもしれないし。でも妥協案を飲んだだけだからね!」
「へいへい、まっ、俺の事は気軽にヴェルドゥラって呼んでくれ!」
「あたしも今更あんたに少尉ってつけられたら、逆にむずがゆいからワカバでいいわ。」
何だかんだで打ち解けたタイミングで二人は尉官用官舎の前に着いた。
「んじゃ、ここは男性用だからあたしの案内はここまでね。後々個人の電話は支給されるけど、何かあったら部屋に備え付けの電話で、事務室や基地内の各所へ連絡がとれるから。部屋に着いたらちゃんと色々目を通しておくのよ。」
「おう、ありがとな!」
軽く手を上げ挨拶し、ワカバと別れた俺は教えられていた部屋に向かった。408号室と・・・ここだな。部屋に入ると結構広めの一人部屋だった。冷蔵庫とシャワーまでついていてなかなかに快適だ。一通り部屋の中を見回した後、ワカバに言われたことを思い出し、基地内の連絡先表に目をやった。
「ドイツ語で書いてあるから、どこがどこなのか解らねぇ・・・。」
まあいきなり緊急を要する事は無いだろうし、今度教えてもらえば良いと思い、俺はシャワーを浴びることにした。さっぱりとした俺は、ベッドに下着一枚で横になっていたら、疲労がたまっていたのか、いつの間にか寝てしまっていた。
『パッパラッパラ~♪、パッパラッパラ~♪』
ラッパのような音で意識が戻ってきた。何の音か確認しようと体を起こすと、音の方向に目を向けると、部屋の入り口でラッパの音が鳴っている携帯電話を持って立っているギルベルトと、その横にワカバがいた。状況が呑み込めない俺が無言で2人を見ていると。
「出かけるぞ。」
携帯電話のラッパの音を消して、私服の上着のポケットにしまいながらギルベルトが急ぐように促す。
「ちょっと、あんた何でパンイチなのよ!」
「ここは俺の部屋だろうが!てか何でお前がいんだよ!ってギルベルト大尉、出かけるってどこにですか?」
いそいそとさっき基地内の売店で買ったズボンとTシャツを着ながら確認すると。
「決まっているだろう。歓迎会だよ。普通やるよな歓迎会。」
もう日が落ちて外は真っ暗なのに、サングラスの真ん中をクイと上げながらそう答える。
「大尉、そこも真面目なのよね・・・。」
新人は歓迎会で歓迎しないといけない。というのがギルベルト大尉のスタンスらしい。基地を出てすぐ近くのクナイプ(居酒屋)で歓迎会は始まった。しかし、第31独立機動兵装隊の残り二人は今、他の基地にいるらしく、歓迎会って言っても3人だけのプチ飲み会だった。
酒も進んでプライベートな話題にもなっていき、ギルベルト大尉は38歳で、剣術や柔術をしていたこと、15歳と8歳の娘2人がいるが、奥さんは大災厄で亡くなって、男手一つで娘たちを育てていること。
ワカバの両親は健在だが祖国は遠く、実家へもなかなか帰れないが、努力して今の部隊へ入隊し、家族へと仕送りをしていることなどを知った。
俺は家族の話をしていたら、今日の事を思い出し、不覚にも2人の前で泣いてしまった。というか俺は体がデカいくせにめちゃめちゃ酒に弱いのだ。2人からなぐさめられていたようなことまでは覚えているが、延々と酒をあおる2人の姿がぼやけ、意識が遠のいていった。
後で読み直すと毎回ミスだらけですね・・・。