お嬢様の中の人は…… if 歴女でした。
死因は残業。間違いない。
ロマンス小説の男は好みじゃありません。
私の趣味で言えば、上様で、金さん。でなければ、某モナミが口癖の探偵。ベイカー街の探偵はちょっと遠慮します。
そんな回想が12才の脳で処理不能を起こしてぶっ倒れました。
事情がわからない人から見れば、婚約者と会って一言会話しただけで卒倒となります。
両親が焦って医者を呼んだり、顔あわせを再び設定したらしい、ということをあとで聞いた。
前世、私は新米編集者だった。歴史小説などの部門を希望したのに若い女だというだけで、ロマンス小説好きでしょと送り込まれました。
ええ、本当にご配慮感謝します。ほっとくと盛り上がりすぎる作家たちの頭を押さえる役目なので好きじゃない方が良いとそう言うことだったんですね。
さすがに悪かったと思ったのか歴史小説の献本が貢がれるようになりました。サイン付きで。
それでがんばり過ぎたんですかね。
原稿受け取って会社に戻ったあとの記憶がさっぱり思い出せず、今の私です。
しかし、婚約者は許せないタイプの男でした。
これは乙女心を傷つけておきながら、傷ついたのは自分って顔するヤツです。
好きでもてているわけでもないし、女なんて顔と金しか見てないんだから寄るんじゃねぇとか言うんです。
それで、自分に興味を持たない女が珍しくて、面白いとか言い出す自信過剰タイプはお断りなんです。
「ありえぬ。なぁにが、良い縁談だ」
あ、なぜか、武士キャラになってましてね。口調がアレなんです。癖になってて治らないんですよ。
女の子らしい口調ってどこに消えたんでしょうね?
あったはず。
さっきまで12才の女の子だった。
……無邪気なあの子はお亡くなりになりました。
心情的にそんな気持ちです。思い出せないわけでもないんですけど、わざとらしくなりそうです。
部屋の中を見渡せば、かわいい感じのメイドさんがいました。
……あれ?
こ、これは、先日、即日増刷が決まったロマンス小説なのでは? 挿絵の女装メイドにそっくりですもの。
言われてみれば、小さいときのヒーローに似てたわ。あの婚約者。
なぜに女装メイドと先生に問えば次のヒーローと意味不明な解答をいただきましたっけ。
年は1個上。
次のヒーローだけあって有能で人気がありました。むしろ、なぜくっつかないと言われるくらい。
まあ、とりあえず、オハナシしましょ?
なんやかやと協力を取り付けて生活して3年経過しました。
光陰矢のごとし。
お嬢様のマナーや常識を叩き込まれ、通常の勉強に加え、各国の言葉や株取引などを覚えました。
……前世1個分の記憶があってようやく何とかなったのですが、前世もない女装メイド氏はちゃんとついてきてました。
尚、彼はリンというのだそうです。
ちなみに本名。
そして、中等部を卒業し、寄宿舎付きの高等部へと進学が決まってしまいました。
未だにボロが出そうな私はリンに泣きつき、同室にしていただきました。
若い男女が同室ってことに問題があるかも知れませんが、両親はなにも言いませんでした。女装知ってるよね? いいの?
気がついていない風を装っているので、聞くわけにもいかず。
当のリンは妹対応をしてくるわけで。
兄というか姉がいるような気分でちょっと楽しかったのです。
そんな生活に水を差してくるのが、婚約者。いえ、同敷地内に大学もあるので、いるなら会うでしょうね。
わかります。
そちらも親から言われているんですよね。
が、あまり会いたくないんですよ。ちょいちょいお触りがありましてね。婚約者というか付き合っている男女なら良いんでしょうけど。
残念ながら、好意ないんでイヤなんですよ。婚約者なのでいつかこれと結婚するんでしょうけど。
……他の人探しましょうかね。
まず、人の顔見る前に胸を見ない男性。
身長はそこそこ伸びたんですが、別のところが発達が著しく。
世に巨乳といわれる部類です。
装甲が厚すぎます。重いし、走ると痛いし、肩凝るし、下着かわいくないし。
ほどほどがよろしいかと思います。
女子校でも同敷地に男子校があるので、男、いるんです。
見られるのも話題に出されるのもちょっと……。エロいとかいうな。谷間に何か入りそうって何妄想してるんだ!
……まあ、この年頃のエロい妄想って仕方ないですよね-。
前世1個分の余裕を持って同年代の子は菩薩の気持ちでいればよいのです。
もちろん触ってきたら誅殺します。
あと大人、おまえ等はダメだ。見んなっ! エロじじいたちめ。
リンが全くその方向での話をしないのが逆に不穏です。
注意深く、見ないようにしてるんですよね。変に見なさすぎて気がついたんですけど。
わざと触ったりすると困ったように笑うことを知って、どきりとした。
卒業まで同室でいれるかな。
困ったなぁ。と思って他の女の子の友達を作ろうと思ったらハブられてました。
気がつくの遅っ!
ここでも悪さをしていたのか婚約者よ。
とりあえず、演説を一つして、別に喜んでないから、欲しいなら貰ってよアピールをしたら、逆に女の子にもてた。
お姉様って。
想定していたのとは違うけど、これはこれで楽しい。
勉強会や部活などで楽しく学生生活を送れたのは彼女たちのおかげで。
リンとはちょっと離れたけれど、たぶん、これでよいのだと思う。
5年後。
そんな事もあったなぁと回想する。
……やっぱりね、あの婚約者ムリでした。押し倒されて、撃退しちゃった。護身術から色々やってみた結果が良かったのか、悪かったのか。
物理的に強くなりすぎたみたい。
婚約を解消なんてするかって捨て台詞を貰ったけど、ここまできたら覚悟を決めるしかない。
逃げよう。
さしあたっては両親を説得した。ひっそり計画を練った。色々無茶もしたけど、後悔はしていない。
「一緒に来て」
え、ええっと騒いでるリンの手をつかんで、バージンロードを大逃亡デスヨ。
その結果、往来で告白をするハメになるのはその後のことだった。