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水鏡に照らされた嘘  作者: 鶯埜 餡
凍雲の章
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理想との乖離

 かなり急な祖母の死で、休みを二日しか取っていない優華は乗り換えの時間を含めると、もう実家を出なければならない時間で、慌てて私服に着替えて、少しの荷物をまとめた。百合にお願いして駅まで送ってもらい、発車間際だった電車に慌てて乗り込んだ。


 一番長時間乗る電車に乗り換え、落ち着いた後、先ほどの封書を鞄から取り出した。その封筒には差出人の名前は書かれておらず、中には綺麗にボールペンで書かれた便箋が数枚入っていた。だが、その文字には見覚えがあった。


『前略

 楓先生のこと改めてお悔やみ申し上げます。まだお元気そうだったのに、突然のことでとても残念です。さぞかし百合さんや優華さんも悔しい思いだったことでしょう。


 本題に入りますが、まず、昨日は葬儀場であんな発言をして申し訳なかったです。あの時と優華さんの姿が、いや、雰囲気がとても変わっていて、俺は驚きました。これを書きながら、あいつらが今の優華さんのことを見たらどんなことを言うのか少し想像してしまいました。でも、今の姿もあいつらに見せるのはダメかな。

 まあ、そんな話は置いておいて、優華さん、俺は謝らなければならないことがあります。

 今だからはっきり言えることなんだけれど、優華さんのことは小学校の時、頭が良すぎて大嫌いだった。楓先生の学習塾でも小学生のくせして同年代の俺たちに教えるのを手伝っていた、という事実が受け入れられなかったただの嫉妬で、それは自分自身がもう少し勉強して、良い成績を取れば優華さんのことを理解できたんだと思う。でも、その当時は違った。中学校に通い始めてもそうだった。いくらあいつらの矛先をかわすためとはいえ、手を抜いて平均点を取っていたのがやっぱり気に食わなかった。

 だから中学校でのいじめの時、優華さんから相談を受けた時にも、俺があの栞を壊す数日前に楓先生に相談を受けていた後も、見て見ぬふりをしてしまった。そして、大切に使っていてくれた栞も壊してしまった。あの時ほど後悔することはない。

今ならそう言えます。



 優華さんが転校した直後、県の教育委員会に勤めていた母親、市の教育委員会に勤めていた父親の両方にこっぴどく叱られた。優華さんや楓先生から相談受けていたんだろうってね。優華さんが自殺未遂を起こしたから、楓先生もショックで寝込んでいるのを知っていた。俺は図星だったからいてもたってもいられなくなったけれど、もう県外へ転校したときにお前との縁は切れたんだ、と突き付けられたし、優華さんに自分のせいだと罵られるのが怖くて、会いに行こうにも行けなかった。

そして、いまだからこそ言える。あの時、助けてあげられなくてごめんって。

 別に俺を許してもらわなくても結構です。それだけ俺が優華さんにしたことはひどかったと自覚があるので、嫌われても当然です。


今後は優華さんらしい人生を生きて、俺に何かあっても気にしないで生きてください。

佐々木康太 草々』



 優華は康太からの手紙を読んで笑ってしまった。

いつだって学習塾でもどこでも康太は地味女子である優華に構ってくれていたから、自分のことを嫌いじゃない、と勝手に思い込んでいただけだったのか。

 寂しかったが、その手紙は康太の行動を裏付けるものだった。

「そっか、そうなんだ」

 そう呟き、手紙をしまった。


 電車の外は既に暗くなっており、窓から見える月は昨日よりも大きくなっているはずなのに、優華には見つけることができなかった。


「手紙はじっくり読めた?」

 家に着き、無事についたことを母親に連絡するために電話をかけると、あちらも落ち着いたみたいで、別れ際よりも声が柔らかくなっていた。

「うん。康太からだった」

 あまりその名前さえも口にしたくなかったが、康太の名前を出すと、百合はあら、と驚いていた。

「そっかぁ、康太君ねぇ」

 百合が電話の向こうでしみじみ呟いた。何か苦しい思い出、もしくはつらい記憶があるのだろうか、その百合の口調に優華は少し戸惑った。

「どうしたの?」

 優華は尋ねると、百合は独り言のように言った。


「優華が愛華お義姉さん家に行った後、今度は康太君が同じ相手からいじめにあったの」

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