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水鏡に照らされた嘘  作者: 鶯埜 餡
凍雲の章
7/25

差出人のない手紙

(もう十四年か)

 ひたすら楽しくない記憶を呼び起こした優華が、時計を見るとすでに朝の七時を回っていた。

 この十四年間、あの日のことを一日たりとも忘れたことはなかった。

 そう、あの自殺未遂を起こした日。


 それは康太が小学校三年生の優華の誕生日にくれた金属製の栞を、彼自身の手で壊された。


 昼休み、いつものように人の視線から逃れるために本だけを持って逃げた先の校舎裏。そこには康太が待っていた。

 助けてくれないと分かっていたはずの彼に、それでも助けを求めようとしたが、それよりも先に彼は優華の持っている本を奪い、それを破いた。突然の彼の行動に唖然とした優華を傍目に、康太は優華の本から落ちた栞に気付き、自分が拾うよりも早く拾い上げ検分した後、それを踏みつけ、栞として使えなくなるようにした。一連の行為の間には何も会話はなく、彼は栞を踏みつけた後、素早く立ち去った。残された優華はその場に座り込んでしまった。

 もう何もできない。もう何もしたくない。もう生きたくもない。

 そう思ってしまった。その日、康太に栞を踏みつけられたショックで、早退した。そして、自宅にあった鎮痒剤を手にしてしまった。



 そこまで考えて、優華は昨日会ったあの男の顔を思い出してしまった。

 前と変わらない髪型に変わらない声音。


 それを振り払うかのようにため息をつき、着替えた。

 母と朝食を取り、告別式に間に合うように家を出た。今日も多くの弔問客が訪れてくれ、祖母との別れを惜しんでくれたが、無意識に探した康太の姿は見当たらなかった。

(やっぱり)

 彼にとってはそれくらいの存在なのだろう。いくら小さい時から知っている祖母であっても、所詮は他人。昨日来たんだから来てくれるのではないかと勝手に思ってしまう自分はやはり頭がお花畑なのだろうかと、自分でも思ってしまった。

 納骨まで終わり、母方の叔母たち一家と昨晩は仕事で来られなかった父方の叔父一家と合同で食事に行った後、帰宅するために一度実家へ戻った。自分をこの上なく可愛がってくれる叔母がとても不機嫌そうだったが、何があったのかまでは聞けなかった。

 さすがに二回目の『帰宅』では、足が震えて入れなくなることはなかった。もちろん、少しも怖くなかったかと言えば嘘にはなるが。

「お母さん、お疲れ様」

「そういう優華こそお疲れ様、って言っても、もう電車の時間ね」

 母娘で互いに労いながら、家への中へ入っていこうとした。百合は郵便ポストの中をのぞいて驚き、優華を呼び止めた。

「優華あてに何か手紙が来ているわよ」

 その言葉に彼女も百合以上に驚いた。すでに住民票はあちらに移してあるので、彼女宛の郵便がこちらに届くはずないのだ。

 母親から借りたカギを使って家の鍵を開けているところだった優華は、驚いてその鍵を落としてしまった。慌ててその鍵を拾い百合の元へ行くと、白い封筒を差し出された。

 そこには差出人の名前も住所もない、ただ『仁科優華さんへ』とだけ書かれていた。そんな不審な手紙を、子どもではない優華はすぐに捨ててしまうこともできたが、手書きで書かれたその文字に捨ててはいけない、という引き留める力を感じたので、仕方なく電車の中で読むことにした。

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