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水鏡に照らされた嘘  作者: 鶯埜 餡
凍雲の章
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過去《上》

 優華の祖母である楓は戦中・戦後間もないころの女性とは思えないくらいの学があり、その学を活かすために地域の子どもたちを集めた勉強と遊びの学び舎、『寺子屋』をこの家の離れで開いた。母親が大学で教鞭をとっている間、優華もそこにいて、楓に様々なことを教わった。楓の血筋か、優華は物事を覚えるのが好きで、五歳の時にはすでに楓の助手としてほかの子供たちの面倒を見ていた。


 そんな少しだけ毛並みが違った優華だったが、祖母の紹介で入って来た佐々木康太と出会うことによって、徐々に日常が違うものへと変化していった。最初彼と出会った時、彼の母親も一緒にいたが、彼の纏う雰囲気が彼女には苦手意識を持つものだった。彼の母親からも彼と仲良くしてほしい、と言われたが、果たして彼と仲良くなれるのか心配だった。


 予感は的中し、しばらくの間、みんなを巻き込みながら、はしゃいでいた彼に、人見知りでどちらかといえば一人きりの時間が好きだった優華は彼に対して苦手意識を持っていた。しかし、その年の冬のある日、彼の母親が迎えに来るまでの一時間程度、二人きりで楓の作ったお菓子を食べながら話したことがきっかけで、彼に心を開くようになった。彼も優華に興味を持ってくれたようで、母親の帰りが遅くなる時にはたびたび康太の家に招かれ、ご馳走を頂いていた時もあった。

 そんな彼とは小学校に入学後、『寺子屋』以外では一切話さなくなった。

 というのも、彼は子供の時から周りを虜にさせるのがうまく、周囲の子どもたちをまとめる役割を引き受けることが多かった。二人が通う松前小学校でも、集団登校の班長や児童会長などを教員から任され、難なく務めあげていた。

 そのため、ひっきりなしに人が集まる彼の側に優華は近づくことができず、ただひたすら蚊帳の外で彼を眺めていた。彼の家からは相変わらず何度か招待があったものの、ほかの同級生たちの目がある以上、招待に応じることができなくなり、彼の母親に直接謝罪しながら断った。その時、彼の母親は優華の謝罪に笑って許してくれ、その代わりなのか、息子が『寺子屋』に通うときに二人分の夕食を持たせ、それを二人で食べることもあった。



 一方の優華自身は自他ともに認める地味女子であり、今の髪型と同じサイドポニーテールをその頃からずっと貫いていた。学級の女の子たちが流行りの髪型・服や雑貨、ひいては推しのアイドルの話に興じる中、優華はひたすら字を追っていた。もちろん、友達と呼べる存在もいたのだが、どちらかといえば一人でいる時間の方が好きな彼女は、ほとんどの時間を勉強や読書に充てて、積極的に誰かとの交流を持とうとしていなかった。


 それゆえか、成績の良い彼女を周囲は妬みの対象にしたものの、当時は比較的それが表に噴き出ることはなかった。そんな妬みの対象にされた優華は自身に向けられる感情や視線、それも好意的なものではないものだけを感じ取る力がつき、それから逃れるための方法を模索していたが、結局は一人でいるのが一番という結論に達してしまった。

 やがて、小学校高学年になり、そろそろ次の段階の準備を、ということで、康太は小学校から少し離れたところにある英会話教室に通い出した。彼はその頃にはもうすでに、小学校の囲碁・将棋部に入部しており、『寺子屋』に通う日数が少なくなっていた。彼と会える時間が減って残念に思っていた優華は、彼がほかの習い事を始めたことでほかの人にはわからない程度だったが、余計に落ち込んでいだ。

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