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水鏡に照らされた嘘  作者: 鶯埜 餡
『大雨のち、満天の星空』
23/25

突然の竜巻にご注意ください

(俺はどうしたいんだろうか)

 終電を逃した康太は空港内のホテルに入り、何もせずにただじっとベッドの上に座って考えた。

(もちろん、彼女に謝りたいし、もう一度振り向いてもらいたい。だが、彼女に謝ったところでどうなる。二度目の裏切りだ。本当に彼女に近づかない方がいいのではないのか)


 考えがまとまらないまま、朝を迎えた。

 体が重くて、朝食もとる気になれずに、ホテルを出た。最寄りの駅に行き、怖くて開くことのできなかったスマホを見ると、意外にも何も連絡が来ておらず、そのことがまた彼を不安にさせた。


 来た電車に乗り、無意識に向かった先はなぜか彼女の実家だった。もちろん、彼女が住んでいる街に行くこともできたし、彼女が勤めている銀行だって知っているが、そちらまでは行くことができなかった。

(空振りか)

 こうなるとは分かっていたが、少し落ち込んだ。

 仕方なく研究室近くのアパートに戻り、シャワーを浴びた。だが、気分は晴れず、その日はこれ以上、出かける気になれなかった。

 しばらく寝ていたようで、気づけば夕暮れ時になっていた。

 再びスマホを開くと、一件、教授からのメッセージが入っており、それを開くと『昨日はお疲れさまです。ゆっくり休めたでしょうか。明日、千影キャンパスの八月朔日(ほづみ)教授のところへ行ってきてください。私は夕方までにはこちらに戻る予定です』という内容だった。

 優木教授と八月朔日教授は同期だか何だかで、何かと親しい。その八月朔日研究室には、以前から実験に使う器具を借りたり貸したりしていたので、今回もその類いの話だろうと踏んだ。

 教授に了解しました、と返信し、それ以上何もせず、再び夢の中へと旅立った。


 翌朝、起きた時もまだ、気分は晴れなかった。出かける支度をしているときに、鏡をのぞいてみると、ひどくやつれた自分がいた。こんな状態で人には会いたくないが、仕方ない、と気持ちを切り替え、八月朔日教授がいる研究室に向かった。

 千影キャンパスは普段、康太たちがいる逸花キャンパスに比べて綺麗であり、使い勝手もよい。この研究室に移り住みたいと考えているうちに、様々な研究室が入っている白い建物にたどり着いた。

 そこに足を踏み入れたが、廊下には誰もおらず、ただ様々な薬品の匂いが漂っていた。

 八月朔日教授の研究室は三階で、階段で登っていった。真っ白な内装であるここは、誰もいなければこの世の中にたった一人しか存在していないのではないか、と錯覚してしまう。

 やがて、目的の研究室にたどり着き、中で実験をしていた後輩たちに挨拶しながら奥に進んでいった。

 教授室は一番奥にあり、その扉は珍しく閉まっていたので、ノックした。

 入っていいよ、という声が聞こえてきたので、扉を開け、中に入った。

 優木教授も八月朔日教授も同い年だが、八月朔日教授の方は好々爺のような風貌だった。

「まあまあ、座って」

 教授の部屋はかなりきれいで、客としてくると、ただの学生であってもアポさえとっていれば、お茶をふるまってくれるので、『千利休』などと呼ばれてもいて、今日も康太のためにお茶とお茶請けとして半生菓子を出してくれた。

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