表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水鏡に照らされた嘘  作者: 鶯埜 餡
冬霞の章
18/25

幸せを願う

 だが、ある日、目の前で優華にもらったキーホルダーをあの女に壊された。

 その時、康太の心の中で今まで張りつめていた糸が切れた音が聞こえた。

(優華、あの時はそう感じていたのか)

 覆水盆に返らずとはよく言ったものだ。

 あの時は分からなかった、分かっていたのにもかかわらず目を背けていた彼女の感情が、手に取るように分かった。

 それからどういう風に行動したのか覚えていない。

 気づいた時には病院のベッドに寝ていた。仕事を抜け出してきたのだろうか、それとも休んだのだろうか。両親がともに側にいて、康太の手を握っていた。よく見ると自分の左手には分厚い包帯が巻かれていた。

『康太は何も悪くない』

 自分が目覚めた時にそう二人から言われた。

 その時、あの学校で何が起こったのか、全てを知ってしまったのだろうと康太には理解できた。そして、自分があの時、どう行動したのか、ということも。

 しばらく入院しているうちに、梓さんもやってきた。彼女も康太のことを聞いたらしく、あの時は激高して悪かったと謝った。

『一つだけお願いできませんでしょうか』

 彼女からの謝罪は必要なかった康太だが、一つ頼みごとをした。

『それなら、私よりもお母さんの方が適任だわね』

 梓さんは康太の頼みごとに微笑んでそう返答した。


 二週間後、退院してすぐに転校した。

 すでに両親が手続きを取っていてくれたようだった。

 全寮制のその学校は自然に囲まれた環境で、今までの思い出も中和してくれるようだった。

 しばらくして、あの事件が完全に終息したと聞いた。十人ほどの逮捕と何十人の解雇・懲戒処分。二人が甚大な精神的、肉体的な被害を受けたことへの代償も大きかった。だが、康太はその頃には不思議と冷静にそれを受け入れていた。

 その後、時々地元へ戻り、『寺子屋』に通っていた。楓先生と話す時間は穏やかで気持ち良かった。


 この頃になっても、ずっと優華の事ばかり考えていた。


 今、どこで何をしているのだろうか。

 今、どんな奴と付き合っているのだろうか。

 いま――――――



 やがて、時が流れ、高校三年生になった。

 大学入試も終わり、第一志望の大学の合格通知が届いた。迷わずその大学に行くことを決めた。

『優華ちゃんも第一志望の大学に受かったみたいよ』

 その日、楓先生からその電話を受けた康太はホッとした。

 大学名を聞いた康太は、これで自分たちはもう二度と会うことはないだろう、と思った。

(自分の道を進んでくれ)

 その時はそう願わずにはいられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
fc2ブログ『餡』(番外編などを載せています)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ