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異世界の常識、非常識 6

 18日、一挙に6話連続投稿するので読み飛ばしにご注意ください。

 

 ほどなく、アリスとティーネが母親のお見舞いをすませて戻ってきた。

 アリスが俺達の元に駈け寄ってくる。おそらく母親の容態が思わしくなかったのだろう。その表情は、どこか思い詰めているように見えた。

 だけど――

「あのね、私、ティーネちゃんを助けてあげたいんだけど、なにか良い方法はないかな?」

 アリスが開口一番に俺達の予想通りの答えを口にしたものだから、俺とユイは顔を見合わせてクスクスと笑ってしまった。


「え、え? どうして笑うの?」

「なんでもないわよ」

「アリスがそう言うだろうと思って、素材を持ち込んで、ポーションを売ってもらったらどうかってなって、二人で話してたんだ。お互いにとって得だからな」

 駆け出し冒険者のアリスやユイはもちろん、しばらくここで活動予定の俺にとってもポーションの供給を安定させられるのは利点になる。


「え? ……そっか。素材を持ち込めば私達もポーションを安く買えるし、ティーネちゃんはポーションを作るだけで差額をゲットできるんだね。さすがユイとアルくんだね!」

 アリスがぴょんと跳ねた。喜んでもらえてなによりである。


「問題はティーネだけど……どうだ?」

「えっと……皆さんが持ち込んだ素材でポーションを作れば良いんですか?」

「ああ。出来たポーションは適正価格で買い取る。薬草の代金はそこから引いてくれればいいし、余ったポーションはよそに売ってくれてもいい。……どうかな?」

 俺が問い掛けると、ティーネは俺達を見回し、最後にもう一度俺を見る。


「私が作れるのは初級だけ、中級のポーションとか作ったことないですよ?」

「どうせこの辺りじゃ素材もないし、おいおいだな。でも、いつか作るときになったら、俺も多少なら教えてやれると思う」

「アルベルトさん、中級ポーションの知識があるんですか?」

「……あぁ、断片的に、だけどな」

 理由は覚えていないけど、なんとなくの作り方なら覚えている。


「ねぇねぇ、アルくん。中級って、失われた技術じゃないの?」

「ええっと……どうなんだ?」

 そういえば、ティーネは自分が知らないだけで、中級のポーションがありそうな口ぶりだった。その辺、どうなのかとティーネに問い掛ける。


「ポーションには一部でだけ受け継がれている中級レシピがあるんです。だから、アルベルトさんが知っているのも、そういった知識だと思ったんですけど……?」

「あぁ、そうかもな」

 と、同意してみたわけだが……俺には中級はもちろん、上級でも数多くのレシピが断片的ながらも記憶にある。たぶん、俺が知ってるのは違う理由だろう。


「あの……アルベルトさん。勝手なお願いだとは思いますが、その……もしご迷惑でなければ、中級ポーションの作り方とか、教えてもらうわけには……」

「構わないよ」

「良いんですか!?」

 俺が了承するとは思ってなかったのだろう。ティーネが目を瞬いた。


「ポーションの知識に関しては断片的でしかないけど、それでも良いなら、な」

「もちろん、問題ありません」

「分かった。俺はしばらくこの街にいるつもりだから、そのあいだなら構わないよ」

 ――と、そんな感じで話は纏まった。



 その後、俺達はブラウンガルムを買い取ってもらうために冒険者ギルドへと向かった。大きな建物で、入り口付近のフロアには多くの冒険者達がたむろしている。

 俺はキョロキョロと周囲を見回し、クエストボードを探す。

 ……というか、なんか注目されてるな。


「おい、見ろよ。むちゃくちゃ可愛いプレイヤーが二人もいるぞ」

「あぁ……たしかに可愛いけど……アバターだぞ?」

「いや、WorldOverOnlineはスキャンした容姿をベースに、一定値までしか弄れない仕様だ。だから、あの二人はリアルも相当に美少女だと思う」

「マジか! 俺、声を掛けてみようかな?」

「よせよせ、見ろよ、男連れだぜ」

 周囲の声を聞いた感じ、目当てはアリスとユイらしい。エルフのアリスは言わずもがなで、ユイの方もかなりの美人だからな。注目されて当然か。


 それはともかく、俺はクエストボードを見つけて歩み寄った。張り出されているクエストは、討伐がほとんどで、採取の依頼が少々だ。

 特に、この街の付近で危険な魔物が発生している、みたいな報告はないみたいだ。


「アルくん、アルくん。クエストボードになにかあるの?」

「いや、なにもないことを確認した。それより、ブラウンガルムを換金してもらおう」

 俺はアリスとユイを伴って、受付カウンターへと移動した。



「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう?」

 受付では俺より少し年上――いや、いまの俺は十七歳だったな。ユイより少し年上くらい。二十代前半くらいのお姉さんが出迎えてくれた。


「冒険者の登録と、素材の買い取りを頼む」

「かしこまりました。肝心の素材が見当たりませんけど、あなたもストレージ? にしまっているのですか?」

 受付嬢の口からストレージという単語が出てきてちょっと驚いた。


「俺は今日初めて、ストレージの存在を知ったんだけど、あんたは知ってるのか?」

「私も今日初めて知りました。けど、今日はもう何人もストレージを持つ方がいらしたので」

「え、今日だけでか?」

「――今日がオープン日だからね」

 ユイにはその理由が分かるようで、横からさも当然だと言いたげに答えた。

 なんだか、ユイやアリスのように常識のおかしいプレイヤー一族がたくさん、この街に流れ込んできたみたいな言い様だけど……たぶん気のせいだろう。気のせいだといいな。


「それで、討伐した魔物を出していただけますか? 解体、してないんですよね?」

「あぁ……もしかして、混んでるのか?」

 冒険者は荷物をかさばるのを嫌うので、現地で解体することが多い。ゆえに、冒険者ギルドの職員で魔物を解体できる者はそれほど多くない。

 だけど、みんなストレージを使ったのだとしたら、解体を担当する職員は大忙しだろう。


「いえ、持ち込まれたのが一角ウサギくらいで、数も多くないので大丈夫です」

「……一角ウサギ? まあ、混んでないのなら安心だ。アリス、ユイ、頼む」

 俺が頼むとアリスとユイが、ブラウンガルムの死体をカウンターの上に置く。


「え、ブラウンガルム……ですか? それも、二体も?」

「まだあるわよ」

「私の方も」

 ユイとアリスが、ブラウンガルムの死体を積み上げていく。


「ちょ、ちょっと待ってください。それ以上はカウンターの上に置かないでください。っていうか、ブラウンガルムをこんなに狩るなんて何者なんですか!?」

「何者って……そんな大げさな」

「大げさなんかじゃありません! ブラウンガルムは中級冒険者が対象にするようなDランク指定の魔物ですよ!? それをこんなにたくさん狩れるわけないじゃないですか!」

「……は? Dランク?」


 なにそれどういうことと俺は首を傾げる。俺の記憶がたしかなら、ブラウンガルムは魔物の中で最弱、Fランクの魔物だったはずだ。


「はい、Dランクです。戦いに慣れてきた冒険者が複数で狩るような魔物なのに、それをこんなにたくさん――って、ボスまでいるじゃないですかっ!」

「あぁ……ボスがDランクってことか」

「ボスはCランクですよ――っ!」

 物凄い勢いで訂正されてしまった。


 でも、ブラウンガルムの強さ自体は俺の記憶と変わっていなかった。なのに、どうしてブラウンガルムがDランク扱いになってるんだ?

 ……それより弱い敵がいるから、か?


「ブラウンガルムより弱い敵ってなんだ?」

「この辺だと一角ウサギですね」

「……は? あんなの、放っておいても襲ってこないだろ?」

「たしかにそうですけど、クエスト対象には変わりありません。駆け出しの冒険者はみな、ノンアクの敵と戦って、攻撃を当てる練習をする……常識でしょ?」

「えぇぇ……」

 攻撃を当てる練習なんて、かかし相手にでもすれば良いじゃないか。……いや、かかしを殴るくらいなら、一角ウサギで練習した方が収入もある、か。

 でも、俺には一角ウサギと戦うって発想がなかった。たぶん、これも俺の記憶と事実の差異なんだろうけど……俺にはどうしてその発想がなかったんだ?


 ……そう、だ。

 俺の記憶の中では冒険者が多すぎて、魔物の取り合いが発生していた。駆け出しの冒険者でも、ブラウンガルムくらいを相手にしなければ生きていけなかったのだ。

 でも、現実はそうじゃない。冒険者が不足していて、魔物が飽和している。一角ウサギだって、そこかしこで見つけることが出来た。

 つまり、実際の冒険者は、一角ウサギで訓練するのが当たり前……?


「アルくん、一角ウサギは放っておけば良いって……言ったよね?」

「あたし達のこと、無謀だとか、無茶だとか……言ったわよね?」

 ――はっ、二人の視線が冷たい!

 ま、まずい。このままだと、二人に無謀だとかなんとか散々言っておきながら、俺自身が無謀な相手と戦わせた鬼畜なやつになってしまう。


「あ、あれは……」

「「あれは?」」

 落ち着け、落ち着け俺。


「あれは……そう。二人のためだったんだ!」

「……私達のため?」

 アリス達が揃って首を傾げるが、ここまで来たら止まれない。


「そうだ。二人は俺がいなくても無茶をしそうだからな。俺がいるときに、あえて危険を冒させることで、俺がいなくても大丈夫なように経験を積ませたんだ」

「へぇ……」

 ユイから思いっきり疑いの眼差しを向けられる。

 だが――


「わぁ、そうだったんだ。アルくん、そこまで考えてくれてたんだね!」

 アリスはキラキラと目を輝かせた。

「あ、あぁ、まあ……な」

「アルくんアルくん、心配してくれてありがとうね」

「い、いや、気にしなくていい」

 純真なアリスの視線に耐えかねて、俺は思わず目をそらした。

 

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