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彼女が生きられる世界 7

「テスト勉強が続いて寝不足だから、今日はもう帰って早く寝るわ」

 ティーネの家を出た後、星空の下でユイがあくびを噛み殺す。それじゃまたねと踵を返すが、俺はそんなユイの後を追い掛けて横に並んだ。


「広場まで送るよ」

「あら、別に平気よ?」

「アリスの件もあるし、夜に女の子の一人歩きは危ないぞ」

 いくら死んでも生き返るのだとしても、ユイは女の子だ――と、俺の言いたいことを理解したようで、ユイはふっと表情を和らげた。


「ふふっ、それじゃエスコート役は任せるわね」

 イタズラっぽく微笑んで、俺に腕を絡ませてくる。

「おいおい……」

「あら、あたしじゃ不服かしら?」

「誰もそんなことは言ってないが……」

 俺の二の腕が、ユイの豊かな膨らみに沈み込んでいる。

 また俺の自制心が試されているんだろうか? もちろん紳士たるべく自制はするけど、できれば自制する必要がないように、最低限の配慮はして欲しいところである。


「ねぇ……アル。アルは前世って信じる?」

 雑談をしながら広場を目指していると、ユイが急にそんなことを口にした。

「……は? いきなりなんだよ」

「ちょっと聞いてみたかったの。この世界って、女神様が管理してるんでしょ?」

「あぁ、言い伝えがあるな」

「だから、前世の記憶を持って生まれ変わる転生者とかもいるのかなって」

「……なにが“だから”なのか分からないんだが?」

「女神様が管理してる世界といえば、異世界転生者とか転移者がいるものなのよ。現に、あたし達みたいな異世界からの転移者もいる訳だし」

「ふむ……」

 そういえば、初めて会ったときにもそんなことを言っていた。

 あのときはなにを馬鹿なと思ったけど、たしかにプレイヤー一族は常識では計れないし、俺が知らないような知識も持っている。

 ついでにいえば、広場でいつの間にか姿が消えたり、逆に突然現れたりする現象は、異世界と行き来しているといわれても不思議じゃない。

 だから異世界転移者はいるのかもしれないけど、転生者は聞いたことがない。


「断言はできないけど、いないと思う。少なくとも俺は知らない」

「……そっか。……うん、そっか」

 ユイが少し寂しげに微笑む。


「その転生者がどうかしたのか?」

「うぅん、もしいたら会ってみたいなって思っただけ。それより、ここまでで良いわ」

 ユイは絡めていた腕を放し、クルリと半回転して俺の前に立った。


「送ってくれてありがとうね。また、ティーネを説得する準備ができたら会いに来るわ」

「ああ、分かった。それじゃ……また」

 俺の目の前で、ユイが手を振りながらうっすらと消えていく。別の場所へ転移してるんだと思ってたけど……異世界、ねぇ? 否定する要素は見つからないけど……どうなんだろう?

 ……まあ、アリスやユイが遠くの国の者だろうが、異世界の者だろうが関係ないな。


 という訳で、俺は踵を返す。ユイを見送った後は宿に戻るつもりだったが、ついでに冒険者ギルドに顔を出すことにした。


 ギルドは基本、緊急時の対応もあるために二十四時間年中無休である。

 とはいえ、夜中は業務も縮小されて閑散としている――という認識だったんだけど、酒場を兼ねたスペースには想像以上に冒険者がたむろしている。

 もしかしなくても、ほとんどはプレイヤー一族だろう。

 それぞれ、飲み食いをしたり友人と語り合ったり、わりと騒がしいんだけど、なぜだか俺にチラチラと視線を向けてくる連中がいる。なんだろうな?


 そんなことを考えながらカウンターに顔を出すと、馴染みのある受付嬢が出迎えてくれた。

「あら、いらっしゃい、アルベルトさん。こんな時間に珍しいですね」

「そういうあんたは、こんな時間まで働いてるんだな」

「冒険者が急増して、ギルド職員は大忙しなんですよ。今日も朝からずっと働き詰めです。さすがに、私はそろそろ上がりますけどね」

「それはまた……」

 人手不足なのは、魔物を解体する担当職員だけじゃなかったか。大変そうだ。


「それで、本日はどういったご用件ですか?」

「ああ。実はポーションの売り込みに来た」

「ポーションの売り込み、ですか?」

「ああ。高品質のポーションだ。もしかしたら安定して供給できるかもしれないんだ。だから、どれくらいで売れるか確認して欲しい」

 現時点ではティーネの存在は伏せておく。

 ティーネがどうするか不明だし、ポーションが不足しているいま、ティーネの存在をおおやけにするのは危険だからだ。


「そう言うことでしたらお預かりいたします。冒険者カードを出していただけますか?」

 俺は頷くと同時に、ポーションの試作品と、カードを手渡す。

 受付嬢は冒険者カードを魔導具で読み込み、手元にある端末を操作する。


「あら、冒険者ランクがEに上がってますね。おめでとうございます」

 受付嬢がそう口にした瞬間、周囲が少しざわめいた。いつの間にか、近くにいた冒険者達がこちらの様子をうかがっていたらしい。

「もうEランクだって、早くないか?」「いや、あいつはNPCだから、冒険者になったのはもっと前じゃないか?」「いやいや、例のプレイヤーと一緒に登録してたらしいぞ」

 なんて声が聞こえてくる。


「凄いですね。ランクアップ、最短記録更新ですよ」

「へぇ、そうなんだ」

 俺がランクアップしてるのなら、ユイやアリスもそろそろだろう。特に驚くようなことじゃない。あぁでも、急いだわけじゃないのに最短記録だって言うのは少し驚きだな。


「それと……ポーションの件も承りました。ただ、この時期なら、お祭りにあるコンテストに出品した方が良いかもしれませんよ?」

「コンテスト?」

「ええ。一年に一回、この街で開催されるお祭りで、コンテストはその一部ですね」

 三日間続くお祭りで、コンテストは最終日らしい。近くの街から店が出張してきたりで珍しい物も集まるから、領主様もやってくるそうだ。


 情報のお礼を兼ねて、受付嬢にも疲労が回復するからと、高品質のポーションを一本、プレゼントと称して売り込んで、俺はギルドを後にした。

 

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