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特訓-08

今日はキットとの模擬戦闘だ。


「本日は宜しくお願いします。」

「こっちこそ。勘は取り戻したつもりだけど、お手柔らかにな。」

「コウなら大丈夫ですよ。」

「生身でお前に勝てる訳ないぞ?とりあえず、寸止めの自由組手からでいいか?」

「禁じ手はどうしましょうか?」

「寸止めだから何でもありだ。」

「はい、分かりました。」


組手をしてみたが、スピード、パワー、反射速度が生身の人間とは桁違いな上に、圧倒的な演算性能のおかげでフェイントに引っ掛かる事も無い。


「やっぱり強いな。」

「ありがとうございます。ただ、分からない事があります。」

「どうしたんだ?」

「なぜかコウに避けられるのです。死角からノーモーションで打ち込んでいる筈なのですが、対処されてしまいます。」

「勘だろうなぁ。」

「勘・・・ですか?わたしにも真似できるでしょうか?」

「当てずっぽうとは違うから出来るんじゃないか?勘ってのは経験の積み重ねで感じられるようになるもんだからな。」

「なるほど、学習型の脅威判定サブシステムが割り込み処理をするのですね。」

「キット的にはそういう処理かもな。」

「さっそく回路を構成してみます。少々お待ちください。」

「色々できるんだな。」

「はい、専用回路と比べると性能が劣ってしまいますが、機能拡張したおかげで出来るようになりました。あ、回路構成は終了しました。」

「俺の方も休憩は終わったぞ。じゃあ、再開するか?」

「お願いします。」


その後、組手を続けたが、あまり変わった感じはしなかった。


「キット、どうだ?」

「上手く行きませんね。演算は正常に行われているのですが・・・」

「まぁ、勘ってのはコンピューターには苦手な方面かもな。考えてやってる訳じゃないからなぁ。」

「人間の脳は不思議ですね。」

「いっその事、人工頭脳も組み込んでみたらどうだ?」

「あれは大きすぎて格納スペースが確保できません。」

「いや、何も全部組み込まなくてもいいと思うぞ。考えるんじゃなくて感じるって事は古い脳の方だけでいける可能性がある。」

「なるほど。大脳新皮質の部分を省略できるなら何とか格納できそうです。」

「じゃあ、今日はこの辺りで切り上げるか?」

「はい。早速オモさんと相談してみます。」


------------------------------


翌日、キットに頼まれてまた格闘訓練をする事になった。


「うまく組み込めたのか?」

「はい。ギリギリでしたが拡張回路用のスペースに何とか入れられました。」

「そうか、良かったな。」

「コウのアドバイスのおかげです。」

「ま、俺の予想が間違ってて勘が手に入らないかもしれないけどな。」

「とりあえず、やってみましょう。」

「そうだな。昨日と同じでいいか?」

「はい。」


どうやら上手くいったらしく、組手の回数を重ねる毎にキットは強くなっていった。


「参ったな。もうずいぶん勘がよくなってるぞ。」

「ありがとうございます。このサブシステムを強化すれば戦闘以外でも脅威への事前対処ができそうです。」

「例えば?」

「そうですね、経験を積めば開拓地で崖崩れが起きる前に気付けるようになったりするでしょう。」

「そりゃ心強いな。でも勘を養うには経験を積まなきゃならないのがなぁ・・・」

「はい。ですが、過去の戦闘や災害のデータを読み込ませれば、かなりの経験値が得られるでしょう。」

「チート機能だな。」

「魔法ほどチートではありませんよ?」

「確かにな。自分で言うのもなんだが、あれはチートすぎる。ところで、他に試したい事はあるか?」

「魔法使いとの戦闘・・・ですね。」

「いや、キットには悪いが全く戦闘にならないぞ?」

「構いません。どれ程圧倒的かを体感する為ですから。」

「じゃあ、さっそくやってみるか?」

「そろそろ昼食の時間ですよ。」

「そう言えば少し腹が減って来たな。よし、休憩しよう。」


俺はキセルを取り出した。


「では準備しますね。」

「何の?」

「野外調理の準備です。調理方法のデータベースは地星の頃に入力済みですし、ナホさんにコウの好きな味付けは習っておきましたからご安心下さい。」

「そんな事までするのか?」

「機体の汎用性の検証を兼ねていますから。」

「そうか。じゃあ任せるよ。」


------------------------------


紅葉草を燻らせながら辺りをぶらついていると、妙な物を見つけた。

これは、化石だな。

それもかなり大型だ。

既に中年だが、男としては幾つになってもこういうものには心惹かれるな。


「コウ、昼食の準備が出来ました。」

「分かった。」


俺は表層に現れている化石を一つ手に取ると、キットの元へと戻った。


「おっ、美味そうだな。」

「ありがとうございます。ただ、初めての調理ですので、どこか至らない点があれば正直に仰ってください。」

「分かった。ところで、そこで面白い物を見つけたよ。」


俺はキットに化石を渡してから、できたての料理を一口食べた。


「おっ!お世辞抜きで本当に美味いぞ、ナホの味そっくりだ。」

「ありがとうございます。ところで・・・」

「ん?どうした?」

「この化石ですが、妙なのです。」

「何が妙なんだ?」

「地星でも、同じ座標で、同じ種類の恐竜の、同じサイズの化石が発見されています。」

「えっ?」

「発掘当時の写真がデータベースにありますので、お食事後に現場を確認させて下さい。」

「あぁ、分かった。」


せっかく作ってくれたキットには悪いが、手早く昼食を済ませ現場へと向かった。


「コウ、魔法で化石の周りの土を取り除く事はできますか?」

「たぶん大丈夫だ。やってみる。」


やがて化石の全体像が明らかになった。


「では地星での発掘時の写真を投影します。」

「完全に一致してるな。」

「はい。数千万年前に、地星と同じ場所で、同じ種類の、同じサイズの恐竜が、同じ体勢で死亡した事になります。」

「偶然にしちゃ出来過ぎだな。」

「はい。後でスメラでの化石データと地星のを比較してみましょう。」

「そうだな。しかし、ここまで一致しているのに人類史は全然違うんだよなぁ。」

「不思議ですね。」

「まぁ、とりあえず午後の部を始めるか。」

「はい、お願いします。」


言うまでもないが、魔法を使った模擬戦闘では圧勝した。

瞬間移動はチートすぎるので封印したが、思考加速した仮想頭脳にとってはキットの動きは300万倍のスローモーションに等しく、拡張視野には死角が無い。

おまけに、その気になれば亜光速で身体を動かす事ができるので、負ける要素は一つも無かった。


「完敗です。」

「まぁ、魔法だからな。」

「魔法の凄さを痛感しました。体験出来て良かったです。」

「自信を無くすなよ?」

「レベルが違いすぎるので大丈夫ですよ。では帰りましょうか?」

「そうだな、化石の事も聞かないとな。」

「はい。」


------------------------------


「オモさん、ちょっと教えて欲しい事があるんだけど。」

「はい、閣下、どうされました?」

「だから閣下は・・・いいや。スメラでの化石の発掘場所とそのデータってあるかな?」

「はい、ありますよ。古生物学に興味をお持ちですか?」

「いや、今日、たまたま化石を見つけたんだけど、それと全く同じ化石が地星の同じ場所で見つかってたんだよ。」

「それは奇妙ですね。それで他の化石も調べてみる事にされたんですか?」

「そうなんだ。キット、どうやって比較する?」

「年代を問わず地星で有名な化石の発掘された座標をスメラ基準で表示しますので、オモさんに一致するものを選んでもらいましょう。」

「分かりました。」


スメラでは発見されていない化石も多かったが、比較可能なものは形状や配置が悉く一致していた。


「閣下、これは偶然とは思えませんね。」

「そうだよなぁ。」

「少なくとも古生代から中生代末期までの5億年以上の期間で満遍なく一致しています。」

「恐竜が絶滅した時代に大量のイリジウムを含む粘土層が存在する点も同じでしたし、巨大隕石が衝突したクレーターの跡も一致していましたね。」

「まさか・・・パラレルワールドってやつか?」

「閣下、その場合は天体の配置が違いすぎます。宇宙全体が枝分かれしたにしては相似性が局所的すぎます。」

「取り敢えず、分からない事が一つ増えたって事だな。」

「はい。現状ではこれ以上は分かりませんね。」


今更、分からない事が一つや二つ増えようと大して変わらないな。


「ま、しょうがない。そもそも模擬戦闘が目的だったんだしな。」

「お陰様で充分なデータ取りができました。ありがとうございました。」

「変更すべき点は明確になりましたか?」

「はい。まず内部装甲は機動性や可動範囲の観点から全パーツに微修正が必要です。次に、昨日相談した学習型の直感サブシステムを組み込む方が良さそうです。後は全体的に出力を落としても問題無いので、やはり脚部スラスターは外部装甲にビルトインしましょう。」

「そうですか、では後ほど詳細をお聞かせください。閣下、申し訳ございませんが、後ほど装甲板の製作をお願いします。」

「はい。」

「分かった。」


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