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特訓-05

「次は仮想頭脳?人工頭脳の技術を利用して魔法で頭脳を作り出すみたいだな。」

「CPUのマルチコア化と同じですね。独立した思考であればコア数を増やしただけ思考能力が増える筈です。」

「独立した思考っていうと?」

「他の思考の結果によって条件分岐するような場合は、それを待つ必要がありますから単純に思考能力が増える事にはなりません。」

「そういう事か。注意点はあるか?」

「コンピューターの場合ですと、共有しているメインメモリへのアクセスが殺到してそこで待ち時間が発生します。他にはあまりコア数が増えるとそれぞれへの割り当て処理が混雑します。」

「なるほど。とりあえず一回やってみるか。」


俺は仮想頭脳の魔法を発動した。


「どうですか?」

「仮想頭脳を使って仮想頭脳を起動できるから、ネズミ算的に数が増やせるな。記憶へのアクセスも同時にできるから待ち時間も無いし、空いてる仮想頭脳が勝手に処理するから割り当て処理自体が無いみたいだ。」

「それは凄いですね。」

「いや、魔力や魔量をシェアするから、極端な数を起動しても大量のザコが居るのと同じ状態になってしまう。」

「なるほど。そう言えば、先程の入出力バランスの件ですが、魔法で代行できませんか?」

「どういう事だ?」

「例えば、周囲の可視光の情報を仮想頭脳の網膜神経系に繋げれば、瞬きの影響もありませんし、死角も無くなるのではないでしょうか?あとは可視光だけでなく赤外や紫外領域まで波長域を拡張すれば暗視装置も不要になるでしょう。」

「なるほど、面白そうだな。色々試してみる。ちょっと待っててくれ。」

「はい。」

「おっ!」

「どうしました?」

「いや、仮想頭脳だとどれくらい思考加速できるか試してみたんだ。リアル脳とちがって制約が無いから、伝達速度を光速まで上げられた。」

「秒速100mが秒速30万kmですから、単純計算で300万倍ですか・・・」

「1秒の思考が300万秒相当だから、34.7日分、ざっと1か月以上寝ずに考え続けたのと同じだな。」

「わたしの性能では追い付けそうにありません・・・」

「いや、結局は俺が考えている訳だからな。どんなに長い時間考えても、思い込みやうっかりがあるかもしれない。これからもキットにはフォローしてもらわないとな。」

「頑張り・・・ます。」


「さて、次はアクセラレータか。」

「思考を特化するのですか?」

「そうみたいだな。仮想頭脳を特定の思考に特化して高速化するらしい。」

「そんな風にもできるのですか・・・」

「人間の脳で出来る事は仮想頭脳でも出来るみたいだな。スポーツとかでも繰り返し訓練すると、その部分を担当する脳神経ネットワークが強化されるだろ?」

「なるほど。」

「少なくとも仮想頭脳ができないと使えない魔法だけどな。」


「次はパック演算ってのがあるな。なんだこりゃ?」

「パック演算というのは大量のデータに同一の処理をする為の機能ですね。比較的単純で高速な演算ユニットを多数用意して並列処理します。グラフィック処理のSIMDが代表的ですね。」

「あぁ、あれか。仮想頭脳、アクセラレータと来たから順当かもな。」

「そうですね。コンピューターの場合の注意点としては、単純化と高速化のバランスを考える必要があります。」

「そうだな、さっきのEMT魔法でも金塊つくるのに特化すれば早いだろうが、それじゃ応用が全く効かないしな・・・」


魔法で出来る事は分かって来たが、どう利用すれば効果的なのかは考えないと駄目だな。


「防御系も調べないとな。」

「そうですね。それによって攻撃方法も変わるでしょうし。」

「えっと、これかな?」

「どのような魔法ですか?」

「状態保持魔法だな。領域内の状態を記録しておいて、ずれたら戻すって事らしい。」

「MET魔法の励起状態やレーザーなどの電磁場を打ち消すという事ですね。」

「そういう事だな。」


とにかく現状維持をしておけば、どんな攻撃をされても平気というシンプルなコンセプトの魔法だ。

しかし、実現する為には領域内に存在する全ての状態という膨大な情報を保持し、攻撃が発動するまでの極僅かな時間内にズレを検出して、それらを正確に打ち消さなくてはならないので膨大な演算能力が必要だ。


「しかし、こんな魔法使うには相当な魔法レベルが必要だぞ・・・」

「コウは使えそうですか?」

「たぶんな。だが、神軍でも使える奴は相当限られるだろうな・・・」

「他に防御魔法は無いのですか?」

「無いな。初級魔法のバリアかこれかになる。」

「極端ですね・・・スメラには伝えられなかった魔法があるのかもしれませんが。」

「ま、俺はこれが使えるように訓練しておけば問題ないだろ。」




「おや?」

「どうされました?」

「もしEMT魔法が完璧に発動できるなら、部位欠損しても治せるらしい。」

「なるほど。元の状態が分かっているなら、その通りに復元すれば治せますね。そう言えば、ルキフェル隊は不老で飲食も不要という事でしたが魔法を使っているのですか?」

「生命活動に必要なエネルギーを供給する魔法はあるみたいだな。不老、つまり身体を前の状態に戻せるのはさっきの魔法くらいしか無いな・・・」

「一般兵でも不老という事は、そのように作られている生物という事ですか・・・」

「おそらくな。しかし不老か・・・」

「コウは不老になるのですか?」

「正直・・・悩むな。いざ当事者になってみると、ドラマみたいに”限りある命だからこそ、人は一生懸命生きるんだ!”なんて軽々しくは言えないぞ。」

「たぶん、逆なんでしょうね。」

「逆?」

「精一杯生きた人であれば、生への執着を持たずに済むのでしょう。」

「お前は俺より人間が出来てるな。」

「ありがとうございます。」


不老になるかどうかは別として、状態保持魔法だけは絶対に使いこなせるようにならないとまずい。

これが使えないと、魔法レベル1の者でもイメージングさえ正確なら俺の脳を握りつぶして殺す事ができるからだ。


「そう言えば、色々使えるようになったから、さっきのが試せそうだな。」

「遠隔砲撃ですか?」

「あぁ。拡張視野で見ながら発動すれば出来る筈だ。」

「なるほど。」

「よし、試してみる。」




「ん?あれ?なんでだ?」

「どうしました?」

「魔力を上げていくとランダムにずれるんだ。」

「なるほど、ひょっとして確率分布になっているのではないですか?」

「そうかもしれないな。とは言え、何万発も撃ち込んで木星を崩壊させるわけにもいかないしなぁ。」

「では、次は土星で試してもらえますか?」

「あぁ、構わないぞ。」




「うーん・・・」

「ひょっとして、木星よりもずれが大きいですか?」

「よく分かったな?」

「あくまでも仮説なのですが、距離と魔力に応じて広がる確率分布に従って発動するのでは無いでしょうか?」

「なるほど。通信魔法みたいにほとんど魔力が必要ない魔法なら何光年も離れてても実用上問題ない程度の誤差で使えるが、神軍にダメージを与えられる程の魔力だとそれなりに近付かないと当たらないって事だな。」

「実際、神軍はわざわざスメラまでやって来て攻撃したようですし。」

「そうだな。ヘヴ星の守りを手薄にしてまでやって来たって事は、ここまで来る必要があったんだろう。さすがだな、キット。」

「お役に立てて嬉しいです。」


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