フジ-02
”第五種非常警報発令”
”これは訓練では無い。繰り返す、これは訓練では無い。”
軍の端末からのアラートで、ディープスリープモードが緊急解除された。
飛び起きて端末を見ると、ヘヴ軍が侵攻してきたらしい。
このシェルターは完全ステルス技術が採用されているから送信は出来ないけど、受信だけは出来る。
だから、統合司令部に集約された情報が転送されて来てるけど、戦況は絶望的だった。
そして、わたしへの命令は”待機せよ”だった。
わたしの任務はシェルターの学生達が復興作業をする時に機械軍の残党から護る事だから、今戦う訳にはいかない。
もちろん、わたし程度じゃヘヴ軍に対しては何の戦力にもならないんだけどね。
連邦政府は巨大なバリアアレイを張りながら無条件降伏を申し出ている。
でも、ヘヴ軍からの返答は無かった。
「全ての者に告げる!遺憾ながら戦力差は圧倒的だ。例え万全の状態で迎え撃ったとしても勝つことは不可能だっただろう。逃げられるものは逃げ、隠れられるものは隠れて欲しい。決して戦おうとするな。僅かでも可能性があるなら生き延びて、いつの日かスメラ文明を再興せよ!では諸君らの検討を祈・・・」
その音声データを最後に全ての通信は途絶えた。
そして端末にはわたしへの指令が表示されていた。
”オモヒカネからの指示あるまでディープスリープモードで待機”
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『フジ少尉、フジ少尉。』
オモさんからの呼びかけでディープスリープモードが解除された。
『起動完了しました。どうなりました?』
『ヘヴ軍は立ち去ったようですが、大きな問題が発生しました。降りて来てもらえますか?』
『了解しました。』
軍の管理区画はオモさんとは遮断されている。
原始的な磁石とコイルだけで作られたスピーカーとマイクでアナログ音声通信ができるだけだから、オモさんからの情報をモニターに移す事も出来ない。
不便だけど、ここには最高機密情報もあるから仕方ないんだよね。
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「フジ少尉、参りました!」
「ありがとうございます。さっそくですが、こちらをご覧ください。」
モニターにはヘヴ軍侵攻前から現在までの様々なグラフが表示されていた。
そう言えば日付を確認していなかったけど、あれからもう十年以上経っていたんだなぁ。
「ヘヴ軍は本当に立ち去ったのですか?」
「確定情報ではありません。ただ、こちらの地震波のグラフをご覧ください。」
「3年前から散発的にしか発生していませんね。」
「はい。ただ、波形から考えると3年前からのものは自然現象の地震のようです。」
「素直に考えれば3年前に撤退したとなりますが、罠の可能性もありますね。」
「はい。1万年が短いと感じるような相手ですから、その可能性は十分あります。」
「偵察に出ましょうか?」
「いえ、その必要性はありません。いずれにせよ、まだシェルターを開放する訳にはいかなくなったのです。こちらのグラフをご覧ください。」
オモさんの示したグラフには気温の推測値が表示されていた。
「気温ですか・・・急激に下がっていますね。」
「はい。原因は不明ですが異常な低下です。最初は戦闘で大気中に巻き上げられた粉塵による太陽光の減少と推察していたのですが、違うようです。」
「しばらくはかなり寒い状態が続くのでしょうか?」
「それどころではありません。このペースですと最悪の場合、全球凍結まで進行します。」
「全球凍結?申し訳ありません、聞いた事はあるんですが・・・」
「23億年前と7億年前に赤道まで氷に覆われた事があります。それを全球凍結と言います。」
「それがまた起きるんですか?」
「飽くまでも可能性ですが、十分あり得ます。過去に起きた全球凍結ではその期間は1億年以上でした。もちろん、ほとんどの生物は絶滅しました。」
「そんな・・・学生達はどうなるんですか?」
「コールドスリープ装置はそこまで長くはもたないでしょう。METの在庫も足りません。」
「どうすれば・・・いいんだろ・・・」
「そこで、フジ少尉の意見を聞かせて欲しいのです。」
「え?」
オモさんはスメラ星最高のスーパーコンピューターだ。
わたしなんかよりも、ずっと正しい答えを導き出せる筈なのに・・・
「わたしはコンピューターですから、大雑把に言うと期待値で判断します。数値的に正しい自信はありますが、それが人間にとって幸福な事かどうかは究極的には分からないのです。」
「なる・・・ほど・・・」
「ですから、基本的に人間と同じ思考をするフジ少尉の意見を伺いたいのです。」
人類の未来をわたしなんかの意見で左右していいのかな?
物凄く大きな不安がよぎった。
でも、すぐにその不安も治められてしまった。
自分ならどうしたいんだろう?
全球凍結してるからシェルターの外には出られない。
限られた保存食を分け合って、でも、最終的には殺してでも奪い合って生き延びる小さな小さな世界か・・・
シェルターには試験農場もあるけど、それで生きていける人数なんて数十人が限界だし・・・
METが尽きれば、その数十人だって凍死か餓死か・・・
でも、諦めたらそこでお終いだね!
「オモさん、ぎりぎりまで粘って下さい。でも、もし、駄目だったら・・・わたしなら、コールドスリープのまま苦しまないように殺して欲しいと思います。」
「分かりました。わたしもそれが一番だと思っていました。ですが、問題があります。」
「なんでしょうか?」
「人機大戦の反省から、わたしのような人工知能は意図的に人を殺す事は出来ないように厳重に制限を掛けられています。また結果的に死んでしまうと分かっている事も出来ません。」
「じゃあ・・・」
激しく動揺した。
でも、すぐにその動揺も治められてしまった。
「了解しましたっ!」
精一杯の虚勢を張って返事をした。
「もちろん、出来る限り待とうと思います。そこで一つお願いがあります。」
「何でしょうか?」
わずかでも可能性が高くなるなら何でも協力しよう。
「少しでも長く待てるように軍管理のMETを供出して頂きたいのです。」
「分かりました。後ほど全て持ってきます。」
「ありがとうございます。ただ、フジ少尉本体用とレーザーキャノン用の未起動METは手許に残しておいて下さい。」
「・・・了解しました。」
その後、2つを残して全てのMETをオモさんに届けた。
それから部屋に戻って電源コードを繋げると、すぐにディープスリープモードに移行した。
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『フジ少尉、フジ少尉。』
オモさんからの呼びかけでディープスリープモードが解除された。
『起動完了しました。まさか・・・』
『いえ、奇跡的に全球凍結は終結しました。学生達は皆起きて開拓を始めています。』
『良かった・・・』
『いえ、非常事態が発生した模様です。悲鳴と血の匂いがシェルターに流れてきました。』
『分かりました!METの起動準備が出来次第、偵察に出ます。AT用METがあれば持って来て下さい。』
『分かりました。お願いします。』
自分用とレーザーキャノン用のMETを起動装置にセットしてスイッチを入れた。
今は少しでも時間が惜しい。
非常用バッテリーで偵察に出た。
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ひどい・・・
男子学生達が虐殺されていた。
他にも治安部隊の戦闘服を着た三名が倒れている。
一名はまだ生きてるみたいだけど下半身の一部が吹き飛ばされてるみたい。
後は見たことの無い機体が一機だね。
人型だけどATなのかロボットなのか、ここからだと分からないなぁ。
でも、右腕に縋りついてる子もいるし、ありがとうって言ってる子もいるから、多分味方だよね?
あっ、危ない!
思わず石を投げてレーザー短銃を弾き飛ばしちゃった。
隠れて偵察してた意味無くなっちゃうじゃない・・・
え?
何あの切味?
漫画みたいに切断面から斜めに滑り落ちるなんて・・・
あの色・・・まさかヒヒイロカネ?
なんか凄い機体だなぁ。
あっ、こっち向いた!
とりあえず手でも振っておこうかな。
何だろ?
右手を頭に当てて変なポーズ取ってる・・・
状況はまだよく分からないけど、取り敢えず落ち着いたみたいだから、一旦戻ろう。
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軍の管理区画に戻るとオモさんがMETを持って来てくれていた。
「フジ少尉、どうでした?」
「残念ですが、男子学生の大半、ひょっとしたら全員が殺されていました。」
「そんな・・・」
「正確な状況はまだ不明ですが、治安部隊の戦闘服を着た三名が倒れていました。現時点では実行犯の可能性が高いです。」
「今はどうなっているのですか?」
「正体不明の機体が制圧した模様です。こちらに敵意は無いようです。」
「そうですか・・・ではわたしは皆さんに話を聞いてみます。」
「了解しました。わたしはMETを装着して合流します。」
「正体不明機をなるべく刺激したくはありません。わたしが無害と判断したら非武装で合流できますか?」
「了解しました。」
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オモさんが聞き取り調査をした結果、正体不明機は少なくとも虐殺犯じゃない事が分かったみたい。
犯人は治安部隊の戦闘服を着た男子学生だったなんてねぇ・・・
とりあえず打ち合わせ通り非武装で合流しよう。
取り外せない武器はしょうがないよね?
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広場で待ってると正体不明機がやって来た。
途中で物凄い悲鳴が聞こえたけど、自業自得だね。
人間の顔が透けて見えるから、ロボットじゃなくて新型ATみたいだ。
それにしても犯人たちの武器を回収して、いつでも抜き撃ちできる体勢かぁ。
敵意はないけど警戒はしてるのね。
「オレ コウ」
「初めまして、わたしはフジだよ。」
「アリガトウ」
コウっていう名前なのは分かったんだけど、なんだか会話になってないなぁ。
「オレ コウ」
「オレ コウ」
「オレ コウ」
あぁ、あんまり言葉が分からないんだ。
どこかに生き残りが居て一万年の間に言葉が変わっちゃったのかな?
みんなジェスチャーでコミュニケーションを取ろうとしてるけど、上手く行かないなぁ。
あっ!
これは分かる!
ご飯が食べたいんだね!
でもね・・・きっとがっかりするよ・・・
さっき縋りついてた子がアレを持ってきたみたいだ。
あ・・・
見た瞬間に崩れ落ちた。
食べた事あるんだね、きっと。
ついにヘルメットを外すみたいだ。
知ってて食べるなんて、よっぽどお腹が空いてたのかな?
え?え?えーーーーーーっ!
なに・・・あれ・・・
物凄い美男子じゃない・・・




