覚醒-02
「キット、天頂の2機はすぐに発射に掛かれ。残り4機は射程に入り次第発射だ。照準は上部装甲中央だ。まず副砲8門を吹き飛ばす。」
「了解しました。それでは発射コマンドを送信します。念の為に送信後はあちらのポイントまで移動して下さい。」
「分かった。」
「送信完了しました。」
「よし。」
ヨイチは15年前に2セット打ち上げておいた四一式携行型衛星レーザー砲だ。
1セット3機が準天頂軌道を周回し常に1機は天頂付近に存在するので、ビルや山脈などに遮られる事がない。
もともとは高度3万km以上の上空から、要塞をピンポイントで破壊する為の兵器である。
単発使い捨てだけあってかなり高エネルギーだが、径が大きいので貫通力は劣るのが難点だ。
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指示されたポイントまで移動すると程なくして、ヨイチの1射目が着弾した。
副砲は吹き飛ばされたようだが、多脚重戦車はまだ動いている。
「ヨイチのシステムはまだ無事に動いていたみたいだな。」
「日出国製、しかもキューさんが直接手掛けた兵器ですから。」
「あぁ、しかしその直撃を受けても動けるとはさすがに大したもんだな。」
「吹き飛んだのはオリハルコン製のマウントまでのようです。」
続けて2射目も着弾したが動きを止めるには至らなかった。
「うーん、2発直撃でも沈まないか・・・アダマント装甲ってのは厄介だな。」
「あと4発で動きだけでも止められればいいのですが・・・それにしても妙です。」
「ん、何がだ?」
「一方的な攻撃を受けたにもかかわらず、丘の上に向かっているようです。」
「俺達を挑発でもしているのか?・・・いや、違う!キット、今すぐ残り4機に攻撃させろ!」
「了解しまし・・・」
バシューーーン、バシューーーン、ガシュン、バシューーーン、バシューーーン
多脚重戦車は主砲を二連射した後、大きく向きを変え、再び二連射したらしい。
超高出力レーザーが大気中の塵をプラズマ化させて射線が見えた。
「遅かったか・・・ヨイチは破壊されたか?」
「はい、応答ありません。」
「あの短時間で準天頂軌道からの攻撃と解析して、被弾覚悟で残りを狙撃しやがったか。」
「凄まじい性能ですね。」
「あぁ、単なるデカブツじゃないな。特務改だけであいつを倒すのは骨が折れそうだ。」
「コウ、正直に言います。おそらく勝てません。」
「・・・やっぱりそう思うか?」
「はい。」
「キット、すまんな。なるべくシェルターから引き離す。蒼雷は上面装甲中央に固定しろ。」
「はい。コウと共に戦えて光栄でした。」
「その言葉はまだ早い。行くぞ!」
ズドーン、ズドーン、ズドーン
ヨイチとのレーザー通信でこちらを見つけた多脚重戦車がバッタのように飛び跳ねながら近付いてきた。
「ええい、機械軍の多脚重戦車は化け物か!」
「コウ、余裕がありますね。」
「もう開き直るしかないからな。ここで戦うしかない!」
「了解しました。着地予想地点の背面側に誘導します。」
「頼む。」
遂にその巨体が目の前に降り立った。
スラスターなどがついていないおかげで、キットが正確な着地地点を演算する事ができたからだ。
俺はホバースラスターを使って素早く回り込み、脚の1つにロープを巻き付けて身体を固定した。
これで暫くは主砲に曝される心配は無い。
「キット、本体の破壊は狙わない。今回の勝利条件は脚の破壊だ。移動を阻止する。」
「了解しました。関節部分のアダマントに覆われていない場所を割り出します。」
「頼む。」
こんな戦い方ができるのは多脚重戦車の本来の運用方法と異なるからだ。
本来なら、戦車の随伴歩兵に相当する機械軍の小型機が周囲に多数配置されていた筈だ。
そんな状況で脚にしがみつけば、間違いなく蜂の巣だ。
「コウ、狙撃ポイントをHUDに表示します。必要照射時間は不明です。」
「分かった。」
多脚重戦車は俺を振り落とそうとしているのか、激しく動き回っている。
「コウ、蒼雷が取り付きました。」
「コード2887を送れ。」
「了解しました。」
それでも何とか照準を保ち、キットによる照準補正にも助けられ何とか1本目の脚関節を破壊できた。
その時、急に身体が傾いた。
「離脱!離脱!離脱!」
キットの緊急音声警告と共にHUDに警告が表示された。
キットがこういう対応をする場合は致命的な状況だ。
反射的にロープを放し、脚から飛び離れた。
ズズーーーーン
先程まで俺がしがみついていた場所が地面にめり込んでいる。
もう少し反応が遅れていたら圧死していたところだ。
ホッと胸を撫で下ろした瞬間だった。
「回避!回避!回避!」
再びキットの緊急音声警告と共にHUDに警告と回避方向が示された。
しかし、遅かった。
わずかに回避した直後、俺の身長を遥かに超える巨岩が猛烈な勢いで激突した。
ただ、真正面からずれて斜めに弾き飛ばされたおかげで、巨岩と背後の岩でプレスされる事は避けられた。
それにしても奴は狡猾だった。
振り落とすふりをしながら巨岩のある地点まで移動していた。
おまけに自らの脚を囮とし、奴の意図に気付かせないように射撃に集中してしまう状況を作り出した。
そして精神的にインパクトの強い圧死から逃れるという状況をも作り出した。
その結果生まれた俺の心の隙を突いて、巨岩を蹴り込み命中させたのだ。
そう、奴は移動要塞とも称される多脚重戦車でありながら、地の利やフェイントを巧みに利用した”近接戦闘”を仕掛けて来ていたのだ。




