覚醒-01
俺がスメラに転移して、もう15年が過ぎた。
大きな事件もいくつかあったが、開拓自体は順調に進んでおり、米や小麦などの穀物と、豆類や芋類それにトウモロコシや各種野菜類といった食用植物の生産の他に、牛・豚・羊の飼育に養鶏、更に淡水魚の養殖も軌道に乗っている。
おかげで、今では非常用保存食は朝食に出されるだけになった。
ただし、未だに過酷な環境である事に違いは無いので、栄養バランスの観点から妊婦と授乳期それに幼児は3食とも非常用保存食のままだ。
かなり不評なのだが、子供の為なら頑張れるというのは地星もスメラも同じようで、対象者は皆頑張って食べて・・・いや流し込んでいる。
ちなみに、牛は地星の牛と違い、いわゆるバッファローを家畜化した品種だった。
北周りで植民した為、大型の家畜まで連れて来る事が困難だったので、現地のバッファローを家畜化してそれが定着したらしい。
食料以外にも、綿花や麻の栽培、それに養蚕にも成功した事から、オモさんが製造する必要最低限の化学繊維の他に、綿・麻・羊毛などを利用した生地が作れるようになった。
そして、染料や顔料も種類は少ないが基本的な色が揃い始めたので、グンマー国程度のおしゃれも出来るようになっている。
なお、化粧品に関しては開拓時間後の自主活動で基本的なものは揃ったらしい。
俺にはよく分からない世界だったが、当時の活動は”スッピン・ダメ・ゼッタイ!”を合言葉に鬼気迫る勢いだったのはよく覚えている。
そして俺はお勤めが順調に進んだおかげで、晴れて自由の身となっていた。
もちろん、自由の身といっても開拓の仕事は山積みだ。
来年からはスメラの伝統に従って、最初に生まれた子供達が成人となるので、自分たちで責任をもって開拓をする事になる。
その為、新たな開拓地の候補を見つけておかなければならないのだ。
その役目は必然的に俺に回ってきた。
他の者は既に役割が与えられて忙しくしており、なかなか他の事に手が回らない。
それに何と言っても15年前に謎の部隊に俺が襲われた事実がある。
シェルターを離れて戦えるのは俺だけだし、子供達にそんなリスクは負わせたくないので俺が担当するのは当然だろう。
かつては俺が一人で遠出する事はオモさんが難色を示していたが、今では特に引き留められる事は無くなった。
子作りが終わって用済みになったから・・・では無いと信じたい。
そんな訳で、今日も俺は完全武装で開拓候補地の安全確認に出かけている。
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「なぁ、キット。この辺りの景色もだいぶ変わったなぁ。」
「はい、そうですね。土壌改良の為に蒼雷で植物の種を撒いた甲斐がありました。」
「もっと大規模にやりたいところだが・・・」
「あまり植物を増やしすぎると、温暖化ガスの二酸化炭素濃度が低下して、寒冷化に逆戻りしかねません。」
「あぁ、分かってるよ。まだ野生の草食動物の復元ができていないからな。オモさんのシミュレーション通りに進めるしかない。」
「先は長いですが地道に進むしかないですね。」
「まずは三食が普通の飯になるようにしないとな。」
「そういえば、そろそろ食事の時間ですよ。」
「おっ、そうだな。じゃあ、飯にしよう。」
俺は近くにあった平らな岩に腰かけ、バックパックから竹の皮の包みを取り出した。
竹は繁殖力が強く、成長も早い上に資材としても有用な事、更に筍という素晴らしい食材も手に入るというおまけ付きなので、開拓初期に植えたのだ。
もちろん、この包みはナホお手製の弁当だ。
包みを開けると、養殖に成功したニジマスの塩焼きと塩むすび、香の物が入っていた。
「ナホの握り飯は美味いんだよなぁ。」
「いつも美味しそうに食べてますね。どう違うのですか?」
「型崩れしないようにちゃんと握られてるのに、口に入れるとほどける絶妙な握り加減なんだよ。」
「コウ、にやけてますよ。特務隊の頃から随分と変わりましたね。」
「あんな仕事してたんだし当然だろ?じゃあ早速、いただきま・・・」
頭部ユニットを持ち上げようとした瞬間、視界の端に閃光が映った。
俺は反射的に弁当を岩陰に叩き落としながら身を潜めた。
念の為に近くの石で弁当の残骸を手早く隠す。
そして暫くすると爆発音がやってきた。
「キット、状況分析。」
「西方約5kmの地点で大出力レーザーによる爆発が発生した模様です。なお、爆発現場は”遺跡”です。」
「遺跡っていうと・・・転移直後に非常用保存食を見つけたところか?」
「はい、そうです。」
「ちっ、まだ何か隠されてたのか・・・」
「爆発の規模からすると、かなり強力な武装のようです。」
「ここに通信リピーターを設置してから偵察する。最適ポイントを出してくれ。蒼雷も緊急発進させて偵察モードにしろ。」
「了解しました。偵察ポイントをHUDに転送します。」
偵察ポイントに到着し特務改の電子スコープで観測した。
「でかいな・・・」
「データベースには登録されていない機体ですが、これはおそらく・・・」
「あぁ、形からして以前にフジさんが言っていたワンオフ機だな。」
「あの機体の戦闘ロジックは不明です。特務改でも装甲は抜けないという事でしたが、どうされますか?」
「とりあえず全員シェルターに避難させるしかないな。リピーター経由の無指向性通信で連絡してくれ。もちろん、返信厳禁でな。」
「了解しました。こちらの存在に気付かれてしまいますが構いませんか?」
「遅かれ早かれ開拓地は発見されるだろうからな。これ以上の装備も援軍も期待できない以上、ここで俺が倒すしかないだろう。」
「了解しました。・・・・・・通信完了しました。」
「よし、じゃあヨイチを使う。2発とも発射したらシェルターから遠ざけるよう陽動しつつ次弾発射までの時間を稼ぐ。」
「了解しました。」
チュドーーーーン!
リピーターのあった場所が吹き飛ばされた。
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「フジ少尉、緊急事態です。」
「はっ!」
「コウさんから連絡が入りました。機械軍の多脚重戦車が現れたようです。至急、皆さんをシェルターに避難誘導して下さい。」
「了解しました!」




