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降臨-03

三人の子供達は、いきなり音も無く開いた扉の前で少し戸惑っていた。


「なぁ、ウンよ、俺達はここに入って行けばいいのか?」

「僕にも分からないよ。でも、神様が扉を開いてくれたんだから進むしかないだろ?」

「わたくし達は神様にお会いできるのかな?」


それまで真っ暗だった通路内がいきなり照らされ、床に移動する矢印が現れた。


「おぉっ!すげえ!」

「これは・・・ここを通れっていう事だな。」

「はい、わたくしもそう思います。」

「早く神様に食べてもらって機嫌直してもらおうぜ!」

「そうだな、行くか。」

「ちょっと怖いです・・・」

「きっと大丈夫だ。親父も助けてくれたんだしよ!」

「あぁ、慈悲深い神というのは本当みたいだし、きっと大丈夫だよ。」

「う、うん・・・」


昼間のように明るい通路に踏み込むには少々勇気が必要だった。

ふいごで勢いよく燃やした炭ですらこれほど明るくは無いからだ。


「なぁ、この火、熱くないぞ?」

「あぁ、驚いた・・・」

「さすが神様です!」


足元の矢印に従ってしばらく歩いていると扉が見えた。


「ひょっとして、ここが神様の部屋か?」

「とりあえず、進んでみよう。」

「ドキドキします。」


扉の前まで進むと、再び音も無く開き、そこには男神と女神の二柱の神がおわした。

子供達は供物を捧げ持ちながら慌てて頭を下げた。


「*************」


神にお言葉を掛けられたが、さすがに意味が分からない。


「おいウン、何と仰ってるか分かるか?」

「いや・・・神官のガガの方が我々よりよほど神に近いはずだ。訳してくれ、神の言葉を。」

「で、でも、どうやって?・・・分からないわ。」

「突っ立ったままって訳にもいかんしなぁ・・・」

「仕方ない・・・進むしかない。」

「そうですね・・・」


子供達は部屋の中に入り、教えてもらった通りに供物を捧げ持ちながら跪き頭を下げた。

神の御前なので本来は平伏したいところだが、供物を地面に置く訳には行かないからだ。


「・・・・・・・・・・・・・」


再びお言葉を掛けられたが、やはり意味は分からない。

ただ、先ほどよりも声に苛立ちのようなものが含まれているように感じられて、子供達はパニック寸前だった。

すると、いきなり供物の重さを感じなくなり手から離れて行ったのだ。

神の御業に驚きと感嘆の声が出そうになったが、不敬になるといけないので慌てて口を噤み平伏した。


平伏している為、見る事はできないが、神は供物を楽しんでいらっしゃるようだ。

仰ぎ見る事は不敬になるので出来ないが、物凄い勢いで料理が減っている事が音だけでもわかるのだ。

神にご満足頂けている喜ばしい状態にもかかわらず、ギガの体が震えていた。

インが不思議に思い、小声で話しかけた。


「ギガ、そんなに震えてどうしたんだい?」

「実は・・・わたくしが献上したお神酒を飲んで頂けていないようなのです。」

「そう言えば、杯に注ぐときの音が聞こえねぇな・・・」

「うーん、聞き逃しただけじゃないのかい?」

「いえ、ご満足頂けるかずっと不安でしたので、耳を澄ませていたのですが・・・」

「飯の後の楽しみに取ってあるのかもしれんぞ?」


そんな事を小声で話し合っていると、大皿と壺が音も無く目の前に戻って来た。

音から想像した通り、大皿の料理はきれいさっぱり無くなっていた。

しかし、ギガは壺を受け取ると悲しそうな表情をした。

酒は一口も飲まれずに返されたようだ。

子供達は教わった通りに礼をすると、大皿と壺を持って後ずさりに部屋を出た。

その瞬間、ギガの体が音も無く滑るように部屋の中に戻って行った。


「きゃっ!」

「神様、何を!」

「ギガ!」


ガコン!

慌てて追いかけようとしたが、透明な何かにぶつかり尻餅をついた。

その間に二柱の神とギガは部屋の奥に姿を消してしまった。


「神様!神様!ギガをお返し下さい!」

「ギガ!ギガーーー!」


いくら叫んでもギガは戻ってこなかった。


「ギガを連れ戻さないと・・・」

「これは結界だろ。親父がトツカで斬り付けてもびくともしなかったんだぞ・・・」

「でも、このままじゃ・・・」

「ウン、お前は頭がいい。何か考えてくれ!」

「そんな事言っても・・・ひょっとしたらギガの持ってきたお神酒に満足できなかったのかもしれない!」

「どうすりゃいい?」

「とにかく出よう。父上に相談して代わりのものを用意すれば助けられるかもしれない。」

「分かった!戻るぞ!」


------------------------------


「なぁ、子供達はどうなったんだ?」

「分からん。あれだけの量の食事だから、まだ召し上がってらっしゃるはずだろう。」

「あ、あれは?」


天の浮舟から二つの影が現れた。


「父上ーーー!」

「親父ーーー!」

「ウン!」

「サン!」

「ギガは?ギガはどうしたのですか!」


ウンとサンは大人達に起きた事を説明した。


「何て事だ・・・お神酒がお気に召さなかったのか・・・」

「すまん、ギガにお神酒を持たせたばっかりに・・・」

「いえ・・・神官たる者、お神酒を運ぶのは当然です。」

「しかし、どうすればいいのか・・・あれ以上の酒など無いしな・・・」

「飯もあれ以上のもんはなぁ・・・」

「わたくしから提案していいものかどうか悩みますが・・・宝物殿の宝などはいかがでしょうか?」

「ううむ・・・何を献上したら良いものか?ウン、サン、神が欲っしそうな宝物は分からぬか?」

「父上、そんな無茶な・・・」

「長、いっその事、全部でいいんじゃないか?」

「ふむ・・・インよ、サンの言う通りかもしれんぞ?神に出し惜しみするというのも変だ。」

「そう・・・だな。ギガの命には代えられん。長老会には事後報告するか・・・」


その後も長い長い話し合いが行われようやく結論を出した時、天の浮舟の周りが明るく輝きだした。

そこには二柱の神とギガの姿があった。


「おぉ!神が、神が顕現された!」


皆が慌てて平伏した。

そして再び、低い唸るような音が聞こえた。

おそらく神が結界を解かれたのだろう。


「皆様!」


ギガの声が響いた。

皆、何事かと平伏したまま顔を上げた。


「わたくしは神の言葉を授かりました!これより、神のお言葉を告げます。」


------------------------------


お告げが終わると、二柱の神は天の浮舟に戻られギガが皆の元に戻って来た。


「あぁ、ギガ・・・本当に良かった・・・」

「母様、ご心配をお掛けして申し訳ございませんでした。」

「いいの・・・こうして無事に戻って来てくれたのですもの。それに、神のお言葉を授かるなんて素晴らしい事です。」

「そう言えば、僕らと別れた後にどうなったんだい?」

「心配したんだぜ?」

「あの後、神様に連れられて別の部屋に行ったの。そこで神様が手ずから冠のような物を被せて下さって・・・気が付いたら神様の言葉が分かるようになっていたの。」


「いや、しかし、俺のやらかした事も水に流してもらえるとはな。」

「えぇ、元々あまり気にされていなかったようで、こう仰ってました。”蟻に足を踏まれたくらいで本気で怒る者はいない”と。それに不幸な偶然で勘違いしてしまった事も分かっていただけましたし。」

「トツカで思い切り斬り付けたのが、蟻に踏まれた程度とは・・・」

「わたくしも驚いてお尋ねしてみたのですが、神様にとっては山を吹き飛ばす事など造作もないという事でした。」

「そ、そうなのか・・・」


「それにしても、私たちの国に暫く留まって知恵を授けて下さるとはありがたい事だ。」

「はい。鉄の作り方や鍛冶の仕方、作物の育て方や料理なども教えて下さるそうです。まず始めはお酒の作り方からだそうですが・・・」

「ふむ・・・お神酒に手を付けられなかったのは、やはりわたしたちの酒ではお気に召さなかったという事か。」

「はい、そのようです。作り方そのものが駄目だと仰ってました。」

「何としても次に献上する時には、ご満足いただけるお神酒に仕上げねばな・・・」


「ところで、僕らがお付きの者になるっていう事だったけど、何をすればいいのかな?」

「そうだ、特に俺は頭が悪いから困っちまうぞ?」

「普段は供物をお運びするだけでいいそうです。それ以外には、神様がわたくし達に様々な事を教えて下さるので、それを国に広めるようにと仰っていました。」

「そうか、神様がみんなに教えて回るというのも変だしな、僕らがその役割なのか。」

「えぇっ!俺が先生役なんて出来るのか?」

「ウン様には国の治め方や様々な技術を、サン様には戦に関する事を主に授けると仰っていました。」

「なるほど、国長を継いだ時に役に立ちそうだね。でも技術の方まで手が回るかな・・・」

「俺は戦の事なら得意だからな、良かったぜ!」

「わたくしもウン様のご負担が重いのではと思い、神様にお尋ねしました。すると、”人の才能を見極め、上手く使う事が為政者として欠かせぬ才だ”と仰っていました。」

「なるほど・・・敢えて負担を重くして、人を使いこなすようにされた訳か・・・」

「ところで、ギガは何するんだ?」

「わたくしは、いつ如何なる時でも神様のお言葉をお聞きできるように常に控えておきなさいという事でした。」

「そうか、気が休まらないな。」

「いえ、神官の身であれば当然です。」


「ギガ、よくぞ言いました。それこそが神官の心得です。」

「さて、そろそろお開きにしよう。具体的な事は明日から決めるとして、皆、疲れを取ってくれ。」


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