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求婚-08

岩塩採取の日がやって来た。

今回は個人的な都合での遠征なので、昼前に帰ってくる予定だ。

そうそう開拓をサボる訳にはいかない。


「お待たせっ!」

「おはよう、フジさん。」


前回と同じくタワーシールドとバズーカ砲を持った甲冑姿だ。

当然、ナホも見送りに来てくれている。


「じゃあ、ぱぱっと終わらせちゃおう!」

「そうだな、今回はすぐ終わりそうだ。じゃあ行ってくるよ、ナホ。」

「うん、気を付けて行ってらっしゃい!」


ナホと軽い口付けを交わして駆け出した。


------------------------------


シェルターを出発して暫くすると、フジさんが話しかけて来た。


「ねぇねぇ!」


きっとろくでも無い事だろう・・・


「・・・何かな?」

「どうせなら、もっと早く移動しない?」

「・・・どうやって?」

「おんぶ!」

「アホかぁっ!」


確かに嘘では無い。

フジさんのATは時速50kmでの駆け足が最高巡行速度だ。

俺がおんぶしてホバースラスターを使えば、ATの重量を考えても軽く時速200km以上は出せる。


「お姉さんと密着したくないのぉ?」

「したくない!それに厚さ5cmのオリハルコン越しじゃ密着とは言わん!」

「ちぇっ!せっかく楽できると思ったんだけどなぁ。」

「やっぱりそれが本音かい!」


そんなアホな会話をしながら移動した。

もちろん、HUDに次々と更新表示される統合索敵センサーの情報は欠かさずチェックしながらだが。


「ここだな。」

「塩だらけだねぇ。」


巨大なクレーターに岩塩が大量に溜まっている。

攻撃後に薙ぎ払ったのか、クレーターの南端から遥か彼方まで深い溝が続いている。

おそらく、この溝が海まで繋がりクレーターに海水が流れ込んだのだろう。

そして氷河期による海水面の低下が起こったせいで孤立して塩湖となり、乾燥した空気が塩湖を干上がらせて岩塩が生成されたのだろう。


「よし、早速サンプル採取だ。」

「わたしは休んでていいかな?」

「構わないよ。ただ、トラップの警戒だけは頼むよ。その為に来たんだし。」

「も、もちろん・・・だよ?」

「なんで疑問形?」

「ははは・・・」


笑ってごまかしやがった。

まぁ、機械軍は完全ステルス技術は持っていないらしいので、俺の統合索敵センサーで十分探知できる筈なんだけどな。

オモさんは心配性すぎるのかもしれない。


「この辺りでいいか?」

「はい。少なくとも、ここからの分光分析では有害な物質は含まれていません。」


俺はシェルターの倉庫から持ってきた石切用のタガネを岩塩に押し当てて、右腕のハンマードライブを使って打ち込んでいった。

程無くして巨大な岩塩の塊を取り出す事が出来た。


「サンプルはどこから取る?」

「念の為に各面から採取しましょう。」

「分かった。」


俺はサンプルをセットしキットが成分分析を終えるのを待った。


「コウ、分析が完了しました。有害成分は検出されませんでした。しかも理想的なミネラルバランスですので、いわゆる美味しい塩という事になります。」

「おぉ、そりゃ良かった!やっぱり精製塩だとしょっぱいだけで旨味が無いからなぁ。」

「予定より早く帰投できそうですね。」

「そうだな。」


------------------------------


岩塩の巨大な塊を防水キャンバス生地で包み背部ユニット上部に括り付けてから、大の字に寝転んでハッチを開け放っている甲冑に声を掛けた。


「おーい、フジさーん、そろそろ帰るぞーっ!」

「えぇっ!もう帰るの?」

「目的の岩塩は取れたから。」

「もうちょっとゆっくりしようよ。」

「予定よりは早いけど・・・何で?」

「いや、ほら、わたしは滅多に外に出られないから・・・」


そうだった。

フジさんは基本的に室内待機で、部屋の外に出る時でも5分以内に戻れる所までしか行けないんだったな。

たまの外出くらいは時間一杯のんびりしたいのだろう。


「分かったよ。予定時間まではここに居よう。」

「ありがとう!」

「じゃあ、どうする?そのままのんびり寝転んでおく?」

「んー、せっかくの外出だし散歩しよう!」

「まぁ、俺としては構わないけど。」

「やった!」


フジさんはATから降りると俺のそばまで歩いて来た。

以前と同じようにハーフトップとホットパンツ姿だ。

日中とは言え、寒くないのだろうか?


「降りてもいいの?」

「端末は持ち歩くし、大丈夫なとこまでしか行かないよ。」


不用心だが、気晴らしが目的なら仕方ないか。

しばらく無言で歩いた。


「コウ、大事な話があるの・・・」

「何?」


フジさんは深刻そうな表情で俯いている。


「わたしのスリーサイ・・・」

「さて、帰ろう。」

「待って待って待って!」

「同じネタを何度も使うのは三流だぞ?」

「むぅ・・・あっ!」


露骨な話題そらしかと思ったが、本当に驚いているような表情だ。

もっとも、フジさんの場合はそれでもネタだったりするので厄介だが。

スルーするのも何なのでフジさんの見ている方向を向くと意外な物が目に入った。


「えっ!」

「絶滅・・・してなかったんだね・・・」

「これは・・・紅葉草?」

「コウ、外見の特徴は地星の紅葉草と完全に一致しています。」


クレーターの外縁部に紅葉草が群生していたのだ。

紅葉草は、熱帯から寒冷地まで自生できる雌雄異株の植物で、わずか100日程で2m以上に成長する一年草だ。

繁殖力が旺盛なので、この寒冷な気候と痩せた土でも成長できたのだろう。

群生している事から考えると、ここは元々群生地だったが、氷河期で発芽出来ないまま種が1万年保存されていたのかもしれない。


「地星ではモミジソウって呼ばれてるの?」

「あぁ、葉っぱの形が何となく紅葉に似てるからね。メジャーな嗜好品だよ。」

「へぇ、この雑草が嗜好品なんだ!」

「雑草?」

「うん、どこにでも生えてすぐ大きくなるから厄介なんだよね。」

「そういう扱いか・・・乾燥させて燃やした煙を吸うと気分が良くなるんだ。」

「へぇ、そんな効果があったんだ。」

「手持ちの紅葉草が少なくなってきてたからちょうど良かった。」

「でも、オモさんに聞かないとなぁ。」

「スメラでは何でいう名前なの?」

「・・・雑草?」


フジさんに聞いた俺が馬鹿だった。

俺の数少ない楽しみの一つなので、是が非でも栽培許可を取らないとな。

ちなみに紅葉草に中毒性は無いので禁断症状などは出ない。

善は急げという事で、早速、フジさんの無線機を借りて交信する事にした。


『こちらコウです。オモさん、聞こえますか?』

『はい、オモです。』

『岩塩採取中に自生している植物を発見しました。地星では紅葉草と呼んでいましたが、スメラでの名前は不明です。個人的には持ち帰り栽培したいと考えています。』

『驚きました・・・自生していたのですか?どんな植物でしょうか?』

『画像を送ります。』


俺は無線機とリンクしたカメラから画像を転送した。

オモさんから借りてきた装備なので直接転送できるので楽だ。


『これはカンナ草ですね。昔は種を食用にしていました。大豆と同じくらい栄養があります。他には繊維に加工していたようです。』

『持ち帰ってもいいでしょうか?』

『構いませんが、開拓での優先度は低いのでリソースは割けませんよ?』

『分かりました。繁殖力が強いので移植の許可さえもらえれば大丈夫です。あと、葉っぱは俺が自由に利用していいですか?』

『邪魔にならない場所なら移植しても結構ですよ。後で候補地をお知らせします。それと、どの部位でもご自由に使って下さい。』

『ありがとうございます。あ、岩塩も無事に採取できたので間も無く帰投します。』

『はい、気を付けて帰って来て下さい。』


よし!

これで紅葉草の在庫問題は解決だ。

岩塩を採りに来たが、思わぬ収穫が得られた。

それにしても自然っていうのは大したものだ。

自然の恵みに感謝しながら雄株と雌株を3株ずつ土ごと掘り起こし、手持ちの袋で根を保護した後にバックパックに入れた。


「そろそろ予定時刻だな。」

「もうそんな時間なんだね・・・」

「ちょっとはリラックスできた?」

「久しぶりに本物の植物を見られたからね。ありがとう、コウ。」

「俺も散歩のおかげで紅葉草が見つかってラッキーだったよ。」

「お礼にわたしのスリー・・・」

「キット、ホバースラスター準備。」

「了解しました。」

「わぁーーー!待って待って!」

「遠征の度にスリーサイズじゃないか。持ちネタが乏しいぞ?どうせ次はおんぶだろ?」

「くっ・・・読まれてた・・・」


キットは冗談も理解できるので、実際にはホバースラスターは起動されていない。


「さて、問答無用で帰るか・・・」

「待って!ATに乗るから!」

「キット、オートクルーズ開始。」

「了解しました。」


俺の声が作戦モードに切り替わったので、今度は本当にオートクルーズが起動した。


「薄情者ーーー!」


フジさんがATに駆け寄り装着した。

タッタッタッタ、ガシャン、ガシャン、プシューーーー


「やれば出来るじゃないか。」

「ちくしょーーー!」


こうして思わぬ副産物と共に岩塩採取の遠征は無事に終わった。


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