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求婚-06

指輪が完成した後は自室に戻った。

毎日ナホの部屋で過ごしているが、装備を保管する為に最初に通された予備の部屋を自室として割り当ててもらっているのだ。

ここでプロポーズの言葉を考えるつもりだが、地星人と違ってまずは結婚の概念を理解してもらう事から始めなければならない。


ベッドの上を転げまわりながら、ナホにどう言うかを考え続けていたが、とうとう夕方になってしまった。

もちろん今日プロポーズしなければならない訳ではない。

しかし、明日にずらせばきっとずるずると先延ばしになるだろう。

十字砲火の中を突っ切るような覚悟で突撃だ。


------------------------------


ナホの部屋の前まできた。


「それでは、わたしはシャットダウンします。ご武運を!」


キットは自分でシャットダウンシーケンスに入った。

指輪作りは手伝ってくれたが、肝心なところは一人で頑張れという事だろう。


「ただいま、ナホ。」

「おかえりなさーい!」


いつものように軽い口付けを交わす。


「あれ?キットはもうシャットダウンしてるの?」

「あぁ、部屋の前でね。」

「えーっ!も、もう?まだ早いよ・・・」


ナホは顔を赤らめてクネクネしている。

俺はナホにどれだけエロいと思われてるんだ?


「い、いや、ちょっと都合があって落ちてるだけだよ。」

「なんだぁ、びっくりしたよぉ。」


テーブルに水を用意して二人でソファに座った。


「そう言えばさ、フジさんに聞いたんだけど、長い正式な名前があるんだって?」

「あ、そっか、言ってなかったね。普通は資格証とかにしか使わないから言うの忘れてたよ。」

「そうなんだ。なんて言うの?」

「わたしはナホミチルノノヒメだよ。菜の花と稲穂がいっぱいになる野原のような女子っていう意味なんだぁ。」

「おー、なんかナホのイメージにぴったりだ!」

「えへへ、ありがと。」

「ついでに母名の方も教えてもらおうかな。」

「イサメノツルギヒメだよー。」

「な、なんか強そうな名前だな・・・」

「魔法憲兵隊隊長だからね!」


ナホが自慢げに胸を張る。

お義母さんもほわほわしたタイプだと思い込んでいたので意外だ。

タカがトンビどころかスズメを産んだようなものだ。


「ところで、俺の名前のサンノウは母名じゃないんだよ。」

「えっ、そうなの?」

「うん、サンノウは家族の名前なんだよ。」

「え?家族の名前って母名の事でしょ?」

「地星だとだいたい父系家族なんだ。でも、サンノウは父親の名前じゃ無くて、代々伝わる共通の名前でミョウジっていうものなんだ。ブランド名とか型式みたいなものかなぁ?」

「うーん・・・???」

「具体的な方が分かりやすいかな。親父はサンノウ・コウアンで、弟はサンノウ・コウスケっていうんだ。」

「あぁ、分かったよ!」

「それで母親はサンノウ・サトミなんだ。」

「え?え?親戚同士で子供作るの???」

「違うよ。もとはサイトウ・サトミだったんだけど、結婚したらサンノウ・サトミに変わったんだよ。」

「ケッコンって何?」


よし、誘導成功だ!


「結婚っていうのは、男女が一生その人とパートナーになりますっていう公的な契約みたいなものだよ。結婚すると仕事の都合とかを除けば一緒に住むのが普通だし、子供もその相手としか作らないんだ。違反したらペナルティーもあるし。もちろん、上手くいかなかったら契約解消もできるんだけど。」

「へえぇぇぇ・・・いいなぁ!」


よし!

これで行ける!!

この流れに乗ればプロポーズできる!!!

俺は覚悟を決めて、考えに考え抜いた台詞を言おうとした。






「コウ!わたしコウとケッコンしたい!ケッコンしよ!」


くっ・・・こう来たか・・・

必死になって考えたプロポーズの言葉が崩れ去っていく・・・

俺は頭を抱えうずくまってしまった。


「コウ!どうしたの?具合悪いの?」

「大丈夫だ、問題ない。」

「ひょっとして・・・わたしとケッコンするのが嫌なの・・・?」


気を取り直して立ち上がると、ナホが泣きそうな顔で俺を見つめていた。


「いや、もともとナホに結婚を申し込むつもりだったんだよ。」

「そうなんだぁ、良かった!」

「実は、地星では男性が結婚を申し込むのが普通なんだ。それで今日はずっとその言葉を考えてたからさ・・・」

「え!あ・・・ごめんなさい・・・」

「いや、知らなかったんだししょうがないよ。じゃあ、改めて、いいかな?」

「はい!」


いろいろ考えていた言葉は全部吹き飛んだ。

直球で行こう。


「ナホ、俺と結婚してくれ。」

「はいっ!」


ナホは物凄く嬉しそうに微笑んでいる。

俺はポーチからルビーの婚約指輪を取り出した。


「指輪?」

「結婚を申し込む時に、相手の左手の薬指にはめる指輪を贈る習慣があるんだ。」

「へぇ、地星の人はロマンチックなんだねぇ。」

「そうかもね。さ、左手出して。」

「う、うん。」


俺はナホの左手を取り、薬指に婚約指輪をはめた。

ナホはうっとりとした表情を浮かべている。


「えへへ、これでコウと結婚した事になるのかな?」

「んー、地星だとコンヤクっていう状態だなぁ。」

「コンヤク?」

「結婚の約束をした状態の事だよ。その後に結婚式をするのが普通なんだ。そしたら結婚した事になるかな。公的にはコンイントドケを役所に出したら成立するんだけどね。」

「結婚式ってどんな風にすればいいんだろ?」


俺の場合は神代三家の本家長男なので、もし地星で結婚式をするとなると神前式で神楽やら何やらフルセットの大袈裟なものになってしまう。

だが、ここはスメラなのでそれに従う必要は無いだろう。


「一般的には、二人で正装して立会人に結婚する事を誓うんだ。出席者は家族とか親戚とか上司とかだな。その後に披露宴っていう、友人達も招待して結婚のお披露目をするパーティーを開くのが普通だったよ。」

「そっかぁ・・・わたしもお母さんやお姉ちゃん達に見てもらいたかったなぁ・・・」


やばい。

ナホが家族のことを思い出して少し悲しそうな表情になった。

とっさに話題を変える為に、俺はポーチから2つの結婚指輪を取り出した。


「その指輪ってなぁに?」

「結婚式の時にこの結婚指輪を交換するんだ。結婚した後にはめる用の指輪だよ。」

「えーーーっ!じゃあ、この指輪は使えなくなっちゃうの???」


ナホが薬指の指輪を残念そうに見つめている。


「いや、婚約指輪は結婚してからでも使えるよ。結婚指輪は、結婚してますよっていうのを表す普段使いの指輪なんだ。だから凹凸が少なくて日常生活の邪魔にならないデザインが普通なんだよ。」

「よかったぁー!」


つい反射的に話題をそらしてしまったが、やはりナホの家族について何も知らないというのもまずいだろう。

そっとしておいてあげたい気持ちもあるのだが、この際なのでちゃんと聞いておこう。


「ところでお姉さんって?」

「4つ上にお姉ちゃんとお兄ちゃんがいるんだ。」

「双子なの?」

「うん、そうだよー。わたしなんかと違ってスメラ星最強の魔法使いなんだよぉ。」


ナホにしては珍しく”わたしなんか”というネガティブな表現を使った。

魔法レベル0の割合は10%程度だからコンプレックスがあるのかもしれないな。

おまけに上二人が最強となればなおさらだろう。


「へぇ、スメラ星最強って凄いな。」

「魔法レベルが凄く高くて、世界大会でも優勝したんだよー。」

「どっちが優勝したの?」

「決勝戦で当たったんだけど、試合中止になったから二人とも優勝扱いなんだぁ。」

「試合中止?天気でも悪くなったのかな?」

「流れ弾が試合会場のバリアを貫通して山脈が吹き飛んじゃったの。」


何と言うか、さすがは魔法というべきか・・・

しかし、そんな強力な魔法使いが居ても壊滅とは、ヘヴ軍ってのは何者だ?


「何て言うか桁が違うな・・・」

「でも、お母さんにいつも怒られてたよ。技術を身に付けなさいって。」

「技術?」

「うん。わたしには良く分からないけど、パワーだけで戦ってるんだって。同格と戦ったらすぐ負けちゃうって言われてたよー。」


確かにパワー系が武器を無茶苦茶に振り回せば厄介だ。

もちろんパワーが劣っていても戦闘技術さえあればある程度の差は十分逆転できるから、魔法でもそれは同じなのだろう。


「そっか、魔法にも色んな戦い方があるんだな。」

「結婚式・・・出て欲しかったな・・・」


ナホが再び悲しそうに俯いた。

俺はナホの体を優しく抱きしめて頭を撫でてあげた。


「見せてあげられなかった分、幸せになろうな。」

「うん!」


空元気かもしれないが、ナホは笑顔で頷いた。

絶対に幸せにして見せる。

再びそう誓った。


しかし、結婚関係の有料サービスが充実している地星でも結婚式の準備というのは大変なものらしい。

明日からは忙しくなるだろう。


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