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求婚-05

さて、いよいよ指輪の製作だ。


もともとは金ベースの合金を作る予定だったのだが、光学レンズ製造用坩堝の素材としてプラチナインゴットがあったので、それを溶かしてプラチナの指輪を作る事にした。

また、CVDターゲットの素材として、パラジウムとルテニウムのインゴットがあったのでそれも回収しておいた。

宝石類も探したところ、レーザー発振器のルビーロッドが見つかった。

ナホは赤が好き色なので丁度よかった。

他にも坩堝や研磨剤にダイヤモンドカッターなど使えそうな道具は持ち帰っておいた。


指輪は3つ作るつもりだ。

ナホの婚約指輪と結婚指輪、そして俺の結婚指輪だ。

婚約指輪にはラウンド・ブリリアンカットにしたルビーをテンション・セッティングする予定だ。


「キット、ツムハを使ってルビーロッドからラウンド・ブリリアントカットに切り出したいんだが、出来るか?」

「ツムハが伝説のヒヒイロカネなら可能です。装甲機動戦闘服のパワーアシスト機構を超精密モードにすればカットに必要な動き自体はできますので。」

「やってみるか!ツムハさん、ただの厨二じゃない事を証明して下さい!」


俺は右手でツムハを抜き、左手にルビーロッドを握った。


「じゃあ、キット頼む。」

「お任せください!ナホさんに相応しいカットをしてみせます!」


キットがやる気に満ちている。

さっそくルビーロッドの結晶方位を分析し、カット面を決めていった。

そして、ツムハはヒヒイロカネである事を十分に見せつけてくれた。

ルビーロッドが結晶方位に従ってスパスパとカットされていったのだ。

それも、研磨の必要が無いほどの平らな面でだ。


「コウ、できました。」

「やっぱりヒヒイロカネなのかな?」

「コランダムをこれだけ簡単に切断できるのですから、おそらく間違いないと思います。」


カットしたルビーを日の光にかざしてみたが、なかなか見事な出来栄えだった。


次は指輪本体の鋳造だ。

セラミック坩堝をツムハで解体し、特務改で溝を掘り3種類の鋳型を作った。

その鋳型に、ツムハで細かく刻んだプラチナ、パラジウム、ルテニウムを90:8:2の比率でセットした。

純プラチナだと柔らかすぎるので合金にするのだ。

特務改の出力を調整しながら温度を上げて溶かしてから、歪まないように降温速度を調整しながら冷ましていった。


温度が十分下がった事を確認し、指輪の原型を鋳型から取り出した。

ここまで、装甲機動戦闘服、ツムハ、特務改に頼ってきたが、少なくともここからは自力で頑張らねば自作の指輪とは言い難い。


まずは、小型のハンマーで形を整えていく。

やり過ぎると脆くなってしまうので、程よく加工硬化するように気を付けねばならない。

指輪の大まかな形はできたので次は研磨だ。

磨く、磨く、ひたすら磨く。

仕上げ用コンパウンドをふき取ると見事な鏡面になっていた。

最後に婚約指輪のルビーを嵌め込んで完成した。


「ふぅ、なんとか出来たな。」

「おめでとうございます。」

「問題はプロポーズを受けてもらえるかどうかだな・・・」

「断られる事を想像する方が難しいのですが?」

「それでも不安なんだよ。キットもプロポーズする事があったら分かるよ。」

「同族に会ってみたいものです。」

「オモさんは同族じゃないのか?」

「彼女の場合は疑似人格ではなく、人工知能のマンマシンインターフェイスですから。」

「へぇ、違うものとは思わなかった。」


普段のオモさんとのやり取りは非常に自然なものなので、キットと同じような疑似人格だとばかり思っていた。


「わたしと彼女が、同じ事象に対して全く同じ事を言ったとしても、その背景は全く別のものですよ。」

「どう違うんだ???」

「人格とは、”理性的本性をもつ個別的実体としての性質”の事です。わたしは疑似人格ですから、わたしなりの正義や倫理に基づいてあるべき答えを導きます。その中から現実的に実現可能なものを探しています。」

「なるほどな。」


簡単に言うと、自分の心に照らし合わせて正しいかどうかが最優先という事だ。


「オモさんの場合は設定された目的を達成するための最も効果的な方法を導きます。そしてその方法を実行する為の手段を構築して実行するのです。」

「うーん、いつも俺たちにとって一番いい方法を選んでくれているように思えてしまうんだがなぁ・・・」

「そう思わせるところまで含んだ手段を構築するので気付きにくいのでしょう。」

「なんか、オモさんが悪人というか腹黒に思えてきた。」

「いえ、それも少し違います。彼女には善意はありませんが、逆に悪意も無いのです。ただ最も効果的な手段を選んでいるだけです。」

「キットはお見通しみたいだから、騙される心配はないか・・・」

「いえ、それは無理です。彼女がそういうタイプの人工知能である事までは分かりましたが、完全に考えている事を読み切るのは無理です。わたしは魔改造されたとは言え端末サイズであるのに対して、彼女は地星より進んだ文明が作り出したシェルター1フロアを占有する規模のスーパーコンピューターですから、リソースが違いすぎます。」

「うーん、いつか騙されそうで怖いな。」


諜報関係の仕事をしていたので、他人を上手く誘導してこちらの意図したように行動させた事は何度もある。

本人は自分の自由意志で行動していると思っているが、人間というものは周囲の環境によってその行動が大きく左右されるのだ。

そして、自分が操られていた事に気付いた時、ほとんど例外なく大きなショックを受けるのを見てきた。

人間にとって自由意志とはそれだけ大事なものなのだろう。


「大丈夫ですよ。人には正義や倫理があります。それに恥じないように振る舞えば、失敗する事はあっても後悔する事はないはずです。」

「お前は本当に人間臭いな。でもまぁその通りだ。自分の信じる道を進むのみだな。」

「はい。わたしも常々そう思っています。」

「なぁ・・・なんでお前はそこまで人格者なんだ?そういうプログラムなのか?」

「いえ、これはわたしが思考して得た結論ですよ。」

「ふむ・・・」

「わたしは機械とソフトウェアで出来ていますから適切なメンテナンスさえ受けられれば寿命はありません。」

「そうだな。」

「そして、作戦上の必要性が無い限り自爆する事も出来ませんし、自爆した場合でもデータのバックアップさえ無事なら何度でも蘇ります。」

「死にたくても死ねないって事か・・・」

「そうです。そしてわたしは一般的なキットと違い、疑似人格故に悔やんだり苦しんだりする事が出来ます。」

「あぁ、そういう事か。」

「はい。人間なら間違った選択をしても最終手段として自殺して楽になる事ができますが、わたしは半永久的に苦しみ続ける可能性があります。ですから、そうならないような生き方を心掛けるようになりました。」

「寿命があるってのは幸せな事なのかもしれないな。」

「寿命の無いわたしから見ればそうなります。逆に永遠の命を望む人も多いですから、お互いに無い物ねだりをしているだけかもしれませんが。」

「正解なんて無いのかもしれないな・・・」


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