大戦-14
デモンストレーションから1か月が過ぎた。
魔法部隊の正式名称は第一魔法大隊となり、約200名の魔法兵が所属している。
魔法の存在を公にしないという条件だったので、編制には手間が掛かった。
視察という名目で各部隊を回り、魔法レベルの高い者をピックアップし、その中から魔法に必要なイメージングが出来そうな履歴を持つ者を選んだのだ。
今は時間が無いので、魔法レベルは高いが物理の知識が全く足りないという者の教育は後回しだ。
有望な者は戦後になってから教育するしかない。
なお、覚醒させる際に1つ分かった事がある。
”魔法使いならば誰でも才能を持つ者を覚醒させられるわけでは無い”だ。
傾向として、魔法レベルの高い者は弱い共鳴でも覚醒するが、低いものは強い共鳴でなければ覚醒しにくいらしい。
異形の者が魔法を発動させた時はかなり離れた場所であったにもかかわらず、わたしだけが覚醒できたのは少佐達よりも魔法レベルが高かったおかげだろう。
逆に、マル大尉を覚醒させた実績のあるエコ中尉に、第一魔法大隊の候補者の覚醒を手伝わせた時に失敗する事があった。
これは、対象者のステータスが低い場合だったのだ。
駄目な場合は何度試しても駄目で、わたしが試すとすぐに覚醒した。
おそらく、魔法レベルが高いと、大きく膨らんだ風船のようにちょっとした刺激で虚界との境界を破る事ができるのだろう。
XMA01はダミーの武装を外し若干の改良を加えられたものが、MA01として予備を含め40機生産され第一魔法大隊に配備された。
最大乗員数は8名に増やされたが、基本構造は同じだ。
また、デモンストレーション時と違い、指揮官と対物バリア担当はそれぞれ1名が割り当てられ、基本的には6名で運用する。
定員を2名分増やしたのは、交代要員の分だ。
もちろんラキ少佐、いや昇進したラキ中佐の部隊にも対物バリア担当が1名補充された。
この新人はわたしが覚醒させる前に、共鳴の余波を受けて既に覚醒していたというレアケースだ。
女性は前線に送れない規則だったので対象から外していたのだが、他の者よりも魔法レベルが高かったので、余波程度でも十分だったらしい。
何の前触れも無く覚醒してしまったせいで、いきなり周囲の魔法気配を感じるようになって動揺したが、最も魔法気配の濃いわたしの元へ相談にやってきた事で覚醒している事が判明したのだ。
なお、共鳴波は実界での物理現象だが、魔法気配は虚界のものだ。
したがって共鳴波はおそらく測定可能だが感じる事は出来ない。
逆に魔法気配は感じる事はできるが実界の技術で測定する事は出来ない筈だ。
ちなみに第一魔法大隊での訓練や戦術の構築は、大隊副隊長のラキ中佐が主導している。
どうも、わたしが当たり前にできると思っている事が実はそうではないという事が多く、中佐が何か魔法に関して困ったときに相談を受けるという形に収まったのだ。
なお、訓練場所は戦略兵器試験場に設営された。
初日に非常用保存食を大量に持ち込んで、自由に食べていいと通達を出したのだが、未だに誰も手を出さない。
勝利の日まで我慢するという事だろうか?
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「おはよう、中佐。」
「おはようございます、大隊長殿。」
「ずっと所長だったから大隊長というのは未だに慣れないな。」
「さすがにここで所長とお呼びする訳には・・・」
「せめて大佐と呼んでくれると嬉しい。ところで、訓練計画は全て終了したと報告があったが、そろそろ戦えそうかね?」
「はい。問題ないと思います。」
「よし、近い内にキレ大将に反攻作戦を発動してもらおう。作戦の説明は中佐に頼む。」
「了解しました!」
そもそも、わたしは研究者なので作戦の立案や説明は苦手なのだ。
キレ大将もその事は十分理解してくれているので、中佐に丸投げでも問題は無い。
そんな事を考えていると、背後から大急ぎで駆け寄る足音が聞こえた。
「隊長!!!」
「どうしたんだ、パラ上等兵?」
パラ上等兵はラキ中佐の分隊に対物バリア担当として配属された女性兵士だ。
人の名前を覚えるのは苦手だが、さすがに自力覚醒型というレアケースなので覚えている。
現在は女性兵士は前線に配属できないのだが、他の者よりも魔法レベルが高く、ラキ中佐の分隊に相応しい人材は彼女しかいなかったので、特例として認めてもらったのだ。
その為、他の隊員より少し遅れての配属となっていた。
「久しぶりだな、パラ上等兵。」
「あ、あぁっ! だ、大隊長殿!し、失礼しました!」
敬礼を交わした。
彼女は、開戦前は国立大学修士課程修了後に民間企業の研究所に就職したばかりだったのだが、人類存亡の危機に瀕して一兵卒として軍に志願したのだ。
修士なら通常は士官学校に行くのだが、”早く役に立ちたいので一兵卒でいい”と申し出たらしい。
なかなか見上げた心意気だ。
「気にしなくてもいい。あぁ、大隊長と言われるのは苦手でね、大佐で頼む。」
「は、はっ!了解しました、大佐殿!」
「ところで、ラキ中佐に用事があったのではないかね?」
「あ、はい。いえ、お邪魔する訳には・・・」
「いや話は終わったから構わんよ。急いでいたようだから大事な話なのだろう?」
「い、いえ、大したお話ではありません。わたしにとっては物凄く大事なのですが・・・」
ずいぶん煮え切らない態度だ。
個人的には重要だが軍務とは関係ない事のようだ。
「遠慮するな、君は中佐の分隊員だ。ちょっとした事でも腹を割って話す方がいい。」
わたしが口を出すと自由に話せそうにないので黙って見守る事にした。
「そうだ。今は時間がある。何でも言ってみてくれ。」
「・・・分かりました。では申し上げます。」
「あぁ。」
「どうして非常用保存食の事を教えて頂けなかったのでありますか!」
「ん?」
「さっき、兵站部隊で聞いたんです!あれは戦闘糧食の代わりに自由に食べていいって!」
「あぁ、確かにそうだが・・・」
「わたしが配属されて25日・・・もう75回ですよ?」
パラ上等兵は涙ぐみ始めた。
「75回とは何のことだ?」
「隊長が教えて下さらなかったから、75回も・・75回も非常用保存食を食べるチャンスを失ったんですよ?そんなもったいない事を・・・」
「い、いったい何を言っているんだ?」
パラ上等兵の頬に大粒の涙が流れた。
その気持ちは痛いほど分かる。
わたしなら75回も食べそこなったのなら死ぬまで後悔するだろう。
ひょっとしたら、激情に駆られてその原因を作った者を素粒子レベルまで分解してしまうかもしれない。
パラ上等兵の受けた仕打ちはそれ程までに惨い。
黙っているつもりだったが、さすがに厳しく注意せねばなるまい。
「中佐、君はいったい何を考えているのかね?そのような悪質なイビリなど、このわたしが許さんぞ!!!」
「た、大佐、しかし・・・」
「いえ、いいんです大佐殿!きっと隊長は忘れていたんです。そんな犬畜生にも劣る極悪非道な事をわざと出来るような方ではありません。」
「そうなのかね、中佐?」
「は、はい、もちろんであります!失念しておりました!」
「わたしもあまりの事につい取り乱してしまいました。中佐がそんな人ではないと分かっていたはずなのに申し訳ありません。」
「ふむ、本来なら独房行きだが、ここは彼女に免じて許してやろう。」
「はっ!以後気を付けます。では、失礼します!」
ラキ中佐は逃げるようにその場を後にした。
しかし75回か・・・パラ上等兵があまりにも不憫だ。
わたしは少量生産に成功したオリハルコンで製作した人類軍最強の重要物保管ケースから非常用保存食を取り出し、彼女に差し出した。
「大佐殿・・・これは?」
「部下の不始末はわたしの責任でもある。せめてこれを受け取ってくれ。」
「あ、ありがとうございます。」
彼女はおずおずと手を伸ばし、わたしから非常用保存食を受け取った。
そして何かに気が付いたように目を見開き、食い入るように非常用保存食を見つめた。
「た、大佐!まさかこのロットナンバーは・・・」
「ほう、分かるのかね?」
「大佐のブログは毎日欠かさず見ていました。まさかこのロットを見る事ができるなんて・・・」
開戦前、わたしは非常用保存食に特化したブログを公開していた。
訪問者は毎日1名だったが、彼女が読者だったのだろう。
そのブログで究極の中の究極、至高の中の至高と言える非常用保存食に出会ったという記事を書いた事がある。
そのロットナンバーは別格だったのだ。
全力で再現に取り組んでいるが、原料や製造工程の偶然の揺らぎが積み重なった神の逸品とでもいうべきか、未だに再現できていない。
「せめてもの詫びだ、遠慮なく食べてくれ。」
「いえ、こんな貴重なものを頂くわけには参りません・・・」
「大丈夫だ。研究所の機密費を総動員してこのロットナンバーは入手可能なものは全て買い占めた。まだ数万個を厳重に保管してある。」
「しかし・・・」
「君のように価値の分かる者が食べてこそ意味があるのだ。」
「分かりました!頂きます!」
奇跡のロットナンバーを口にしたパラ上等兵は、恍惚の表情を浮かべ体を痙攣させていた。
顔は紅潮し瞳は虚ろだ。
半開きになった口元からは涎が垂れている。
まさかこれほどとは・・・
ひょっとするとわたし以上に違いの分かる者かもしれない。
「あ、あぁ・・・も、もうしわけありましぇん・・・ついわれをわしゅれてしまいまひら・・・」
「いや、そこまで堪能してもらえたのならわたしも非常に嬉しい。」
「ありがろうごじゃいましゅ・・・」
「今日は朝まで語り明かそうではないか!」
「は、はひ!」




