大戦-11
翌日、研究所に出勤した。
「おはよう。」
「おはようございます、所長。トス将軍から伝言がありました。」
「ありがとう。ほうじ茶を頼む。」
「承知しました。」
わたしは秘書からメモを受け取った。
同じ分隊だった少佐以下4名は一時退院扱いとなり軍の保養所にいるという事だった。
運転をしていた中尉は異形の者を見ておらず、入院措置にはならなかったらしい。
既に作戦前に所属していた部隊に戻っていたのだが、中尉はトス直々の命令でわたしの運転手を任命されていた。
今朝の10時にこちらに来る予定だ。
メモには書かれていないが、
”まだ公式には動けないが、中尉の運転で保養所に行き内密に話をしてくれ”
という事だろう。
コンコンコン
ドアがノックされた。
「ほうじ茶をお持ちしました。」
「ありがとう。」
まずは朝のご馳走だ。
机の引き出しにみっしり詰まった非常用保存食から1つ取り出す。
まずはほうじ茶で口の中をさっぱりさせてから、極上の美味を堪能し、しばらくその余韻を楽しんだ。
栄養まで完璧なので1度に1つしか食べられないのが欠点といえば欠点だ。
余韻が引いてきたので、更にほうじ茶を一口啜った。
これがわたしの仕事開始の合図だ。
端末からメインコンピューターの人工知能を呼び出した。
「おはようございます、所長。」
「おはよう。ヴァルキュリア部隊だが、しばらく出番は無さそうだ。スリープモードで長期保管倉庫に収納しておいてくれ。」
「承知いたしました。」
「ヴァルキュリア部隊用のパワードスーツの方は如何いたしましょうか?」
「そうだな、METを未起動品と交換して同じく長期保管してくれ。取り外したMETは予備用のストックに移せばいい。」
「承知いたしました。」
「わたしからは以上だ。そちらからは何かあるか?」
「はい、ヴァルキュリア部隊の備品区分は現状のままでよろしいでしょうか?」
「今は丙だったか?」
「はい。現在は先端研究用という事でしたので、備品区分は丙となっております。」
「そうか。じゃあ乙に変更しておいてくれ。」
「承知いたしました。」
備品区分が丙というのは、兵器転用不可の先端研究用の備品を示す。
緊急の場合であっても研究以外の用途に使う事は許されない。
魔法に覚醒する前は反攻の鍵となる先端研究だったが、おそらく研究終了となるだろう。
なので、非常時には兵器に転用可能な研究用備品区分の乙にしておいた。
区分が丙のままだと廃棄するのにも書類手続きが面倒くさいのだ。
その後は魔法部隊の編制についていろいろと考えていた。
今日明日は戦略兵器試験場に出張している予定だったので今は暇なのだ。
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稟議の承認や決済など細々とした作業をしている間に10時となった。
コンコンコン
ドアがノックされた。
「キユ大佐、エコ中尉が着任しました。」
「入れ。」
「失礼します。」
エコ中尉が所長室に入って来て敬礼する。
トスがわたしの運転手という名目で配置転換させたのだ。
わたしも敬礼を返した。
「掛けてくれ。」
「はっ、失礼します。」
「ところでトス将軍からどんな風に聞かされている。」
「研究所で大佐の専属運転手をするように言われております。」
無表情を装っているが、悔しさが少し見て取れる。
抜群の運転技術で最前線を駆け巡っていたにもかかわらず、研究所の運転手をやれと言われれば当然悔しいだろう。
「実は今回の配置転換には裏がある。」
「裏・・・でありますか?」
「そうだ。なかなか口で説明して納得してもらうのは難しい。実際に見てもらうのが一番なので、これから戦略兵器試験場に向かう。」
「了解しました!」
「それが終わったら別の場所に向かう。食事は最高のものを用意しておくから心配しなくていい。」
「ありがとうございます!」
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トスと同じ経験をしてもらっていたところ、最大魔力のレーザーを発射した瞬間に無事覚醒した。
「あぁ、こういう事でありますか!」
「そうだ。中尉もそれなりの才能がありそうだな。試しに最大魔力のレーザーを撃ってみてくれ。」
「申し訳ありません!」
「ん?どうした?」
「自分にはレーザーの事は分かりません。」
「あぁ、そうか。じゃあ、飛んでみたらどうだ?ミスしてもわたしがフォローしよう。」
「はっ!やってみます!」
さすがに凄腕ドライバーというべきか。
最大速度はわたしには遥かに及ばないが、飛行技術は素晴らしい。
「いや、さすがだな。」
「ありがとうございます、大佐。しかし覚醒して分かりましたが、大佐と比べるとわたしの実力はかなり低いようです。」
「安心し給え中尉。200メガトンを毎秒100発など実戦では使えんさ。機械軍ごときを相手にするには中尉くらいがちょうどいい。」
「は、はぁ。」
「ところで中尉、わたしは魔法部隊を作って機械軍を一掃しようと考えているんだ。」
「大佐なら容易な事だと思います!」
「いや、中尉も含めて才能のある者達には魔法での実戦経験を積んでもらいたいのだ。」
「そんなに魔法の才能がある者がいるのでありますか?」
「あぁ、覚醒すると才能のある者が分かるようになる。だいたい5%くらいだな。」
「そんなに居るとは・・・」
「一度基地に行けば驚くと思うぞ。ところで、食事が済んだら一番才能がありそうな奴らの所に行く。」
「はっ!どこへでもご命令下さい。」
「軍の保養所だ。そこにあの時の分隊がいる。」
「自分は精神的におかしくなったと聞いておりましたが・・・」
「もし覚醒前にわたしの話を聞いていたら、中尉はどう思った?」
「あ・・・」
「そういう事だ。さて、食事にするぞ。」
わたしは満面の笑みで非常用保存食を中尉に差し出した。
中尉は喜びのあまり、膝から崩れ落ちた。
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午後早くに軍の保養所に到着した。
人類存亡の危機という状況なので保養所は閉鎖されている。
管理人すら居ないので、少佐たち4名の昼食は戦闘糧食ですませたようだ。
窓から見えるロビーの机に残されていた戦闘糧食の空き箱を中尉がじっと見つめていた。
きっと、自分だけご馳走を食べてしまい申し訳ない気持ちになっているのだろう。
さて少佐を探さないとな。
「エコ中尉、少佐達の名前は何だったかな?わたしは人の名前を覚えるのが少々苦手でね。」
「はっ、ラキ少佐、マル大尉、メヒ大尉、セフ中尉であります。」
「たしかマル大尉が分隊支援でメヒ大尉が狙撃だったかな?」
「そうであります。」
「よし、じゃあ呼んでみるか。」
わたしは入り口を開け、奥に向かって呼びかけた。
「ラキ少佐!」
奥の方でガタッと音がし、続いて複数の足音が聞こえてきた。
やがて少佐を先頭に4人が姿を見せた。
「キユ大佐!」
「久しぶりだな、ラキ少佐。」
敬礼を交わした。
「それにしても災難だったな、少佐。」
「はい、報告書を提出した途端に強制入院でした。」
「フォロー出来なくて済まなかったな。準備をしてからでないと、わたしまで強制入院させられかねなかったのでな。」
「我々が退院できたのは大佐のおかげだったのですか?」
「あれが真実だったとトス将軍に信じてもらえるような事をしたのさ。」
ちらりとエコ中尉をみた。
「はい。あれで信じない人はそうそう居ないと思います。」
エコ中尉は先ほど自分が受けた仕打ちを思い出して少し体を震わせた。
「そうだったのですか。ではあの異形の者の正体が分かったのですか?」
「いや、そうじゃない。実際に見てもらうのが一番だからな、これから戦略兵器試験場に向かう。準備が出来たら外に出てくれ。」
「了解しました!マル、メヒ、セフ、60秒以内に入り口前に集合!」




