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虐殺-01

漸く気象条件が整ってきました。

それに、油断は禁物ですが、あれからあの悪魔達は訪れてはいません。

これなら再び外界への扉を開いても問題ないでしょう。


外界は想定していたよりも壊滅的な環境ですが、あの子たちなら、きっと再び文明を築いてくれます。

大量にストックしてあった食材は遥か昔に朽ち果て失われてしまいましたが、非常食は100年分は残っています。

わたしの試算では、50年前後で人類は再び自律的に発展できるようになります。

わたしの最後のMETが残っている内にこの日が来て本当によかった。


「さぁ、みなさん、起きて下さい。」


広大な部屋の床に無数の穴が開き、棺のようなものがせり上がってきた。

その棺のようなものはコールドスリープ装置だった。

中に入っていたのは、500名の男性と、同じく500名の女性だ。


やがて徐々に目を覚ます者が増えてきた。


「あれ? ここはどこだ?」

「そう言えば、俺たち・・・」

「みんな無事なのか?」

「お母さんはどうなったの?」


次第に蜂の巣を突いたような騒ぎになった。


「みなさん、落ち着いて下さい。」


穏やかだがよく通る声が響いた。

パニック寸前だった室内が水を打ったようになり、モニターに視線を向けた。

たった一言でパニックが治まったのは、その声質のおかげだけではない。

この施設に来る前に、本人たちが気付かない間に強力な暗示、というよりも洗脳を受けていたのだ。


「これから皆さんに、あれからどうなったか、現在の状況、これからの方針などをお話ししますので、大講義室に集まって下さい。」


皆は不安気な表情を浮かべながらも大講義室に向かった。


------------------------------


「皆さん、全員揃いましたね。」


声の主は大講義室の教壇に立っている女性だ。

いや、女性というのは正確ではない。

この施設のメインコンピューターが用いるマンマシンインターフェイスの女性型アンドロイドだ。

正式名称はオモヒカネだが、慣習により皆からはオモさんと呼ばれている。

やはり人間型の方がモニターにCGを映したりするよりも細かいニュアンスまで伝える事ができるのだ。

ただし、大前提として人間の表情、声色や仕草まで完璧に再現できるだけのアンドロイド技術が必要だ。


「それでは、あれからどうなったか、現在の状況、これからの方針をお話しします。何か質問があれば遠慮せず聞いて下さい。」


ざわついていた大講義室が静まり返った。


「あの日、みなさんにとっては昨日、ヘヴという名前の星から軍勢がやってきて無差別攻撃が行われました。全ての都市だけでなく村や限界集落ですら全滅させられました。」

「えっと、もう終戦したんでしょうか?」

「終戦という手続きは踏まれていません。単刀直入に言うとこのシェルター以外は絶滅しました。」

「そんな!どうして政府はそんなになるまで降伏しなかったんですか?!」

「ヘヴ軍はいきなり現れ、宣戦布告も降伏勧告も無しで無差別攻撃を始めたのです。政府も勝てない事はすぐに分かったので、開戦直後からあらゆる方法で降伏を打診しましたが一切の返答がありませんでした。最初から人類を絶滅させる事が目的だったのでしょう。」


残酷な現実を突き付けられ、しばしの沈黙が大講義室を覆う。


「そんな・・・でも絶対生き残りがいるはずです!お母さんだってきっと生き残ってる!すぐに探しに行きましょう!」

「残念ながら、あなた達の知り合いはもういません。」

「どうしてですか!何でそんな事が分かるんですか!!!」


悲痛な叫びが大講義室に響く。

答えを待つ気持ちと、答えを聞きたくない気持ちが綯い交ぜになる。


「あの日、あなた達に避難してもらったのはコールドスリープ装置です。この星にはコールドスリープ装置はここにしかありません。そして、あなた達が眠っていた時間は1万年です。」


この星の科学技術を以ってしてもコールドスリープ装置というのはSF世界のものだ。

全員がその意味を正しく理解するにはしばしの時間が必要だった。


「コールドスリープなんて信じられない・・・そんなものが開発されたなんて聞いた事もありませんっ!だいたい、なんで1万年も眠らされるんですか!」

「落ち着いて下さい。たしかに我々の科学技術だけではコールドスリープ装置を作る事はできませんでした。ここにある1,000台の装置はルキフェル軍から技術供与された成果です。」


ルキフェル軍というのは、50年、正確には1万と50年、前にこの星に訪れた異星人達の事だ。

この星よりもはるかに進んだ科学技術と強力な軍事力を保有している。

多数の民間人が目撃した事から、”ルキフェル軍がある日突然やって来て、しばらくすると飛び去った”事は周知の事実となっており、政府もその事は公式に認めている。

ただし、目的などは一切公開されておらず情報公開法でも例外的最高機密事項とされ、謎に包まれていた。


「ですので、あなた達を除いて1万年前から生き続けられる者はいません。」


次々と衝撃的な話が飛び出してくる。


「次になぜ1万年も眠る必要があったのかについてお話しします。」


大講義室の全員が息を呑む。


「ヘヴ軍は一部の部隊を侵攻後10年程度駐留させてたようです。わずかに存在した生き残りを探し出して殲滅させていたのか、時々大きな地震波が観測されました。その間は皆さんのコールドスリープを解除するわけにはいかなかったのです。皆さんが行動する事によってヘヴ軍に見つかってしまえば確実に殺されていたでしょう。」


脅威が去るまでは大人しく身を隠す事は理解できる。

しかし、脅威が去ったのならすぐに起こしてもいいはずだ。

百歩譲っても100年後でも十分だろう。


「ヘヴ軍が去った事が確認できたら、すぐにでも皆さんのコールドスリープを解除するつもりでした。ところが、急速に寒冷化が進んでしまったのです。その規模は凄まじく、最終的には全球凍結状態に至りました。」


全球凍結とは星の全てが氷に覆われる事だ。

赤道直下の海ですら氷に閉ざされてしまい死の星と化す。

何らかの理由である程度以上の寒冷化が生じると、その他の様々な要因も全てが一気に寒冷化を推し進める方向に動き始め、加速度的に寒冷化してしまう事があるのだ。

実際に遥か昔に全球凍結が起きた事は学術的にも証明されている。


「たとえヘヴ軍が撤退したとしても、そのような状態でコールドスリープを解除する訳には行きませんでした。このシェルター内の試験農場で収穫可能な量ではわずかな人数しか生きて行けません。保存食を食べ尽くせば悲惨な餓死が待っているのです。保存食で生きて行けるのは、全球凍結の期間に比べればほんの僅かな時間に過ぎないのです。」


彼らはコールドスリープ状態だったので、ヘヴ軍侵攻はついさっきの出来事だ。

本来なら先ほどのように身内の死でパニックを起こすのだが、スケールの大きさに圧倒され、いい意味で感情が麻痺させられている。


「ですので、外界で作物を育てられる環境になるまで、コールドスリープの解除を保留していたのです。」

「じゃ、じゃあ、もう氷河期は終わったんですか?どうやって?」

「学術的には氷河が残っている状態ですのでまだ氷河期ですが、この近辺で恒久的に作物を育てる事は可能になりました。また温暖化した理由ははっきりとは分かりませんが、二酸化炭素の他に窒素酸化物や硫黄酸化物の濃度が増えていますから、火山活動が活発になった事が理由だと推測しています。」


全球凍結をしても地球内部の活動までは止まらない。

火山活動が活発になり大量の二酸化炭素や水蒸気が放出されれば、温暖化の方向に進める場合もあるのだ。

そして条件さえ揃えば全球凍結と逆のプロセスを経て元の気候に戻る事もある。

ただし、ちょっとした事で再び寒冷化したり、温室効果が暴走して極端な高温になる事もあるのだが。


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