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遭遇-03

俺はオートクルーズの静音モードを利用して、当日中に洞窟前に戻って来た。

静音モードは着地時に足部アクチュエーターを精密制御する事で可能な限り音や振動を出さない機能だ。

速度は落ちるが、洞窟周囲に何らかの測定器が設置されている以上、用心するに越したことは無い。


「どうやら異常には気付いているみたいだな。」

「17時に実施していた定時連絡の電波が発信されていませんからね。」

「無線機まで壊してしまったのか、奴らが連絡すると不審に思われるからか・・・」


普段と違い、日が落ちてからも数名が交代で洞窟の外に出ている。

双眼鏡で鍾乳洞の方角をしきりに観察しているのが見える。

地形的には直視する事は出来ない筈だが、灯りや煙が見える事を期待しているのかもしれない。


「奴らの方はどうしている?」

「見つからないようにしているようです。」


HUDに赤外線カメラの映像が映し出された。

多少の知識はあるようで、窪地にタープで簡易テントを作って野営している。

もっとも、高度20,000mから偵察している蒼雷からは丸見えだが。


「少なくとも友好的ではないか・・・」

「一番可能性が高いのは奇襲攻撃を企てている、でしょう。」

「そうだろうな。どっちに与するべきか・・・」

「判断材料が不足していますね。なるべく早く言語解析できるように努めます。」

「あぁ、頼む。はっきりするまでは静観しよう。」


奴らは大量殺人を行った。

だからと言って、悪だと決めつける訳にはいかない。

殺した数で善悪が決まるなら、俺は大悪人になってしまう。

それに善悪など立場で逆転するものだ。

ひょっとしたら、奴らは長年理不尽に虐げられてきた奴隷で、追い詰められて止むにやまれず蜂起したのかもしれない。

あるいは、アンドロイドに支配されたこの星の人類を開放する為に立ち上がった勇者なのかもしれないのだ。


------------------------------


翌朝、また動きがあった。


5名の捜索隊らしきチームが編制されている。

拡声器のチェックをしているのが集音マイクを使わなくても聞こえてくる。


「キット、今日中に奴らと捜索隊が接触すると思うがどうだ?」

「はい。これまでのペースなら16時半頃に遭遇します。」

「じゃあ、16時になったら奴らと捜索隊の映像と位置情報を常時表示してくれ。」

「了解しました。」


その後は洞窟周辺の観察を続けたが、普段と変わりなかった。

時々、鍾乳洞の方を見る者が多かった程度だ。

捜索隊も武器らしきものは携行していなかった。

つまり、洞窟側では事態を正確には把握していないという事だ。


------------------------------


16時になった。


「少し動きが出て来たな。」

「はい。3か所に分かれましたね。」

「捜索隊の待ち伏せだろうな。お手並み拝見だ。」


1名が広場近くの岩影、1名が鍾乳洞側に少し戻った岩陰、残り8名が100mほど離れた窪地に展開した。


暫くすると待ち伏せ地点に捜索隊がやって来た。

荷物を下ろしてほどき始めたので、ここで野営をするのだろう。


動きがあった。


鍾乳洞寄りに待ち伏せしていた者が手を振っている。

きっと捜索隊に呼び掛けているのだろう。

さすがに上空20,000mからでは音声までは拾えないのでもどかしい。

釣られて捜索隊の5人全員が走り寄って行く。


4人が倒れた。


「頭部を2発ずつ撃ち抜いています。」

「腕前っていうより、自動照準補正のおかげだろうな。」

「そうでしょうね。」


生き残りを拘束した後、何やら集まって作業をしていたようだが、内容は分からない。

その後、1名が広場から離れた。


「洞窟方向からの電波を受信しました。20秒ほど応答してそれきりです。」

「人質を取って一方的に条件提示か?それにしては妙だな・・・」

「見せしめとして殺す為に、少なくともあと一人は生かしておくべきでしょうね。」

「あぁ、それに人質の声を聞かせるのも定石だしな。地星とは違うのかもしれないが・・・」

「生体認証が必要なゲートでもあるのでしょうか?」

「その可能性もあるが、その場合は連絡を入れるのは妙だしな。」

「そうですね・・・」

「現状では観察を続けるしかないな。言語解析はなるべく急いでくれ。ただし、焦るなよ、俺達の安全が第一だからな。」

「了解しました。」


------------------------------


翌日、奴らは人質を連れて移動していた。

人質は後ろ手に縛られ、猿ぐつわを噛まされている。

さすがに歩きにくいのか移動速度はかなり落ちている。


17時になり、昨日と同じように一人がやや離れた場所に移動して無線通信を行った。


「キット、どうだった?」

「昨日と同じでした。一方的に話したきりです。」

「謎だな・・・ん?」


人質が逃げ出した。

そして、しばらくしてから全員が一斉に頭を撃ち抜いた。


「何なんだろうな?」

「人質の可能性は低くなりましたね。」

「誰も追いかけず躊躇わず殺す・・・用済み・・・偽装工作か?」

「何も問題ないと油断させている・・・という事ですか?」

「定時連絡が終わるまでは生かしておいた、明日の朝には洞窟に到着する、から考えるとそれが妥当そうだが・・・」

「通信機が生体認証を必要とするタイプだったのでしょうか?」

「そうかもしれないな。ともかく、明日、何か仕掛けるのはほぼ間違いない。」

「そうですね。こちらはどう動きますか?」

「基本的には静観する。だが、臨機応変に動けるようにはしておくつもりだ。」

「了解しました。」


------------------------------


翌日の朝、奴らが動き始めた。

戦闘服姿の3名が、普段着姿の7名から武器を受け取ると岩陰に隠した。

7名が前を歩き、3名がやや離れて後ろに続いた。

特に脅されている様子ではなかったので、偽装人質という事だろう。

わざわざ普段着に着替え直した理由が分かった。


広場に全員が出てすぐ、奴らは洞窟と広場を結ぶ位置に現れた。

俺は夜明け前に、そこから200m程の窪みに身を潜めていた。


「キット、広場には何人いる?」

「男性395名、女性500名です。アンドロイドは居ません。」


500名も居れば生理中の女性も居る筈だが、全員広場に出てきているようだ。

鍾乳洞で内臓の構造などは地星人と同じだと確認したが、それは全員男性だった。

女性は地星人とは違うのかもしれないな。

あるいは文化の違いかもしれないが。


そんな事を考えていると、戦闘服の3名の前に偽装人質の7名が跪かされ両手を頭の後ろで組まされた。

短機関銃タイプのコイルガンの銃声が1発鳴り響き、広場に居る者達が一斉に振り向いた。


中央の男が何かを叫んでおり、広場からは非難めいた怒鳴り声が返されていた。

すると、中央の男が短機関銃を偽装人質に向かって掃射した。

明らかに血や肉片が飛び散っている。

どうやら偽装人質では無かったようだ。

中央の男がもう一度叫ぶと、広場で動きがあった。

男女に分かれて集合しているようだ。


そして、いきなり、虐殺が始まった。

使っているのはレーザー銃だ。

反動が無いので素人でもコントロールが容易だ。

METを動力源にしていればオーバーヒートするまでは途切れること無く掃射できる。

自動照準補正を使いながら開けた広場にいる無防備な集団に対して横薙ぎに撃ち続ければ、あっという間に死体が量産できる。

3人掛かりで掃射しているので、400人を肉塊にするのに30秒も掛からなかった。


暫くして、中央の男が女性側の集団に何かを叫んでいた。

呆然としている者、泣き崩れるもの、頭を抱えて座り込む者、そんな中、一人の女性が戦闘服の3名に向かって歩き出し、怒気を孕んだような声で何かを叫んだ。

それに対し、中央の男はレーザー銃をその女性に向けて構えようとした。

俺はより詳細に状況を確認する為にHUDに望遠映像を映し出す。






そして・・・惚れた。

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