遺跡-03
転移から7日後
さすがに焦りが出てきた。
海につながる比較的大きな河でも食料が見つからなかったのだ。
いよいよ餓死が現実味を帯びてきた。
食料の残っているうちに、何とか暖流の流れる海まで辿り着こうとしていた時だった。
「コウ、ちょっと待ってください。」
「ん?どうした?」
「極僅かですが金属反応がありました。5m戻ってスキャンしてもらえますか?」
「あぁ、それくらいなら問題ない。」
俺はHUDの表示に従い、少し戻った。
「11時方向に反応あり。スコープに映して下さい。」
「分かった。朽ち果てた車とかじゃない事を祈るよ。」
俺はHUDに表示される指示に従って特務改の向きを調整していった。
「これは・・・建物の入り口か?」
「おそらくそうだと思います。」
「しかし建物がほとんど埋もれていて入り口だけむき出しとは妙だな。」
「この星の建築美なのかもしれませんが、おそらく隠匿されていた入り口が氷河の浸食作用によって姿を現したのでしょう。」
「無傷で残っている建物かもしれないか・・・この距離だと警戒しながらの往復と調査で丸一日かかるな。」
「海まで行って駄目だった場合、ここまで戻ってくる事はほぼ無駄な時間になります。」
「それもそうだな、調査しよう。」
「コウもMETが使えればいいのですが。」
「ははは、サイボーグにでもなるか?一応、あの建物の座標はマーキングしておこう。」
「了解しました。登録名は何にしましょう?」
「そうだな、取り敢えず、”遺跡”にでもしておくか。」
------------------------------
それから6時間後、俺は遺跡の近くに辿り着いた。
「遺跡と名付けたが・・・かなり進んだ文明みたいだな。」
「そうですね、見た目では日出国と同等かそれ以上の文明の印象を受けます。」
「早く中を見てみたいが、まずは安全チェックだな。」
「はい、隠匿施設だった場合、防衛機構が備えられている可能性があります。」
「キット、虫型偵察ドローンを起動、入り口周辺の防衛機構の確認と侵入方法の調査を行わせろ。」
「了解しました。」
虫型偵察ドローン収納ケースのハッチが開き、黒くて扁平な体長3cm程度のドローンが翅を広げて俺の足元に飛び降りた。
キューさんがその世界最高レベルの頭脳を果てしなく無駄に使い、昆虫学者ですら外見からは本物と見分けがつかないそれは、物陰を伝って素早くカサカサと走っていった。
俺もドローン帰還待ちの間に観察してみたが、最近出入りした痕跡は見つからなかった。
入り口はほぼ人間用の大きさだが、資材搬入口など他の用途かもしれないのでこの星の知的生命体が人間サイズなのかどうかはまだ分からない。
あとは・・・ドアに取っ手類が無い事から、おそらく自動ドアだろう。
あまり大したことが分からない内にドローンが帰還したことがHUDに表示された。
「キット、どうだ?」
「アクティブタイプのセンサー類は無いようです。監視カメラらしきものは見つかりましたが、レンズは汚れきっており動作はしていないと思われます。入館用の認証端末らしきものが見当たりませんので、おそらく内部からしか開閉できないドアと思われます。なお、ドアの材質は分析できる範囲内では、ミスリルとほぼ同じ特性を持っており厚さは約10cmです。」
------------------------------
装備開発課は研究開発部門で素材の開発も行っている。
現在はコードネームとして”ミスリル”、”オリハルコン”、”アダマント”の3種類がある。
装備開発課では外国の伝承からコードネームをつけているが、開発内容と伝承の内容は無関係だ。
万が一にも情報漏洩した際に、コードネームから性能を類推されるような間抜けな事態を引き起こさない為だ。
ミスリルはレーザー耐性と防弾性能を持つ合金だ。
もちろん、レーザー耐性と言っても無効化できる訳では無く貫通されにくいだけだ。
すでに少量の評価用サンプルは完成しており、歩留まりの向上と生産性および低コスト化に向けて開発を進めている段階だ。
キューさんがアホみたいな初速のレールガンを開発したのは、このミスリルが他国に漏洩して日出国のレーザー優位性が脅かされた場合を想定しての事だ。
・・・少なくともレールガン予算稟議書の目的欄にはそう書かれているだろう。
オリハルコンはミスリルの10倍以上の性能を目標とした合金だ。
まだ基礎研究段階であり合金構造を実現する為に試行錯誤中である。
微結晶の前駆体が奇跡的に出来たレベルであり、本当に出来るかどうかは不明だ。
アダマントはオリハルコンの次の世代のコードネームとして設定されているだけで目標性能すら定められていない。
------------------------------
「となると、とりあえず近づくしかないか。いや、撃ってみるか?」
「そうですね、パッシブセンサーで近付いたら蜂の巣になるかもしれませんから、威力偵察をする方がいいかもしれません。ただし、生存者が居た場合は敵と認識される恐れがあります。」
「見た感じ、生存者は居ないようだし撃ってみる。防衛装置が隠されていそうなところを掃射してみてくれ。」
「了解しました。」
俺は隠れていた岩の陰から立ち上がり、特務改をドアの方に向けて構えた。
電子スコープに掃射ポイントのロックオンマークが次々と表示される。
引き金を絞った一瞬後にはドアの周囲は破壊されつくしていた。
「特に武器が隠されていた訳では無さそうですね。」
「そうだな。しかし外壁の内側にまでミスリルとはなぁ。」
「この星では完全に量産体制が確立されていたようですね。」
「ついでに地星に帰る手段もあればいいんだがなぁ。」
「とりあえずこの建物を探索ですね。」
「あぁ、ところでミスリルのドアはどうする?特務改で焼き切るか?」
「念のため、小孔を開けて空気中のウィルスやガスを検査しましょう。特務改なら10cm程度のミスリルなら簡単に貫通できます。」
「分かった、そうしよう。」
瓦礫の中から平らなものを選び中央付近に孔を開け、ガス封入管をトラップ用に装備している粘着性のパテで固定した。
周囲にも隙間なくパテを塗りドアに立てかけると、ドアの下側に目印を書き、特務改のバイポットを調節して照準を合わせる。
準備が終わったので、瓦礫で作った簡易蓋を手に目印のすぐ横に立ち、すぐに孔を塞げるように構えた。
「キット、準備完了だ。念のために吸気口はNBCフィルタにバイパスしてくれ。」
「了解しました。バイパス完了。カウントダウン3で射撃します。 3,2,1,発射 貫通しました。」
俺はすかさず瓦礫の蓋を貫通孔に被せた。
ガス封入管と統合索敵センサーを繋ぎ測定を開始した。
「測定完了しました。既知の有害なウィルス、病原菌、毒ガス成分は検出されませんでした。ただし、地星には存在しないタイプのBC兵器が存在するかもしれません。」
「ま、取り敢えず一安心だ。指示あるまでNBCフィルターのままにしておいてくれ。じゃあ焼き切るか。」
「コウ、少しお願いがあるのですが、ミスリルへの実射テストをしてもいいでしょうか?」
「まぁ、構わないが、前に研究所でやらなかったか?」
「サンプル数が限られていたので統計学的なテストしかできていません。可能ならやはり実射で試したいのです。それに、この星のミスリルが同じ特性かどうか少々不安ですので。」
「分かった。時間はどれくらいかかる?」
「5分以内に完全なデータが取れます。」
「よし、好きなだけ撃ちまく・・・いや、ちょっと待ってくれ。」
「どうされました?」
「ちょっと思いついたんだが、せっかくミスリルがあるんだから装甲板の形に切り出せないか?」
「なるほど、それはいいアイデアですね。データ取り後に板状に切り出しますから、後で加工しましょう。」




