帰郷-04
翌朝、寝坊をしてしまった。
神軍では無かったので気が抜けたのかもしれない。
ダイニングルームに行くとキッチンからいい匂いが漂っていた。
「おはよう、キット。」
「おはようございます。よく眠れたみたいですね。」
「面目ない。」
「いえ、信頼して頂けるのは嬉しいですから。」
キットがキッチンから現れた。
レールガンをマウントした装甲機動戦闘服にフリフリエプロンというシュールな恰好だ。
右手に握っているのはコイルガンではなくオタマだった。
「いい匂いだな。」
「ありがとうございます。ただ、ミツリンでも生鮮食料品は1時間便の対象外でしたから、あまり大したものはご用意できませんでした。」
「何を作ったんだ?」
「昆布とイリコ出汁のお味噌汁で具は乾燥わかめです。御飯は土鍋で炊いてみました。おかずは残念ながら鮭フレークとサバ味噌缶となります。」
「いや、それだけあれば十分だよ。ありがとう。」
気を使って海の食材系を選んでくれたのだろう。
海の生態系は気象に与える影響が非常に大きいので、スメラでは海水魚や海藻の繁殖にはまだ着手できておらず、食べる事が出来ないのだ。
「もう準備は出来ていますが、召し上がりますか?」
「顔洗ってくる。戻ってきたら食べるよ。」
「ごゆっくり。」
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朝食は美味かった。
ナホの料理は間違いなく美味いが、いかんせん出汁や調味料が揃っていない。
地星土産としてたっぷりと買って帰ろう。
キットが食器を洗っている間、食後の紅葉草を燻らせながら過ごした。
食器をしまう音が止み、フリフリエプロンを外したキットが戻って来て敬礼した。
「準備完了です。」
ここからは作戦モードだ。
「まず儀処の里の近くに転移する。洞窟内部に人が居ない事を確認したら、例の広場に転移して奥を捜索する。」
「部隊行動基準はどうなりますか?」
「命令するまで発砲は厳禁だ。俺がバリアを張っている限りは無効化できるから、撃たれても反撃するな。」
「はい。」
「想定される状況だが、広場に情報インストール装置があった事から考えて、洞窟内に瞬間移動テスト艦が存在している可能性が高い。ただ、妙な事に、ナギとナミに相当する魔法気配が感じられない。」
「もう亡くなってしまったのでしょうか?」
「テスト艦にはコールドスリープ装置があっただろ?」
「はい。外宇宙でのテスト用に2つ搭載されていました。」
「あの二人には”安全装置”が組み込まれていた筈だから、神軍と戦うまではコールドスリープを使って生き延びようとする筈だ。」
「矛盾しない状況は三つ考えられます。」
「どんな状況だ?」
「一つ目は、過去にコウが魔法気配を感じられない程の高レベル魔法使いが誕生し、その者がコールドスリープ装置を使ったあるいは使っているという状況です。装置の数が限られているなら、戦力的にそちらを優先するでしょう。」
「まさかそんな高レベルは・・・」
「コウ、自分だけが特別だと考えるのは危険ですよ?」
「そうだな。その可能性を排除するのは危険だな。自信過剰になってたみたいだ。部隊行動基準に追加する。バリアを貫通する攻撃を受けた場合は即座に転移して離脱する。」
「分かりました。」
「二つ目は、二人は既に立ち去っているという状況です。」
「一部の機器だけ残していったって事か。」
「ひょっとしたらコウが転移した時にはまだ居たかもしれませんが。」
「覚醒前は魔法気配は分からないからな。じゃあ、もぬけの殻の可能性もあるか。」
「その場合はどうされます?」
「撤退して親父たちに聞き取り調査するしかないな。」
「三つ目は、コールドスリープ装置の故障です。存命中に修理出来なかった場合は、寿命を迎えてもおかしくありません。」
「修理は難しいのか?」
「ここ200年以内で無ければ、故障箇所によっては資材調達の点で修理は困難だったかもしれません。」
「いや、二人の魔法レベルなら石器時代でもレアアースインゴットだろうと問題なく調達できる筈だが?」
「パワーだけで戦うタイプという事でしたから、複雑な魔法が使えるとは限りません。」
「そうか・・・MSが開発されてるくらいだからな・・・」
「はい。二人の魔法レベルは分かっていますが、詳しい情報はありません。」
それからしばらくキットと検討を続けた。
「結局のところ、俺より強い魔法使いに気を付けながら現地調査するしか無いな。」
「先に特務隊には行かないのですか?」
「転移の時の様子だと全員グルだと思う。最初に洞窟を抑えないとまずい事になる気がするんだ。」
「コウの勘は当たりますからね。」
「よし、行くぞ!」
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俺たちは儀処の里の近くに転移した。
儀処の里は都から南東に進んで海に突き当たる少し手前にある。
ちなみに特務隊の拠点はその中間あたりだ。
「洞窟内に魔法気配は無いな。キットの言う通り、俺より高レベルの魔法使いだったら分からないが。」
「あの入り口の部屋は神代三家当主しか入れない事になっていますから、一般人は居ないでしょうね。」
「そうだな。一気に行くぞ。広場に転移して奥を目指す。念の為、音を立てないように俺が飛行魔法で移動する。」
「はい。」
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洞窟深部の広場に転移した。
予想通り誰も居なかったので奥の方に進むと広大な空間が広がっていた。
奥行500m以上はあるようだ。
『もぬけの殻か?』
『いえ、あそこに何かあります。』
キットが指さした方向には確かに何かの装置があるようだ。
『よし行くぞ!』
『はい。』
一番手前には見覚えのある装置が一台置かれていた。
「これは、コールドスリープ装置か?」
「おそらくそうでしょう。シェルターのものと似ています。」
「一台しかないな。」
「妙ですね。テスト艦には二台あった筈ですが。」
「そうだよな・・・」
「で、こっちはアレだな。」
取り出し口らしきところに見慣れた非常用保存食があった。
「瞬間移動テスト艦には最新型の非常用保存食の自動製造装置が搭載されていました。おそらくそれでしょう。」
その横には冠のようなものとケーブルで繋がれた装置があった。
「これは情報インストール装置だな。下層で見たのと同じだ。」
「そうですね。」
「で、いつまでだんまりを決め込んでいるんだ?フツヌシ。」
俺は機密情報ファイルに載っていた艦載コンピューターに話しかけた。
「やはりバレていましたか。初めまして、サンノウ・コウサイさん。」
「お前が”神器”なんだろ?」
「返答は控えさせてもらいます。」
「そうはいかない。色々と話してもらうぞ。」
「残念ながら、わたしはスメラ軍に出向しておりその指揮下にあります。機密保持義務が課せられている為、話す事は出来ません。」
「それなら話は簡単だ。」
俺はスメラ星仕様の見慣れたキーボードを操作し、大統領IDを使ってログインした。
「原始的な認証方法ですね。しかし、これであなたをスメラ星の大統領と認証するしかありません。」
「そう言う事だ。信じるかどうかは別として、俺は実際にスメラ星の大統領になっている。」
「認証した以上、本当でも嘘でも構いません。スメラ軍指揮下の事柄に関しては、大統領として認証した人物に秘匿する事はありません。」
「お前が事実の一部を黙っていたり嘘をついたりしない保証はあるのか?」
「証明する方法はありません。ただ、閣下の魔法レベルが聞いている通りなら、わたしとしては友好関係を築きたいので正直に話しますよ。」
「とりあえず、これまでの事を聞かせてもらおうか。」




