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第9話〜コネクション

 栄人は美鈴が次の戦闘のミーティングのために基地に行く待ち合わせの時間よりも6分早く家に来たので、急いで行く支度をしていたところだった。6分前に来るとは思ってもいなかったので栄人は、未久留と共にのんびりと自分の部屋でお茶漬けを食べていたところだ。

残りのお茶漬けを一気に口に箸で放り込み、支度を始める。支度と言っても、準備するものは護身用の銃とナイフにメモ帳といったものだけだが。

「じゃ、ちょっと基地まで行って来るから部屋の中でおとなしくしてろよ。」

「あ、はい、わかりました・・・。あ、あの・・・・早く戻ってきますか・・・?」

「それはわからねぇよ。ま、特に用事がなかったらすぐに帰ってくるから大丈夫だ。」

座ったまま不安げに栄人を見上げて言う未久留は、やはり1人でこの場所いるという事が不安らしい。実際に栄人が少し部屋を離れているうちに美鈴が来てしまったという例があるわけであるし。

あの時は、たまたま出くわしてしまったのが美鈴だったからよかったものの、もしも災厄軍を強く憎んでいる他の義勇軍の誰かなどと出くわしてしまったら最後、おそらく命はないだろうと未久留自身は考えていた。

災厄軍を憎んでいるという項目については、栄人も当てはまってはいるのだが。

しかし、今の状況の未久留にとっては栄人に早く帰ってきてほしいとお願いをすることが唯一のわがままなのかもしれない。

「じゃ、行って来る。」

栄人は部屋を出るといつもよりも若干速いリズムで階段を下りていった。

「栄人遅いよー!6分も遅刻してるじゃん。」

「お前が単純に6分早くきただけだ。」

家を出たそのすぐ目先には美鈴が退屈そうに待っていた。話を聞く限りでは美鈴はどうやら自分が早く来たという自覚がまるで無いらしい。おそらく、わくわくしすぎて待ち合わせの時間まで待てなくなって早めに家を出てしまったといったところだろう。

しかし美鈴らしいと言えば美鈴らしいが。

基地へはくだらない話をしながら歩いて15分ほどで着いてしまった。栄人はその早さに気がつくと、今から行う次の戦いのミーティングもこれくらいの短時間で終わって欲しいと心から願った。―――――――――――



「それでさー栄人。本当に来るの?災厄軍とその人型の核って。」

「わからねぇからこうして見てまわってるんだろ。ったくクソ親父のやつ・・・俺らを見回りに使いやがって。パシリ同然の仕事だぜ。」

「こらこら、文句を言わないの。」

かなり長いミーティングを終えた後、栄人と美鈴は村の周りの警備にあたっていた。他にも複数の隊員が警備にあたったいる。

村の周りはわりと静かですぐ近くには森があり、その傍では川が流れている。その風景はどこかの山奥の田舎を連想させる。しかし実際にそうなのだが。

村の周りを巡回している途中で、美鈴に非力な手刀をくらった栄人は1人で疑問を抱き続ける。

確かに本当に今日この場所で、手紙の内容通りに災厄軍の連中と凄い威力の人型をした核なんて来るのか?いまいち信用できねぇんだよな。

あの後ミーティングで告げられた内容は、災厄軍に潜伏しているスパイからの手紙で、今日この場所に災厄軍と強力な威力を持った人型をした核が来る。災厄軍はその核を捕獲してこの村で爆発させるらしい。至急村周辺の警戒と戦いの準備を。とのことである。

そしてそのために栄人や美鈴は敵がどこから来てもいいように警備しているのである。

しかし、あまりにも急すぎるため栄人はまだ状況をうまく理解しきれていなかった。突然攻めてくるだの核を爆発させるだの言われても、早急に状況を把握して行動に移ることなどは極めて難しい。

その警備などよりも今の栄人には、早めに帰ってくるといったのに警備で帰るのが遅くなってしまい未久留に申し訳がない気持ちでいっぱいである。

「そういえばさ、栄人。未久留ちゃんを栄人の家に置いてきちゃったけど大丈夫なの?」

「家にいるのが一番安全なハズだ。クソ親父もどうせ帰ってこねぇからな。それに、あいつは何かマズイことをやらかすような奴じゃないから大丈夫だ。」

「おぉ。まだ会って間もないのに随分と未久留ちゃんを信頼してるんだねぇ。もしかしてそういうのを愛の形って言うのかな?いやぁ栄人君は青春してますねぇー。」

「鈍器で殴るぞ。」

「わー、ごめんなさーい!」

美鈴は笑いながら頭を手で抑えるジェスチャーをしてみせる。このてのやり取りはもう慣れてしまうほどやってきた。

美鈴が栄人をからかってそれを栄人が力づくで撤回する。栄人にとって以外にもやっていて飽きないらしい。

1人で思考していると横から美鈴が服の袖をぐいっと引っ張ってきた。

「ん?何だよ。」

「あそこにいる人たちってさ、村の人じゃないよね?なんか他の隊員ともめてるみたいだし。ねぇ栄人、行ってみようよ。」

美鈴が指し示した森の方を見てみると、そこには確かに見慣れない顔をした2人組がいた。見た目と容姿からして女性だと遠くからでも見てとれる。

その2人を栄人たち以外の他の隊員が村の中に入れないように立ちふさがっていた。

美鈴に引っ張られながらも栄人は少し気になったので、そのもめている所へと近づく。近くに行ってみて気がついたのだが、その森の方から来たと思われる2人は、護身用かはわからないが武器を所持していた。

1人はそれなりに射程距離もあるであろうと思われる銃、もう1人は・・・・刀を腰にさげていた。

「だからあたし達は災厄軍なんかじゃないし、兵器とかも持ち込んでないってさっきから何回も言ってるでしょ!」

「それを証明する証拠がない限りはここを通すことはできん!引き返せ。」

2人のうちの1人の少女の方と立ちふさがっていた隊員の1人が何やら言い合いをしている。その少女はまだ顔立ちも少し幼さが残るほどの年齢に見えた。しかし栄人がそれよりも気になったのは、少女の綺麗な頬に無数の返り血と思われる赤い液体がついていたことだ。敵に追われていて、途中でなんらかの戦いがあったということなのだろうか。

2人が言い合いをしているところに、後ろから見ていた少女と一緒にいた女性がわってはいる。

「すまないが私達は今敵に追われている状況にある。ここで行き詰っているとあなた方も巻き込まれる可能性があるんだ。ここはあなた方とこの村のためにもここは通してもらいたい。」

その女性の交渉にも立ちふさがっている隊員はまったく動じることなく首を横に振る。

「それはできん。それに貴様らがここから引き返せばいいことだ。」

隊員の冷酷な返答を聞いた少女は隊員の胸ぐらを掴む勢いで前に出る。睨みつけるように隊員を見ている。もう少しで刀を抜いていしまうのではないかという雰囲気すら感じさせている。

「ちょっと、それって私達に引き返して敵に殺されて来いって言ってるの!?」

「残念だがそういうことだ。さぁ早く引き返せ。さもないと力づくでも追い返すぞ。」

隊員は手に持っていた銃を2人につきつけて引き返すように急かす。おそらくその隊員は銃さえつきつければ2人はおとなしく引き返すと思っていたのだろう。

しかしその2人は反応が違った。特に浴衣を着て銃を所持している女性の方の反応が。

その女性は隊員の言葉を聞くと、笑っていた。わずかに口元を歪ませていたのだ。

「仕方ない。彼女を死なせるくらいだったら私はお前を殺す。そしてここを通してもらう。」

「な、何だと!?俺を殺したら他の隊員達が黙ってないぞ!」

「それでも構わない。無蘭を守ることができるならな。」

隊員の表情から徐々に余裕が消えていく。隊員は気がつき始めていた。この女は何かヤバイ。このままだと本当に殺される、と。

銃を持った女性は銃口を隊員へと向けて引き金に指をかける――――――


「ちょ、ちょっとストーーップ!!」


見るに見かねた美鈴が手に持っていた銃をその場に置いて、あわてて隊員と女性の間に走って入る。2人の間に入ったので、下手をすればそのまま美鈴が誤って撃たれるという可能性もあったのだが、美鈴はそんなことは計算するほど頭がまわらなかったらしい。

女性は若干驚きながら銃をすぐにおろす。隊員の方は美鈴が突然介入してきた驚きと、女性に殺されないで済んだ安堵感が入り混じった複雑な表情をしていた。

栄人も気がついたら美鈴が横にいなかったので、急いで自分も美鈴のもとへと向かった。

「ま、まぁまぁ落ち着いてって!何でそうなったのかあまりよくわからないけど、あなた達を通せばいいんだよね?じゃあ私と栄人が責任を持って監視しながら村をお通しまーす!これなら隊員さんも文句ないですよね?」

美鈴は2人の少女と銃を持った女性の腕を自分に引き寄せて無理やり腕を組んだ状態にすると、隊員を見て得意げに笑ってみせる。何が得意げの表情にさせるのかはよくわからないが。

おまけになぜか栄人まで勝手に巻き込まれていた。

隊員は何も言わずに無言のまま、走って去っていってしまった。やはり銃を持った女性を恐れたのだろうか。

「2人はそれなら大丈夫だよね?」

「うん、それは助かるな。早速頼もうか。」

「え?そんな簡単に信じちゃっていいの!?・・・まぁしょうがないか。」

美鈴の質問に、腕を組まれたまま浴衣の女性は嬉しそうにうんうんと頷く。もう片方の少女の方はまだ美鈴を信じきっていなかったが、渋々同意した。

「栄人も一緒に来てくれる?」

美鈴が心配そうに栄人に問いかける。

栄人は1回ため息をついてから美鈴に美鈴がさきほど勝手に捨ててきた銃を渡す。

「この状況で断れるわけねぇだろ。」

そうして結局美鈴と栄人は森から来たその2人を監視という形で村を抜けるまで付き添うことになった。

この事自体が良かったのか悪かったのかは栄人にはまだわからない。ただ一つ直感できたことは、何かがもう動き出して、繋がり始めていて、その動き出したものが後戻りすることはもうないという事だった―――――――



「すまないな。私達をわざわざ庇ってくれてなおかつ道案内までしてくれるとは。」

「いや、私達が好きでやったことなんだから謝る必要はないよ!ね、栄人?」

「お前が勝手にやったことだろうが。」

村の丁度真ん中を過ぎたあたりで銃を持った女性がお礼を言ってきたが、栄人にとっては美鈴のお願いを仕方なく承諾してやらされているだけなので、特に礼を言われる筋合いはない。

しかし銃を持った浴衣の女性と話している美鈴を見て、改めて美鈴はいつどんな時でも明るいと強く思った。むしろ明るいのが普通の表情と言えるだろう。

しかしこれは前にも言ったのだが、ずっと明るいと言うのはそれはそれで違和感があるようにも感じる。人の心というものはどんな者でも明と闇によって構成されている。つまり、美鈴であろうと闇の心は存在するのだ。それをまったく見せないので栄人は色々と疑問に感じていた。

「で、早速訊ねるがお前たちは何者だ?そっちの幼い方のあんたの顔についてる返り血からして何かわけありな感じだが。」

「あ、それ私も気になるなー。」

栄人の指摘に美鈴も賛同する。2人の少女と浴衣の女性は少しばかり顔を見合わせて話し合っていたが、やがて浴衣の女性の方から話し始める。ここで自己紹介をするかどうかを検討していた時点で、何か話すかどうかを迷うものがあると見て取れる。

「私は神凪音葉。ゴースト機島軍という秘密組織に所属している。正確に言えば政府からの特A級の極秘任務を請け負う組織だな。それで今は横にいるこの無蘭まいかを護衛するという任務を遂行するために、本拠地のゴースト機島へ向かっているところだ。」

「あたしは頼んでないけどね。あ、それであたしの名前は無蘭まいか。遠く離れた親戚のおじさんのところへ行く予定だったんだけど、何か色んなことに巻き込まれちゃってね・・・。例えば神凪さんとかに。」

「おいこら無蘭。人に指をさしては駄目だろう。針千本飲ますぞ。」

「意味がわかんないですよ。」

神凪の意味のわからない指摘を無蘭は適当にあしらう。

無蘭と神凪のやりとりを他の人から見ると、いいコンビだ、とでも思うだろう。

そして次に栄人と美鈴もに自己紹介をする。

その後に栄人は懐からまだ綺麗な白い布を取り出して、若干乱暴に無蘭に放り投げる。無蘭は受け取ったあと不思議そうな表情で栄人を見る。

「ちょっと、何すんのよ。布なんか投げつけてきて―――」

「・・・・その頬についた血を早く拭け。目立って仕方がない。」

「え?あ、ありがとう・・・・。」

栄人は無蘭がつけようとした文句を途中で遮る。無蘭は栄人の言葉を聞くと、きょとんとしたあとに礼を言う。無蘭としては栄人のとった行動が以外だったのだろうか。

そのやり取りを見た美鈴が無蘭の前に乗り出す勢いで来る。

「そうだよ!まいかちゃんはとっても可愛いんだから血で顔が汚れてちゃもったいないよ。そうだよねー、栄人!それでまいかちゃんに布をあげたんだよね?」

「え・・・・?」

美鈴がいつもとかわらない調子で栄人をからかう。実際にそれが本当なのかはわからないが。

それよりも気になるのは、無蘭の頬が赤くなっていたことだ。その赤さは無論、血の赤さではない。純粋に感情によって赤くなっているのだ。

美鈴の言っていたことを間に受けたということだろう。

栄人は美鈴のからかいを手で払いのける。

「すまん、気にしないでくれ。こいつはいつもこんな感じに調子に乗るんだよ。」

「わ、わかってるわよそんなの。」

無蘭が誤魔化すように強く言うと、さきほどからそれを見ていた神凪がわずかににやりと笑う。

「本当か?随分と間に受けていたように見えたが・・・・。なるほど、これが思春期というものなのだな。理解したぞ、無蘭。私はいつでもお前を応援しているからな?」

「神凪さん・・・・いっそのこと斬られてみます?」

「栄人君、助けてくれ。無蘭が私を殺そうとしている。さぁ、救ってくれ。」

神凪が美鈴と同じくからかっているのか、それとも本気なのかはわからないが結果的には無蘭をからかってしまったことになったらしい。

無蘭のおどしに神凪は栄人に向かって、絶対に思ってもないような棒読みの感じで助けを求める。それも普通の表情で。普通の表情なだけに本気なのか冗談なのかわからない。

「俺で色々といじるのは美鈴だけにしてくれ・・・・。」

栄人は呆れたようにため息をつく。

色んな意味で変な奴等を村に入れちまったな・・・・。

無論、悪い奴という意味ではないのだが、2人ともかなり変わったキャラであり、2人の旅の目的もどこか曖昧であった。つまり、色々な部分で謎が多すぎると思ったのだ。

しかし、先ほども栄人は気がついたが、無蘭についていた返り血や、2人の所持している武器からして何らかの戦いがあったと予測できる。

「あ、そういえば2人とも村を抜けるんなら早めに抜けたほうがいいよ!」

「ん?どうしてだ?」

「もう少ししたら災厄軍が攻めてくるらしいし、なんか・・・人の形?をした核がくるらしいから。その核を災厄軍が爆発させるとかなんとか。けど何だろうね、人の形をした核って。」

「え・・・・!?」

美鈴の言葉を聞いて2人は明らかに驚いていた。特に無蘭の場合は顔色が青ざめている。

それは誰でも当然だろうと栄人は内心思った。あの災厄軍との戦いに自分達が巻き込まれるとなったら誰であろうとあわてるだろう。それでもって戦うはめになったらシャレにもならない。

しかし2人は本当はそんな事に驚いてはいなかった。問題だったのはその次のことだ。

人の形をした核がくるということに2人は驚いていたのだ。そうだということを栄人はまだ気がついてはいなかったが。

「災厄軍と戦いたくなかったら、早くここを抜けないとマズイぞ。人型の核とかに来られたら一巻の終わりかもしれないからな。」

「いや、そういう問題じゃないんだって。」

「は?じゃあ一体どういう問題なんだよ。」

意味のわからないことを言った無蘭に疑問を抱いた栄人は訊ねる。しかしそれを訊ねたことによって、栄人はその場が自分で思っていたよりも全然凄い状況になっていたことに気がつくことになる。

神凪が少しためらって無蘭に言わないように指示したが、無蘭は気にせずにそのことを口にする。ありえないような事実を、そのまま口に。


「だってその核って・・・・あたしだもん。」


「はあぁ!?」

「えぇっ!?」

無蘭の言葉に、思わず栄人と美鈴は同時に驚愕の声を上げる。

その後、ほんの少しの間沈黙が続いた――――――――――


どうも、鷹王です。

9話が終わり、ようやく色々なメンバーが繋がりを持ち始めてきました。

しかし、繋がりを持ち始めてからようやくストーリーが大きく変動してきます。

今回はそろそろこれで。あと、何かコメントや感想等がございましたら、気軽にコメントしてください。待ってます。

ではまた第10話でお会いすることができましたら、こちらとしてはこの上ない喜びです。

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