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第7話〜衝突

 上空 巨大飛行船「ネクロード号」司令室

ゴースト機島軍の基地を奇襲することには成功した。今は地上にほとんどの部隊を降下させて総攻撃させているところだ。千夏の部隊だけは待機中ではあるが、それは作戦らしい。

ところでなぜ千夏たちがゴースト機島を攻撃しているかというと、ゴースト機島軍というのは移動式の島を拠点に極秘の任務をこなす政府軍である。ちなみに、災厄軍とはまた違った組織。そして対する千夏たちはもともとは反政府軍の集まりであり、いわゆるレジスタンスだったわけである。

そのため、政府を徹底攻撃するために大きな障害となるゴースト機島軍を先に潰してしまおうという事で今回の奇襲になったわけなのだった。

そのせいでいつもはふざけ合っていて賑やかな司令室が水を打ったように静まり返っていた。

ただし、1人を例外として。

「さーてさてさて、どうしようかねぇ!俺がこのまま一気に攻め込んじまうってのもありだけど、それで失敗したらシャレにもなんねぇよなぁ!いや待てよ、シャレにはなるか?千夏がむなしく戦火に散るってか?ってそれじゃ負けんのを前提で言ってるじゃねーか!馬鹿じゃねぇのか俺!!なぁそう思うだろ?憶良!」

「ちょっとは静かにできないんですか。戦闘中なんですよ、今。」

1人で妙にハイテンションな千夏に対し、この飛行船の操縦手である憶良は水を差すように冷ややかに注意する。

しかし千夏のテンションはいっこうに下がる様子はない。というよりも寧ろ増す一方である。まるで今戦闘をしている途中であることを忘れているようだった。

まあ逆手にとればその気楽さが彼の強みでもあるようである。

「そう暗くなるなって!戦闘中だからこそ興奮するってもんだろ?それに今下の戦場で頑張ってる皆を応援してやらないといけないしな!俺の出番までに決着がついちまうってのが一番いいんだけどなぁ!あ、待てよ?けどそれだと船長である俺の皆に対する示しがつかないよなぁ!よし、だったら敵の親玉がいる基地に空から直接乗り込んで俺がそいつをぶっ潰して帰ってくる。何だったら土産に首を持ってきてやろうか?4つくらい。だがしかしそいつは俺が勘弁!それだとまるで気味の悪い黒魔術の部屋みたいだからな!安心しろ、俺は変なぐつぐつ煮えたぎったスープにトカゲとか入れてないからな!あ、それだと何だか魔女みたいになっちまうかぁ。難しいもんだねぇ造り話の世界ってのは。」

無駄に大きな千夏の声が耳にじんじんと響いてくる。それに言っている事が意味不明。

逆に言えば、彼がまともなことを言っていることの方があまり聞いたことがない。

憶良は疲れが混じった重いため息をついた。そして思ってはいけないとわかっていながらも、改めて内心で呟いてしまう。

よくこの人についていこうと皆思ったよなぁ・・・。


 ゴースト機島

「ちっ!こんなに敵が多いなんて聞いてねぇぞ!このままじゃまずい、ってか大将である俺が戦線に出てる事自体がまずい気もするが。」

島の中心あたりの森で、多勢の船員を率いている服部は敵の攻めという守りを徹底的に崩そうとしていた。

特攻隊長という大役を担っている服部としては一刻も早く敵の本陣に攻め込みたいところなのだが、目の前で自分達と戦っている敵兵たちがそれを拒んでくる。

それも、相当な強者揃いの部隊だった。おおかた総隊長などが指揮をとっている戦力が卓越している部隊なのだろう。そうでなくては納得できない。

かといって敵の数がこちらよりも幾分多いというわけではない。どちらかといえばこちらの方が数が若干多いといえるだろう。いや、多かったというのが今は明確か。

敵に少しずつこちらの戦力を削られて、戦力だけでいってしまえば相手側の方が今は優勢である状況である。

一体相手側の何が凄いかといえば、それは剣や槍などで特攻してくるその気迫と覚悟。その時の一瞬の戦っている姿を見ただけで非常に精神と肉体ともによく鍛えられているものだと認識できる。

服部は敵との当たりくじの運の悪さを悔やみつつ、やけに大きい剣を振り回して敵を薙ぎ払う。自慢の大剣がどんどん赤に染まっていくのは良い気分はしないが、構っている暇など今はない。

敵の戦力も相当なものだが服部自身、自分が負けるなどと思ったことはこれまでには一度たりとも無い。

・・・・いや、あったな。遊びの模擬戦で千夏と琉菜にだけはそういえば勝てたことなかったな。

しかしそんな事は昔のことだと、服部は現実に意識を引き戻す。

「ちっ。どうやらまずい大将さんのところに当たっちまったようだな。だがここで負ける気はねぇ。手っ取り早く終わらせてさっさと麗花を助けに行ってやらないとな。」

「おや、服部隊長。素敵な愛情ですねぇ!」

「あ!?てめぇぶっ殺すぞ!今のはただの仲間としての言葉だ!鳥羽は十分強いし、琉菜は奇襲をしかけるうえに俺よりも戦力は上だし、千夏に至っては負けること自体考えられねぇ。だから少し心許ない麗花をまずは助けにいってやらねぇとだめだと思ったわけだ!」

何を戦闘中にムキになっているのか、服部は逆ギレに極めて近い形でからかってきた船員を怒鳴りつける。服部はやはり水月麗花のことになると冷静ではいられなくなるようだ。

「はいはい、わかりましたよ。服部隊長が麗花さんに特別な想いがあることはわかりま――――がッ!」

かすかに薄い金属音とともに船員の言葉が途切れる。

服部が船員をムキになって殴ったわけではない。

声が途中で妙な高音になる。言葉ともいえないような声。

服部は目の前の光景に恐怖と後悔を覚えていた。不覚だった。大声で、しかも戦闘中に気を抜いて話していたりしたら敵に不意をつかれるに決まっているだろう。つまり、今の失態は自分の責任。


船員の喉を、後ろから突き出された細長い剣が貫いていた。


「おい、しっかりしろ!」

「が・・・ご・・・」

喉を傷つけられているため、言葉などでない。

出るのは死を物語る大量の血の泡。船員は何かを言う力など残ってはいなかった。

後ろから突き出された剣を抜かれると、船員の体はそのまま地面に叩きつけられ筋肉の反応か、痙攣を始める。自分の血を痙攣した手や足がたたきつける。やがてそれもなくなり、わずかな間に動かなくなった。船員の顔は血の泡で一杯になり白目を剥いている。

死の間際というものを目の前で見せ付けられた服部は、実際にはそう思っていなくとも自然と手足が震えている。

仲間が死ぬ瞬間自体は服部も何度か経験をしたことがある。

しかし自分の失態で、そして何よりここまで危機的な状況で死を目の当たりにすることは初めてだった。

「戦闘の最中に私語など正気の類ではない行動だな。それでよく私たちを攻め落とそうとしたものだ。ある意味勲章ものに値する。」

船員を後ろから突き刺した剣の持ち主―――沙羅凛明は冷徹な表情で淡々と服部に言葉を吐き棄てる。その沙羅が服部を見る目は、少しでも目を逸らせばその瞬間に殺されてしまいそうな、相手を氷付けさせるような目だった。そして血で染まっていた細長い剣の剣先を服部へと向けていた。

服部は冷酷を連想させるような雰囲気を纏う沙羅を見てすぐに直感する。

何だが知らないがこの女は絶対にヤバい。千夏でも勝てるか微妙なところだろう。

おそらく捨て身で突撃したところで勝てる可能性は極めて低いだろう。それにこちらに近づいてくる時にまったくと言っていいほど気配を感じさせなかった。

それでも服部は死ぬわけには当然いかないので、何とか相手に勝てるようなチャンスを窺っていた。

もっとも、様子を窺っている際に殺されてしまえば元も子もないが。

「見たところお前がこの部隊の大将のようだが、戦闘中に私語とは随分とこの戦いを軽薄に見ていると取れる。その軽薄な戦いでも命を落とすことがあるとそんなに身をもって知りたいのか?」

沙羅の問いに服部は黙り込む。

服部は計っていた。相手の見せる一瞬の隙とセリフのタイミングを。

「おいおい、冷酷女大将さんよぉ。その質問に、はい。知りたいですなんて答える馬鹿がいると・・・思ってんのかよっ!」

セリフと同時に握っていた剣を素早く沙羅に振りかざす。沙羅は驚きの表情1つ見せずにその勢いがついた服部の剣を自分の細長い剣で受け止め、数秒後に弾き返す。しかもこの時に驚くべきことは、沙羅は片手で剣を持っていたのだ。見た目の細腕からは想像もできない力である。

それよりも、降参すると思うほどに危機的な状況だった服部が捨て身で特攻してきたことに沙羅がまったく動じていないということが、いかに沙羅に余裕と冷静さが満ち溢れているということを物語らせている。眉一つ微動しない。

沙羅とある程度距離を置いて服部は息を整える。

「ちっ!やっぱそううまくいくもんじゃねぇか!だがこれで形勢逆転だな。俺が自由の身になった以上女には負ける気がしねぇな。」

強気で言ったものの、まだ頭の中では第六感が警報のサイレンを鳴らしていた。

服部の宣言のような言葉を聞いた沙羅は冷たさが残る、彼女ならではな笑みを浮かべる。そしてじりじりと服部との距離を詰めていく。

「その威勢の良さ、悪くない心構えだ。だが少しタイミングを誤ったようだな。」


 服部達よりも右寄りの平原で、水月は敵をまったく互角といってもいいような、長期戦になると予想されるような戦いを繰り広げていた。

こちらは服部達のような接近戦ではなく、弓矢や銃を主とした遠距離戦となっていた。それなだけに無駄に地形を移動できない。

「水月隊長、なぜ進軍命令を出さないでこの部分で停滞しておられるのですか。このまま遠距離射撃で撃ちあっては同士討ちになる危険が高いです。どうか進軍命令を・・・」

副隊長か又は兵卒などであろう船員から進軍を志願されるが、水月はその意見に肯定するわけでもなく、ただにっこりと優しく微笑んでいた。

その姿は今の戦場にいる者としてはあまりに相応しくない、川に流れ行く一片の桜のようだった。

「田代さん、今いる地形の状態をよく考えてみてください。きっと進軍できない理由が見つかるはずですよ。」

「地形・・・ですか。・・・・・そうか!そういう駆け引きだったとは、考えれば簡単ではあったものが目の前の状況に些か焦ってしまいました。無礼を申し訳ございませんでした。」

船員は今自分たちがいる地形と敵がいる地形を見比べてみた。

お互いに間の低い地形を挟んで高い部分の地形に陣を張っている。いわゆる凸凹の凹の地形だ。

そして敵陣に攻め込むためには途中で低い地形のところへ行かなくてはならない。

その時点でもはやゲームオーバー。

遠距離戦では圧倒的に高い地形にいた方が有利である。

つまり、お互いに攻めたら負けるということである。単純、それゆえ明解。

勝つ方法としてはずっとこの位置から相討ち覚悟で撃ちつづけて運よく勝利するか、又は味方の軍が増援としてきてくれるかのどちらかだろう。

そういう事なので、この戦いはおそらく余程の事がない限りは我慢強ければ負けることはまずないだろう。同時に勝つことも可能性としては低いが。

「これは誰か他の人が増援に来てくれるまで気長に粘っているしかありませんね。それまで頑張りましょうね。」

「はあ・・・・。」

水月の戦場に似つかわしくない笑顔と雰囲気に調子を崩されるも、船員は納得して持ち場へと戻る。

確かにこの戦いは味方の増援を信じて待っているのが一番の得策といえるだろう。少なくとも運任せで特攻するよりは良いはずだ。

「さて、一体この戦いはどちらに良い風が吹くのでしょうね。どちらにしろ長期戦は免れないでしょうけど。これでは他の人の援護にまわることは少し厳しいでしょうか。」

服部が心配するほど水月は危機には陥っていなかった。むしろ服部の方がよほど危機的な状況なのだが。

運に勝敗を委ねた水月は延々とたまに休息をとっては遠距離射撃を続けていた。水月本人は、隊長ながらもなぜか負傷した船員の治療を行っていた。それをまわりの船員たちは不思議なものを見るような目で見ていた。

隊長は衛生兵。

まるで前代未聞のフレーズである。


 唐突で悪いとは思うけどよ・・・何でこうもこの場所を守っている敵の部隊だけやたらと多いんだよ。多いのはわかるけどよ、ものには限度っつうもんがあるだろうが。

折角わざわざ面倒になりそうな中央のルートを服部のやつに任せたってのに、これじゃ中央の方が楽だったぜ。

実際には中央のルートも楽というわけではまったくなく、むしろ敵軍の総隊長である沙羅の部隊がいるので逆に中央のルートの方が困難なのだが、今の鳥羽にとってはどうでもいいことである。

鳥羽の先行していた場所では敵の部隊があらかじめ潜伏していたため、攻めるどころかこちらが逆に守る側となってしまった。現在は敵の部隊に自分の部隊が包囲されて四方八方から攻められている厳しい状況である。

この状況には戦いに自信がある鳥羽であってもさすがに打破するのは難しいだろう。

鳥羽は愛用のナイフ2本で相手の攻撃をすり抜けながら喉を確実に切り裂いていく。すでに両方のナイフは血まみれである。その身軽な動きはまさに俊敏そのもので、一回一回敵の動きを見てから素早く対処する。これは軽量の武器であるナイフだからこそできることなのかもしれないが。

「ったく今回ばかりは俺も危ういんでね。容赦なく殺らさせてもらうよ。しかし、俺に気づかれずに潜伏してるたぁ隋分とたいした大将さんじゃねぇかよ。顔が見てみたいね。」

鳥羽は敵の見事な潜伏ぶりに賞賛の意をあらわしつつも、その大将を早いうちに仕留めてしまいたくて仕方がなかった。

このまま長期戦になってしまえば恐らく鳥羽であったとしても体力が続かないだろう。ましてや集団でかかられたら一巻の終わりだ。

敵の大将さえ討ち取ってしまえば他の隊員たちは撤退していくはず。その為にも鳥羽は敵の大将を最優先で探していた。

とはいっても敵の部隊に包囲されている状態で大将を見つけ出すというのは無理に近いのだが。

「しかしこれだけ敵さんがいると、見つけ出す前に俺がくたばっちまうかもな。けどそれじゃ琉菜との約束を破ることになるから御免だな――――っ!」

鳥羽は直感で気がついた。背後に何かが迫ってきている。

この音葉は・・・刀ってところか。なら潜りこめば簡単だな。

鳥羽はわずかな金属の風を切る音を聞き当てて、後ろを振り向いて向かってきた敵の喉をめがけて一直線に走る。

敵との距離が近くなると、予測どおり相手の武器が刀であることが見てわかった。

「大将か、覚悟!」

鳥羽は敵が刀を勢いよく振り下ろした瞬間に素早く右にステップを踏むかのように避けて、敵の喉めがけてナイフを横に振る。

先ほどから戦ってきた多くの敵たちもこの動作を行えば瞬殺だった。つまり鳥羽にとって戦いとはわずかな間に勝敗が決してしまうものなのだ。

しかし、この相手はそういつも通りにはいかなかった。

敵は鳥羽の狙いが喉であることに気がついたのか、素早く姿勢を低くしてギリギリのところで鳥羽のナイフをかわす。空中を切る金属の音がやたらと大きい。

鳥羽も敵も一旦後ろに下がって間合いをとる。

「おいおいマジかよ。ありえねぇって、俺のナイフをこいつかわしやがったぜ。」

しかし鳥羽は敵の戦闘能力の高さに驚愕はしたものの、それを上回る喜びが湧き上がってきていた。

鳥羽は口元を自然に引きつらせる。

「うれしいね。まさかお目当てが自分から来てくれるとは。あんたは俺の為にここに来てくれたんだよな?わざわざ戦闘中に、俺だけの為に!俺に殺されるために!」

「・・・・・。」

敵は黙ったままだったが、鳥羽は1人で嬉しそうに、それは心底嬉しそうに淡々と言葉を吐き捨てていた。

「お望みどおり殺してやるよ!ってかそんなに死にてぇのか?ま、別に死にたくなくても、殺してやるがね。」

敵は目の前に佇む興奮している鳥羽を見てただ一言だけ脳裏に言葉が浮かんだ。

これは随分と危ない相手にあたってしまったな。

敵―――成増聡は1人口には出さずに内心で呟いていた。


どうも、鷹王です。

いやしかしこの7話の戦いは長引きそうですね。恐らく3,4話にわたって続くでしょうか。気が遠くなりますね(ぇ

次の第8話ですが、この話は意外と忘れてたのではないかと思われる人物たちが登場します。え、誰この人?と見て思った方は第1話を参照ください。

そして、また8話でお会いできましたらこちらとしては嬉しい限りです。では!



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