第4話〜ゴーストアイランド
ゴースト機島、本拠地にて・・・
私は今非常に何をしようか迷っています。
本拠地の自室で待機していた、ゴースト機島軍の島長であるアスペン・レイダークリュスは、この空いている時間に何をしようか悩んでいた。
え?島長だからどうせ忙しくて休む暇もないんでしょうって?
戦闘直前の時や、上からの司令がでるまではそんなことありませんよ。
だって現に今めちゃくちゃ暇ですし。
銀色の長い髪をなびかせながらアスペンは自室を抜け出し、どこかに遊びにいこうとしていた。
どこかいい所はないでしょうか・・・・。
歩きながらたまにすれ違う一般兵に驚かれながらも、気にせずに廊下を詮索する。
「おやぁ?島長ではないっスか!どうしたんです、こんなところで。」
聞き覚えのあるやたらと大きな声が後ろから聞こえたのでふと振り返ってみる。
そこにはにやにやしながら突っ立っている赤髪の男がいた。
「こんにちは倉持さん。いや、次の予定まで時間があるのでちょっとした息抜きにぶらぶらしているといった感じです。」
「なるほど、息抜きっスか!たしかに島長はいつも忙しそうで休むヒマがなさそうですからね。わかりますよ、その息抜きしたい気持ち!」
「そ、それはどうも・・・。」
倉持はアスペンの事情を全て知っているかのように、うんうんと納得した様子で頷いている。
別にいつも忙しいわけでもないんですけどね。
アスペンは倉持の言葉に付け加えをしたかったが、特に意味はないので心の中で止めておくことにした。
「あ、そういえば島長。聡とはうまくやっていけてますかぁ?まだ気持ちを伝えられていないとか・・・。」
「前にも何回も言いましたが、私と成増さんはそんな類の関係ではありません!」
「本当ですかぁ?こっちから見るとそう見えてしまうんスけど。」
「きっと気のせいです!いや、絶対に気のせいです!」
「なるほど、やはりそういう関係だったんスねぇ。」
「ってこっちの話聞いてないし!」
倉持が持ちかけてきた自分と成増聡と言う男との関係を勝手に変な方向に持っていこうとしているのに気がつき、あわてて否定する。
図星だったのかあわてていたからかはわからないが、どちらにしろムキになっている事は確かである。
倉持は性格は見てのとおり、やたらとうるさい性格だが、これでも彼はここの軍の第5部隊隊長を務めるほどの実力を持っているのだ。
「と、とにかく!この話はもう終わりにしましょう。何かよからぬ噂が広がりそうですし・・・。」
「あれぇ?けどそれって・・・」
倉持の言葉は途中で別の声によってかき消された。
その声の根源はゆっくりとした足取りでこちらに近づいてきた。
「倉持、島長に無礼をするんじゃない。」
「おうおう、早速主役のご登場か!」
「な、成増さん。」
成増と呼ばれたその長身の顔が整っている男は、倉持をまるでいないかのように無視をして通りすぎた後、アスペンの前で彼女に一礼する。
アスペンは咄嗟に出てきた成増を前に、僅かながらも緊張の色を隠せずにいる。
噂をすればというのはこういうことを言うのか。
その光景を見ていた倉持はヘッと不満の声をもらしていた。2人は気づきもしなかったが。
「これは島長。倉持の奴が無礼を働いたようで申し訳ありませんでした。もしも自分でよろしければ罰をかわりに受けますが・・・。」
成増の自分が罰を受けるという言葉を聞いたアスペンは、くすっと微笑しながら首をゆっくりと横に振る。
「成増さんは何も悪くないですよ。むしろ危ないところを助けていただいてありがとうございました。」
「いえ、島長を助けるのは当然の事ですので。」
「え?俺何か悪いことした!?っていうか何だよこの俺がいやな悪役みたいな扱いは!」
自分の置かれている設定に疑問を感じツッコむ倉持。
「予定の時間までの休息ですか?島長。」
「はい、たまにはいいかと思って。」
「っておい、人の話を聞けよ!」
倉持のツッコみはむなしく無視される。倉持はもはや自分の存在がないかのように扱われているように感じ、落ち込みながらその場を立ち去っていく。
倉持曰く、世の中の人間関係で一番のイジメは「無視されること」らしい。確かに正論っぽいといえば正論っぽいが。
残された2人は立ち去った倉持のことなど気づくこともなく会話を進める。
「でも、成増さんは変だとは思わないんですか?島長である私がこんなところでぶらついていて。」
「変?どうしてそう思うのですか?」
「え?」
アスペンの質問に成増は疑問を持ったように聞き返す。
「島長とはいってもあなたはまだお若い18歳の女性。息抜きなどをするなどというのは当然の事。いや、逆に言えばその若さでここゴースト機島軍の長を務めていらっしゃる島長は本当に尊敬に値します。普通の人間では成し得ない事です。」
「え・・・・。」
アスペンは成増の言葉にあまりに驚嘆してぽかんといている。
私ってそんな凄いことしてたかな・・・?けど、いいですよね。成増さんに褒めてもらえたわけですし。
と、内心では色々な思いが交差していたのだが。
ぽかんとしたアスペンの表情を見た成増は、なぜか急いで顔をひきしめる。
「し、失礼しました。自分ごときが島長殿になれなれしく意見など!では、自分はこれで失礼します!」
何を勘違いしたのか、それとも礼儀正しい規則的な性格からか、成増はアスペンに自分が言ったことを無礼と感じたようで一礼してから小走りで去っていった。
アスペンはそれを状況がつかめていない状態で見送る。
どうして謝られたのでしょうか・・・。
アスペン自身、正直なところまだ成増と話をしていたかったのだが仕方がない。
諦めてまた歩き出す。廊下やエントランスなどには人がわりと少なく、とくに入り浸ってはいなかった。アスペンはエントランスの端の方にあった縦長の椅子に腰をかける。
私って今本当に暇人っぽいですよね・・・。
改めてすることがない自分に、趣味が自分にはないのだと感じる。
ある程度すると、エントランスにも人がだいぶ入り浸るようになってきたので場所を変えようと立ち上がる。
「島長・・・・?」
声をかけながら1人の少女ともいえるような幼い女性がこちらに近づいてきた。
「夜雲さん、こんにちは。ここで会うのは初めてですよね?」
「うん、まぁ。島長はなんでここに?」
「予定の時間まで待っているのも退屈だったので適当に基地内をぶらついているんです。」
「そう。」
やたらと機械的な喋り方の少女、夜雲明はやはり無関心なイメージを持つ返事を返す。
それと今さらながら気がついたが、夜雲の右手にはスポーツ飲料が入った透明のペットボトルにストローが添えられていた。ペットボトルなのにストローを使用する必要性がよくわからないが。
思い出した。夜雲さんって戦いの時以外ではどんな時でも片手に飲料を持っていたっけ。
しかしそれはなぜかと前に聞いた時には、ただなんとなくと適当に答えを返されたので今回は聞かないようにしておく。
アスペンはゆっくりと歩き出す。
「では夜雲さん。また。」
「うん、また。」
アスペンが去っていくのを夜雲はまるで無関心な目で見ていた。そしてストローを口へと持っていった。
「あ!もう司令室に戻らなければいけない時間ですね・・・。きっとまた郷田さんに怒られるでしょうね。」
ため息混じりでアスペンは司令室へと向かい歩を進めていた。
郷田とはゴースト機島軍の副島長ある何事にもうるさく厳しい男のことである。
正直なところ、アスペンはその郷田があまり好きではない。就いた軍の配置上でそうなってしまったのだった。
いつもの事とわかっていてはいるが、それでもついているため息の一回一回が重苦しい。
考えているうちに自然と司令室に着いていた。
自動である司令室のドアを通る。
「島長!一体こんな時間までどこをほっつき歩いていたんですか?」
待っていたのは想像したとおり、やはり郷田の説教であった。
「す、すいません。」
「まったく島長としての自覚をしっかりと持ってもらわなくては困りますね。毎度こんな事ではいずれこの軍も・・・・」
郷田の説教が長話になるであろう予想はアスペンにもついていた。結果的に実際そうなりそうだったのだが、郷田のすぐそばにいたショートヘアといっていいような黒髪の女性が郷田の発言をを制止させる。
「何だね、沙羅くん。」
「副島長、多少の時間のズレぐらいは誰にだってあります。ましてや島長はまだ20をもいかない女性ですから、そこまで厳しく徹底する必要はないでしょう。」
横から無駄な口出しをされたと思ったのか、郷田は総隊長の沙羅凛明に向き直ると僅かな音量でフンと鼻で笑う。その時の郷田の顔はまさに上からものを言う時の顔であっただろう。
「これだから女というものは困る。女だからといって多少の甘さが許されるとでも?はっきり言っておきますが、そんな甘っちょろいことではこの先軍を率いていくおとなど不可能です。不可能です。三回言いますよ?不可能です。」
うわぁ、嫌な性格・・・・。
思わずアスペンは口にだしてしまいそうになったが、というか出してしまいたかったのだが、指揮に影響が出る可能性があったのでここは抑えておいた。
それに比べ一方の沙羅はというと、全く表情1つ変えないでただ郷田を冷ややかな冷たいような目でみている。このポーカーフェイスはさすがと言えるだろう。
「それで早速本題に戻るのですが、7時間ほど前に偵察へ出ていた剣山から連絡がありました。例の女性を発見したとの事です。」
「無蘭まいかさんの事ですか?」
切り替えが早いのかわからないが郷田はすぐに話題を変える。
「そうです。しかし連行してこようとしたところ、途中で災厄軍に奇襲され無蘭まいかと神凪は敵の攻撃の爆発に巻き込まれて行方知らず。剣山ははぐれた2人を捜索しつつ一度こちらに帰島してくるそうです。」
「そ、そんな・・・・お2人はい、生きているんですよね?」
「いえ・・・その可能性はおそらく五分五分といったところでしょう。爆発に巻き込まれたくらいですので・・・。」
アスペンは嫌な予感がし郷田に期待をして、いい答えを待って質問したのだが、案の定かえってきた答えは実に絶望するような答えだった。
実を言うとアスペンにとって神凪は生まれて初めての友達であり、信頼の置ける仲間なのだ。それと同時に、潔く物事を遂行していく神凪を尊敬していた。それなだけに今回の件は非常に心に重くのしかかってくるものがあった。今にも押しつぶされてしまいそうな重い感覚が。
しかしここで逃げ出しては島長として軍を率いてはいけないだろう。現実を正面から受け止めなければ。
けれど、必ずすぐに助けにいきますからね音葉さん。だからそれまで絶対に生きていてくださいよ。
しかしそこに・・・・
巨大な爆発音。
何が起こったのか一瞬の間アスペンは理解できなかった。
しかし通信から入ってきた情報によって何が起こったかすぐに理解する。考えればすぐにわかることであったが。
敵の奇襲。しかも空から。
どうやらスパイをこちらから送り込んでおいた、反政府軍か何かの飛行船の軍団が攻め込んできたらしい。
まさか向こうから攻めてくるとは予想外だった。それに今は戦いで主力級の強さを誇る剣山と神凪がいない。正直なところ、今残っている人材でその2人に勝てるのは総隊長である沙羅くらいか。しかしそうだからといって他の者が心もとないというわけではない。むしろ逆で、剣山、神凪、沙羅が強すぎるのだ、きっと。
基地内で緊急伝達がされた。敵の奇襲により、総員至急戦闘配備につくようにと。さきほどまで賑わっていたエントランスも、今はがらんとしている。
「島長!入った情報によれば敵は総勢と思われる人数の軍勢が飛行船からこちらに降下してきているとのことです。こちらまで辿りつかれるのも時間の問題かと。」
確かにそうだ。郷田からの言葉に納得する。だが逆にとらえて考えてみると、地の利はもちろんこちらのほうがあるわけだし、おそらく敵の飛行船に戦力はあまり残ってはいないはずだ。ならば今敵の母艦である飛行船を沈めてしまえばこちらの勝ちだろう。
それに、敵が多いからといって怖気づくつもりはさらさらない。神凪を助けると誓ったのだから。
「沙羅さん。あなたには前線での戦いの指揮をお任せします。私は基地とその周辺を担当します。」
「承知しました。」
待っていてくださいね、音葉さん。すぐに終わらせてあなたを助けにいきますから。
アスペンはこの戦いで友達へ勝利を誓った。
しかし、アスペン達は気づくことになる。
この戦いが到底簡単には終わらず、この戦いこそが自分達にとってあまりにも過酷な戦いの始まりだということに・・・・・。
どうも、鷹王です。
いやぁついにこの話がでてきてしまいました・・・。何がかというと、この話の後はなかなか過酷なものが多かったりするのです。何せ戦争ですかr(ぇ 次の第5話はまたラクト義勇軍、つまり栄人たちの話です。ではまた!




