表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

第3話〜出会い

 今、鷹王栄人は退屈していた。

何せ戦闘のミーティングを基地で行ったあと、自分のその待機場所で敵が攻めてくるまで待機。栄人達の待機場所は村のすぐ手前の丘の部分だった。栄人と共にこの丘の部分で待機している隊員は、だいたい80人程度である。

少なく感じるかもしれないが、この村の人口そのものが1000人たらずと非常に少ないので村の周りを10ヶ所護ると考えれば妥当な人数であるのだ。

つまり、敵が攻めてくるまではたとえ10時間であろうと待ち続けてなければならないのだ。

そんなもん待ってられるか。

正直な気持ち、栄人は投げ出したくなるような衝動と早く敵と戦いたい衝動に駆られっぱなしであった。この男にはどうやら緊張感というものはないようである。

少しくらい攻めても大丈夫じゃないのか・・・・。

その衝動がほぼ限界点まで達し、無意識のうちに足が前へ前へと動き始めた瞬間・・・

トスッ。

栄人は自分の後頭部にほんの僅かな違和感を覚えた。

何かが触ってきたような感覚・・・・?しかし、それにしては音がやたらと鈍い。

後ろを急いで振り向いた時、その謎はあっさりと解けた。

同じ部隊に所属している雨宮美鈴が栄人の頭に手刀をおみまいしたのである。非常に非力ではあったが。

「何だ美鈴。何か用か?」

美鈴だと知って安心したのか、栄人はこわばっていた肩の力をすっとゆるめる。

「何か用か、じゃないよ!勝手に行動しちゃダメだって北条さんにも言われたじゃん!たった1人じゃ勝てるわけないんだから。」

周りに声が響かないようにするためか、美鈴の声は隣にいなければ聞こえないほど小さかった。

また始まった。美鈴の説得兼説教まじりの話が。

栄人は心の中で呟きつつも、口には出さないことにする。

「悪い悪い。けどこの緊迫した空気の中、何もすることがなく、こんなにも退屈な時間を無駄に過ごしてるんだぜ?少しは動きまわりたくなるってもんだろ。なぁ、美鈴。この気持ちわかるだろ?」

「うん、そうだね。・・・・って違うよ!何かその場の雰囲気で答えちゃったじゃん!まぁ気にしないっと。暇で退屈だっていうのは私もわかるけど、1人だけ勝手な行動をしたりしたらチームワークや作戦が乱れて他の人に迷惑がかかっちゃうよ。だから栄人も自分の身の安全の為にも、ここは我慢して・・・ね?」

「・・・わかったよ。」

他の隊員たちが見ると、強気な栄人のわりにはやけに素直に承諾したな、と思っただろう。それには理由がもちろんあった。

栄人は美鈴からのお願いや説得を断るのが苦手だった。

最初は断るつもりでいても、近くに寄ってこられて真面目な瞳で言われるとどうしても断れなくなる。

しかも、もし断った時の美鈴のがっかりとした悲しい顔を想像してしまうと、尚更断る気になどなれない。

と言うかもしも栄人の目の前で美鈴のお願いをすんなりと断った奴がいたら、栄人はそいつをブン殴ると内心考えてすらいた。

確信はないし、理由もとくにないがただ、なんとなくそうする気がする。

理由を強いて言えば、美鈴の悲しい顔を見たくないからか。そんな事は到底本人の前では言えるわけないが。

「あいかわらずおせっかいな奴だな。」

本当はいつも自分のことをよく心配して注意してくれることの礼が言いたかったのだが、本心を隠すためか、思わず冷たげな言葉を口から吐き出してしまう。

口先が人一倍不器用な栄人にっとてはよくある事。

そんな少し冷たげな言葉を聞いた美鈴は、わざとらしく心配そうな顔をしてみせる。

「えー!もしかして栄人って私のこと、嫌い?いつも心配してるのに。」

何ィ!?

馬鹿野郎そんなわけねぇだろうが!

思わず口から出かけたが、自分に冷静になれと念じて気を落ち着かせる。

「べ、別に嫌いじゃない。それにいつも心配してくれてるのはありがたいと思ってるよ。」

「ありがと。栄人からそう聞けただけで十分嬉しいよ!じゃあこれからは嫌いな野菜のキャベツもちゃんとおいしく食べる?」

「ああ。・・・って何でそうなる!?急に話をかえるな!それとこれとは話が180度違うぞ美鈴!」

突然の話題の変更に戸惑いつつも栄人は素早くツッコむ。

「いや、私は135度くらいの違いだと思うけど・・・」

「そんなものはどうでもいい!」

それも素早くツッコみながら栄人は声の大きさに気がつき、少しばかりボリュームを下げる。

「あのな、美鈴。もう俺もこんな歳なわけだ。今更嫌いな食べ物を克服なんて幼稚すぎ・・・」

その言葉は途中で爆発音によってかき消される。

どんっ。と爆発音が1つ、そしてまた1つ。

周りの異変に気がついたのと爆発音を聞いたのはほぼ同時だった。

敵が攻めてきたのである。

爆発が大砲の弾か手榴弾かはわからないが、それによって死傷者がでなかったのはこの部隊にとって最大の幸いである。

自分が気が抜けていて気がつかなかったのか(栄人はあえて美鈴のせいにはしないらしい)、敵は思っていたよりも自分達と随分と至近距離に陣を組んでいた。

ここの部隊(場所)に攻めてきた敵の数はざっと見たところ、少なくても200人程度。栄人達の倍はいることになるのである。

勝てるのか・・・?

これが今の栄人の正直な第一印象であった。

栄人が不安に思った理由は敵の数だけではない。

なぜなら敵は、国の政治や軍事力の裏を握っている金井教介の仕切る「災厄軍」である。聞くところによると、政治に反発する(賛成しない)村や町を徹底的に潰して従わせているらしい。しかも、悪い噂ではどの村や町の義勇軍などをもってしても、訓練や実績でキャリアがある「災厄軍」には勝ったことはないとか。

じゃあこのままおとなしく引き下がるのか?ふざけるな。


俺のこの村は昔、「災厄軍」によって襲撃されたんだ。


そのせいで多くの仲間や親戚、そして何よりも平和だった生活を奪われたんだ。その生活を奪った軍に従うのは、いくらなんでも不公平で納得がいかないだろう。

今の場の緊張感はこのうえなく重い。

これが戦場の空気というやつなのだろうか。栄人や美鈴たちだけでなく、他の隊員たちも息を殺して合図がでるのを待っている。

その時、敵が突っ込んできたのとこらの突撃の合図がでたのはほぼ同時だった。

「命を懸けて村を護れ!突撃だ!!」

その合図とともに、こちらの部隊も一斉に敵の方向へと進んでいく。

皆が1人1人、守りたい使命を背負って。

武器は剣や槍、弓矢など様々である。中には高性能である銃を持っているやつもいる。

栄人は父からもらった長槍を片手に、他の隊員に紛れて一気に攻め込んでいた。

栄人自身、剣や槍などの戦術系統の腕にはかなりの自信があった。優れた部隊長を務めている父の血をひいているからかはわからないが、義勇軍の中では父に次いで二番目に強い・・・らしい。

そのせいか、敵は1人ずつであればそこまで苦戦せずに殺すことができた。

だが人を1人殺した時の衝撃はすさまじく、それを見ただけで体力が磨り減ってしまうほどである。嘔吐しそうになら何度もすでになっている。無論、休んでいる暇などないのだが。

そしてある程度時間が経過すると(実際にはどのくらい経っているかわからないが)、敵味方ともに数が少なくなっていた。

それは、当然のことながら決して喜ばしいことではない。味方が死ぬということはこんなにも心細く恐怖を感じるものかと認識した。だが今はそんな感傷に浸っている場合ではない。

しかし戦場に漂う強い血臭から、味方も数多く死んでいるということを認識せざるをえない。

美鈴は無事なんだろうか。

不意に頭によぎった思いである。

栄人はそれが気になって仕方がなくなり、敵と戦いながらも美鈴を探すことにした。

「美鈴!どこにいるんだ!!」

気がつくと叫んでいた。

まずは美鈴を見つけないことには戦いに集中できない。一刻も早く見つけなければ・・・

「ここにいるけどどうしたの、栄人。」

「おわっ!?」

あ、いた。しかも真後ろに。

美鈴は元気ではあったが、服にこびりついている生々しい血飛沫の後をみるからにして敵との接触は何回かあったのだろうと推測できる。

だが美鈴の武器は銃なので、敵が一まとまりでかかってこなければ勝つことも容易である。ただし、相手も銃だった場合はそうはいかないが。

「よかった。無事だったか。」

「心配してくれてたの?ありがとね。けど私は大丈夫だよ。こんなところじゃ絶対に死ぬ気はないから。」

「そうだな。お前らしい。」

美鈴の強気ぶりに励まされた栄人は、一度美鈴とは方向を変えて、敵の殲滅に集中することにした。

敵の数がもうごく少数になってきていた。そこでようやく気がついたこともある。

大将がいない。

大将がここにはいなかったということは、この部隊は本命ではなく囮だったという可能性が高い。

恐らく敵はどこか一点に戦力を集中させて一気に態勢を崩すつもりなのだろう。

そう考えているうちに、気がつくと敵がまったくいない丘の隅まで来ていた。体力がさすがに限界になったからここで少しだけ警戒しつつも休憩するか。

栄人はそばの木の陰に行ってそこで座ろうとしたのだが、予想もしない問題が起こってしまった。


人がいた。しかも敵。


その敵兵はしゃがみこんで、下を向いて僅かにぶるぶると震えながら細い槍を握り締めていた。栄人は突然の敵の出現に声をださないようにして、敵に気づかれる前に敵を殺すつもりだったが、ある事に気がついてしまい思わず声をあげてしまう。

「女っ・・・!!?」

「・・・・ひっ!?こ、こないで!」

ぶるぶると震えていた敵兵は、女だった。それは流れるような黄緑色の髪に整った女性らしい顔をしていたところからすぐにわかった。歳もまだ若い。ざっと見て18や17といったところか。

彼女は栄人を見るとそのまま動かなかった。いや、動けなかったのか。

怯える彼女を見て栄人は殺すタイミングを失ったどころか、殺す気にもなれなくなった。

栄人にとって、もともと女を殺すことは男を殺すことよりも断然むりなことなのである。怯えられてはなおさらだ。

この栄人の感情は、悪く言えば情けをかけていずれ殺される性格である。

それはやめた方がいいとわかってはいるが、栄人にはどうしても目の前の彼女を殺す気にはなれなかった。逆に、向こうもこちらを殺す気はないようだったが。

「わ、私をこ、殺すんですか・・・・?」

怯える目で彼女は栄人に問いかける。しかし、これはあくまで栄人の思い込みなのかもしればいが、怯えながらも、彼女はなんとなく死に対する覚悟をしているように見えた。

「あ、あなた達を殺す気は無いんです・・・!だから・・・!」

「お前が俺達を殺す気がないんなら殺さねぇよ。だから他の奴等に見つからないようにどこかに逃げな。」

馬鹿か俺は。

敵を目の前にして逃がすなど正気か?殺してくださいと言っているようなものだぞ。

栄人は我ながら自分の甘さに対して呆れた。

それを聞いた彼女はほんの少しだけ安堵の表情を見せるが、また怯えるような寂しそうな表情に戻る。

「あ、ありがとうございます・・・!御恩は一生忘れません。でも、私は奴隷として軍で戦わせられているので逃げる場所なんてないですし、逃げ帰ったらどうせ殺されてしまうんです・・・。」

もう決まっていることなんです、と彼女のあまりにも悲惨すぎる事実を語られ、栄人は言葉を失った。

どっちにしろこの戦いで死ぬ予定だったってことなのか・・・!?

考えているうちに不意に彼女の方から詰め寄ってきた。

しまった、殺されるのか・・・?

最悪の事態を予想したが、彼女のとった行動は大きく栄人の想定範囲外だった。

自分の槍を差し出してきたのである。自分を守るための唯一の武器を。

「お前、何のつもりだ・・・?」

「どうせ殺されるのなら、私を逃がそうとしてくれたあなたに殺されたいんです。だ、だからお願いします。この槍で私を殺してください・・・!」

一瞬、彼女の言っていることが理解できなかった。

この女は何をとんでもないことを口にして、俺に頼んできているんだ?

殺してくれ・・・・だと?それしか彼女には選択肢がなかったということなのか?いや、そんなのはおかしい。そもそもこんなにも怯えるようになるまで奴隷として扱っていた奴等がまず許せない。

栄人は彼女の差し出してきた槍を渾身の力をこめて叩き折る。細槍だったからこそできた行動ではあったが。

「え・・・!?」

「殺してくださいだとか気持ち悪いこと言ってんじゃねぇぞ!なぁ、お前はもしも逃げられる場所があったら殺されたいなんて思わないだろ?お前は本当に殺されたいのか?違うだろ。お前だって、もっともっと生きていたいんじゃないのか!」

俺は何を熱くなっているのか。

さっきまでは彼女と同じ敵兵を何人もためらいも無く殺してきたというのに、今度は敵を生かそうと必死に訴えている。


これは何だ?

それはいろんなめぐり会い。

これは何だ?

それはいろんな矛盾の始まり。

これは何だ?

それはいろんな思いの交差。


栄人の話を聞いた彼女は黙りこんで下を向いていた。下を向いていたのでよくは見えなかったが涙がこぼれているように見えた。

「は、初めてです。こんなにも人に心配してもらえたのは・・・。」

彼女は栄人のほうに向き直り、喜びをあらわしているのか僅かに微笑んでみせる。

「わ、私は・・・本当は・・・」



「生きたい。」



「まだずっと生きていたい。そして、あなたのような人にもっとたくさん出会って、色々笑いあっていたい。で、でも、それはちょっと無理ですよね。私みたいな奴隷がそんな淡い理想が叶うなんて・・・。」

不思議と生きたいと願っていた彼女は非常に生きた目をしているように見えた。

人の生で大切なのは長生きしていたどうこうじゃない。どれだけ一生懸命生を願って生きていたかということだ。

人間は一生懸命に生きようとしているわけではないだろう。

きっと、生きていることそのものが一生懸命なのだから。

彼女は今の間、生きたいと願っていた。

その話を聞いて栄人はあることを決意する。

そして一瞬でも彼女の願いを叶えてやりたいと思った自分にまたしても呆れた。

とんだお人好しだな俺は・・・。

そして彼女のボロボロの手に手を差し出す。

これは何という感情なんだろうな。どっちにしろ馬鹿馬鹿しい感情であることは間違いないが。

手を差し出したのと同時に栄人からはっきりと吐き出された言葉は、彼女にとってはあまりにも意外であった。

また、暖かい言葉だった。

「お前さ、逃げる場所や帰る場所がないんなら・・・」


「俺のところに来いよ。」


どうも鷹王です。

この第3話では本当は2つの物語をいれるつもりだったのですが、栄人の話がかなり重要な話だったために1つの話で終わってしまいました。スイマセン。

そして、また第4話でお会いすることができましたら、これ以上嬉しいことはありません。では!

(あと、もしも人物の名前等で読めない漢字などがありましたらコメントでお伝えください。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ