第2話〜非日常へのスカイダイブ
・・・・おや、あんたもしかして千夏の船長に勧誘されたっていう新しい船員さんかい?
おお、そうかそうか!俺はここの新人とかの案内人を務めている者だ、よろしくな!おいおい、そう怖い顔すんなって。俺たちはあんたを歓迎してるんだぜぇ?
ん、何?あんた、まだここがどこだかわかってねぇのか!?ったく千夏の船長もそれくらいは説明しとけよな。・・・・っていうかじゃああんたどうやってここに連れてこられたんだ!?
ま、細かいことは置いとくか・・・ホントはよくないが。
じゃ、今からここはどこか単刀直入に説明するけど・・・ショックとか受けんなよ?ぶっちゃけ言うとな・・・
ここは空の上だ。
つまり飛行船の中ってわけなんだが、こんなクソでけぇ飛行船はあんたも初めて見ただろう?ざっと人間が百人は住める環境が整っている飛行船だ!その名も「ネクロード号」!!
っておい、何だそのノーリアクションは!ハイなテンションで説明してる俺が馬鹿みてぇじゃねぇか。・・・・まあいいか。んでもって、俺らが今いるこの場所は飛行船「ネクロード号」の貨物室だ。
あ、信用してねぇなその顔は!?本当だぞ!何なら司令室へ行って確認してくるか?
それともブリッジから空の風景を眺めるか?
・・・まあいいか。どうせそろそろ千夏の船長に会って挨拶しておかないといけないしな。よし、黙って俺の背中についてきな!
・・・・・・。
・・・悪かった、俺が悪かったよ。だからそんな冷たい目で見んな。
同時刻、巨大飛行船「ネクロード号」司令室
飛行船。それは一言で言えば戦いの鍵とも言えるものだろう。普通の場合は。
司令室。そこは一言で言えばその船の要とも言える場所だろう。普通の場合は。
船長。その人物は一言で言えばその船の戦局を左右させる、無論大黒柱のようなものだろう。普通の場合は。
しかし彼らは普通ではなかった。本人たち曰く普通じゃないからこそここまでこれたそうなのである。
今日も繰り返されるその非日常的な行動と会話は、今では彼らにとってはもはや日常的なものらしい。
「おい、本当にこの方向で合っているのか?さっきから全く目的地が見えないぞ・・・。」
「それって操縦手である僕に対する挑戦と受け取っていいのかな?」
船員以外は超一流の機械や装置、コンピューターが立ち並ぶ司令室で、輝くような目立つ金色の髪をした20ほどの男は、そこから見える雲が延々と無限のように続いてくる風景を見つめながら独り言のように問いかける。
それを舵を握っていた黒髪の同じく20ほどの男が、笑顔を崩さずに見事なまでに質問を変な質問で返す。ただし彼のその笑顔は無論、つくり笑いであり、実際に彼からはよくわからないが殺気が満ちている。
「別にそういうつもりで言ったわけじゃ・・・・」
「いやぁ、たまにいるよねぇ。自分がやったら出来ないくせにそれを相手に注文してくる人。まったくもって君と言う存在が理解できないよ服部君!君は何だ?機械か?ホモか?アスパラか?まぁ、どれにしても人間ではないよねぇ。」
いや、ホモは人間だろう・・・。
今その司令室内にいた人間ならおそらく全員はそう思っただろう。尚、これも普通の場合は。
金髪の男、服部義経の言い分も聞かずに、それを遮るかのように黒髪の男、億良赤人は服部の侮辱をこれでもかと言うほどに淡々と述べる。侮辱といっても、まったくわけのわからない筋の通っていない侮辱なのだが。だがこれほど口が動いていても船の操縦ミスは決してしていない。慣れというやつだろうか。
特に何もしていないのにこの上ない侮辱を億良から受けた服部は、さすがに怒りを感じたのかわからないが、なぜかにやりとばかりに笑みを浮かべ、僅かながら笑い始める。
先ほどの服部は誰が見てもやや冷静そうでりりしそうな雰囲気を醸しだしていたが、今はそんな雰囲気などは欠片も感じさせない。
これは普通の人が服部を見たら、狂ったかと思うところだが、まわりの船員たちはそんな事はおかまいなしにただ外の風景を眺めていたりする。
実際にはこの光景だけでもかなり異常ではあるのだが、彼らにとっては今日はかなり平和な方らしい。
服部は笑いを止めずにそのまま億良のもとまでゆっくりと近づいていき、腰のホルダーに入れていた拳銃を取り出す。
「俺はただ単純にこの方向は目的地とあっているのかって聞いただけだぜ?何勘違いしてんだ?タコが。お前の耳は節穴なのか?空洞か?ホールなのかぁ?ヒャハハハハ!!そんなクズ野郎はとっととここから飛び降りて死ね!具体的に言えば飛び降りてそのまま急速落下して米国の自由の女神と頭ゴッツンこして脳震盪で死ねぃ!まぁそんな事する前に気圧とかの温度差に耐えられなくて死んじまうかぁ!残念だったなぁ、ヒャハハハハハ!!」
「おや、褒めてくれてありがとう。これでまた君を殺す理由がまた一つできたよ。」
何だこの無茶苦茶な会話は。
おそらく普通の人間ならば誰もがそう思うだろうし、場合によっては危なく思って逃げ出すような者もいるのではないだろうか。
2人はお互いに超が4つつくほどに危険なオーラを発しながら、狂ったような目つきで睨みあっている。
ここでしつこいようではあるが、これはまだ平和な方・・・らしい。
いつ殺し合いが発生してもおかしくはないような状況のなか、これを放置しておくのはまずいと感じたのか、1人の船員が2人の間に駆け寄る。
「御2人共そこまでにしましょう?後はゆっくり話し合いで解決しましょう。」
「う・・・!!だ、だけどよ麗花・・・これは億良が先に・・・」
黒髪の、2人と同じく20ほどの女が、お淑やかなに説得に入る。
すると、さきほどまで笑い狂っていた服部が頬を赤らめてひどく動揺し始める。
さきほどの狂った感じやさらに前の冷静さとは裏腹に、まるで子供かのように必死に動揺を覆い隠そうと努力する。
しかしそんな事は気づきもせずに水月麗花はその透き通った瞳で服部の顔を覗き込む。
「だ、大丈夫ですか?何か顔が赤いですけど・・・」
「な、何でもないっ!」
何でもないわけないだろう。
皆は必ずしもそう心の中で思う。
それを見ていた、一人のバンダナを頭に巻いていた男は笑いながら口笛でひゅーっと鳴らす。
服部その行為をした男を咄嗟に睨む。
「おーおー、無敗の銃撃手服部殿もさすがに大好きな麗花の前では手も足もでないのか?」
「ち、違っ・・・そんなんじゃない!鳥羽ぁ、お前後で覚えてろよ!」
「いや、覚えておかない。忘れる。」
そんな副船長であるバンダナの男、鳥羽靖斗とよくありがちなやりとりをしつつも、服部は少しずつ少しずつ水月との距離を歩を下げて遠ざけていく。
その行動をさきほどから見ていた、というか存在を皆に忘れ去られていた憶良がため息をつきながらおおげさに首を横にふる。
「やれやれ、もしかして君は男なのにツンデレなのかい?っていうかそういうふうにしか見えないけど。ハッキリ言って20にもなった男がツンデレっていうのはどうかと思うね僕は!」
「いつ俺がツンデレになったんだよ!というか何だこの皆して俺を穴が入ったら入ってでていきたくなくならせるような心境にさせるこの新手のイジメは!」
服部が必死に盛大すぎるほどの声でまわりに訴えかけ、なおかつツッコむ。おそらくツッコんだのは条件反射だと思うが。
「じゃあ何か体調も優れないようですので、医務室でゆっくりとお話しましょう?ね、服部さん。」
服部は自分の腕を掴んできた水月の手をこの上なくあわてて引き離そうとする。
「お、おい麗花!俺は別に全然大丈夫だって・・・」
「ダメですよ無理しちゃ。大丈夫です、私も付き添っていきますから。」
「それがダメなんだーーーー!」
叫びながら必死に訴えるが、最終的に服部は自分の腕を掴んでいた水月の手を引き離せず(実際には触ること自体ムリだった)に、水月とともに具合も悪くないのに医務室へと向かっていった。
「あーあ、相変わらず麗花だけには逆らえないよね服部は。それも皆してイジメちゃってさぁ。」
司令室の壁に寄りかかっていた赤っぽい長い髪の17ほどの女は、若干からかいの気持ちも入れて笑顔でみんなに聞こえるように呟く。
さきほどまでのやりとりに口をはさまなかったのは、服部と水月の関係が非常におもしろく、影で見物をしたかったからだろうか。
「イジメたなんて人聞きの悪いこと言うなよ琉菜。俺はキューピットの役目を担ってやろうという極めて純粋な気持ちでだな・・・・」
「まったくどこが純粋なんだか。というか靖斗って純粋な気持ちの時ってある?」
赤っぽい長い髪の女、稲松琉菜の呟きにここぞとばかりに鳥羽は、自分のしたことが良いことであることを自身を持ってアピールするが、それを聞いていた稲松はもはや不信の目で靖斗を見つめていた。
だが、もちろん本気にはしない。その後は鳥羽も稲松もすぐに笑いながら話をしている。
そう、これが彼らの日常である。確かにこの「今」の光景だけを見れば何不自然ない平和な光景と見てとれるだろう。
その司令室に1人の男が入ってきた。
見た目はかなりの長身で青と赤色のコートを纏っておりその、その輝く金色の髪は腰の高さまでと非常に長い。
「ようお前ら!いやはや、相変わらずブリッジでの風の心地よさは何とも言えないよなぁ!」
やたらと1人でハイテンションになって喋っている男は、勢いよく空の風景が見えるガラス(コクピットの強化ガラスのこと)にむかって走り出し、ガラスの手前までくるとおおげさにストップしてみせる。
「自然から生み出されている風っていうのはその人の気持ちをより強くするモンだよなぁ!例えばその人が悲しんでいたら、風はその悲しみを後押ししているように見えるし、その人が物寂しい感じだったら、風は静けさを強調しているように見える。またはその人が前向きに頑張ろうと思っていたら、風は新しい第一歩のように心地よい風に見えるわけだ!っていうかそれってすごくないか!?風ってのは周りの空気を読むのが上手だな!って風が空気読めるって、当たり前じゃねぇかよ!もしも風が人間だったらきっと立派な会社の立派な上司の部下になっているに違いない!なぁ、そう思うだろ?靖斗!」
「そんなティッシュペーパーよりも薄い思想知るか!」
突如あらわれて突如自分の思うがままに思想を語りだした男に、靖斗は首を振りながら全否定する。
この男の脳の構図はどうなっているのだろうか。
初対面の人はおそらくそう思い、中には彼を同じ人種として見ないかもしれない。いや、初対面でなくても彼をおかしいと思う人は、きっと少なくないだろう。
「おいおい、わかってねぇな靖斗は。いいか?つまり風が言う大切なことってのはな・・・・えーと、つまりアレだ・・・。」
言おうとしていたことを突如忘れたのか、それとももともと考えてなくて今考えているのか、どちらにせよどう言おうか悩んでいる男に対して、ひらめいたかのように稲松が挙手をする。
「その場のノリだね?」
「それだーーーーー!!!!」
男は琉菜の意見に異常なまでに過剰な反応を示して叫び始める。
そして男は正解した琉菜のもとへ駆け寄り、必然とおおげさに握手をしている。
「よくわかったな!やっぱり偉いな琉菜は!いやぁ、本当に立派な仲間をもったね俺ってやつは!幸せ者だ!」
「ありがとう、千夏!でもいいの?もう少しで目的地につくのに船長さんがこんな所で準備もせずに油売ってて。」
え?
・・・・・・・。
船長?このふざけた男が?ありえないだろう。
さすがにこれは誰もが思うような事だろう。
だがしかし、これも彼らにとっては普通な役割だったのだろう。少なくとも彼らにとっては。
意外にも素直に礼を言った稲松から急に質問をうけた船長である千夏尾頭は頭をわざとらしくかく。あのテンションに素直に礼を言えるということは、稲松などがそれだけ千夏に信頼をおいていると言うことだろう。
「いやぁそれがな、ブリッジのところに「ゴースト機島軍」って奴らのスパイみたいなのが潜入してたらしくてな。今、上では船員が何人か警備についてるよ。いや俺も丁度その時いたんだけどな、なかなか腹の据わってない奴でなぁ。少し脅したらすぐに基地の場所とかその軍のリーダーとか誰に命令されたとか、余計なことまで全部ばらしてくれたんだよ。」
「それ、「ゴースト機島軍」て今向かってる目的地ですよね。なら好都合ですよ。そのスパイからもっと色々な情報を聞き出しましょう。」
舵をしていた憶良は丁度空路があやふやになりつつあったので、良い機会とばかりに船長にさらなる意見の聞きだしを要望する。
「いや、実はそれがな・・・・。」
しかし、次の千夏の言葉を聞いてさすがの憶良でさえも唖然とする。
そして改めて相手にとって絶望的な行動をとる千夏に脱帽する。
さらに気づく。彼の着ている服の青と赤色のコートの赤い部分は、決してカラーリングではないことに。
「俺がそいつをバラバラにしちゃったんだよね。」
どうも、鷹王です。
第2話の投稿、非常に遅くなってしまって申し訳ありませんでした。
今回はこのストーリーの中でもおそらく一番おかしな連中の話でした。彼らもだんだん物語が進むにつれて栄人や、無蘭まいかたちと関係してきます。
次回は再び栄人たちの「ラクト義勇軍」の話と、今度は無蘭まいかたちではない他の人の「ゴースト機島軍」の話をかこうと思っています。
長くなってスイマセンでした。では!




