第1話〜夢から覚めない夢
ある時に何の予兆もなく、突然自分の「平和な暮らし」を壊されたら普通はどう思うだろうか。
悲しみに暮れたり、怒りや憎しみが込み上げて復讐を誓ったりするものなのだろうか。少なくとも喜ばしい気分ではいられないことは確かである。
彼も同じであった。
学校が、友達が、知り合いが、他人が泣いている。苦しんでいる。死んでいる人もいる。
彼もまた泣いていた。
ついさっきまで同じ授業を受けていた話題づくりが得意な女子生徒の斉藤が、学校の瓦礫のすぐそばで無残な死体へと姿を変えている。もともとは愛くるしい顔なのだが、血の色で顔を染めて目を剥き舌が半分ほど口からはみ出ているその彼女の顔には、魅力どころかむしろ死に対する恐怖を実感させられるだけである。彼女のしつこい恋愛話を自分はなんと言ってきり抜けただろうか。
今日の朝に、遅刻に気づいて慌てて学校に行く俺に気持ちよく挨拶をしてくれた、控えめでおっとりとした性格の近所のおばさん。今は一体どこにいるのだろうか。だか捜すのに時間がすでに何時間もたっているというのにまだ見つからない場合は、既にどこかで建物の下敷きになっているケースが非常に多い。おばさんもどこかで建物の下敷きになってしまったのだろうか。
そして、いつも困った時は助け合う事が何より大事と何度もしつこく俺たちに言い聞かせていた教師の小林。彼は授業を放り出し、生徒たちなどまったく気にも留めずに、自分だけ昇降口めがけて一目散に駆け出していってしまった。その結果、少ししてから再会したのだが、小林は動くことなくぐちゃぐちゃになっていた。
裏切り者の末路など所詮はこの程度だろう。
彼は心の中で呟き、生徒たちに何の謝罪もせずに勝手に死んでいった小林を静かに呪った。口で綺麗事は言えても、実際に実行に写すというのはそれ相応の勇気と覚悟が必要だ。だから口でしか言えないようなことはそう易々と口にするものではない。
なぜ何の罪もない自分達の「平和な暮らし」が壊されなければならなかったのか。なぜ奴らはこんなにも無力な自分達を、襲ったのか。
彼は残った仲間たちと誓った。
こんな世界なんて何があっても認めない。いや、それ以前にこんな世界はあってはならない。自分達の力で一度、この世界をリセットするべきなのだ。そのためにはこんな世界に創りあげた政治家、それに伴って動いている軍の連中。そいつらを徹底的に懲らしめてやるべきなんだ。
だから俺は何があろうとあいつらを・・・・・絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に苦しめてやるんだ・・・・プツン!
・・・!?何だ!!?
その瞬間、目の前が不意にシャットアウトする。
・・・・・きろ。
「起きろっつってんだよ栄人!」
その声が聞こえたのと頭部に衝撃を感じたのはほぼ同時だった。
「ぃったぁ・・・!!もう少し寝かせてくれてもいいだろ?」
まだ夢から覚めきらない意識の中、条件反射ででてしまう言葉を彼・・・鷹王栄人は、閉じかけている瞼を擦りながら相手に聞こえるかどうかと言った声の音量で、自分を殴るという大胆な起こし方で起こした目の前の男に訴えかける。
その小さな訴えを聞いた男は鋭い目つきで栄人を見つめながらもう一発頭部に衝撃を与える。衝撃を即座に感じた栄人は布団から飛び上がって唸っている。
「少しは目が覚めたか?クソ坊主が。」
「このクソ親父め・・・!もう少しまともな起こし方を覚えろよ!」
「なっ、てめぇ実のお父様に対してクソ親父とはなんだクソ親父とは!」
「あんたに似たってことにしておいてくれ。」
その後も栄人と大げさに怒る男・・・鷹王狼煙の、人から見るとこの上なくどうでもいい言い合いはしばらく続いた。親子喧嘩にしては非常に口が悪くどうでもいい内容ではあるが。
そしてさらに普通の親子喧嘩と明らかに違って見えるのは、二人の目つきの鋭さ。単なる遺伝なのではあるが、特に狼煙の場合は、普段の表情ですら何らかの凶悪犯を連想させるような顔である。その狼煙の息子である栄人が、当然狼煙の特徴を受け継いでいないわけがない。
ある程度して、急に何かを思い出したかのように狼煙の顔つきがハッと真面目さを取り戻す。
「おっと、危うく忘れるところだった。栄人お前、今日は戦闘ミーティングをする日だってのをわかってんのか?」
「あ・・・悪い。学校で宿題を忘れるのと同じくらいのレベルで忘れてた。」
「意味がわからん。」
実のところ、完全に忘れていた。栄人はそれを誤魔化す仕草のようにさっき殴られた頭の部分を何回も掻く。
「お前、早くしないと美鈴が迎えに来るぞ。」
狼煙が家の玄関を親指で示しながら話す言葉のなかに、聞きなれた親友といえる友達の名前があることに気がつき、そこでようやくまだ寝起きで重たい体を無理やり起こさせる。
「そうだった!急がないとな。」
そう大きな声で言うのと同時に栄人は颯爽とした勢いで行く準備を始めた。準備をしながら、今日見た夢について振り返る。
またあの時の夢だった。
一体いつになったらあの時の誓いは果たせるのだろうか。
あの奴らの襲撃の後、生き残った町の人たちで何とか復興を果たし、それとともに奴らへの復讐を決めた。そのためだけに今まで努力してきたと言っても過言ではないだろう。
そしてその復讐と町を守るために作られた町組織「ラクト義勇軍」に町の一部の女性と幼い子供以外はほとんどの人が参加しているという始末である。
戦いは悲しみしか生みださないと言うが、ならどうすればいい?
仲間の仇をとる事は、自分達の「平和な暮らし」を壊した奴らに落とし前をつける事は、してはいけない事なのだろうか?少なくとも栄人はそうは思わない。いや、思いたくもない。
戦い続けることで、戦いでしか生み出せない大切な何かがきっとあるはずだと栄人は信じている。そして、その戦いが終わった後、少しでも自分たちにとってその戦いがプラスになったと思えるように。
ミーティングに行く準備を整え、栄人は噛み切れて入ないクロワッサンを無理やり喉の奥に押し込みながら玄関へと向かう。
クソ親父の奴先に行くなら声かけろよ・・・
父の靴がなくなっていたことに即座に気がつき、心の中で呟く。
父である狼煙は「ラクト義勇軍」の一番強い第1部隊を任されている。つまり、戦いなどでも軍の大黒柱となりうる男であるということである。おまけに、栄人が見てきた中では、自分の父が戦いに出てって負傷して帰ってきたことは一度もない。いつも、無傷で帰還するのである。栄人は密かにその父を超えようと、努力を続けているのだ。
そして、栄人も靴を履き、結びなれた紐を結びながらドアのノブに手をかけてゆっくりと押す。
「栄人遅いよー、ずっと待ってたんだから。これで貸し三つ目だよ?」
ドアを開けて目の前に待ったいたのはとっくに置いていってしまったと思っていた友達の美鈴だった。彼女は少し頬を膨らませて怒っていることをあらわしていたが、それでもその人の良さそうな明るい顔がその怒っているということを認識させない。そしてある程度すると美鈴はまたいつもの愛くるしい感じの明るい笑顔に戻った。
「悪い、ちょっと遅れた。」
心地よい風が途端に吹き荒れるなか笑顔で喋りかける美鈴に、栄人はわずかな謝罪の気持ちを込めて頭を少しだけ浅く下げた。
「ちょっと放してよ!あたしが何したって言うのよ!」
小さな町中で叫びながら彼女は、自分の手を無理やり掴む兵士達を振りほどこうとする。
だがその小さな腕では豪腕である兵士達の腕など振りほどくことができるわけがない。
そして、政府などに繋がりのある兵士達に勇気を持って勝負を挑もうとする通行人などいるはずがない。中には見向きもせずに通り過ぎていく人までいる。
「うるせぇ!てめぇが思いっきりぶつかってきたんじゃねぇか!!」
「ちょっと急いでただけじゃない!何?政府直属の兵士ってのはこんなにも器が小さいの?情けないなぁ。」
皮肉をたっぷりとこめたその声が兵士達の耳に届くと、兵士達は怒りの表情を全く隠すことなくあらわにしている。
そして、1人の兵士が銃を取り出し彼女へと銃口を向ける。安全装置は既に解除してあった。
その兵士の非常識な行動を見ると彼女の表情にも焦りとわずかな恐怖が表れはじめる。
そして、わずかに笑っていた。
人はある程度恐怖に追い込まれると、平静を保つために笑おうとする。それは意識ではなく反射的に起こってしまう場合が多い。
「な、何してんのよ!ちょっと文句言っただけじゃない、何むきになってんの!?」
「うるせぇんだよ!てめぇみたいな女1人がここで死んだって、どうせ何の問題もないさ!!」
「え、何ソレ!?ひどくない!?」
彼女の頭の中で人生最大の警告音が鳴り響く。
1人の兵士はもはやこちらの話を聞く気はないし、他の兵士達も止めに入ろうとしない。
殺される。たぶん・・・っていうか絶対にこのままじゃ殺される。何とかしないと。でもどうしようもない。え、何?もしかしてあたしの人生ってここで終わりなの?まだ何の復讐も果たせないまま?こんなところで、こんな兵士に?
混乱する思考の中、彼女の死の予感は一刻と迫っている。
銃を握っていた兵士は興奮状態なのか、銃口を震えさせながらも引き金を引く寸前で止める。
「もうおしまいだ!神にでも祈って・・・」
その瞬間、兵士の会話が途切れた。いや、1つの銃声と同時に兵士の頭部に銃弾が貫通しており、兵士はもはや兵士ではなくただの死体と化していたのだ。
誰かに撃たれたのだ。
そして、今のあまりにも唐突で予兆のない出来事に彼女や兵士達は驚くどころか、むしろ一体何が起こったのかもよくわからないようなわからない様子である。だが、死体の流れる血の量とその悪臭によって我にかえる。
この場合、普通であれば兵士達は銃で撃ってきた敵を見つけ出して、仲間の仇をとってやらなければいけないような立場だ。だが、仲間の死を目の前で直視して平然としていられる者など相当殺し合いに手馴れていないと無理だろう。この兵士達もそうだった。あまりの恐怖に兵士達は怯えながらその場を逃げていってしまった。
「な、何があったの・・・?」
呆然と今の出来事を立ちすくんで見ていた彼女は、もう少しで自分が死んでいたという事も気にせずに、今の出来事について周囲をきょろきょろと見渡す。
すると・・・・見つけた。20ほど先の草陰から巨体な男がこちらをじっと見つめている。一体あの男は何者なんだろうか。さっきの兵士を撃った人なのだろうか。
「あ、あのー・・・。」
彼女は少しづつ近づいてその男に声をかけた。そして、途中で新たな事に気がつく。
その男の後ろにさらにもう1人、人がいた。容姿から女性だとわかるが、もしかしてこんな小さな草陰に2人もしゃがんで隠れてバレていないとでも思っているのだろうか。彼女は心の中で呟いていた。
男の後ろにいる銃を持っている女性だけならば、もしかしたらバレなかったかもしれないが、前の巨体である男のせいでもはや見つけてくださいと言っているような状況であった。
「あ、あのー・・・さっきあたしを助けてくれた人達・・・ですよね?」
近くで男とその後ろの女性に尋ねると、男はぎょっとした反応で彼女の方に振り向き凝視する。
「な・・・!!?お、お嬢さん。何で俺のウルトラスーパースペシャル見えないズレないブレないパーフェクトなイカス男剣山流隠れ身の術がわかった!!?」
あ、この人はおかしい、狂ってる。男の全くもって意味が不明な言動を聞いて、彼女はわずかな一瞬の時間で直感し、それが確信へと変わる。
「意味がわからないぞ。それに、こんな場所で隠れていたら見つかるに決まっているだろう。」
「む・・!確かにそうかもしれん。」
後ろにいた女性が男に指摘をする。男は途中ではっとしたように顔を上げ、急に立ち上がり胸をトンと叩く。
「おっと、話が逸れていたなお嬢さん!確かにさっきは俺たちがあんたを助けたぜ。なぁに安心してくれ!俺たち今どうせ暇だし護衛してやるよ。誰かに狙われていても俺たちがいれば百人力だからな!」
「さっきあの兵士を撃ったのは私なんだが・・・。」
後ろにいる女性のさりげない訴えを男は軽々しく無視する。そして、それを見ていた彼女は頭の中が一瞬混乱する。
急展開すぎてわからなくなったというのもあるが、急に見知らぬ他人である自分を助けてくれた上に、挙句の果てには護衛してやるときた。普通の場合、そんな他人に対して命を張るような事をしてくれるだろうか。あまりにも人が良すぎる・・・と言うよりも絶対に何か裏があると思ったのだ。
「助けてくれてありがとうございます。けど、あなた達は・・・一体何者なんですか?」
彼女の質問を聞くと、男の方は、そうだったな!とおおげさに手をポンと叩く。
「俺の名前は剣山九十九だ、よろしくな!これでも一応「ゴースト機島軍」の第4部隊隊長だ!今はこいつと任務で偵察に行っていただけなんでな、特に何の手がかりも得られなかったから、別に急ぐ必要もないってわけだ。」
あまり理由になってないと、彼女は心の中で呟く。それに・・・「ゴースト機島軍」って何?何かの軍の名前のようだけど、そんな名前聞いたことがない。
そして、彼女は男の方を改めて確認する。男は見た目ではっきりとわかるような大男であり、身長も長身で190cmといったところだろうか。声は無駄に大きく喋る場所が山でなくても声がこだましそうな勢いである。顔は、こういっては失礼ではあるが、はっきり言ってごつさと強面さを抜き取ると何も残らないような、そんな顔であった。
すると、後ろでさっきまでしゃがんでいた女性が立ち上がり、男・・・剣山の横に立つ。
「こいつは昔からこういう適当な性格なんだ、すまないな。私の名は神凪音葉。この男、剣山と同じく「ゴースト機島軍」という秘密組織に近い軍に所属している。」
あ、綺麗だ。
彼女が持った神凪音葉に対する完全な第一印象だった。しゃがんでいてよく顔などが草陰で見えなかったが、実際に見ると神凪は冷静でありどこか寂しげな整った表情をしていた。まるで、ずっと見ていたくなるような、そんな綺麗な顔であった。身長も剣山と並んでいるからこそ多少低く見えてしまうものの、実際は女性としてはなかなかの長身で170cmそこそこはあるだろう。そして、一番目をひいたのは着ている服装だった。紫色の着物のようなものを着ていたのだ。しかし、その姿は神凪が着るからこそなのかとてもマッチしており、綺麗さをさらに増加させている。手には拳銃が握られている。
あ、そういえばあたしも自己紹介してないな。
今更ではあるが、彼女はようやくその事にきがつき自己紹介をする。
「えっと、あたしも自己紹介が遅れました。あたしの名前は無蘭まいかって言います。ちょっとある用事があって急いでて、そしたら兵士にぶつかっちゃって・・・・。」
自分の行動を多少笑いながら話す。実際には笑って話せるような状況の話ではないように思えるのだが。
「それでもう一度聞くんですが、あなた達はなんであたしにこんなにも親切にしてくれるんですか?何か裏があったりするんですか?教えてください!」
我慢できなくなって質問をした彼女・・・無蘭まいかの質問を聞いた2人は、なぜか2人ともきょとんとしたような顔になり、顔を見合わせる。
すると、剣山が突然大声で笑い始める。
「ははははは!!そんな事が気になるのか!いいかい、お嬢さん。その理由な・・・・っ!」
剣山の言葉が途中で途切れる。どこかからの銃声と同時に剣山の左肩に銃弾がめりこんでおり、流血している。
撃たれたのだ。
剣山はわずかに呻きながらも周囲を急いで見渡す。すると、そこには銃を構えた大勢の、先ほどの兵士達と同じ装備の兵士達だった。
「てめぇら、不意打ちとはいい度胸じゃねぇか!!」
剣山は無駄に大きな声で叫びながら銃を構える士達を睨み、自分自身も銃を構えた。
皆さんどうも初めまして、鷹王と申します。
この度はこんな素人の小説を読んでいただき、本当にありがとうございます。
この物語は読んでくださってみてわかったと思いますが、テーマは一応「戦争」と「復讐(?)」、そして「仲間」です。その理由は物語が進むにつれて説明をしようと思っています。
最後に、もしもこの物語について何かコメント等などがございましたら、気軽にお寄せください。お願いします。では!




