08
「それで、やりたいことは白紙か?」
クリスは本にめを向けた。
「ううん。私、薬師になりたい」
思ったよりすんなり言葉が出てきた。
「薬師?」
ロバートは反復した。
「いいじゃないか!目標は高い方がいい!!」
クリスは嬉しそうに言った。
「やっぱり薬師になるのって大変なんですか?」
少し不安になって聞いてみた。
「うーん。試験としては医者、王宮文官、薬師の順番かな。簡単に言うとそれなりに厳しい試験かな」
ロバートがそういうともっと不安になってきた。
「お前、勉強好きだろ?」
私の顔を見て察したクリスはそう言った。
勉強は好き、だと思う。
でも、なんで知ってるんだろう。
「多分、好き」
私がそう曖昧に答える。
「好きだろ。いつも一番だろ、試験」
クリスは私のかわりに断言した。
私は自信がない。
だから、クリスみたいに何かをきっぱりと言い切れるのがすごいと思う。
キラキラした存在に見えた。
この学園には年に二回大きな筆記試験がある。
私は今まで友達もいなかったし、勉強しかすることがなかったから、試験は簡単だった。
だけど、好きということは考えたことはなかった。
私が唯一断言できることは、ノアに関してだけだったから。
「あはは、いっつも、クリスは二番手で悔しがってたもんね。でも、シェリーちゃんは気にもしてなかった。報われないライバル心だったね」
ロバートは笑いながら言うと、クリスが睨む。
そんなこと知らなかった。
試験の結果が張り出されるのは知っていたが、興味はなかったし、何より私の存在を意識している人がいることすら知らなかった。
「その話はどうでもいい。とにかく、難しい、厳しい、というだけで不安になるな。お前には能力がある。できる!信じろ」
ほら、クリスは言い切ってしまう。
そして信じさせてしまう。
私にだってできる気がした。
「うん、やる!できる!」
思わず、クリス様につられてそう言うと、クリス様は笑って、よくできたと言わんばかりに頭を撫でてくれた。
照れ臭いけど、嬉しい。
ふと、さっきクリスが言った言葉を思い出した。
「未来のことを語り合うのも友人のすること」そう言った。
これでは私が一方的に聞いてもらうばかりになってしまう。
それに知りたいと思った。
彼らがこれからどう生きたいと思っているのか。
「クリスとロバートのことも教えてください。この学園を出た後したいこと、すること」
私がそう言うと、ロバートが少し考えるように上を向いた。
一方でクリス様はすぐに口を開いた。
「俺は父上の跡を継ぐこと。王子は俺しかいない。フランバー公爵が望まない限りは俺が国民を守っていかなければならない。だから、父上が生きている間に俺は学ばなくてはならないことがたくさんある。俺はまだ未熟者だからな」
意志の強い目がそう強く語る。
かっこいい。
生まれながらにして道が決まっているクリス。
その道をいく覚悟ができている。
どうしようもなく惹かれる。
「俺は、クリスみたいな明確なものはないんだよね。上に優秀な兄がいるから伯爵家を継ぐことはないし。ただ、クリスには興味があるから、クリスが国を守る手伝いでもできたらな、って。さらにいうならさ、スーリーズ家にいる移民の子たちがどんな風に生きていくのかも知りたいし、彼らの道を作りたくもある。だって面白いでしょ。彼らには枠がないんだよ。だからさ、なんにもないから、なんでもできるんだと思うんだよね。君と同じでね」
ロバートは楽しそうに言った。
それと同時にどうして、力を貸してくれるのか分かった。
「すごい!すごい!私ももっと欲しい。私がしなきゃいけないこと。二人みたいに」
「そんなもの見つけずともすぐに出てくるものだ」
「うんうん。いっぱいありすぎて困っちゃうようになるよ、そのうち」
二人は大きく頷いた。
私にも見つかるかな、私がしなくちゃいけないこと。
二人といたら見つかる気がしてきた。