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04

屋敷に戻って、今日あった出来事をぐるぐると考えていた。

嬉しくて、早くノアに言いたくて仕方なかった。


そこでふと、思った。


ノアはなんで私に、婚約のこと言わなかったのかなって。

クリス様は、決定事項だ、と言った。

つまり、もう変わらないことだから、私に教えてくれてもいいのに。


屋敷の使用人の人々が、動く音がした。

ノアが帰ってきたみたいだ。


私は一度考えるのをやめて、ノアの元へ行く。


「おかえりなさい!」


私がそう言えば、ノアは


「だたいま」


と笑った。

あ、この笑顔も私だけのものじゃなくなるんだ。


早く、ノア以外に私の存在を許してくれる人、探さないと。


一度そう思うと、考えが止まらなくなった。


ノアと食事をとりながらも、明日からすることを考える。

生きていくすべとしての仕事と、認めてくれる人。

必要なものは明確なのに、やるべきことは分からない。


「どうした?なにかあったか?」


ノアが心配そうにそう声をかけてきた。

そういえば、もう食事も、メインの料理に入っているというのに、会話らしい会話をしていないかもしれない。


基本的にノアから会話を始めることはないし。


とりあえず、今日あった嬉しかったこと、クリス様の言ったことをノアに話すことにした。


「今日、クリス様に話しかけられたの」


ノアは頷いた。


「クリス様は、私の黒気持ち悪くないって言ってくれたの」


ノアは笑ってなかった。

笑顔で、「よかったね」って言ってくれると思ったのに。


「彼は優秀な人間だからね。面と向かって、本音は話さないよ」


いつも通りの口調だった。

ただなんとなく、ノアの言いたいことは分かった。

そして、この話はやめたほうがいいと直感的に感じた。


「うん、そうだね」


私はそう返事だけした。

初めてノアに突き放された気がした。

悲しかったけど、泣いちゃいけない気がして、上を向いた。

シャンデリアがキラキラしてて、すごく死にたくなった。


デザートは食べなかった。


セバスチャンに「ごめんなさい」と言ったら「大丈夫ですよ」と返してもらえて、なんだか、少し心が軽くなった。


ノアにバレないようにお風呂の中で泣いた。

嬉しかったことを、ノアが一緒に喜んでくれなかっただけで泣くなんてただの子どもだ。


ただもうクリス様の話はしない方がいいと思った。


お風呂から上がるとノアは珍しくお酒を飲んでいた。

いつも通りに彼の隣に座る。


ノアは何も言わない。

だから、なんとなく、彼を眺めていた。

光に照らされたノアはさっきみたシャンデリアみたいで、キラキラしてる。


「泣いたの?」


気づくと今度はノアが私のことをじっと見ていた。

嘘をついてはいけない気がして、私は黙った。


「泣くなら俺の前で泣いて」


ノアは私の顔に触れて、上を向くように固定した。


なんだか、今日のノアは怖い。


ニコッとなんとなく笑ってみたが、ノアは無表情だ。


「泣かないの?」


ノアが眉をひそめて、私の瞳を覗き込む。

何かに怒っている。


「ごめんなさい」


怖い。

謝っても、ノアは手を離してくれない。


怖い。

視界が涙で歪んでいくのに気づいた。

途端にノアは笑った。


「いいよ」


天使の笑顔だった。








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